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第087話 南部山脈(1)


 ベラーキ村近くの森からさらに南下し、僕らは南部山脈を登り始めた。

 遠くから眺めた感じ、南部山脈はかなり急峻で標高が高く、上部は雪に覆われ、中部は岩肌が除き、下部は森に覆われている。

 僕らはまだ下部の山裾のあたりを歩いているのだけれど、大荷物を背負っているせいでまぁまぁきつい。

 道も全く整備されておらず、普段全く人が通らないことが伺えた。


 普通、僕らが今いるイクスパテット王国から山向こうのベルンヴァッカ帝国にいく際には、西側の海路を使う。

 二カ国の間に虚海と呼ばれる海域があって、海岸線沿いに貿易船や客船が出ている。

 でも、追手に形跡を残さず船を使うのは困難だったので、仕方なく山越えしていると言うわけだ。

 ちなみこの虚海、地図で見るとまるで大陸を人工的にくり抜いたかのような、綺麗な円形をしている。

 虚海という名前の由来も、円真ん中に行くほど異常に深くなっていて、生き物が海岸線沿いにしかいないかららしい。


 「そういえば、登る前に古代遺跡産の治療薬を回収してくればよかったですね。すぐ近くですし」


 ふと思い出し、前を行くヴァイオレット様に話しかける。

 この山の麓の洞窟には古代遺跡があって、僕の異世界転移はその遺跡の魔法陣の誤作動によるものという説が濃厚だ。

 ここ由来の治癒薬はとても高性能なのだけど、火竜の討伐で使い切って以来、バタついて補充できていなかった。

 今の手持ちは、性能が数段落ちる市販の治療薬しか無いんだよね。


 「……」


 あれ、反応が無い。


 「……ヴァイオレット様?」


 「……ん? すまないタツヒト、何か言ったか?」


 再度声をかけると、彼女は今気づいたかのようにこちらを振り向いた。


 「あ、はい。古代遺跡から治療薬を回収すればよかったかなー、と思いまして」


 「あぁ、確かにそうだな。だがあの遺跡は利用価値が高い故、領軍が警備しているはずだ。回収するのは難しいだろうな」


 「そうでしたか…… では、進むしか無いですね」


 「うむ」


 彼女は前に向き直り、また黙々と歩き始めた。 

 うーん。エマちゃん達の姿を見てから、ヴァイオレット様が少し上の空だ。

 無理もないか…… 僕でもだいぶ泣きそうだったのに、彼女の場合はもっと付き合いが長い。

 仲の良い妹ととの今生の別れのようなものだったのに、話すこともできなかったからなぁ。


 そういえば、復活祭は結局祝えなかったな。確か、僕らが王都を脱出した翌日がそうだったと思うけど。

 あ、魔導士教会からの呼び出しもブッチしてしまった。まぁしょうがないか。

 強化魔法の原理は、魔導士団のロメーヌ分隊長宛ての手紙にざっくり書いておいたから、彼女がなんとかしてくれるはず。多分。

 ほんと、この国には心残りが多すぎるなぁ……






 途中で昼休憩を挟みながら登る事しばし。木々がまばらになり、ゴツゴツした岩肌が見える山の中腹まで来た。

 今は春だというのに、標高が高いのと風も出てきたせいで、かなり寒くなってきた。

 でも、まだ夕方にもなっていないし、このペースだったら今日中に山頂付近まで行けるかも。

 そう思っていると、前を行くヴァイオレット様が歩みを止めた。


 「ふむ…… 今日はこの辺りで野営するとするとしよう」


 「え、まだ結構時間がありそうですけど……」


 「いや、このように高い山を一気に登るのはまずいのだ」


 「あ、そうか。高山病ですね」

 

 魔力による身体強化なんかが存在する世界でも、人類は低酸素状態に勝てないらしい。

 体を慣らすために、しばらくこの標高にとどまる必要があるみたいだ。


 「そういうことだ。そうだな、そこの岩陰がいいだろう」


 ヴァイオレット様に促され、多少風を凌げそうな大きな岩の影に入って野営の準備をする。

 

 「森で薪を拾ってきておいてよかったです。この辺りは動物や魔物も見かけませんし、食料は持ってきてますけどちょっと不安ですね」


 僕は薪を並べながら、寝床を整えてくれているヴァイオレット様に話を振る。

 山の中腹には木が殆ど生えておらず、生き物の姿もない。


 「普通であればそうだろう。しかし、食料の心配はあまりせずとも良いかもしれないぞ」


 「え、どういう事ですか?」


 「ふふっ。明日、もう少し登ればわかるだろう」


 歩いている内に元気を取り戻してくれたのか、先ほどよりもテンションが高めだ。

 これ以上登ったら尚のこと生き物は居なくなりそうだけど…… 僕は彼女の言葉に首を傾げながら準備を続けた。






 寒いからということで、二人で同じ毛布にくるまって朝を待つという至福の時を過ごした翌日。僕は実に晴々とした気持ちで目覚めた。

 昨晩は交代で見張りをしたので、ヴァイオレット様が寝ている間は直近でその寝顔を堪能することができた。眼福眼福。

 まさか僕の人生において、女子と身を寄せ合って寒さを凌ぐというイベントを経験できるとは……


 朝食を摂って野営地を引き払い、僕らは昨日に引き続き山を登り始めた。

 ふと見上げると、山頂付近には少し雲がかかっており天気は不安定なようだった。

 登り続ける内に景色は段々と変化し、あたり一面は雪に覆われてしまった。

 そして、驚くことにやたらと魔物に絡まれた。


 「ッシ!」


 「ゲギャッ……」


 襲いかかって来た群れの一体、小型の雪男のような魔物を槍で仕留め、周りを見回して今ので全滅させたことを確認した。

 あたりには僕とヴァイオレット様が仕留めた雪男達の死骸が散乱している。

 あんまり強くなかったから、多分ゴブリンの変異種か何かだろうな。

 ヴァイオレット様はまだ短槍に慣れきってはいないみたいだけど、彼らを蹴散らすには全く苦労しなかったようだ。

 しかし……


 「こんな山の上にこれだけ沢山魔物がいるなんて……」


 雪山のかなり上の方なのに、大森林と同じくらいの密度で魔物が生息している気がする。

 雪男達の前にも、真っ白い毛皮のアルミラージに襲われた。

 もちろん返り討ちにしたけど、保護色による完璧な奇襲だったので、かなり驚かされた。

 その彼も、今は血抜きも済んで僕の背嚢に括り付けてある。今日のご飯が楽しみだ。


 「私も話には聞いていたが、実際に見て驚いてしまったよ。

 実は南部山脈の上部、雪に覆われた領域は魔物の領域として知られているのだ。

 大地を流れる龍脈の途切れるところ、即ち龍穴からは、常に魔素が放出されている。

 そして、この山の山頂付近にその龍穴があるとされているのだ。

 その影響で、食物が少ないにも関わらずこれだけの魔物が生きていけるのだろうな」


 「なるほど、それで…… あれ。ということは、山頂に行くほど強い魔物が居たりしますか?」


 「ああ、その可能性は高いだろうな。だが、何も山頂を通る必要は無い。

 我々はあの間のところを抜ければいい。そうすれば、さほど強力な魔物に遭遇することは無いだろうさ」


 そう言って、山頂付近にある谷のようになった辺りを指すヴァイオレット様。

 あのー、今フラグが立ってしまった気がしたのですが……


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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