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第077話 御前試合(3)


 その後も順調に勝ち進んだ僕は、試合場に続く階段の前で呼ばれるのを待っていた。


 『皆さま、お待たせいたしました。これより男子の部、決勝戦を開始いたします!』


 アナウンスが告げるように今から決勝戦が始まる。

 本戦の参加者は八人しか居らず、二回勝てば決勝進出だ。

 ちなみに、二試合目の相手は水属性の魔法使いで、実力的に橙銀級の上位くらいだったと思う。

 水を足下に結界のように張り巡らせて迎撃の構えをしていたので、遠距離から弱めに雷よ(フルグル)して一方的に勝たせてもらった。

 呼び出しの時に魔導士団所属ってアナウンスがあったのに、彼は「こいつ魔法も使えたのかよ!?」っていう顔をしていた。

 そういえば予選では全く魔法使ってなかったかも。


 『東より、王領、月光近衛騎士団分隊長、ケヴィン選手!』


 外の歓声が大きくなった。対戦相手はヴァイオレット様の予想通りの相手だ。

 彼は僕と同じ黄金級の位階にあるという話なので、気を引き締めて行かないと。

 一応試合なので、騎士には肉弾戦、魔法使いには魔法で戦う方針だけど、追い詰められたら遠慮なく雷化(アッシミア・フルグル)を使うつもりだ。


 『続いて西より、ヴァロンソル侯爵領、領軍魔導士団所属、タツヒト選手!』


 「……よし、行こう」


 階段を登って試合場に上がると、僕にもファンがついてくれたのかさらに歓声が大きくなった。

 試合場の周りには最初の試合の時より多くの魔法使いが待機している。

 二試合目の時、相手選手は雷撃によるダメージを負っていなかったので、魔法陣に込める魔力を上げるほど障壁の強度が上がるのかも。


 っと、今は相手に集中しよう。

 相手に視線を戻し、試合場の開始戦まで進んだ。

 

 『両選手位置につきました。魔法陣を起動して下さい』


 障壁が展開され、僕と相手の頭上に蹄のアイコンが投影される。

 ケヴィン選手の装備は予選の時と変わらず、プレートメイルに剣と盾だ。

 対峙して気づいたけど、爽やかなイケメンといった整った顔立ちをしている。歳は参加基準の24歳付近だろうか。

 でも、表情が怖い。必死の形相というか、まるで命がかかっているかのような気合の入り様だ。


 『準備が整いました。では両選手、構えて下さい』


 静かに槍を構える僕と対照的に、ケヴィン選手は前傾姿勢で今にも飛び掛かって来そうな構えだ。


 『……決勝戦、開始!』


 「おぉぉぉぉぉっ!!」


 開始の合図とほぼ同時、ケヴィン選手が雄叫びを上げて疾駆した。





 

 気迫、気合、やる気、人が何かに打ち込む時の真剣さを表す言葉は、いくつもあると思う。

 そしてケヴィン選手がこの試合に向けるそれは、僕のものを大きく上回っていた。


 「ぜぁぁっ!!」


 その気迫に押され、槍使いの僕が先制を許してしまった。

 疾る勢いのままに突き出されたブロードソードが、僕の喉元に迫る。

 我に帰った僕は、慌ててそれを槍で横に受け流した。


 ギャリンッ!


 そして斜め前に出て相手の側面に回り込むと、受け流した勢いのままに槍を回転させ、石突の側で相手の頭部を狙った。

 

 ヴンッ!


 槍の柄はケヴィン選手の頭部寸前で止まった。

 しかし、障壁を強く打ち据えたことで独特の音が鳴り、彼の頭上にある蹄が一つ消失した。


 『ケヴィン選手、蹄を一つ損耗しました!』


 審判のアナウンスに、ケヴィン選手が顔を歪める。


 「くそっ…… はぁぁぁ!!」


 彼は間合いを潰すように僕に突進すると、先ほどとは違ったコンパクトな斬撃を繰り出してきた。

 こちらの方が彼の本来の戦い方なのだろう。堅実で隙の無い、弛まぬ努力が伺える剣筋だ。

 しかし、普段から浴びているヴァイオレット様の神速の突きには遠く及ばない。

 僕は彼の攻撃のことごとくを槍で捌いた。


 「らぁっ!」


 間合いを取ろうとしていたところで、ちょうど彼がシールドバッシュを放ってきた。

 僕は軽く地面を蹴って体を浮かせると、突き出された盾を蹴って大きく距離をとった。


 ダンッ!

  

 空中で一回転して着地し、すぐに目線をケヴィン選手に戻す。

 しまった、一瞬そんな表情をしていた彼は、すぐに表情を改めて剣を構えた。

 

 ……彼の姿を見ていて、僕はなんだか奇妙な心持ちになっていた。

 なんの事情があるのか知らないけれど、彼は全身全霊でこの試合に臨んでいる。

 一方僕は余裕を残して魔法も使っていない。これは、彼に対して少しばかり失礼なのでは。

 言葉にすると、そんな気分というか気持ちになった僕は、気づくと自分の切り札を切っていた。


 『……告げる(ディーコ)


 詠唱に気づいたケヴィン選手が10m程の間合いを一瞬で詰める。

 先ほどと同じく隙の無い斬撃が繰り返し繰り出されるが、僕は詠唱を続けながらそれらを槍で捌く。

 訓練の成果で、最近はこうして戦いながら詠唱できるようになってきたのだ。

 そして数秒後、魔法が発動した。


 『雷化(アッシミア・フルグル)!』


 帯電、発光し始めた僕に、ケヴィン選手が警戒して距離を取ろうとする。

 しかしそれは悪手だ。

 槍を振るうに十分な間合いを確保した僕は、無防備に突き出された彼の剣に槍の穂先を振り下ろした。


 ギィンッ!


