表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

1.ワタシハダレダ

 目を覚ますと目の前には黒い壁。


 いたい…。立ち上がろうとしたら頭をぶつけた。ここは…どこだろう。


 そこは人がすっぽり一人入れる大きな釜の中だった。


 わたしは死んだ。それは覚えている。そして、今ここにいる。



 薄暗くて薄気味悪い部屋。埃っぽくて少し変なにおいがする。天井まで届きそうな大きな本棚があって隙間なく本が並べられている。しまい切れない本は机の上に、床の上にも無造作に積み上げられている。家主はよほどの読書マニアか、学者だろうか。


 ぺたぺたと裸足で釜から出て歩く。


 汚れているが鏡を見つけたので自分を姿を確認している見ると、そこでやっと自分が裸である事に気づく。青緑色の長い髪に真っ赤な目。身長は低くて子供みたいだ。


 もとからこんな体だったっけ…あー、頭がぼーっとして上手く思い出せない。


 わたし………なんて、名前だっけ…。


 部屋をよく観察してみると全体的にボロい。食べかけの腐った食べ物が放置されてるし、壁には穴も開いてる。うわ、あぶな。ガラスの破片も落ちてる。


 扉を開けて外に出ると風に吹かれて髪がなびく。涼しい。そこは森の開けた空間でまわりには木々が生い茂り、上には広々とした青い空があった。あ、鳥も飛んでる。何の鳥だろう。

 澱んだ空間から解放されて、透き通った空気を胸いっぱいに吸い込み晴れ晴れとした気分になる。振り返るとわたしがいたのは小さな木の小屋だったようだ。


 右も左もわからないが、とりあえず人を探そう。中に戻ってクローゼットを漁ると明らかに大きすぎるボロローブとボロ靴を見つけた。しょうがないかとそれを身に着け、裾を引きずりながら外に出る。


 おそらく家主が使っていただろう小道をしばらく歩くと、遠くに見つけたのは中世風の街並み。



 ―――あ、これ異世界転生か。わたしは察した。




 ************




 街並みは結構綺麗で住んだら快適そうだ。異世界生活も悪く無さそう。街ゆく人々から怪訝な目を向けられながら、わたしはどうどうと歩く。目が覚めてから数時間経ってないと思うが、自分でも不思議なほど事態を受け入れすっかり慣れてしまった。


 そういえばいまいち異世界っぽくないというか、ザ冒険者っていう人をまだ見れてないな。なんでだろ?

 一人で考えても答えは出ないので人に聞いてみることにした。



「ねえねえ、そこのお兄さん冒険者ギルドってどこにあるか知ってます?」


「は?何言ってんだこのガキ。近寄るな貧乏人」



 あっ、態度わる。確かにボロいしサイズ合ってないし、貧乏人丸出しみたいな格好だけど、ちょっとの質問ぐらい答えてくれたっていいじゃないか。こういう時は酒場に行こう。情報収集と言えば酒場。



「冒険者???探検家のことか?嬢ちゃん鉱脈探しにでも憧れてんのか?ガッハッハッハ!」



 めちゃめちゃ笑われた。許せん。


 しかし、あの酔っ払いども冒険者って言葉を理解してなかったようだけど…まさか冒険者がこの世界にはいない…?いやいやまさかね、魔物がいたらそれを討伐する冒険者がいるのが当然でしょ。酔っ払いの言うこと本気にしちゃだめだめ。


