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第063話 騎士団との合同任務(2)


 「ふぃー…… あったまりますねぇ」


 「そうだなー。寒くて面倒な冬の野営で唯一いいのは、茶がやたらとうめぇことだよな」


 「このお茶が美味しいことには同意します」


 遠くの山の稜線から太陽が顔を出しきった頃、野営地はにわかに目を覚まし始めた。

 雪が降って無いとはいえ、冬に野営すると寒さが堪える。

 寒すぎてちょっと早めに目が覚めてしまった僕は、後番で起きていたジャン先輩からお茶をもらって暖まっていた。確かにやたらとうめぇです。

 同じく後番だったオレリア副長も一緒に焚き火を囲んでいる。

 ふと見ると火の勢いが随分弱まっていたので、薪を追加し小さい炎を生み出して着火する。

 こういう時に火属性で良かったと本当に思う。


 「さて、下っ端の俺たちはそろそろ朝飯作るかー」


 「そうしましょう」


 支援分隊の人たちと一緒に朝食を用意すると、女性隊員用のテントからもそもそとロメール隊長が起き出してきた。


 「ふぁ、みんなおはよう。ボリボリ」


 「おはようございます隊長。って何を食べてるんですか、これから朝食ですよ」


 ロメール隊長が齧っているのは、僕が非常食用にと作ったナッツとかを糖蜜で固めたやつだ。

 入団面接の時に差し上げたら気に入ってしまったようで、以来分隊長命令で量産して献上している。もちろん材料経費は降りる。 

 ただ、本来なら魔法の訓練などに使う時間を使って僕一人で作ってる状況なので、誰かいい人がいたら製造を委託したいところだ。


 「あ、そっか。朝食用意してくれるんだった。起きたらお腹空いてて、手元にあったから寝ぼけて食べちゃった。ごめんごめん」


 「まったく、髪もボサボサじゃないですか。整えるのでこちらに来てください」


 「えぇ〜、いいよそのくらい」


 「ダメです。さぁ、ここに座って下さい」


 オレリア副長がロメール分隊長を無理やり座らせて髪を整え始める。

 なんか見ていて暖かい気持ちになる光景だけど、副長の方が年下のはずなのに、しっかり者のお母さんとだらしない娘って感じだ。

 あ、他の隊員の人たち、支援部隊の人達までもが二人の様子を微笑ましそうに見守っている。

 なるほど、いつものことなのね。

 

 その後、案の定お腹がいっぱいで朝食を食べられなかったロメール様は、お母さん、じゃなくてオレリア副長に小言を言われていた。

 そして朝食を終えた僕らは、野営場所を引き払って間引きポイントへと向かった。





 

 間引きポイントに向かう途中、防壁も家屋も破壊された村を見つけた。

 あまり長い時間観察することはできなかったけど、そこの村人らしき人達が壁や家を治している様子も見て取れた。


 「防壁が持たなかったんですね……  あそこまで破壊されると復興には時間がかかりますね」


 「あぁ。だがあそこは村人の避難が間に合っただけまだマシだ。今回の大狂溢(だいきょういつ)は予想より早く始まったからなぁ。大森林近くのいくつかの村は全滅してしまったところもあるらしいぜ…… そういや、お前んとこも大森林に近かったよな? 大丈夫だったんか?」


 「全滅、そうですか…… 僕がいた村は、えっと、なんとか無事でした。色々と幸運が重なりまして」


 「そうか、そいつは良かったな。神に感謝ってやつだな」


 「ええ、本当にそうですね」


 本当はヴァイオレット様のおかけで助かったのだけれど、謹慎を受けられたというし、ちょっと濁しておくことにした。

 でも自分で言ったことだけど、全滅するような村がある中で助かったのは本当に幸運だったと思う。

 神様とやらのことは信じてないけどね。


 それからまたしばらく馬車で移動して間引きポイントについた。

 そこは街道近くにスポット的に存在する森で、大狂溢(だいきょういつ)で大森林から溢れてきた魔物の幾らかがそのまま住み着いてしまっているらしい。

 森から一定距離を取って騎士団が整列し、僕達魔導士団は騎士団の前に展開した。


 「ではロメール卿、いつも通りに」


 「あぁ、了解だよヴァイオレット卿。魔導士団分隊、魔素放出開始」


 指揮官同士の短いやり取りの後、ロメール様が僕らに指示を出した。

 隊員のみんなが森に向かって杖を構えると、魔法を使う際に術者に見られる発光現象が始まった。

 しかし、いつまで経っても魔法が発射されることはない。これは、森に向かって魔素のみを放出しているらしい。

 らしいというは、僕はまだ練習中でうまくできないので、ジャン先輩の近くで見学しているからだ。


 魔物が何に最も引き寄せられるのか、それは音でも匂いでもなく魔素だ。

 彼らが人類に積極的に襲いかかるのは、豊富な魔素を保有しているからというのが定説らしい。

 こうして森のそばで魔素を放出すると、それに釣られた魔物等が釣り出されてくるという寸法だ。


 しばらくすると、森の方からガサガサと音がし始めた。

 するとロメール様が杖をおろして魔道士団の面子に指示する。


 「誘引成功。各自、魔素放出を停止の上、遠距離攻撃魔法準備!」


 普段の様子とは打って変わって凛々しく声を張るロメール様。戦ってる時はかっこいいんだよなぁ。


 「弓隊、攻撃準備!」


 次いでヴァイオレット様も指示を飛ばす。

 彼女達の指示の数秒後、森の暗がりから数十匹の魔物が滲み出してきた。


 「「ギィィィィッ!!」」

 「「ゴガァァァァ!!」」


 虫系と獣系の魔物が半々、知能より本能が強そうなタイプの奴らだ。

 

