8-2
どれだけ期待しようと、もうそんなに日中に雨が降ることはない。無気力の言い訳には使えた長雨は消え、ちょうど帰る時間にかち合う柴榑雨に濡れる日々。どっちの空が好きか、鏡花なら答えるまで帰してくれなさそうだ。まあ、年頃の少年少女でも手に負えないぐらい、近頃の青空は眩しすぎるから、梅雨のほうが……ってナイフを突き付けられたら、渋々答えそうだけど、どうだろうか。
鏡花にナイフを突き付けられても生き残れる見通しが付いたのに、やっぱり授業に集中できず、窓の外を眺めてしまうのはなぜだろう。今の空模様が好きか嫌いかというより、着実に時間は進んでて、死に近付いた実感があるのが、少し辛いのかもしれないなぁ、どうなんだか。
とか頭をフル回転させてたら、六時間目が終わった。授業が終わっただけで、特に姿勢を変えてないのに、尻と尾骶骨と背骨の痛みとか、頬杖で酷使された手首の痺れとかから、魔法の力で解放される。そうねぇ、今日はバイトもないし、別にすることもないけど……早く家に帰ろーっと。
「何スマホ見てるの?よっすー」
「え?これから何かあったっけ?」
露崎に急かされて、腰に悪いと目されるような、浅い座り方のまま周囲を見渡すと、皆わちゃわちゃしながら教室の外に出て行っていた。それで思い出せないほどおとぼけキャラでやってない。今日の七時間目には進路指導講演なるものがあるんだった。バイトがないのも、いつ終わるか不明瞭だから休みにしてもらったんだっけ。ということは、まだ座り続けないといけないのか、年を取れば勝手にいっぱい座るようになるのにー。
立ち上がると脚の筋肉が無理やり引き延ばされて、ぱきぱき鳴ってる気さえした。ただの教室なのに行儀よく座りすぎなのだろうか。どうせ誰も見てないんだから、もう鏡花は同じ教室にいないんだから、時々脚をぴーんと延ばしてみたり、靴を脱いで机の下のほうに付いてる棒に足を掛けてみたりしても、良いのかもしれない。
教室の人気が減ってきたし、んーっと声を出しながら盛大に伸びをしたら、露崎の同情を買っていた。
「まー、かったるくて死にそうなのは分かるけどさー」
「興味ない人は話聞かないし、自分の進路を熱心に考えてる人は自力で調べるだろうし。誰が得するんだろうね」
「そりゃあまあ、危機感を煽って誰か入ってくれれば、予備校としては儲かりますし」
「教育まで食い物にする大人って汚いわー」
「汚くなれる大人なんてほんの一握りだけどね。大半が食い物にされるのさ」
社会に出たこともないのに、犀利な皮肉を言った気になって、他人とは違う気になって、わっはっはとわざとらしく笑い合った。
学年全員が一斉に体育館へ向かってるので、階段付近はひどく混雑していた。せっかちでは無いけど、若干焦燥感に駆られていた。人混みの中から、迷うことなく鏡花が直進してくるかもしれないからである。そう、あの天体観測会から、もうかれこれ二か月以上が経ったのである。何かが変わる、いや崩れるという見込みは崩れて、私を見かけたら、車通りの多いバイパスだろうと、逡巡することなく横断してくるような鏡花は今日も健在だ。たまに発作のようにいちゃつこうとするのも、今に始まったことじゃないし、躱すノウハウが着実に蓄積されつつある。
一つ付け足すなら、あの告白が鏡花にとっては無意味だったとは思わない。その感情を言葉や既存の概念に当てはめられないというのは、極めてしんどい事だろうから。それに、双方が納得してるのなら、このまま一方的な好意で維持される関係が、一番安定している。この考えが湧き出す源泉が、現状を変える力がないから、せめて憂えるより肯定したいってことじゃないといいんだけど。
「これはただの私のイメージなんだけど、よっすーは指定校推薦ですすいーっと、スマートに足早に受験終わらせてそうだよね」
「え?あー、どうだろーねー。意外と、推薦より一般で入ったほうが潔いって価値観があったりするかも」
