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第059話 ヴァロンソル家の家庭事情(1)


 翌日、僕は昨日と同じように起き、ジャン先輩とちょっと遅めの朝食を食べていた。


 「ジャン先輩…… 昨日は楽しかったですね!」


 「あぁ、そうだな! だがあれはまだ本当の夜の領都の入り口に過ぎねぇ……! まだまだお楽しみはこれからだぜ?」


 「あ、あれ以上があるんですか……?」


 昨日ジャン先輩が連れて行ってくれたのは、いわゆる綺麗なお姉さんのいるお店だった。

 話に聞くガールズバーみたいな感じで、とても際どい格好をしたお姉さん達とおしゃべりしながらお酒を飲んだりできるのだ。もちろん僕は今回はノンアルだったけど。

 ただお姉さん達のノリとしては、これも話に聞くホストのお兄さん的な感じで、こちらを庇護対象として優しく扱ってくれる感じだった。

 大抵の亜人の人は只人の男より強いから、そりゃそうなるんだろうけど。


 「ところでタツヒトよぉ。お前さん、もしかして亜人が好きなんか?」


 ぎくーっ!!

 ば、ばかな……! この世界に来て数ヶ月、誰にもバレなかった僕の性癖をいとも簡単に…!?

 まだ入隊二日目なんですけど……


 「え、いや、そんなことないですよ……?」


 「本当かぁ? お前さん、只人の姉ちゃんが席に来た時には平然としてたのに、亜人の姉ちゃんがきた時だけ目ぇ伏せて顔真っ赤にしてたじゃねぇか。まぁ、バレたくねぇってんだったら黙っておくけどよ」


 「……よろしくお願いします」

 

 いや、だってみんなほぼほぼ裸に近い格好してたし、その状態で密着してきてくれるし……

 今まで会ってきた亜人の皆さんはみんな淑女的だったんだなぁ。

 ……違うか。お店だからそんなふうに接してくれてたんだよな。やばいぞ、沼にハマりそう。


 「おう、任せな! 人の好みなんざそれぞれだ、気にすんなよ。まぁ結婚する時にゃぁ難儀するだろうが、今考えても仕方ねぇだろ」


 ジャン先輩……!

 ちょっと泣きそうなほど感動していたら、オレリア副長が小走りで近寄ってきた。


 「タツヒト君、騎士団のヴァイオレット中隊長がお越しです。君と話があるそうで応接室にお通ししました。今からついてきてもらえますか?」


 「え、ヴァイオレット様が? はい、すぐ行きます」

 

 「よろしくお願いします。ところでタツヒト君、聞こえてしまったのですが、昨日はジャンと随分楽しんだようですね…… まぁそれは良いです。では着いてきてください」


 踵を返してずんずん進んでいくオレリア副長に、思わずジャン先輩と顔を見合わせてしまった。

 どうやら入隊二日目にして、オレリア副長の評価はマイナスからスタートしたらしい…… とほほ。






 「おはようタツヒト。すまないな、朝から押しかけてしまって。座ってくれ」


 応接室に着いた僕らを、ヴァイオレット様はすまなそうに出迎えてくれた。

 応接室の椅子に座る姿になんだかいつもの覇気が感じられない気がする…… 何か困りごとの相談だろうか。

 僕はヴァイオレット様の正面の椅子に座りながら挨拶を返した。


 「おはようございます。ヴァイオレット様でしたらいつでも大歓迎ですよ」


 「ふふっ、そう言ってもらえるとありがたいな。オレリア殿、取次ありがとう。あとは二人で話させて貰えるだろうか」


 僕とヴァイオレット様とのやり取りを見守っていたオレリア副長は、少し驚いた様子で答えた。


 「は、はい。承知しました。それでは」


 オレリア副長が応接室を出て行くのを見送ったヴァイオレット様が、言いずらそうに切り出した。


 「今日来たのは、その、ヴァロンソル侯爵、つまりは私の母から君に面会の要請があってだな……」


 「え、侯爵様にですか?」


 え、どうしよう。もうご両親に挨拶させて貰えるということだろうか。


 「うむ。君はすでにこの領の民だし、領軍の所属でもあるので、立場上この要請を断ることはできない。すまないが、受け入れてもらいたい」


 「えっと、はい。それは全く異存ないのですが、魔導士団の下っ端の僕が何故というのが疑問なのと、その、ヴァイオレット様がすごく言いづらそうにしているのが気になります」


