2,ゴブリンを創る
「よいしょっ!よいしょっ!」
わたしは今、踏み台に乗って大きな錬金釜を混ぜている。わたしの作品第一号を作り始めるところなのだ。
最初はゴブリンを作ろうと考えている。やっぱりファンタジーといえばゴブリン。スライムも考えたけどあれは創るのが難しそうなのでパス。
本を読んだだけだが、錬金術はマスターできたと思う。小屋にある500冊以上の分厚い本を全て読んだのだ。経験は無くとも多少の自信はつく。
【生体錬金】複数の素材を組み合わせて、生物を創り出す錬金術の一つ。
そのやり方はこうだ。
用意する道具は錬金専用の特殊な釜である【錬金釜】とそれを混ぜる大きなおたま。
まず世界を構成すると言われる四大元素を再現する。一つの小世界を作るイメージなのだそうだ。
火・水・風・土。それが四大元素。
錬金釜を水で満たす。火を起こして温め沸騰させる。よくかき混ぜて空気を含ませる。土の要素は創りたい生物の形を粘土で用意するのだが、これを使うのは後だ。
次にベースとなる素材と追加素材を入れる。ここからは何を創るかで内容が変わる。
ゴブリンの場合で考えてみると。ベースとなるのは…うーん、一番近いのは人間かな。ということで一掘り行ってきました。墓地まで行って人骨ゲット。一本くらい無くなっても誰も気づかないだろう。
追加素材はコウモリの耳、犬の牙、ネズミ、緑の着色剤を入れよう。
コウモリの耳はゴブリンのあの尖った耳の再現だ。
犬の牙は鋭い牙を持たせるため。
ネズミはゴブリンと言えば繁殖力が高そうなのでネズミの繁殖力を与えようという意図だ。
緑の着色料は当然緑色の肌にするため。これらは自力で集めるのは難しいので街まで行って買ってきた。
前回は街で酷い目に遭ったわけだが、小屋に隠してあったゲーベリクスのへそくりを見つけ出し、身だしなみを整え問題は解決済みだ。素材ももちろんへそくりで買った。さすが偉大な錬金術師お金持ち。
次は粘土で人形作り。記憶を頼りに粘土をこねてゴブリンを形作る。うん、悪くない出来だ。わたしは手先が器用なようで思い描いた通りのゴブリン像ができた。結構楽しくて夢中になってしまった。
それじゃあ…最後に生命の素。ナイフを取り出し指先を切り、ポチョンと血を一滴入れる。
そして期待と緊張感を抱きながら静かにこう呟いた。
「―――産まれ出でよ」
突然、強烈な光が部屋を照らし出し、驚いて後ずさり、踏み台から足を滑らせてしまい、背中から床に落ちた。痛みと眩しさに耐えながら、両腕で頭を包んで身を縮めることしかできない。
―――光が収まった。恐る恐る立ち上がって錬金釜の中を覗いてみると、そこには目をつむって眠っているゴブリンの姿があった。
やった! 成功だ! この世界初の魔物生誕!!! ここからどんどん増やして世界を魔物で満たしてやるぞー!ふふふふ!はっはっはっはっはっ!!!
一旦落ち着いてゴブリンをよく観察してみる。産まれたばかりといって赤ん坊というわけではなく、しっかり成体の姿だ。
ふむふむ生きてる、よね?大丈夫そうだ。体に異常は無さそう。あっ、そういえば雄と雌どっちなんだろうか。うむ、確認してみると雄だ。確かベースにした人骨が男性だったからそれが影響したんだろう。
それじゃあ自然界に解き放ってどうなるか観察しちゃおうかな。
起こさないようににゴブリンを背負うとわくわく気分で外に出る。
人の気配は全くなく、鳥のさえずりと風に揺れる木々の音だけが聞こえる。穏やかで食べ物が豊富な森。ゴブリンくんが生き残れるか試すのにうってつけな場所だ。
家から離れたとある場所を目指して歩き出す。わたしは魔物使いになりたいわけではない。魔物牧場を作る気もない。この世界に新たな生態系を創り出すことこそわたしの目的だ。だから、万が一にもわたしや他の人間に慣れてもらっては困る。
到着だ。そこは小さな洞窟。そっとゴブリンを地面に置き、静かにその場から離れた。
それからわたしのゴブリンくん観察が始まった。
1日目。双眼鏡を使って十分離れた藪から観察している。ゴブリンくんはあたりを警戒しつつも木の実やキノコを採集して食べていた。
わたしがあらかじめ置いておいた生肉にも関心を示し食べた。食性は雑食で何でも食べる。この調子なら餓死することはなさそうだ。
ちなみに使っている双眼鏡は錬金術で作られたものだ。もちろん発明したのはゲーベリクス。
3日目。木に登ったり、枝を拾って振り回したり環境に慣れてきたのか大分アクティブになってきた。いいぞ、いい調子だ。
やはり知能は高いみたいだ。人間ほどとはいかないが、幼児程度はあるだろうか?ゴブリンと言えばボロ布を纏ったり、棍棒を扱うイメージがある。ゴブリンくんにはそのレベルまで到達することを期待したい。
7日目。近場の地形は完全に把握したようで縦横無尽に駆け回り、元からこの森に住んでいたかのように馴染んだようだ。しかし、時折寂しそうな様子を見せる。
そろそろつがいを用意してあげるべきか。正直一つの個体だけを作るのはそんなに難しいことではないのだろう。本当に難しいのは雌雄を揃えて繁殖させる事。これが成功して初めて、種として完成したと言えるだろう。
早速家に帰るとあらかじめ準備しておいた素材で雌のゴブリンを創り、ゴブリンくんが出かけている間に洞窟にそっと置いてきた。……よしよし、これでいい。あとは経過観察しながら時が満ちるのを待つとしよう。
一ヶ月後。森を散策中のゴブリンくんを発見。洞窟に帰っていったのでこっそりついて行った。すると、わたしが置いた雌のゴブリンに向かって雄のゴブリンがしきりに鳴きながら交尾をしようとしているではないか。むふふ。これは繁殖に成功したと見ていいだろう。
「やった!」
思わず声が出た。
ゴブリンくんたちは行為に夢中でこちらに気づく様子はなかった。
さらに一か月後。双眼鏡越しに見た光景に喜びで体を震わせた。ゴブリンの赤子が産まれたのだ。なんと同時に5匹。ばっちりネズミの効果が出て繁殖力は高いみたいだ。少し強すぎる気もしなくもないが、まあ大丈夫だろう。
赤子は産まれたばかりで泣くことしかできない弱弱しい存在。だが、元気いっぱいだ。ゴブリンも母性本能が芽生えたようで、母ゴブリンは5匹の我が子たちを献身的に世話をしている。我が子たちを眺めて満足げな表情をしていた。
ここまでは順調だ。
しかし、ここからが問題である。
この子たちには立派な『ゴブリンという種』に育ってもらわなければ困るのだ。そのためには……。数が足りない。
その後、わたしは奔走し、99組のゴブリンのつがいを加え、合計100組を生み出した。生物が近親交配を繰り返すと、血が濃くなり、様々な病気を引き起こす可能性がある。その問題に対処するためにこの行動を取ったのだ。
99組のゴブリンは一箇所にまとめるのではなく、できる限り広範囲に分散させた。なぜなら、あまりにも集まりすぎて目立ってしまうと困るからだ。
この森には、ゴブリンの天敵となる極めて危険な存在が、獲物を求めて度々現れる。
その存在こそが、世界最強かつ世界を支配する種────人間である。
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