「おぉー、頑張れー」
「露崎も頑張るんだよっ」
「はい……」
露崎の返事が急に孱弱になる。人生を決定付ける逃れられない選択がすぐそこに迫ってるとなれば、当然の反応だけども。
「将来、弁護士になろうと思っててさー」
「え?そうなの?」
「あー、そう言えば、高校の友達には話したことなかったっけ。別に隠してるってわけじゃないけど」
絶対口に出さないよう、唇をこれでもかってぐらい固く結びながら、露崎が弁護士なんて、相手の言い分を大げさに伝えて、事態をより大事にしそうーという失敬な感想とか、何のドラマに憧れて?とか、疑問を無数に浮かべてみる。
「どうしてって顔してるね」
「まぁねー……。親の影響とか?」
「そんな殊勝な動機じゃあなくてぇ……。小学生ぐらいの頃に、人と違う将来の夢を言いたいなって血迷って、弁護士って言ったんだよね。当時はなんか強そうぐらいの心持ちで選んだんだけど、将来の仕事を考える度に、弁護士が一番に浮かぶようになって、いつしか目指そうかなって気になったって感じで……」
「司法試験って、さすがに難しいよね、大変そう」
「まあ、それは承知の上だよ。でも人生は一度きりだしさー、若いうちぐらい、頑張ってみてもいいかなーって思ってみたりね」
まだ真正面から説教臭い話ができる年ではないので、露崎は私の目線をうかがいながら照れ笑いに勤しんでいた。和やかにしなきゃなぁ、率直に応援しなきゃなぁと、自分の役割を自覚しつつも、結局何も切り返せずに、手堅い笑顔で誤魔化していた。
私は、露崎を勝手に同じカテゴリーに押し込めようとしたことが、申し訳なくなった。露崎の決意は実に未来志向で情熱的だ。私だってある意味では情熱的だけど、それ以上にあまりにも卑俗的だった。今日とせいぜい明日、綺麗に立ち回れればいいという、刹那的な生き方に心血を注いでいる。勘違いしないでほしいけど、それを辞めたいとは思わないし、私にぴったりな生き方だと自負してるし、それで毎日が満たされてるってことは紛れもない事実で、そして見えない未来を早期の想起で補う露崎の方針に憧れもしない。じゃあ何だと言われれば……、指定校推薦ですすいーっと、スマートに足早に受験終わらせてそうって発言が、私の空虚さを見抜いてくるような感じがして、演技力の足りない自分に苛立ってる……、答えは③だな。
壇上で予備校の職員が、スライドをレーザーポインターで指差しながら、早くから対策した人ほど合格しやすいって危機感を煽ってくる。ぎりぎりから始めて受かったほうがかっこいいのに。そう思いながら、横一列に座る人たちの顔を総観する。同じようにキョロキョロして暇を潰す露崎が目に付いた。まあ、露崎には進路講演なんて必要ないわけで。
反面、同様の仕草をしていても、こっちは内容が単に響いてないだけである。でも、その差は重い。そうか、そういう人間としての歴然とした差を意識させて、いくら進学校だろうと一定数生まれてしまうアパシーに、尻に火を付けて焦らせようという意図が、この、ただ帰る時間が遅くなるだけの会にはあるのかもしれない。まあ、私のような人間に刺さってほしいんだろうと、頭で理解はしているけど、長時間座ったことによる、どうせ立ち上がれば消える、体の各所の痛みのほうがずっと印象的で、得る物は何もなかった。
講演が終わって、私は我先にと立ち上がり、背中を反らして気分転換を図った。未来なんてどこから向かってくるか分からないのに、その受け止め方をイメージだけで試行錯誤するなんて、実に馬鹿らしいと思った。それに、進路という格好の雑談ネタが降ってきたことで、前後左右どこに耳を傾けても逃げ場がない。というわけで、遅々として進まない緩慢な列を、多少強引に追い越しながら、さっさと体育館の外に出た。
「縁佳っ」
「なっ、何急にっ!」