 僕は昨日入隊したばかりで功績も失態も何もないはずだし、あったとしてもなぜわざわざ領のトップが会いたがるんだろう。

 

 「前者に関しては、魔道士団の立場よりも発明家として君に会いたいようだ。君が開発した新しいカミソリと髭剃り液は、今や我が領の特産品と言っても過言ではない。領内の富裕層はもちろん、領外にまで輸出され引き合いも多いという。実際、君の口座にも相応の額が振り込まれているだろう?」


 あ、そっちか。確かに、領都の商人ギルドの口座にはびっくりするような額が振り込まれ続けている。

 うまく流行ったんだなー、よかったー。くらいにしか考えてなかったけど、結構大事になってたみたいだ。


 「なるほど、承知しました。それで、後者については……?」


 「あー、うむ。実は、私はあまり実家の人間とは反りが合わないのだ。君にこんなことを言うのは気恥ずかしいのだが、ちょっと会うのが憂鬱なのだよ……」


 ちょっと目を伏せながらこちらの反応を伺うヴァイオレット様。なんか可愛いな。

 思わずちょっと笑ってしまった。


 「む、笑うことはないだろう。この取次も他の人間に任せることもできたのに、苦手を押して来たのだぞ?」


 腕組みをしてソッポを向いてしまった。まずい、機嫌を損ねてしまった。


 「すみません。ヴァイオレット様が弱点というか、弱いところを見せてくれたのが嬉しくて、貶したりするつもりは全く無かったんです」


 「そ、そうか。それならまぁ、許そう」


 よかった、一瞬で機嫌を直してくれた。


 「それで、お母様には今から会いに行けばいいんでしょうか?」


 「うむ。可能であればそうして貰えると助かる」


 「わかりました。では、隊の人間に許可をとって来ますので、少々お待ちください」


 僕は応接室を出ると、オレリア副長を探して走った。






 オレリア副長に許可をもらい、僕はヴァイオレット様と一緒に領都の中心部、領主の館に来た。

 領都は二重の城壁を持っていて、領主の館は当然内壁の中にある。入るのは初めてだったけど、街を行く人達の格好やお店なんかも上品な感じがする。

 で、館だけど、見た目は完全なお城だ。華美な感じはしないけど、巨大な魔物にぶっ叩かれてもびくともしなさそうな頼もしさがある。

 館の門をヴァイオレット様の顔パスで通り、侍女長だという妙齢の馬人族のお姉さんに連れられて館の中を歩くことしばし。立派な扉の前についた。

 侍女長さんが扉を叩いて中に声をかける。


 「失礼します。ヴァイオレット様とタツヒト殿をお連れしました」


 「……入りたまえ」

 

 扉の中はおそらく執務室だった。広い室内空間を贅沢に使っている作りだけど、装飾品は最低限で内装は質実剛健といった印象だ。

 そして奥の机にはヴァイオレット様にとてもよく似た妙齢の馬人族の人が座っていた。

 同じく濃い紫色の長髪に、細身ながら鍛え上げられた肉体をしている。

 どこか冷たい表情をしているせいで、顔の作りも当然似ているのにヴァイオレット様と全く違う印象を感じる。


 「そこの椅子に座って少し待っていてくれたまえ。先にこの書類を終わらせてしまう」


 冷淡な響きのある声に従い、僕とヴァイオレット様は応接用の椅子に座った。

 侯爵様ってかなり偉い人だけど、本当に座ってて良いんだろうか?

 カリカリとペンを走らせる音が響く中、侍女長さんがお茶を入れてくれた。

 なんとなく雰囲気に飲まれてしまい、無言で待つことしばし。


 「--よし、待たせてしまったな」


 そう言って領主様は執務机から僕らの正面の椅子に座り直した。

 彼女は挨拶しようと口を開いた僕を手で制し、僕を見て、それからヴァイオレット様を見た。


 「さてヴァイオレット、彼が君の男か」


 そして爆弾を投下した。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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