第057話 入団面接(2)
エクトル様が差し出してくれた手を握り返し、僕も挨拶を返す。
「初めまして、ベラーキ村から来ましたタツヒトと申します。今日はお時間を頂きありがとうございます」
僕の返答に、彼は少し驚いた様子で片眉を上げた。
「とても丁寧な言葉を使うのですね。いえ、全く悪い事ではなく、むしろ嬉しい事です。ただ、開拓村出身の人と聞いていたので、失礼ながら少し驚いてしまいましした」
「あぁ、それで。実は僕がベラーキに受け入れてもらったのはつい最近でして、それまではなんというか、とても遠いところに住んでいたんです」
「ふむ?」
エクトル様は、どういうことですか?と視線でロメーヌ様に尋ねた。
それに気づいた彼女が答える。
「ベラーキ村の近くに、転移魔法陣の古代遺跡が見つかったって話は以前しましたよね?
どうやらこのタツヒト君は、その魔法陣の暴走でとても遠いところ、本人の話を信じると異なる世界から来たらしいのですよ。
魔法陣の転移元を示す箇所がひび割れていたり、彼が現れる数日前に地揺れが起こっていたり、結構信憑性があると思いません?」
「なるほど、それは確かに…… 興味深いですね。それで推薦状に、『出身地が若干不透明なものの、その出自には一定の信頼が置けるため、他国の密偵や犯罪者ではないことを保証する』なんて不思議な一文があったんですね。
--おっと、立ったままでする話ではないですね。そこに掛けて下さい」
エクトル様に促され、僕は来客用と思われるソファに座った。
そして彼とロメーヌ様は、テーブルを挟んだ反対側に座った。
あ、そっか。なぜか一瞬不思議に思ってしまったけど、ロメーヌ様は一応試験官側だった。
「さて、面接と言っても、騎士団のヴァイオレット中隊長とグレミヨン副長、そしてうちのロメーヌ君という錚々たる面々が君を推薦しています。
よほどのことがなければ落としたりしません。形式的なものと思って、気楽に受けてくださいね。ではまず--」
エクトル様の人徳の成せる技なのか、さほど緊張せずに面接を終えることができた。
よく考えたら、僕って地球でバイトすらしたこと無いし、こっちに来てからもそういえば無職だったんだよね。
質問内容は定番の志望動機やら特技に加えて、多分人格や頭の回転の速さを判断するためのものもあった。
志望動機については、流石にヴァイオレット様目当てという点は伏せ、オラ強くなりてぇという点で押し切った。
聞かれたら一番不味そうな出身地については、ロメーヌ様の話に加え、スマホが決め手になり信用してもらえたみたいだった。
実は雷の魔法が使えるようになってから、しばらく充電が切れていた僕のスマホは復活を遂げていた。
村の鍛冶屋の親方にスマホの充電コネクタっぽい金具を作ってもらって、多分ここだろうという電極に極々弱い出力から電流を流す。
だいぶギャンブル性が強かったけど、奇跡的に充電が開始される極性と出力を見つけることができたのだ。
スマホそのものの機能や中に残っていた地球世界の写真には、面接官の二人はかなり興味深々だった。
古代遺跡から見つかるものの中に似たものはあるらしいので、写真が決め手だったようだ。
地球では魔法ではなく電気で文明が回っているという話は、かなり半信半疑だったみたいだけど。
「--さて、次は少し実地で実力を見せていただきましょう。こちらについてきて下さい」
そう言ってソファから立ち上がったエクトル様についていくと、外の訓練場のような場所に着いた。
整地された広めの場所の端に盛り土がしてあって、土の斜面には木製の丸い的が等間隔で並んでいる。
おそらく魔法の練習用の的なんだろうけど、弓道場みたいな作りだ。
「タツヒト君は万能型ということでしたが、魔導士団であるうちでは魔法に関する能力を重視します。
早速ですが、ここからあの的めがけて魔法を撃ってもらえますか?」
「わかりました。結構大きい音が鳴るのでご注意ください」
僕が立っているところから的までは、20m程の距離だ。
僕は右手をまっすぐ的に向けて伸ばし、最も得意とする魔法を撃った。
『雷よ!』
強化された視覚が、最初に手のひらから細いギザギザした雷が走り、的に到達した瞬間に太いまっすぐな雷が走るのを捕らえた。
次いで視界が光に染められ、空気を揺るがす音が響いた。
バァンッ!