鏡花に手首を握られ、振りほどこうとする猶予もなく、体育館前の通路の端に引っ張り出される。冷笑的になりすぎてバチが当たった。いつだって私を追いかけていて、隙はあってもなくても、時間があればなりふり構わず飛び掛かってきて、近付けば近付くほど喜ぶ、特異なパーソナルスペースを持っている、鏡花はそういう人間だってこと、正直そうであってほしくなさ過ぎて、時々自己防衛のために忘れてる。
鏡花の未来も例外なくどうでもよくて。去年、鏡花に話しかけた自分を、いつまでも憎んでいる。私がそう思っていることすら、鏡花にとってはご褒美になるのだろうな。
「あのねぇ、少しは人目を憚りなさいよ」
「危なかった……。これで十週連続記録達成だよー」
鏡花は拳を強く握りしめて、勝利をしかと噛み締めた。最近の鏡花は、意図的になのか、単に高揚してるだけなのか、私の話を無視してとにかく横車を押してくる。
「あのさっ」
「わかってるよ。平日は必ず縁佳と会って話すって決めたの。今日が十周週!」
鏡花は誇らしさ交じりに、歯を見せて笑う。私は、そんなに嬉しそうにできるだろうか。少しばかりその素直さに嫉妬してしまって、溜息が零れた。
「あーそう、じゃあ帰ろっか」
「帰り道に何か食べ物屋さんがあれば、一緒に食べられていいんだけど」
「学校からバス停までの間ってこと?さすがに望み薄くない?」
「毎日が文化祭ならいいのに」
「あ、今年はウサギ呼ばないよ。お金かかるし、準備大変だし」
「代わりに何をしてくれるの?」
「何もしないよっ」
私は餌をあげ過ぎてしまったのだ。鏡花はそこそこ逞しくなった。それこそ、私なんかに固執する必要がないぐらい。
鏡花が頬を膨らませているが、ちっとも怖くないので無視して歩き進める。すると今度は、横断歩道を渡らず、帰りのバスとは逆の方向のバス停の近くで、いつも歩調まで寸分の狂いなく合わせてくる鏡花が足を止めた。
「忘れ物でも思い出した?」
「いや、バスが来るまであと7、8分あるから」
「だから……?」
「向こうのバス停、縁佳と一緒だとあれなんだよ、あれだよ……」
こう、目の照準が定まってない鏡花というのは、何だか懐かしくて趣がある。ずっと、それを享受できると思っていた。
「縁佳に、私のことを特別に想うことはないって、言われた場所だから、ね」
今の鏡花が繰り出した言葉には、いつものような素朴な感情だけじゃなくて、深邃な機微が多分に含まれていた。そう言えば、交流会が終わった後のある日、別れ際にそんな旨のことを一方的に押し付けたような気がする。
今さら瞞着するまでもなく、あの時の私は鏡花に恋愛感情をいだかれないよう、上手く言い包めるつもりだったのだろう。そういう試みの数々は、真正面から打ち砕かれたけど、そしてその勇猛さにどれだけ苦労させられたことか分からないけど、裏を返せば私の冷酷な宣告は、奇跡的に鏡花を傷付けなかった。となるはずだったのに、実のところは尾を引いてるとなると、えぇーっとー、謝ればいいのか……?道理として、もしくは今後ますます付き合いを深めたいならそれが最善だけど、これ以上進展させたくはないし、それに私の嘘偽りのない剥き出しの本性だし、私自身を否定してまで、鏡花に付け入る隙を与えるべきか、うむむむ……。
「もしかして、最近はそれを意識してるの?」
ここ二か月、必然的に常に、この人は私のことが好きで、私にも好きなってほしいんだなって、そういう願望が脳裏によぎることにはなっても、以前と同じ友達同士の日常を継続してきた。というか、私の望む距離感に、鏡花が無理して合わせてるって感じだ。でも、諦めたわけじゃないのは、それなりに溢れ出る身体接触への渇望から察せる。いや、理想的な着地点を見つけられたはずなのに、何を期待して、何を疑問に思ってるのやら。
「嫌だ、私は縁佳に好きになってほしい。想いが通じ合ってるって、とても幸せなことだから……」
鏡花は息を荒くしながら、途切れ途切れに早口でそう返してきた。
