表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/479

第065話 ここで装備していくかい?


 楽しかった安息日の翌日、今日は当然いつも通りお仕事の日だ。

 昨日は多分一日で100km以上走ったので、正直体の方は全く安息していない。

 流石にしんど過ぎたので、村に帰省するのは二週間に一度とすることにした。

 月一でもいいのではという意見もあったのだけれど、エマちゃんにまた泣かれてしまったのと、エマちゃんに会いたいヴァイオレット様によって却下された。


 隊のみんなと支給品の杖を使った午前の訓練を行い、昼食の後、午後の比較的自由な時間が始まった。

 僕はその時間を、魔導士団に入ってから生じた大きな問題の解決に充てることにした。

 タツヒト氏、せっかくの万能型を活かせていない問題である。


 討伐系の仕事では、石弾(ラピス・ブレッド)なんかの僕の属性でない汎用性の高い魔法を使うため、支給品の杖が必須だ。

 でも当然のことながら、支給品の杖を持つと槍を満足に使えないんだよね。

 僕の槍の使い方の根っこは杖術なので、長ものを二本持った状態なんて想定してないし、長ものなので片方背中とかに挿しておくのも邪魔だ。

 自室の机に座って少し考えてみたけど、良い案が浮かばなかった。ここは頼りになる先輩に頼ってみよう。

 僕はすぐに隣のジャン先輩の部屋に行った。ノックすると、「おー」という気の抜けた返事が返って来たので扉を開けた。


 ジャン先輩は行儀悪く机に足を乗せてパイプを吹かし、本を読んでいた。

 いつもの高そうなパイプは今は質屋のはずだから、あれは予備の安いパイプだな。


 「お邪魔しますジャン先輩。今いいですか-- って勤務中に何読んでるんですか」


 近づいてみると、本には裸の亜人のお姉さんの挿絵があった。


 「あん? 午後は座学の時間だ。俺はちゃんと勉強してんだろ? 女体のな」


 こっちを見もせず返事をするジャン先輩。


 「魔法関係ないじゃないですか……  それ、後で貸してください。 --じゃなくて、ちょっと相談があるんですよ」


 僕はジャン先輩に、先ほど考えていた魔法と槍を両立させる方法について相談してみた。


 「ほーん。そういやお前さん身体強化も使えるんだったな。便利なこって」


 「はい。でも今はそれを活かせていない状況でして、何か僕みたいな奴の前例とかってないでしょうか?」


 ちょっと考えてくれる気になったのか、ジャン先輩は本を閉じ、腕組みをしながら天井を見上げた。

 