視力が回復した時、的は真っ二つに割れ、断面から煙をあげていた。よし、成功。
「……ほう! 推薦状に書いてありましたが、これはすごい。他の具象魔法とは比べものにならない速度ですね。
対抗できるのは抽象魔法の光線あたりでしょうか。雷の魔法を使う人間を見たのはこれで二度目ですが、ここまで正確に的に当てられる人は初めて見ました」
よし、面接官殿には好感触のようだ。
「おー、結構すごい威力だね。村で見せてもらったのが印象にあったから、驚いてしまったよ。これって、複数の的に同時に当てられたりするの?」
耳を押さえながら驚くロメーヌ様。そういえば彼女には宴会芸的な魔法しか披露してなかったな。
よし、リクエストにお応えしよう。
「えぇ、できますよ。こんな感じで」
僕は無事な的の三つに狙いを定め、再度魔法を撃った。
『雷よ!』
バァンッ!
僕の手から枝分かれした雷が、三つの的を同時に割った。
「ふむふむ。時差が全く無いね。文字通り同時に攻撃できるわけか…… 面白い」
「はい。継続的に放電して薙ぎ払ったりもできますが、撃ってる間は視界が効かなくなるのでちょっと使い所が難しいんですよね」
「なるほど、殲滅能力も非常に高そうです。放射光を見るにすでに黄金級相当の位階にいるようですし、非常に頼もしいですね…… おっと、的が燃え始めましたね」
エクトル様の言葉に的を見ると、確かに割れた断面から的が火を上げていた。
消火しないとと思って水場を探して視界を巡らせていると、彼がすっと的に向かって手を上げた。
ジュッ……
燃えている炭に水をかけたような音がした後、燃えていた四つの的の火が一斉に消えた。
え、どうやったんだ……?
エクトル様が驚いている僕に気づく。
「あぁ、私は水属性の魔導士でして、今のは魔法で消火したんですよ」
な、なるほど。
20m離れた4つの的、それらに全く同時かつ高精度に、消火に必要な最低限の水を発生させたと。
それって、めちゃくちゃ難易度高くありませんかね……?
僕の場合、最初に的の方に一個づつ正電荷を発生させてから雷を撃つことで、同時攻撃を実現している。
しかし、彼の魔法にはそのロックオンとも言える時間が全くなかった。
応用すれば、離れた複数の人の鼻と口をいきなり水で塞ぐなんて真似もできそうだ。
この方が人柄だけでなく、実力で今の地位にいることがはっきりと理解できた気がした。
実技試験も終え、僕は無事に合格して領軍魔導士団に入団することができた。
今日から上司となった二人とはそこで別れ、団の事務員の方と入団の手続きを行なった。
そして今度は宿舎に行き、宿舎の管理人の人から説明を受け、荷解きを終えるともう夕方になっていた。
今日はロメーヌ様の隊の人の多くが休暇や他の仕事で出払っているということで、歓迎会は後日ということだった。
食事は宿舎に併設された食堂でとることができるらしいけど、給料から天引きとのことだった。
食堂も気になるところだけど、今日は別に予定があった。
僕は同僚となった門番の人に挨拶して屯所を出た後、暗くなりつつある街中を歩き、騎士団の屯所の前まで移動した。
そして以前領軍から譲ってもらった、翻訳と短距離通信が可能な古代遺跡産の装具を耳にかけた。
そして定められた符牒で呼びかける。
『こちら魔導士団の黒、騎士団の紫へ、聞こえますか?』
待つことしばし、返答があった。
『……こちら騎士団の紫、聞こえている。では手筈通りに』
短いやり取りの後、僕は屯所から少し離れたところで相手をまった。
するとしばらくして、屯所から一人、馬人族らしき人影が出てきた。
僕が手を振ると、その人影は小走りで近寄ってきた。
「タツヒト! 三週間ぶりだろうか? 無事入団できたようでよかった」
駆け寄ってきたヴァイオレット様は、僕に嬉しそうにそういった。
「お久しぶりです、ヴァイオレット様。推薦者のおかげで無事入団できましたよ」
「ふふふっ、君の実力さ。さて、夕食はまだだろう? 私の行きつけでいいだろうか?」
「はい、行きましょう! 楽しみです」
僕は普段より距離が近めのヴァイオレット様にどぎまぎしつつ、夜の街に繰り出した。
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【日月火木金の19時以降に投稿予定】
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