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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
4章 領軍魔導士団

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第058話 明るく楽しい職場

 

 目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。

 が、思考がはっきりしてくると、自分が昨日魔導士団に入り、ここが宿舎の一室であることを思い出した。

 四人部屋とかを覚悟していたけど、魔法使いは優遇されているようで一人部屋だ。

 ベッドを出て着替えを行い、顔を洗うために備え付けの水差しから金タライに水を移す。


 「冷てっ」


 水に手を浸すと、冬の朝の寒さでキンキンに冷えていた。

 ……魔力の無駄遣いだけどあっためちゃおう。

 金タライに弱い出力で雷魔法を使って熱すると、十数秒くらいでいい温度のお湯が出来上がった。

 僕はそれで顔を洗い、髪を整えると部屋を出た。


 「あー、昨日は楽しかったなぁ」


 密会みたいなシチュエーションも相まって、僕もヴァイオレット様もいつもよりテンションが高めだった。

 彼女おすすめのお店で美味しい夕食を食べながら、結構遅くまでおしゃべりしてしまった。

 エマちゃんの寂しそうな様子を伝えたら、次の休暇には絶対村に行くぞと固く決意していた。

 ヴァイオレット様の方でも、隊のみなさんと生誕祭と大晦日を楽しんだらしい。

 ただ、この世界の生誕祭ではご家族と過ごすの一般的だ。

 昨日は聞かなかったけど、すぐ近くにいるはずのご家族の方と過ごさなかったのが少し不思議に思えた。


 考え事をしてたら通り過ぎそうになったけど、無事昨日教えてもらった食堂に着いた。まだ時間が早いせいか人がまばらだ。

 食堂のおじさんに声をかけて朝食をもらい、適当な席について一人でもそもそと食べる。

 パン、スープ、チーズの、この世界では極々一般的な朝食だ。

 思い出補正のせいか村長宅のものの方が美味しいように感じるけど、軍隊だけあって量はたっぷりある。

 そのまま食べ進めていると、だんだんと人が増えてきた。

 そしてその中の一人が僕の近くに座り、声をかけてくれた。

 

 「よう、アンタが噂の新入りか?」


 只人の若い男性で体格は中肉中背、髪型はゆるい茶髪のパーマだ。

 ぎらついた垂れ目が特徴で、失礼ながらなんだか狡賢そうな印象だ。


 「えっと、はい、多分そうです。初めまして、タツヒトと言います。昨日入団いたしました。よろしくお願いします」


 いじめられたりしたら嫌なので、なるべく丁寧に答えてみた。


 「お、おう。そんなに畏まらなくていいぜ。俺はジャン、お前さんが入る第五分隊の先輩様だ。分隊長にお前さんの面倒を見るように言われてる。よろしくな」


 差し出された手を握り返しながら答える。


 「あ、そうなんですね。お世話になります、ジャン先輩」


 「おう、任せな!」


 よかった。ジャン先輩、だいぶ気さくな方みたいだ。

 そのまま当たり障りのない話をしながら食事を終えた僕らは、次の予定のために外の訓練場に向かった。






 「タツヒト、お前さんは俺の後ろに並びな。多分、小隊長がみんなに紹介してくれるだろうから、呼ばれたらきびきび前に出ろよ」


 「はい。ちょっと緊張しますね……」


 「はっ。こんなところで緊張してどーすんだよ。適当でいいんだ適当で」


 次の予定は外の訓練場で点呼と朝礼だ。

 訓練場にはざっと50人くらいの人々が並んでいて、只人と馬人族が多いけど他の種族の人もちらほらいる。

 僕は一番端の列の一番後ろに並んでいて、まさに下っ端って感じだ。

 50人の集団の前には10人くらいが乗れそうな演壇が置いてあって、多分あそこに上官達がくるんだろうな。


 しばらく黙って待っていると、エクトル様と分隊長らしき5人が宿舎から出てきた。

 分隊長達はそれぞれ担当の列の前に付き、僕らの前には当然ロメール様が付いた。

 そして低血圧ぽい眠そうに喋る。


 「てんこー」


 すると列の前の人から「1!」「2!」と番号を叫び始めた。

 え、ちょっとジャン先輩、聞いてませんよ?

