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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
4章 領軍魔導士団

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第066話 パンが売れなければお菓子を売ればいいじゃない


 手甲を作ってもらった日から数日が過ぎ、また安息日がやってきた。

 今日は村に帰省しない日なので、先週村長から預かった手紙を僕の義理のお兄さんの所に届けに行く予定だ。

 なんと彼は、内壁街に店を構えるパン屋さんに婿に行ったらしい。ちょっと行くのが楽しみ。

 なんか最近、宿舎に併設された食堂のパンの味が落ちた気がするんだよね。


 魔導士団の屯所を出て内壁街に向かいながら、昨日の騎士団との合同任務を思い出す。

 昨日は杖の代わりになる手甲、魔導手甲を装備して、ローブの下に鎧を着込み、槍を持って参加した。

 しかし、魔物を間引く昨日の任務では槍を使う機会は訪れなかった。

 ちょっと考えればわかる話なのだけれども、魔導士団と騎士団とでは役割分担がはっきりしている。

 よっぽど追い込まれない限り、魔導士団の人間が騎士や兵士に混じって槍を振るう必要などないのだ。

 まあ備えあれば憂い無しというし、間引きや討伐の際にはこのスタイルで参加することにしよう。


 考え事をしながら歩くと暫し、目的とするポーラのパン屋に着いた。

 内壁街だけあって立派な店構えだけど、パンが焼ける匂いもお客さんがいる様子もない。

 訝しがりながら店のドアを開けると、中にいた線の細い若い男性が少し驚いた様子で僕を見た。


 「あれ、休業の看板出してなかったかな。ごめんね、今日はやってないんだよ」


 困ったようにそう言う男性の顔立ちは、村長の旦那さん、クレールさんに似て上品な感じだ。

 けれど髪型が茶髪のオールバックなせいか、どことなく村長の面影もある。

 多分この人が僕の義理の兄のボリスさんだろうけど、少し疲れた表情をしているのが気になるな。


 「いえ、今日は人に会いにきておりまして、あなたがボリスさんですか?」


 「え、僕がボリスだけど……」


 「そうですか。初めましてボリス兄さん、僕はタツヒトといいます。あなたの弟です」


 そう言った瞬間、ボリス兄さんはピシリと固まった。

 そして数秒の後、焦ったように問いただしてきた。


 「え、弟? どういうこと? リゼットとクロエから弟の話なんて聞いてないけど…… ま、まさか父さんの隠し子かい!?」


 あ、まずい。ちょっとしたおふざけのつもりだったけど、話が拗れそうだ。


 「いえ、違います。突然すみません、ボドワン村長から手紙を預かっておりまして、まずはこちらを読んで頂けませんか?」


 僕は混乱するボリス兄さんに村長の手紙を差し出した。





 

 「なるほどねぇ、そんなことが…… イネスさんという冒険者の人から村が無事だってことは教えてもらったけど、まさか僕の義理の弟が頑張ってくれたおかげだったとは。故郷を守ってくれて、本当にありがとう」


 村長の手紙を読み、僕の説明を聞いたボリスさんは落ち着きを取り戻してそう言った。


 「いえいえ、もう僕にとっても故郷ですから。村長にお返事などを書く場合は言ってください。僕はちょこちょこ村に帰っているので、その時にでも手紙を持っていきます」


 「本当かい? 助かるよ」


 よし。これで用事は済んだな。あとはちょっと気になるのが……


 「あの、お会いしてすぐにこんなことを聞くのは憚られるのですが、何か困ったことはありませんか? なんだか疲れたご様子なので」


 僕がそう尋ねると、ボリスさんはぎくりと言うような表情をした。


 「い、いや、大丈夫さ。そうだ、父さんへの手紙は書いておくから、後で君のところに--」


 「ボリス、誰か来たのか?」


 ぶっきらぼうにボリスさんの言葉を遮り、お店の奥から大柄な馬人族の人が現れた。


 「あら、可愛らしいお嬢さん。浮気かしらボリス?」


 今度はその後ろから只人の若い女性が現れた。こっちはすごく気さくそうな人だけど、不穏なことを言うのはやめて欲しい。

 拗れる前に挨拶しておこう。


 「はじめまして、魔導士団第五分隊所属のタツヒトと申します。本日は義理の兄であるボリスさんに挨拶に伺いました。ちなみに僕は男です」


 「……そうか。俺はポーラ、そいつの旦那だ。ゆっくりしていけ」


 「あ、あらごめんなさい。私はルネ、同じくボリスの旦那でーす。よろしくね。すごいわねボリス、あなたの弟さん、領軍でしかも魔法使いなのね」


 「い、いや、僕も今知ったんだよ。ははは……」


 なるほど、彼女たちがボリス兄さんの旦那さんたちか。夫婦仲は円満なようでよかった。でも、やっぱり気になる。

 三人とも疲れた顔をしているし、店内もいくつか内装が外された様子でがらんとしている。


 「--あの、ボリスさん。もしかしたら先ほどの話の続きになってしまうかもなのですが、このお店、引き払ってしまうんですか?」

 