「そう言われても……。人間の一番のブラックボックスだから仕方ない。鏡花だって、誰にでも理解可能な論理で、心を揺さぶられたわけじゃないでしょ。たまたま鏡花には発火しなかった。謝ることぐらいはできるけど、とても償えないよ」
「そうじゃないよね。私だけじゃなくて、誰に対しても、森羅万象に対して発火しないんでしょ」
「……そんなんじゃないけど。ねぇ、大げさに言い過ぎ」
「いいよ別に。見栄を張ろうと張らなかろうと、私は縁佳のことが好きだから、だから……幸せになってほしい、私を好きになれば幸せになれるから……」
「鏡花のことを好きになれば、それだけで幸せになれるの?そんなわけ無くない?」
「あぁ……、ちょっと過言だったかも……」
鏡花は、数本の髪の毛を指の腹に押し付けながら、唇を前歯で噛みながらそう言った。見慣れた緊張の逃がし方、虫が好かない威勢のいい鏡花は、一瞬にして鳴りを潜めて、安心と信頼のしおらしい鏡花が戻ってきた。だけど、しおらしいのは彼女の本質ではなく、自己主張を抑えてるだけで、内には滔々と情熱が煮えたぎっていて、それを浴びせる機会を虎視眈々とうかがっているようにさえ思える。ただ闇雲に物理的な距離を縮めてるだけじゃなくて、本質に迫ろうとしている。
いや、何事にも特別な感情をいだかないという、一つの愚にも付かぬ核心に、鏡花は辿り着いたのだ。だから、私は紛れもなく動揺した。自分で推論してそう言ったのか、はたまた嫌味に手を染めてみただけなのか。それはどうでもいい。どうせじきにそれは確信に変わる。私が望んだ、だらだら続けた二か月は、鏡花にとってまた成長のきっかけとなっていた。
何してるんだろう、私は。何、人のことを過少に見積もって、あーだこーだ御託を並べてるのだろう。空っぽな自分が浮かび上がっていく。もういっそのこと、嫌いになってくれればいいのに。偽りの魅力で固められた私を好きになることが、どれだけ惨めなことか、本質を見抜けた以上、それにさっさと気付いてほしい。友達を失うのも恐怖も、緩慢になら多少和らぐことだろうし。
ぬああああああああああ、どうして、どうしていつもこうなっちゃうのっ!!私が好意をアピールすると、絶対に折り合いが付かなくて、ダンプカーに潰されるような、逃げ場がなく終わりもない重苦しい雰囲気が、体中を駆け回って後悔させてくる。ぐぬぬぬっ、ムカつく、窓ガラスに映る自分が、かまととぶってて憎たらしいっ!
一通り、あくまで心の中で叫び散らかしたところで、いやちょっと座りながら、バスの床をドンドン足で叩いてしまったけど、とにかく少しだけ正気に戻る。まあ、私がこの二か月でやったことと言えば、日々の小テストと定期テストと模試と、そして縁佳の過去を胡散臭い人から聞いただけだ。だらだら漫然と過ごしてきたことを猛省するのもそうだけど、何より私は、縁佳のことを何も知らない状態から、過去の縁佳だけしか知らない状態に進化したに過ぎないのである。
結局、今を生きてる以上、今の縁佳に必要な自分を提供しなきゃ、振り向かせることなんて叶わない。そんな事はわかってたけど、でも、もう一年以上おおよそそこそこ程々にある程度肩を並べてるのに、尻尾すら掴ませてくれなくて、それにこのまま友達同士なのが、一番エネルギー的に安定してて。だから、現状維持に縋ってた。
本当は覚悟なんてなかった。振られてそのまま疎遠になってたら、たぶん二度と立ち直れなかっただろう。そうか、私はまた縁佳に救われたんだ。……そうじゃない、救うのは私なんだから。はぁ。
そんな風に、空振ることすら恐れて、目先の利益だけを貪る日が、また一つ終わろうとしている。縁佳は基本的に早寝早起きなので、あまり遅くまで付き合わせるわけにもいかないし、それにルーティンに嵌まるのは、縁佳の策謀に嵌まってるのと同義だし。恋人というのは特別でなければならないのである。そんなわけで潔く一日を終わらせようと、スッカスカのベッドの上に転がったまさにその時、なんか明世から電話が掛かってきた。