 僕の動きを追いきれなかったのだろう、切り飛ばされた剣に気付きケヴィン選手が驚愕の表情を見せる。

 しかしその闘志は揺るがず、すぐに残った盾でシールドバッシュを放ってきた。

 僕はほんの少し後ろに飛んで間合いを外すと、今度は渾身の力で槍を突き込んだ。

 

 「やぁっ!!」

 

 ガキュンッ!

 

 槍は、ケヴィン選手が咄嗟にかざした盾を貫通し、その喉元に迫り障壁を強打した。

 一瞬の間のあと、彼の頭上にあった蹄のアイコンが全て消失した。


 『……ケヴィン選手、蹄を全損しました! 決勝戦の勝者は、タツヒト選手です!』


 「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


 アナウンスと同時に、試合場を取り囲む観客席から割れんばかりの大歓声が上がった。

 僕は呆然とするケヴィン選手の盾から槍を引き抜き、強化魔法を解除する。

 そして開始線に戻ろうと彼に背を向けた。


 「……待ってくれ」


 しかし、ケヴィン選手に声をかけられ、また彼の方に向き直った。

 彼は僕の方にゆっくりと歩み寄り、手を差し出してきた。

 少し身構えてしまったけど、彼はまるで憑き物を落としたかのような表情をしている。僕はすぐにその手を握った。


 「強いな、君は…… それに、気を使わせてしまったようだ」


 彼は疲れたような微笑を浮かべながらそう言った。


 「いえ…… あなたも強かったです。最初、凄まじい気迫に気押されてしまいました」


 「そうかい。自分も、必死だったからね。 --君ならば、あるいは……」


 「……え?」


 彼は僕の手を離すと、そのまま背中を見せて試合場の出口に歩いて行ってしまった。どういう意味だろう?

 追いかけて意図を聞こうか迷ったところで、試合場に上がって来ていた審判の人にマイク型の魔導具を突きつけられてしまった。


 『両選手、素晴らしい試合と騎士道精神を見せてくださいました! 見事優勝したタツヒト選手、一言頂けますか?』

 

 『は、はい。えっと、まず女王陛下におかれましては--』






 試合後、領主様達と合流した僕は、全員からよくやったとお褒めの言葉を頂いた。

 どこに居られたのか分からなかったけど、貴賓席から見てくれていたようだ。

 女王陛下も甚く感心されていたそうで、僕のことを色々と聞かれたらしい。なんかちょっと恥ずかしいな。


 そして昼食後、御前試合の女子の部が始まった。女子の部も八人のトーナメント戦で、三回勝てば優勝だ。

 朝のお返しにヴァイオレット様をハグして、「ご武運を」と送り出した。

 嬉しいことにやる気を漲らせた彼女は、多少苦戦しながらも初戦に勝利した。

 しかし、次の準決勝、彼女は英雄と対峙することになった。


 「そんな、あのヴァイオレット様が……」


 「まぁ順当なところだろう。あの子は確かに非凡な才を持っている。しかし、上には上がいる」


 貴賓席から見える試合場の光景が信じられない僕に、隣に座る領主様が冷静に返した。

 ヴァイオレット様の対戦相手は、有力選手と目されていた陽光近衛騎士団中隊長、馬人族のイヴェット選手だった。

 青鏡級であることの証明、青い放射光を纏った彼女は、ヴァイオレット様の戦車砲のような突きの悉くを捌ききっていた。

 その逆にイヴェット選手の操る巨大なハルバートは、凄まじい音と衝撃波を放ちながらヴァイオレット様を打ち据えた。

 ヴァイオレット様も、渾身の一撃で相手の蹄を一つ落とすことに成功したけど、圧倒的な力の差の前に蹄を全損してしまった。


 そして決勝戦、青鏡級の騎士と魔導士との戦い、これはもう凄いという感想しか出てこなかった。

 イヴェット選手の対戦相手は、宮廷魔導士団小隊長、同じく馬人族のドリアーヌ選手だ。

 彼女は極まった風魔導士で、試合場全体を衝撃波とかまいたちが荒れ狂う地獄に変えていた。

 そんな二人の試合は、まさに人の形をした災害同士のぶつかり合いだった。

 試合場の周りには、僕の決勝戦の時の三倍くらいの数の魔法使いが居て、必死に障壁を維持している様だった。

 結果は僅差でイヴェット選手の優勝だったけど、試合場という環境でなければ結果は違っていたようにも思える。

 ……何というか、今日一日で世界の広さを知ったような気持ちだ。

 

 御前試合が終わり、僕らの元に帰ってきたヴァイオレット様は、意外に落ち込んでいる様子はなかった。

 三位入賞を祝福する僕らに、ありがとうと笑顔で答えていた。

 青鏡級のイヴェット選手の蹄を一つ落とせたことで、ご自身の確かな成長を感じることができたみたいだ。

 さて、御前試合の次は授賞式と晩餐会か…… 忙しい一日だ。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
おいおいケヴィンくん、一人だけ満足気に意味深な発言だけして帰るのはやめてもらっていいですか笑 なんか思わぬ戦いに発展しそう。
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