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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
5章 馬人族の女王

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第080話 血で汚れた手(1)


 会食の後、屋敷に戻ってきた領主様達の表情は優れなかった。

 僕とヴァイオレット様が声をかけてもはぐらかされてしまったし、なんだか少しよそよそしかった。

 けど、僕はそれを気にする余裕が無くなってしまった。

 

 近く行われる近衛騎士団による大規模な野盗討伐作戦。これに僕も参加するよう、領主様から命令が下ったからだ。

 作戦の日程から、王都への滞在予定が結構伸びてしまうので、生誕祭までに領都に帰るのは無理そうだ。

 領主様は言いにくそうに経緯を話して下さったけど、やっぱり女王陛下経由の命令だった。

 ちょっと強いだけの男の平民を、陛下は何故ここまで気にかけて下さるんだろう。わからん。

 

 さらに、ヴァイオレット様の方は王軍の訓練に参加するよう命令が下った。

 こちらは訓練も大規模なもので、王都の外に遠征の上、数日間に渡って行われるものらしい。

 時期は僕が参加する野盗の討伐作戦と同じタイミングのようだ。

 

 ちなみに、僕への指令を側で聞いていたヴァイオレット様は、ちょっと見ないくらいに激しく反対してくれた。

 でも、やはり後ろに女王陛下がいるせいか、領主様が指令を撤回することは無かった。

 領主様から、タツヒトもいずれ通る必要がある道だと言われて、ヴァイオレット様も最終的に渋々納得されていた。

 その後、ヴァイオレット様が猛反対する理由にいまいちピンときていない僕を、彼女は「気をしっかり持て」とハグしてくれた。

 それで理由はなんとなく想像できたけど、そうなると気が重いな……






 「そうか。あの魔法はそなたが開発したものだったのか」


 「はい、陛下。私は幸いにして万能型ですので、身体強化の強みを生かした魔法の運用を行いたいと考え、同僚の助けを得ながらあの強化魔法を開発しました」


 「なるほど。しかし、あれほど強力な魔法を一から開発したとなると、間違いなく魔導士の称号を取ることができるだろうな。うむ、やはりそなたは優秀だ」


 「過分なお言葉、誠にありがとうございます」


 場所は王城の奥、花が咲き乱れる広々とした中庭で、僕は陛下と優雅にお茶を楽しんでいた。

 あの会食の後も、幾度となくお茶にお呼ばれしている。

 ヴァイオレット様は領主様達と一緒に親戚に挨拶回りなので、今日は僕一人で来ている。

 しかも、陛下はお付の方の静止を振り切って人払いをかけたので、なんと二人っきりだ。これ、大丈夫なんだろうか……?


