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第054話 ヘッドハンティング


 村長との立ち合いからさらに一週間ほど経った。

 一年も終わりに差し掛かり、聖教の重要なイベントの一つである生誕祭が近づいてき日だった。

 領都から十数騎の集団が近づいてくると、見張りの冒険者の人が村のみんなに教えてくれた。

 僕はちょうど門の近くにいたので出迎えてみると、なんと先頭はヴァイオレット様だった。


 「ヴァイオレット様! お久しぶりです。騎士団の方は大丈夫だったんですか?」


 大狂溢(だいきょういつ)の折、彼女は持ち場を離れて僕らを助けに来るという、組織人としては結構まずいことをしていたのだ。

 もちろん、僕も含め村の人達からしたら感謝しかないのだけれど、彼女の上司がどう判断するかは別だった。

 彼女にはかれこれ二週間以上会ってなかったので、もう領都に様子を見に行こうかと思っていたところだった。


 「やぁタツヒト、元気そうで何よりだ。上司からはこってり絞られたよ。やっと謹慎が明けてこちらにこられたという訳だ」


 「そんな…… 僕らのせいで、すみません」


 「謝らないでくれ。前にも言ったが、私がしたくてしたことだ。それに、持ち場を離れたことと村を救ったこととで功罪がほぼ相殺された形だ。君が気に病むことはないさ」


 そう言って微笑むヴァイオレット様。相変わらず綺麗に笑う人だ。

 笑顔に見惚れていると、彼女の後ろから懐かしい二人が現れた。


 「私としては、隊長にはもう少し組織というものについて真剣に考えて頂きたいところですな」


 「結果として領都もこの村も無事だったんだから、いいんじゃない?」

 

 ヴァイオレット様の副官で筋肉原理主義の馬人族、グレミヨン様と、白い山羊人族の魔導士、ロメール様だ。


 「あ、お久しぶりです、グレミヨン様、ロメール様」


 「うむ。突然押しかけてしまってすまぬな、タツヒト。それにしてもまた腕を上げたようであるな、感心なことだ」


 「一ヶ月ぶりくらいだっけ? なんか魔法使えるようになったらしいね。万能型の人間は珍しいんだよ。色々と調べたいねぇ」


 とても二人らしい返答に思わず笑ってしまいそうになる。


 「それで、今日はどういったご用件で……」


 「タツヒト、ここじゃ何だし、村長の家にお通ししたらどうだ?」


 僕と一緒にヴァイオレット様達を出迎えた冒険者の人からツッコミが入った。

 

 「おっと、そうですね、すみません。みなさん、こちらへどうぞ」






 門から村長宅に移動した僕らは、今は村長と一緒にリビングのテーブルに着席している。

 ちなみに、他の部下の方達は広場で待機されている。

 そしていつものようにクレールさんがお茶を淹れてくれた後、ヴァイオレット様が切り出した。


 「さて、今日伺ったのは他でもない。タツヒト、君を領軍に勧誘に来たのだ」


 「へ!? ぼ、僕ですか?」


 「あぁ。先の戦いで見せた君の戦闘力、機転には目を見張るものがあった。その成長も著しい。

 やや素性が判然としない点があるが、人格や精神力についても全く問題がないことを私は知っている。

 どうやら君は自身を鍛えることに重きを置いているようだし、領軍はその点で魔物との戦闘に事欠かない。どうだろうか……?」


 「あ、あう。なんと言うか、過分な評価をありがとうございます。その、領軍に入った場合、僕はヴァイオレット様の部下ということになるのでしょうか?」


 めちゃくちゃ褒めてくれるのでなんだか顔が熱くなってきたのを感じながら質問してみた。

 確かに僕にとってメリットしかないけど、念の為確認しておこう。

 実は別の街の部隊に配属されますという話だったら泣いてしまう。


 「あー、そのことだが、実は騎士団は規律の面で男子禁制なのだ。したがって、今回は魔道士団への勧誘となる。

 魔道士団は常に人手不足なので、男女の定めがないのだ。君は魔法使いとしても優秀だ。私も自信を持って推薦できる」


 「え、そうだったんですね。思い返すと、今まで見た騎士団の方の中に男の人はいなかったですね……」


 確かに一緒に野営とかする上で男女が一緒だと何かと問題があるのかも。


 「うむ。領軍の騎士団と魔道士団と相互に補完する関係にある。タツヒトがこの提案を受け入れてくれた場合、私の中隊とよく一緒に任務にあたるロメール卿の小隊に入ってもらうことになる」


 「あ、そういえばそう言う話だったね」


 ヴァイオレット様の説明に、いつものようにとぼけたこというロメール様。

 なるほど、それだったら今まで以上にヴァイオレット様と会えるだろうし、魔物と戦って位階を上げる機会も多くなりそうだ。

 

 「ちなみに雷の魔法が使えるって話だけど、今見せてもらえたりする?」


 ロメール様が僕を見ていう。確かに、部下になるかもしれない奴の力は見ておきたいよね。


 「はい、もちろんです」


 僕はそう答え、両腕を前に掲げて手のひらを10cmほど離した姿勢をとった。

 そして右手で魔素が電子に、左手で魔素が正電荷を帯びたイオンに変換されることをイメージする。

 すると僕の体から黄色い放射光が溢れ、手のひらの間で放電現象が生じた。


 バチチチチッ!