 「そうだなぁ…… あ、この国の紫宝級冒険者が確かお前さんと同じだったはずだ。あー思い出してきた。

 そいつはばかでけぇ剣を使うんだが、それが筒陣(とうじん)を仕込めるっていう特別製だって話だ」


 おぉ、すごく参考になりそうな話だ。そういえば冒険者のイネスさんも同じこと言ってたな。


 「その情報めちゃくちゃ助かります。でも、筒陣(とうじん)てまぁまぁ大きいじゃないですか。どうやって剣に仕込んでるんですか?」


 筒陣(とうじん)は直径2cm、長さ20cmくらいなのでまぁまぁ嵩張るし、通常三つほど杖に仕込む。

 魔導士団支給の杖は中が中空になってて筒陣(とうじん)を装填できるけど、剣で同じことをやったら強度が落ちそうだ。


 「そこまでは知らねぇが、そいつの剣は身の丈ほどもあるらしいぜ。仕込む場所なんていくらでもあんだろ」


 み、身の丈ですか…… 僕が使うようなシンプルな形の槍だと真似できない方法だなぁ。中空構造にしたら折れちゃいそうだし。

 でもなるほど、杖は杖の形をしていなくてもいいのか。

 筒陣(とうじん)を仕込めて、魔法を制御しやすい腕付近に装備できて、槍の操作を邪魔しない…… あ、そうか。


 「ジャン先輩、ありがとうございます。いい方法を思いつきました」


 「お、そうか。そいつはよかった。よし、じゃあ出ていきな。見ての通り俺は忙しいんだ」


 ジャン先輩は本を開きながら、シッシッと僕を部屋から追い出した。

 尊敬していいのか悪いのか、線引きの難しい先輩だな……






 自室へと戻った僕は、先ほど得られたヒントをもとに簡単なスケッチを描き、今度はロメール隊長の元を訪ねた。

 この方法で上手くいきそうか、できるとして加工を頼めそうなところはあるかを相談したかったのだ。

 結果として、上手くいきそうということで工房も紹介して貰えたのだけれど、去り際にナッツを糖蜜で固めた非常食の補充を催促された。

 結構渡したのにもう食べちゃったのか。本格的に外注先を探さないと……


 教えてもらった工房は内壁街にあるので一応門番によるチェックがあるのだけれど、最近よく出入りしているのと魔道士団の制服のおかげでスムーズに通過することができた。

 綺麗で広い通りを進むことしばし、目的とする工房、ギルベルタの鍛冶屋が見えてきた。

 三階建てのかなり立派な店構えで、金属を打つカン、カンという音が外まで響いている。

 僕は扉にすら立派な彫刻がなされていることに驚きつつ、店の中に入った。


 「こんにちはー」


 挨拶しながら入ると、中には見覚えのある人物がいた。


 「む、タツヒトか。奇遇であるな」


 ヴァイオレット様の副官のグレミヨン様だ。

 今日も肩にちっちゃいジープ乗せてんのかいと言いたくなるような見事なバルクだ。


 「グレミヨン様、こんにちは。武器の整備ですか」


 「うむ。先日の間引きの際に少し無茶をしてしまってな。まだまだ修行が足りん」


 そう呟くグレミヨン様の大きな体の陰から、小柄な人物がひょっこりと顔を出した。

 こ、この人は…… ドワーフだ!

 背丈は140cm程、尖った耳に褐色の肌、そして肉感的な体つきをしている。目はぱっちりと大きく顔立ちも子供のようだ。

 オレンジ色の髪の毛を大きな三つ編みにしていてすごく幼い印象になるはずなのに、鋭い眼光と老獪な雰囲気が見た目通りの年齢でないことを予想させた。


 「グレミヨンの嬢ちゃん、知り合いかい?」


 「ええ、ギルベルタ殿。紹介しましょう、最近魔道士団に入ったタツヒトです。なんと万能型で、槍も魔法も使えます。タツヒト、こちらはギルベルタ殿で、このギルベルタの鍛冶屋の店主でもある。見ての通り鉱精族で、私よりはるかに年上なので失礼の無いように」

 