 戸惑う僕をよそに点呼は続き、ジャン先輩が「9!」と言ったのでとりあえず僕も番号を叫ぶ。


 「10!」


 「ん? あれ、なんで10人いるの? ……あぁ、そっかタツヒト君か。忘れてた。はい、点呼終了」


 ロメール様はとぼけたこと言った後、列から離れて演壇に登った。

 ジャン先輩がちょっと申し訳なさそうにこちらを振り返る。


 「わりぃ。点呼のこと忘れてたぜ」


 「いえいえ、なんとかなりましたから大丈夫です」


 ……まだ会って一時間も経ってないけど、ジャン先輩は気さくというか適当な人な気がしてきた。いや、親切な人には違いないのだろうけど。

 演壇に分隊長達が全員のぼり人数を報告すると、エクトル様が落ち着いたよく通る声で話し始めた。

 

 「はい、ご苦労様です。全員いますね。皆さん、おはようございます。本日の朝礼ですが、皆さんに新しい仲間を紹介します。タツヒト君、こちらに来て演壇に登ってください」


 「はい!」


 きびきび前に出ろと言われていたので、元気よく返事して小走りで演壇に登った。


 「こちらが新しく第五分隊に入ったタツヒト君です。彼はなんと万能型で、火属性ですが珍しい雷魔法を使うことができます。しかもすでに黄金級の位階にあります。

 ただ、まだ成人したての若い人材です。色々と不慣れでしょうから、気にかけてくださると嬉しいです。

 タツヒト君、一言いただけますか?」


 「はい! 初めまして、南東の開拓村、ベラーキから来ましたタツヒトと申します。最初はご迷惑をおかけすると思いますが、ご指導のほど、よろしくお願いいたします」


 壇上から目の前の集団に頭を下げると、ぱらぱらとまばらな拍手が聞こえた。


 「はい、ありがとう。列に戻ってくれていいですよ。他に連絡事項は…… 無いですね。 では本日も頑張っていきましょう」


 エクトル様が朝礼を終えた後、分隊毎の訓練が始まった。


 「さて、まずはみんなタツヒト君に自己紹介しようか。まずは副長のオレリアから」


 ロメーヌ様が促すと、彼女と同じ種族、山羊人族の人が僕に向き直った。

 この人とは何度か会っている。小柄なロメーヌ様より10cmほど背が高く、体つきは細い。

 白髪の短髪にクールな印象の顔つきをしているので、初対面だとちょっととっつきにくかったのかもしれない。

 でも、僕は彼女がロメーヌ様を甲斐しくお世話しているのを見ているので、あまり怖い印象は無かった。


 「はい、ロメーヌ分隊長。タツヒト君、何度か会ったことはあるけどちゃんと話すのは初めてね。

 私は副長のオレリア。分隊長と同郷で、属性も同じく地属性よ。分隊長が不在の時は私の指示に従ってね」


 「はい、承知しました。よろしくお願いします、オレリア副長」


 「えぇ、よろしく」


 サバサバと応対するオレリア副長に続き、隊のみんな自己紹介してくれた。

 その後、午前中は訓練場を軽く走った後、装備の整備、個人の魔法訓練や団体での訓練などを行なった。

 僕は初日で支給品の杖なども無かったので、ジャン先輩に教えてもらいながらほとんど見学していた。

 昼食後は普段は個人毎に魔法の研究や修行をするそうだけど、今は大狂溢(だいきょういつ)の直後だ。

 魔物の死骸を燃やす仕事があるとのことで、なんと同じく火属性だったジャン先輩といっしょに死骸を燃やして回った。

 森から遠い領都では薪に限りがあるので、こうして魔法使いが頑張るらしい。






 初めてのことだらけで長く感じた一日だったけど、やっと夕食の時間になった。

 どうやら食堂は分隊長以上の士官の人と、それ未満の隊員とで分かれているようだ。

 昨日は外の小洒落たレストランで食べたけど、今日は宿舎併設の食堂で分隊のみんなと夕食を食べることにした。


 「タツヒト君、魔導士団の初日はどうだった? 疲れたんじゃない?」


 オレリア副長が夕食の席で僕に話しかけてくれた。

 口調はそっけないけど、世話焼きのオーラが滲み出ている気がする。


 「いえ、今日は見学が主だったので、あまり疲れていません。明日からも頑張れそうです」


 「そう、それならよかった」


 「タツヒト、お前さんこの後は暇だろ?」

 

 隣でシチューを食べているジャン先輩が、ものすごく断定的にそう言った。


 「この後は…… お風呂でしたっけ。その後でしたら後は寝るだけなので、暇ですね」


 「よし。この俺が本当の領都の夜というものを教えてやる。感謝しろよ」


 ……なんかあんまりいい予感がしないな。


 「ジャン、あなたまさか、成人したての子をいかがわしい店に連れて行こうというんじゃ無いでしょうね?」


 「いえいえ副長、そんなまさか。普通のお店ですよ、普通の」


 「ふん、どうだか。あなたが普段どんなお店に行っているのか、私が知らないとでも?」


 「オレリア副長、せっかくのお誘いなので行ってみようと思います。ジャン先輩、ご指導、よろしくお願いします」


 「おぉ! そう来なくっちゃな」


 「はぁ、私は知りませんよ」


 だいぶ不安だけど、本当の領都の夜というワードにはちょっと惹かれてしまう。

 さて、どんなところに連れててくれるんだろう。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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