 「そうだ。明日であったな、野盗の討伐作戦は」


 「……はい。陛下のご期待に沿えるよう、しっかり務めを果たしてまいります」


 「うむ、頼むぞ。--私が初めて手にかけた人間は、私の姉だった」


 「--え? あ、いえ、失礼いたしました。あの、それは一体……」


 「なに、よくある権力争いだ。私の母、先王陛下はあまり良い王では無かった。先王が病で亡くなられてから10余年、余はこの国をここまで正常化することができた。

 しかしそれは、邪魔なもの達を残らず切り捨ててきたからできたことだ。

 我が姉は放蕩と浪費、そして愚かさの権化だった。(まつりごと)をかけらも解さないというのに、自身は女王になる気でいた。だから私が排したのだ。

 魔物が猛威を振るうこの地において、人間同士で争うのは愚の骨頂。なれど、それでもやらなければならぬ時がある。

 他にも、国の害となる貴族や親類どもを何人も排してきた。何人もな……」


 そう呟くように話す陛下の顔は、人形のように無表情だった。

 僕がなんと言えばわからずに固まっていると、陛下が気づいて表情を緩めた。


 「いや、すまぬ。詮無いこと話してしまったな…… さてタツヒトよ」


 「はっ」


 先ほどの様子はなりを潜め、陛下は一瞬にして威厳に満ちた為政者の顔になった。


 「勅命である。月光近衛騎士団と共に、王都周辺に巣喰う野盗共を根絶やしにせよ」


 「はっ! 女王陛下の御心のままに」






 女王陛下とのお茶会の翌日、野盗討伐作戦決行の日、僕は王城内にある月光近衛騎士団の屯所を訪ねた。

 領主様から指令を受けてから、作戦や連携の確認のために何度か通っているので、顔パスで屯所の中に入る。

 すると屯所内の開けた場所には、すでに数百人が整然と整列していた。僕はその中に見知った人を見つけて駆け寄った。


 「ケヴィン分隊長、おはようございます。今日はよろしくお願いします」


 「タツヒト殿、おはよう。さあこちらへ、自分の隣に来てくれ」


 彼とは生誕祭のあと何度か顔を合わせているけど、御前試合での印象そのままの実直な好青年だ。僕が屯所に来るたびに色々と気にかけてくれる。

 彼の指示に従って並ぶと、整列した人々の前に配置された演台に壮年の男性が二人登った。

 格好や雰囲気からして、月光近衛騎士団の団長とその副官の人だろうな。


 「諸君、よく集まってくれた。本日は絶好の狩り日和だ。人の姿をした害獣どもを討伐するのにうってつけの日だな」


 団長が飛ばしたちょとブラックなジョークに、整列した団員達が笑い声を上げる。


 「さて、作戦内容については各隊事前に共有済みだと思うが、ここで大きな流れを復習しておこう。副長、頼む」


 「はっ、団長。これより作戦概要を説明する--」


 それから副長さんが作戦内容を説明してくれた。

 強力な魔物が跋扈するこの世界では、人類は防壁の中でないと安心して生活することができない。

 しかし、集団生活に馴染めなかったり、犯罪を犯して逃亡したりといった理由から、街や村の外で野盗に身をやつしてしまう人間は一定数いるのだ。

 この生誕祭の時期は、王都に集まる人や物を標的として野盗も集まってくるらしい。それらを一気に叩くのがこの野盗討伐作戦だ。


 月光近衛騎士団は女王陛下直属の男性のみで構成される部隊で、今回の作戦は団員のほとんどが参加する大規模なものだ。王都の住人達には作戦終了後に告知されるらしい。

 地球世界の価値観に照らし合わせると、女王直属の華々しい女性騎士団が、御前試合で優勝した謎の女魔法戦士と一緒に庶民の敵を打つような感じだ。


 王都の住人からしたら胸のすくような話だろうし、その作戦を企画した陛下の好感度は鰻登りというわけだ。

 ただ、実際には騎士の人たちは100人くらいで、残りの200人ちょっとは月光近衛騎士団の支援部隊と宮廷魔道師団からの助っ人だ。

 ちなみに風紀の問題からか、全員男性だ。

 

 作戦内容としては、事前の調査で判明したいくつかの野盗の根城に強襲をかけ、殲滅していくという単純なものだ。

 王都周辺の目ぼしい野盗集団を数日かけて潰し尽くすらしい。僕はケヴィン分隊長の部隊にくっついて行動することになっている。

 あと、この作戦の説明を受ける時、僕は初めてこの世界の地図を目にすることになった。

 薄々感じていたけど、地図に記された地形は地球世界におけるヨーロッパにかなり似ていた。

 そしてこのイクスパテット王国は、地球でいうところのフランスあたりに位置するようだ。

 もしかしたら、日本に似た地形や文化をもつ国もあるのかもしれない。


 「--以上だ。おっと、一つ言い忘れた。当然のことながら、野盗共はわざわざ捕らえる必要はない。

 発見した野盗共は残らず殲滅せよ。では作戦を開始する。各員、健闘を祈る」


 「「はっ!!」」


 副長さんの激励に騎士団の面々が応え、きびきびと出発の準備を始めた。

 わかっていたことだけど、今の説明を聞いて胃の辺りがずんと重くなった。

 ヴァイオレット様が心配してくれた理由がこれだ。野盗は生け取りは不要、発見次第殲滅。

 つまり僕は、これから人を殺しに行くのだ。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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