 おぉ、やっぱり長命種なんだ。すげー。声は幼いのに何か重みを感じる響きがある。

 僕は自然と最敬礼で挨拶した。


 「タツヒトです。よろしくお願いします」


 「ほーん。初対面でアタシに礼儀を尽くそうってのは、なかなか見どころがあるじゃないか。ギルベルタだよ、よろしくね。それで、ウチの店に何かようかい?」


 「はい。実は魔道士団のロメール分隊長から紹介を受けまして、こういったものの製造を受けて頂くことって可能でしょうか?」


 僕はロメール隊長に書いてもらった紹介状と、装備のスケッチを渡した。

 ギルベルタさんはざっと書類に目を通し、にんまりと顔を歪めた。


 「へー、面白そうな仕事だねぇ。確かに、万能型の人間にはこういった装備が必要だろう。最近同じような仕事ばかりで退屈してたんだ。引き受けてやろうじゃないか」


 「よかった、ありがとうございます!」


 「むう。退屈な仕事で申し訳ないが、私の槍も頼みますぞ、ギルベルタ殿」


 グレミヨン副長がちょっと不満げだ。


 「わかってるよ。そうだな…… 二人とも三日後の同じ時間に来な。そん時までに仕上げといてやる」


 「え。み、三日ですか?」


 「なんだい、流石に他の仕事もあるからこれ以上早くは上がらないよ」


 「い、いえ。随分早く仕上げてくれると驚いてしまったんです。三日後で全く問題ないです」


 初めて作るものだろうに、すごいなドワーフ、じゃなくて鉱精族。


 「よし、決まりだ! おっと、そうだな、前金でこんだけ、引き渡し時にこんだけ頂くけど、構わないかい?」


 おっと、やはり結構お高い。総額で僕が持ってる緑鉱の槍の三倍くらいか。

 でも手持ちで足りそうだ。商人ギルドの口座からお金をおろしておいてよかった。


 「はい、ではこちらをどうぞ」


 「ふぅん。この金額をポンと出せるなんて、魔導士団って給料いいんだね」


 「えっと、実はまだ初任給は頂いていないんです。最近、領の御用商会から新しいカミソリが出たと思うんですが、実はあれは僕が領主様に持ち込んだものでして、利益の一部を還元して頂いてるんです」


 そう。まだ魔導士団に入って二週間も経ってないんだよね。まじでカミソリ開発しておいてよかった。


 「ほう! あれはお前さんが考えたのかい。いいねぇ。この仕事が終わったら一杯付き合いな。面白い話ができそうだ」


 「はい、是非!」






 三日後の同じ時間、僕とグレミヨン様は二人揃ってギルベルタさんのお店に来ていた。


 「やぁお嬢さん達、できてるよ」


 「ふむ…… いつも通り良い仕上がりです。ギルベルタ殿」


 グレミヨン様が槍を受け取ってうっとりと眺めている。 


 「タツヒトのはこっちだ、ここで装備していくかい?」

 

 ギルベルタさんはそう言って、僕の前に布に包まれたひと抱えほどの荷物を置いた。

 RPGで定番のセリフを聞けてなんか感動だ。


 「もちろんです!」


 僕は包みを開けて中を確認した。

 中に入っていたのは、手甲と小型の盾を合体させたようなものだ。材質は豪華に緑鋼製で、刃が流れてこないように盾の縁が盛り上がっている。

 そして盾の裏部分には筒陣(とうじん)を挿入できるスロットが三つ空いている。

 そう、今回依頼したのは支給品の杖の代わりになる手甲だ。これだったら、魔法を使いながら槍も使えるはず。

 僕は早速持ってきていた筒陣(とうじん)を装填し、手甲を左腕の前腕に装着した。


 「……うん。全く動きが阻害されませんし、重心バランスもちょうどいいです。ありがとうございます、すごくいい感じです!」


 「あぁ、そうだろうとも! どうだい、中庭に開けた場所があるからちょっと使って見せておくれよ」


 「いいんですか? 是非お願いします」


 中庭に移動した僕は、壊せるもんなら壊してもいいと言われた硬木製の太い杭に暴虐の限りを尽くした。

 石弾(ラピス・ブレッド)を打ちながら距離を詰め、中距離で雷魔法を打ち込み、間合いをつめて燃え始めた杭を槍で細切れにした。

 そして最後に、水の防壁を生み出す水壁(アクア・ムールス)で消火することも忘れない。

 うん。想像していた戦法を全く不足なく実現することができるぞ。……これは大成功だ!


 「魔法の発動も動きやすさも全く問題ないですね…… さすがですギルベルタさん、完璧な仕事ですよ!」


 僕はギルベルタさん達の方を振り返り、いい笑顔でそういった。

 が、そこにはドン引きしている二人がいた。


 「いや、壊してもいいって言ったけど、お前さんそれはやりすぎだよ……」


 「タツヒトよ、お前は加減というもの知るべきだな」


 --すみません、つい楽しくなってやり過ぎてしまいました。弁償します……


お読み頂きありがとうございました。

気に入って頂けましたら是非「ブックマーク」をお願い致します!

また、画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けますと大変励みになりますm(_ _)m

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