つまり残念ってこと
「大阪杯、どうでした?」
今日のクラスが終わり、雑談に入る。
うちのセンセイは妙な競馬予想技術をもっている。私もちょっとした理由で競馬をやっているので、こうしてクラスのあとに話をすることが多い。
「わからんから買わなかった。ローシャムパークが連対するレースなのはわかったけど、相手がなあ」
センセイは馬ではなくレースを予想している。曰くJRAが開催するレースには毎年決まったシナリオがあり、それに当てはまる馬が走らされているのだそうだ。
「あれ、1着候補は絞ってたじゃないですか」
「たしかに1着する馬は決まってたけど、なんかね、考えすぎて選べなくなってしまって」
1着が決まってるなんて話を聞くと八百長のような感じもするが、それとはまったく違うらしい。そのあたり一度詳しく聞いたような気もするがあまり覚えていない。
私にとって重要なのは、センセイ自身がそのシナリオを作ってるんじゃないですかってくらい情報の精度が高いことだ。
おかげで……
「ふっふー、実は私は当たったんですよね」
「まじか、よくわかったな」
「ほら取消があったじゃないですか。それに対応しているところに1着候補の馬がいまして」
「ああ、納得」
「稼がせてもらいましたよ」
おかげでちょっとした小金を稼がせてもらっている。自分で学費を払っている大学生にとってこれもまた大事な収入なのです。
「あいつはどうだった?一緒に競馬してるんだろう?」
「あー、それは本人が来てからのお楽しみということで」
私がセンセイと競馬の話をすることが多いもうひとつの理由。それが我が友人であり、
「おつかれコハル!かわいいかわいい私がお迎えにきてあげたよ!」
このアリサの存在だ。
「おー、ごくろうさん」
我が友人アリサ。そしてセンセイの姪っ子である。
たまたま最初の授業で同じグループになったのだが、ひときわ目立つ容姿をしていたのが彼女だ。かわいい子に目が無い私はゴリ押しで友人になった。そしたら偶然にもセンセイの姪っ子だったわけである。
「叔父さんもおつかれさま、相変わらず競馬の話?」
そして最近わかったが、アリサは叔父ことセンセイのことが大好きだ。
こうして私を迎えにくるのもセンセイに会いに来る口実である。本人は否定しているが、だいたい7対3くらいでセンセイに軍配が上がる。
「まあな、ちょうど大阪杯の話してたんだよ。アリサはどうだった?」
そして私とセンセイが話しているのを見て、アリサは競馬を始めた。建前上は私が誘ったことになっている。だいぶこじらせていると思う。
「うーん駄目だった。難しかったよ」
ただアリサが競馬を始めて一ヶ月、オーシャンステークスが高松宮記念のステップレースだとか、CBC賞がサマースプリントシリーズに途中から入ったレースだとかわかるくらいに勉強してきたのは素直にすごいと思う。
センセイはいまだに半分くらいのレースを見てから調べてるからな。この前もクイーンカップとクイーンステークスの日程を間違えてた。
「タスティエーラを考えてみたんだけど」
「タスティ?誰だっけ?」
なんなら馬の名前もほとんど見ていない。ウ○娘に出てる馬の名前ですら頭にはてなマークを浮かべていたくらい。
「1番人気だった馬ですよ」
というわけで私が補足を入れる。
「ああ、ダービー勝った馬だっけ」
こんな感じで性質だけしっかり覚えている。おかげで馬への思い入れみたいなものも一切ない。予想はどこまでいっても冷徹で、
「そうその馬、叔父さんから見てどうだった?」
「あれは良い馬だったなあ」
「叔父さんから見てもそうだったんだ。実は私も……」
「絶対に勝てないのわかってるのに1番人気になってくれてて、おいしいオッズを作ってくれてた」
そして、競馬のことになると容赦がない。
「少し調べればダービー馬が大阪杯を勝ったことがないのは一目瞭然なのに。そしたらタスティなんとかが勝てないのは小学生でもわかる。それを覆すほどの格がある馬でもないんだし」
たしかにタスティエーラは1着候補リストの中にいなかったなあ。
ただセンセイ、アリサの笑顔がビキッと固まったのも一目瞭然なんだけど。
「あの馬を買うのは相当なアホだ。競馬をやめた方がいい。」
お、アリサが小刻みに震え出した。これはこれで怯えた犬みたいでかわいい。
「じゃ、じゃあ当たったの?」
恐る恐る問いかけるワンちゃんアリサ、たぶんタスティエーラを買って外したんだろうなあ。
「いや難しくて買えなかった。なんだかんだ言ったところで買ってないから当たってないようなもんかな」
お、アリサがわかりやすくホッとした。たぶんタスティエーラの的中どうのより、センセイと同じ結果になるのが大事なんだろうね。
「なーんだ、じゃあ来年私が叔父さんの予想をしっかり結果に結びつけてあげるからね」
尻尾を振りだしたところ悪いんだけどアリサよ、それはやばい。
「いや、それならコハルが見事に的中させてるぞ」
ほれみたことか。
うわ、一瞬復活したアリサの顔から魂が抜け出してるよ。
「1番人気を買ったアホたちは、しっかりコハルの稼ぎに貢献してくれたってわけだ」
魂抜けた顔もかわいいなあ、じゃないや。しっかり止めを刺した上に、私を巻き込みやがって。センセイよ、アホはお前だ。
仕方ない、アリサには帰りスタバでも奢ってやるとして、
「センセイ、アリサはタスティエーラ買っちゃったのよ」
いったん助け舟を出す。
「え、まじか、なんかごめん」
やっと気付いたアホ。普段はめちゃくちゃ相手の感情を読めるくせに、何かを語ってるときはまわりが見えなくなるのなんなんだ。
「あれ、でもコハルと一緒に予想してたんだろ?コハルに買うの止められなかったのか?」
うわ、冷静になったらいらんことにも気付くようになった。アリサは早く魂連れ戻して。
「え、えーと、その」
もちろんアリサが私に誘われて競馬を始めたってのは建前だから、一緒に予想はしていない。するときもあるけど、今回は違う。大阪杯を買ってたのだって今知った。
「競馬予想って自己責任、情報を得ても使うかどうかは本人次第ですからね。そのへんアリサはわきまえてるんですよ」
とりあえず助け舟を出した私にも責任があることだし、フォローを入れてやる。
「おお、始めて一ヶ月でその領域に達しているとは、やるじゃんアリサ」
「え、えへへ」
褒められてすぐご機嫌なアリサ。これで貸し借りなし、スタバは自腹で飲んでもらおう。
ついでに反省会くらいは付き合ってやる。