「しまちゃんっ!!」
「はいっ、なっ何ですか……?」
「元気!?」
「あなた様ほどではないけど、元気かなぁ」
「あぁ……、それならいいんだけど」
電話越しでそんな気迫を醸せるんだと、もしかしたら参考になったかもしれない。
「病んでるのかなーって」
「病んでる?どうして?」
「あっいやーそのー、ミケがTwitter上で病んだこと言って、構ってほしそうにしてるーって、わざわざ報告してきたから……」
あのフォロー514、フォロワー3の、食べ物をひたすらRTし続ける完全趣味用アカウントを、永田が……?見られてはいけないものって訳でもないけど、何となく背筋を丸めて身構えてしまった。
「あ、それは、えぇー、なんて釈明しようかな……」
「がすよの事で悩んでるなら、相談に乗るよ。ごめんね、最近は前みたいに、二人でいるのをよく見かけるから、てっきり順風満帆なのかと……」
まあ、明世のことは信頼してるから、それに微妙な心境も、噛み砕いてそれらしくしてくれるから、積弊を埒もなくけれど淀みなく話していた。
「このままじゃ嫌だ。そう思って果敢に一歩踏み出してみるんだけど、そうすると五十歩ぐらい下がってかれちゃう。それを続けてたら、今度こそ本当に嫌われちゃうような気がしてさぁ……」
「ふぅーむ、がすよも意固地というか中途半端な人というか。心が痛まないのかねぇ」
「ほんとにそう、だよねっ。いいじゃん、手を繋いだり、違う味のソフトクリームを交換したり、一緒のクラスになったり、震い付いてくれたり、キスしたり、同棲したり、それくらい」
「こ、後半は少々賛同しかねるけどっ、まあ概ねいいんじゃないかな……」
「せめて、私からしようとするのは、止めないでほしいんだけど」
「一つアドバイスするなら、がすよは友達って関係にだけは、異様に執着してるってこと。だから、多少強引でも大丈夫だよ。頑張れー、諦めなければきっと、報われるって」
しかし、ここに来てなんかムッとしてしまった。明世と黎夢はなんで相思相愛なんだ、苦労して、血反吐でも垂れ流せよ。うおあっと、憶測で物事を語るのは良くない、人の不幸を願うのも良くない……。
「諦めるつもりなんて最初から無いよ。千引の石だって、一人で動かして見せる」
「なんか拍子抜けだなー。もっと深刻なのかと」
「うーん……、諸熊さんに発散できて、少しすっきりしたのかも。また明日から頑張れるよ」
「明日は休みだけどねー」
「というか夏休みどうしよう……。能動的にイベントを起こさないと、本当に会う機会がない……」
「遊びに行こうって誘ってみればいいじゃん。別に、それ位なんてことないでしょ」
「簡単に言わないでよ!」
「えぇー、思い切りがいいのか悪いのか、もうどっちだか分からなんな……」
近頃は、行先も最中も全部縁佳に頼りきりではダメだと思い直して、自分から行きたい場所を提案したり、話を盛り上げようと努力してみたり、縁佳が楽しめてるか考えてみたり、努力してみてるわけで、息の詰まるような毎日である。まあ、首を絞めてるのは縁佳なので、快感なような少し強く絞め上げ過ぎなような、一周回ってもっと強くしてほしいような感じもする。
明世との通話を終えて、仰向けになって一息吐くと、胸のつかえが緩和されて、全身に酸素が行き渡って、筋肉が弛緩するのを実感する。息の詰まるような日々というのは、大して誇張した表現ではなくて、向こうは全然変わってないだろうけど、私は縁佳と接するたびに丁重に意識するようになってしまった。とは言え、それを呑気に実感できる時間があるというのも、幸せなものだ。結果的に縁佳の優柔不断というか、現状維持への強いこだわりというか、そういう危うさに救われている。何だろう、どんな縁佳にも救われられる気がする。難しいことを考えられなくて良かったと思いながら、私は目を閉じた。