 部屋の中に数秒ほど放電の光が明滅する。

 得意属性が判明してから色々と試していたので、こんな感じでパフォーマンス的に魔法を披露することもできるようになったのだ。

 酒場で酔っ払い達の前で披露すると結構盛り上がってくれる。


 「へぇー、すごい。初めて見た。疑ってた訳じゃないけど、本当に使えるんだね」


 「ほう。ロメール卿でも見たことがないほど、雷の魔法は珍しいと言うことか」


 ロメール様の言葉に、グレミヨン様が珍しく筋肉以外のことに興味を示した。


 「そうだね。存在は知ってたけど、私が学院に通ってた頃は使える人が居なかったし、使い手が少ないせいか雷の魔法の筒陣(とうじん)なんかも見たことが無いよ。

 これは楽しくなってきたね。うん、是非うちに欲しい人材だ」


 無表情でテンション高めに捲し立てるロメール様。

 よかった、とりあえず良い評価を得られたみたいだ。

 ……って、完全に思考が受ける方向に傾いている。

 いや、本当にメリットしかないことは頭ではわかってるんだけど、感情の面で村から離れ難い自分がいる。どうしよう……

 

 「うむ。ロメール卿も乗り気なようでよかった。それで、もちろん今日結論を出してもらう必要は無いのだが、タツヒト、前向きに考えてもらえると嬉しい」


 ヴァイオレット様の言葉に、咄嗟に返答できなくて詰まってしまう。


 「--あー、タツヒト。俺は受けたほうがいいんじゃねぇかと思うな。ちょっと前にも言ったが、おめぇはこの村で燻ってていい奴じゃねぇ。おめぇの目的に近づくためにもいい機会じゃねぇか」


 「えぇ。タツヒト君が頑張っていたのは私も知ってるわ。少し寂しくなるけど、私は応援するわ」


 黙ってしまった僕を、村長夫妻が後押ししてくれる。

 村長はこんな日が来るのを予想していたのかもしれない。

 ……そうだな。迷うことなんかない。僕の一番やりたいことをやるべきなんだ。


 「む。村長、タツヒトの目的とはなんだろうか?」


 あ、やばい。今はまだヴァイオレット様にバレたくないのに。


 「申し訳ございやせん、ヴァイオレット様。男同士の約束でして、これについては話すことができやせん」


 「むぅ、そうか」


 そんな約束はしたことがなかったけど、村長が気を利かせてうまく煙に巻いてくれた。

 た、助かる。さすが村長、年の功。


 「あの、ヴァイオレット様。このお話、是非受けさせてください」


 「……! 本当か! よかった、タツヒト、君と一緒に働けることを嬉しく思うぞ」


 満面の笑みで嬉しそうに話すヴァイオレット様。もうこの笑顔だけで十分受けた意味がある。


 「--さて、早速快諾をもらったので、今日の内に困難に挑んでおくとしようか」


 ヴァイオレット様が表情を決然としたものに変えて椅子から立ち上がった。


 「え、困難ですか?」


 「あぁ。もう一人、このことについて承諾を得るべき人物がいるだろう?」


 あ……






 案の定、エマちゃんには大泣きされてしまった。


 「うぐっ、ひっく、タツヒトお兄ちゃん、エマのこと置いてっちゃうの……?」


 ポロポロと大粒の涙を流しながら問いかけるエマちゃんに、思わず決意が揺らぎそうになる。

 エマちゃんを泣かすくらいなら領軍になんて行くべきじゃないよな。そんなことを考えてしまう。

 いや、いかんいかん。すごく心が痛むけど、さっき領軍に入ると決心したばかりだろうが。


 「ごめん、ごめんよエマちゃん。でも、僕は強くなる必要があるんだ。そして、そのためには領軍に入れてもらうのが一番なんだ。もちろんもう会えない訳じゃなくて、お休みの度に絶対遊びに来るよ」


 「本当? ひっく、ヴァイオレット様と二人で会いに来てくれる?」


 「あぁ、もちろんだとも。休暇の度にタツヒトは必ず連れてくる。必ずだ」


 ヴァイオレット様と二人、あわあわと小一時間懸命に説得した結果、エマちゃんは最後には納得してくれた。

 この世界に来てだいぶ強くなったつもりだったけど、やっぱりエマちゃんには敵わないよ。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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