 「魔導士団分隊、射程に入り次第攻撃開始!」

 

 「弓隊、攻撃開始!」


 指揮官二人の指示の後、すぐに魔導士団分隊の後方から風切音を伴いながら矢が飛ぶ。

 矢は弧を描いて僕らを飛び越え、魔物達の元へ殺到する。

 負けてられないな。僕は魔物の群れが自分の射程距離に入った瞬間に魔法を放った。


 『石弾!(ラピス・ブレッド)


 汎用性抜群の長距離攻撃魔法は、うなりをあげて魔物の群れに突き刺さった。遠間から断末魔の悲鳴が聞こえた。

 周りの同僚達も攻撃を開始し、僕もひたすら石弾(ラピス・ブレッド)を撃ち続ける。

 魔物達は数を減らしながらも僕らに近づいており、距離は15mほどまで縮まった。


 「遠距離攻撃止め! 中距離攻撃魔法用意……放て!」


 『雷よ!(フルグル)


 ロメール隊長の指示を受け、僕は薙ぎ払うように雷撃の魔法を放った。


 ババババァンッ!!


 僕の前に迫っていた魔物の一団が、声もなく倒れ伏す。

 生き残った魔物は半分以下になっていた。


 「魔導士団分隊撤退! ヴァイオレット卿、あとは頼む!」


 「了解! 騎士団突貫準備……突貫!」


 「「オォォォッ!!」」


 僕らが後ろに下がると同時に、ヴァイオレット様率いる騎士団が魔物達に突貫した。

 平原ははっきり言って馬人族の独壇場だ。その突進を止めらる存在はまず居ない。

 

 「ギュィィィッ……!」


 「ゴギャッ!」

 

 雄叫びを上げて突撃する騎兵が魔物達を蹴散らし、走り抜けたあとに群れの背後から攻撃を加える。

 そして少し遅れて只人の兵士が魔物に接敵することで、見事な挟撃の陣形が完成した。

 そこからは早かった。最初数十体いた魔物達は、ものの数分程で擦り潰されてしまった。


 何度かポイントを変えて同じことを繰り返して本日の間引きは終了となった。

 今回は比較的本能が強い魔物を対象としたけど、次回は隊を分けて森に入り、慎重かつ知能が高めの魔物を狩るらしい。

 毎週こんな感じに間引いていても魔物は湧き続けるというから、本当に恐ろしいよね。


 今は魔物の死骸から有用な素材を剥ぎ取り、残りは処分して、負傷者の手当てをしているところだ。

 魔導士団は主に死骸や肉片などを埋めたり、焼いたり、洗い流したり、吹き飛ばしたりと、属性ごと方法で処分をしている。

 街道沿いなのでそのまま放っておくわけにはいかないのだ。

 あ、今まで気づかなかったけど従軍聖職者のセリア助祭がいらっしゃる。

 挨拶したいところだけど、治療に忙しいようだし止めておくか。


 虫系の魔物は卵を持ってるかもということで、ジャン先輩と一緒にひたすらそいつらの死骸を焼き続けた。

 魔力切れでちょっとだるくなってきた頃、やっと一通り処分が終わった。


 「やーっと終わったなぁ。今日は数が多かったから疲れたぜ」


 「そうですね。騎士団や亜人の人達には申し訳ないですけど、馬車で帰れるのめちゃくちゃありがたいです」

  

 「タツヒト殿、ジャン殿、ご苦労様、よくやってくれた」


 声に驚いて振り向くと、やはりヴァイオレット様だった。

 間引きの仕事程度では準備運動にすらならないのか、全く疲れた様子はなく鎧にも汚れひとつ無い。


 「ヴァイオレット様! お疲れ様です」


 「お、お疲れ様です!」


 おぉ、あの適当なジャン先輩がピッシリと敬礼を決めている。


 「うむ。やはり火属性が二人いると頼もしいな。タツヒト殿は初めての合同任務だったが、どう感じただろうか?」


 「はい。まだ着いていくのがやっとという感じですが、やっていけそうです。ただ、杖を持つと槍を持てなくなるので、何か良い方法が無いか考えております」


 「そうか、それは良かった。槍と魔法の両立も、君のことだからすぐに良い方法を思いつくだろう。っと、そうだ。槍を振るいたければ、我々の屯所を訪ねてくれても構わない。訓練相手には事欠かないだろう」


 「ありがとうございます! 実際助かります。肉弾戦の感覚が鈍ってしまいそうで不安だったんです。ロメール隊長にも相談してみます」


 「うむ。それではな…… 明日が楽しみだ」


 「……はい!」


 去り際、微笑む彼女に小声で耳打ちされ、僕も小声で返事しながらその背中を見送る。

 なんか、いいなぁ。職場に好きな人がいるのってすごい楽しい。

 あ、ジャン先輩がこっちみながらニヤニヤしてる。


 さておき、明日はいよいよ安息日だ。先ほどの耳打ちの通り、ヴァイオレット様とは一緒にベラーキ村に行こうと約束している。

 みんなと会えるが楽しみだけど、エマちゃん、寂しくて泣いたりしていないといいな。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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