 そう言った瞬間、三人ともぎくりとした顔で僕の方をみた。夫婦って似るんだな、やっぱり。

 長い沈黙の後、ボリスさんが搾りだすように話しはじめた。


 「--ああ。そうなんだ。父さんにもどうせ伝えなきゃと思っていたから、今話してしまうことにするよ」


 ボリスさんによると、このポーラのパン屋は内壁街でも評判の美味しいパン屋だったらしい。

 しかしこの間の大狂溢(だいきょういつ)によって、領内の秋蒔きの小麦畑に大きな被害が出てしまった。

 春の収穫高への懸念から小麦の値段は大幅に上がりし、買い占めなども生じることで入手すらままならなくなってしまった。

 仕入れのルートが弱かったこの店は、苦境に立たされてしまったのだという。

 まだ入手しやすい大麦やえん麦を使ったパンを作っては見たものの、内壁街では小麦を使った上質な白いパンが好まれる。

 売り上げが立たずどんどん悪化していく状況に、今の店を売って外壁街で再出発しようということになったそうだ。

 僕も宿舎のパンの品質低下や街の物価上昇は感じてたけど、思ったより深刻な状況みたいだ。

 

 「なるほど…… それは大変な時にお邪魔してしまいましたね」


 「いや、いいんだ。でも、僕も旦那たちもこの店には愛着があってね。手放すと決めはしたものの、正直に言って辛いよ……」


 「ボリス……」


 「でもしょうがないわよ。このままじゃ本当に首が回らなくなっちゃうもの……」


 ボリスさんが店内を見回しながら悲しそうに言うと、旦那さん達が気遣わしげに答えた。

 うーん。今日会ったばかりだけど、この人の良さそうな義理のお兄さん夫妻を助けたいなぁ。彼らが悲しむと村長一家も悲しむだろうし。

 でも一時的に僕がお金を貸したとして、これから状況は悪化していくだけだろうからなぁ。

 小麦は入手しずらくて、他の雑穀パンだと売れない……

 お店のパンを焼く設備を活用して、雑穀を使った何か売れそうなものを作れないだろうか。

 あ。なんだ、ちょうどいいのがあるじゃん。しかも僕にとってもメリットがあるやつ。


 「あの、ボリスさん。ちょっと受け入れ難いかもしれませんが、このお店を手放さずに済む方法があるかもしれません。話だけでも聞いていただけませんか?」


 「え、本当かい!? この店を手放さずに済むなら、なんだってするよ!」


 「わかりました。 --では、パン屋さんを辞めて頂きます」


 「……へ?」






 僕がボリスさん夫妻に提案したのは、僕が今一人で作っているナッツ類を糖蜜で固めて焼いたもの、堅果(けんか)焼きを作って欲しいと言うものだった。

 堅果焼きの材料は、胡桃などのナッツ、ドライフルーツ、えん麦、はちみつ、バターなどで、小麦を使わず、パン屋さんでも入手しやすいものばかりだ。

 しかも、今挙げた材料の多くは農村では防壁内で育てるものらしく、価格もそこまで高騰してない。

 加えて僕にはコネがあるので、材料の入手についてはカミソリの販売をしてくれてる商会に相談できるし。

 さらに、うちのロメーヌ隊長をはじめとして領軍内には堅果焼きのファンがいるので、領軍で定期購入することも可能だ。

 そして初期投資分のお金は僕が出資すればいい。完璧じゃないか、これ。


 最初は難色を示していた夫妻だったけど、背に腹は変えられないと最後には折れてくれた。

 特にポーラさんは職人の意地があったのかかなり渋っていたけど、一緒に堅果焼きを作ってもらったら意見が変わったみたいだった。

 あれって作るのに意外とノウハウがいるし、材料や配合次第でたくさんバリエーションを出せるから、気に入ってくれたのかも。


 一週間ほどで様々な調整と準備を終え、ポーラのパン屋は、ポーラの堅果焼き屋としてリニューアルオープンした。

 オープンから数日後、お昼過ぎにこっそり様子を見に行ったらなかなかの客入りだった。

 どうやら内壁街の人々には、ちょっと珍しいお菓子として受け入れてもらえたみたいだ。

 まだ固定客がついてくれるかはわからないけど、領軍からの定期発注もあるし、心配しなくてもいいだろう。

 なんたってポーラさんは腕がいいしね。

 

 よし、これで村長一家とボリス兄さんの一家が悲しまずに済んだし、僕も本業を圧迫してまでの堅果焼き作りから解放された。

 ひとまず、めでたしめでたしだな。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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