 もう人は信用できない。本屋に行こう。やはり何かを知るには本が一番正確だろう。そうして小一時間ほど街中をうろついて本屋に辿り着く。迷ったわけじゃないよ。


 えーっと、図鑑、図鑑…。あ、あった動物図鑑。でも………手が届かない。

 一生懸命手を伸ばし、つま先立ち、さらに小さくジャンプするがそれでも届かない。


 うぐぐ…、ええい!苛立たしい!よじ登ってやる。

 棚によじ登り、動物図鑑を手に取ると飛び降りて華麗に着地。


 さてと、この世界の魔物たちを見させてもらいますか。ぺらぺら~っと。

 なになに、イヌ、ネコ、クマ、トリ、ウシ、ヤギ………ん?ん???あれ、おかしい。普通の動物しか載ってない。ああ、そうか。動物図鑑と魔物図鑑があるんだ。


 そして魔物図鑑を探して店内中を歩き回ったり、よじ登り回ったりした。でもない。何故ない。



「ちょっとー、店長!魔物図鑑がないんですけど。どうなってんのこの店は!」


「なんだこの小汚ねえガキは!でてけ!!!」



 首根っこ掴まれて追い出されてしまった。



 その後…。



 街中で魔物の存在を聞いて回ったが「うるさい」「バカ」「黙れ」「頭のおかしいガキ」だの好き勝手言われて酷い目にあった。いくらなんでも酷過ぎる!相手は子供だぞ!この世界の倫理観はどうなってるんだ。



 何故こんなにも魔物に拘るのか、暴言を吐かれても必死に聞いて回っているのか、それはわたしは魔物が大好きだから。

 わたしが異世界に求めるのは勇者の冒険譚よりも、魔法よりも、時に幻想的で時に恐ろしい多様な生き物たちだ。だから、魔物がいないならば…。



 ―――こんな世界に価値は無い!!!



 さっさと元の世界に帰ろうっと。

 とぼとぼ帰路に着き、ボロ小屋まで帰って来た。


 はぁ、とため息をつきながら目覚めた大きな釜の中に戻り縮こまる。………こんなんで戻れるわけないか。



 はてさて、どうしたものか。



 ふと視界の端に捉えた本に興味を惹かれて、手に取る。



「……錬金術」



 あれ、読める。読めるぞ。っていうか本屋で動物図鑑を読んでたじゃん。世界に慣れ過ぎて自然と気づかぬうちに受け入れていた。自分の適応能力が恐ろしい。


 暇つぶしにその本を読んで見ると、文字が読めるだけでなく、まるで元から知っていたかのように内容がすらすら頭の中に入ってくる。すごい、天才だ。この体天才過ぎる。


 おおおお、止まらない、読書が止まらない。




 ………

 ……

 …




 楽しくなって数時間は本を読んでいただろうか。夕日のオレンジ色の光が窓から差し込んでいる。


 カアカアとカラスも鳴いておるわ。


 本を読むことでわたしは錬金術についてかなり詳しく知れた。この世界では魔法よりも錬金術が盛んで、人々の生活を支えているのは錬金術らしい。色んな便利アイテムが作られ、インフラにも関わっているとか。特に国は錬金術で兵器を大量生産していて、錬金術で作成された武具を装備した人間は通常武具の兵士100人を相手にできるとか。錬金術すごい。



 もっとすごいのはそれらを発明したのは一人の人間。『錬金術師ゲーベリクス』という男らしい。


 ゲーベリクス…ゲーベリクス、何か聞いたことがあるような気がする。


 頭をひねって唸っていると、ローブがはだけて裏地に縫われた『げーべりくす』の文字が。

 文字縫う文化あるんだ!?ってか小学生かよ!



 え、ということはこの家ゲーベリクスさんの家なの!?どこ行った!?わたしを放置して何処行ったゲーベリクス!!!



 待ってたら帰って来るかな………。待とう、……かな。




 ………

 ……

 …




 それから、一晩越したが人の気配はなかった。


 人に頼るのはやめだ!やめ!


 実は昨日の晩きったないベッドで寝ながらいい事を思いついたんだ。大好きな魔物がいなければ作ればいいじゃない。わたしに好都合なことに錬金術の中に【生体錬金術】というものがある。これを使えば新たな生物を創造できるらしい。禁忌の術とされているらしいが、そんなことは知ったことか。価値のない世界でのうのうと生きる気はない。どうせ生きるなら好き勝手やってやる。


 この退屈な世界をわたし好みの愉快な世界に創り変えてやろう。



 あぁ、そうそう、この世界で生きるなら相応しい名前が必要だ。



 そうだな…、苗字は彼の名を貰うとして…。



 直感的に思いついた。よし、これでいこう。



 ――――――わたしの名はニコナ・ゲーベリクスだ。


読んでいただきありがとうございます!お楽しみいただけましたら、感想や評価、そしてブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