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第005話 成長


 探索を再開した僕は、その後も2度ゴブリンと遭遇した。

 一度に遭遇するゴブリンは3匹以下だったので、角待ち殺法が有効だった。

 追いかけてくるゴブリンを、曲がり角で待ち構え、見えた瞬間に攻撃する。

 曲がった瞬間は敵の速度が一瞬ゼロになるので攻撃を当てやすいし、一対一の状況にもしやすい。

 この戦法のおかげで、楽勝とは行かないまでも、大きな怪我もせず勝てるようになっていった。

 あと、最初の戦闘以来、段々と体の調子が良くなってきている気もする。


 幸運なことに、ゴブリンから水筒を奪うこともできた。

 水筒は、動物の内臓か皮で作られていて、たぶん500mlくらい水が入っていた。

 もうちょっと水筒の入手が遅れていたら、我慢できずにポーションを飲んでいたかも。

 ポーションはまだ2/3程のこっているけど、飲んでも大丈夫かわからないし、単純にもったいない。

 ちなみに、水筒の表面には血の跡のような汚れがついていた。

 ゴブリンには作れそうにないので、人類的な誰かから強奪したんだろうな……


 魔法陣の部屋をでてから、3時間ほどが経っていた。

 ゴブリンには苦戦せず、水も手に入れ、出口に向かっている予感もある。

 そんな感じで結構気楽に歩いていたら、そいつらに遭遇した。





 珍しく長い直線の道を進んでいると、30mほど先に黒い影が現れた。

 相変わらず洞窟内は薄暗いので、影の正体は判然としない。

 またゴブリンか、そう思って荷物をおろしたところで気づいた。

 あれ、ゴブリンより小さくない?

 目を凝らしていると、影は数を増やしていき、4つほどになった。

 何かいつもと様子が違うぞと身構えたところで、大きな鳴き声がした。


 「「ヴォンッッッ!!」」


 え、犬の鳴き声?

 4つの影は僕のもとに猛然と近づいてきた。

 早い!?

 影は、2秒ほどで距離を半分ほどに詰めていた。

 ここで背を向けて走っても、多分お尻を齧られてしまう。

 いつもの曲がり角殺法が使えないっ……!


 一体でも数を減らそう。

 そう思って、とっさに短槍を肩に担ぎ、思いっきり投擲した。


 「やっ!!」


 棒状の物を投げるのは初めてだったので、まともに投げられるかわからなかった。

 意外に真っすぐとんだ槍は、狙った一体には避けられてしまった。

 しかし。


 「ギャンッッ!」


 槍はその後ろに居た一体に運よく命中した。

 燭台を加工して作ったせいで、穂先付近の装飾部分がいい感じの重りになってるみたいだ。

 残り3体。


 短槍はまだ一本ある。

 足元から短槍を拾い、構えた時には、もうその正体がはっきり見えるほど敵が近づいていた。

 やはり四ツ目狼だ。

 4×4で16個の目全てが、獲物を見る目で僕を睨みつけている。

 

 間合いに入った瞬間に、先頭を走る一体に短槍を付きこんだ。

 しかし、完璧なタイミングで突き出したはずの槍は空を切った。

 先頭の四ツ目狼は、すれすれで進路を変更して僕の横を走り抜けたのだ。


 うそでしょっ!?

 こいつら、もしかしてめちゃくちゃ目がいいのか?

 さすが4つもついてるだけある。

 いや、感心している場合じゃない。


 手を伸ばし切った体勢から、無理やり短槍を横に薙いだ。

 槍の穂先が一体の首を切り裂き、転倒させる。

 これで残り2体。

 でも、一連の動きで完全に体勢が崩れてしまった。


 槍を引きもどした瞬間、背中が急に重くなった。

 後ろに回り込んでいた狼が、僕の背中に飛び乗ったのだ。

 そしてそのまま、後ろから首筋に噛みつかれた。


 「ッガ……」


 すさまじいい力で噛まれ、思わず膝をついてしまった。

 喉笛と頸椎を挟み込むように、鋭い歯列が突き刺さる。

 激しい圧迫感と痛みが走り、耳元で狼の荒い息遣いが聞こえる。

 気道を圧迫され、呼吸もまともにできない。

 そこへ、ダメ押し残りの一体が走りこみ、槍を持った僕の右手首に噛みついた。

 右手首を噛みちぎらんばかりに引っ張られ、倒れてしまいそうになるのを何とか耐える。


 急所と攻撃手段を抑えられ、僕はパニックに陥った。

 しかし、ともかく開いてる左手を振り回していると、ポケットにナイフを入れていたことを思い出した。

 すぐさまナイフを取り出し、左手に持つ。

 そして、引っ張られる勢いにまかせて、右手に噛みついている狼の目にナイフを突きこんだ。


 「キャインッッ!」


 狼が脱力して右手が自由になった。

 そして僕は、首を噛んでる狼に向かって夢中でナイフを刺した。


 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!


 大体この辺が首だろうというところを、手探りで何度も刺した。

 何回かは自分の肩あたりを刺してしまった感覚があったけれど、首の痛みの方が激しかった。

 やがて首の圧迫感がなくなり、ナイフが折れてしまってからやっと手を止めることができた。


 「……ゼハッッッ!! ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」


 気道が広がり、貪るように呼吸を繰り返す。

 そうしていると、背中から脱力した狼がずるりと落ちた。

 周りを見回すと、もう動くものは無かった。





 「影が見えた瞬間に、曲がり角まで走って戻ればよかったよね。うん」


 先ほどの戦いを思い出し、反省点を考える。

 好奇心に負けて観察に集中してしまったし、もうゴブリンには安定して勝てるでしょと油断していた。

 これからも、見たことのない生き物が見たこともない動きをしてくるかもなので、対応を誤らないようにしよう。


 首と手首の傷は意外と酷くなく、やはりポーションで治すことができた。

 ポーションの残りは1/3くらいなので、次でお仕舞いかな。

 短槍も、一応整備してるけどぼろぼろになってきた。


 その後も運悪く四ツ目狼の群れに襲われた。

 前回より1匹少ない3匹の群れだったけど、今度はそれほど苦戦せず倒し切ることが出来た。

 --うん。これはもう気のせいじゃなさそうだ。


 力の強さ、動体視力、頑丈とかが、戦う度に向上してる。

 先ほどよりも四ツ目狼の動きが遅く感じられたし、投げた槍が狼の体に半ばまで刺さった時には少し笑ってしまった。

 異世界だから、魔物を倒したことでレベルアップしたのかな?

 こう、段階的に一気に上がるのではなく、じわじわと能力が向上している感じだ。


 四ツ目狼の死骸から離れて進んだところ、入口が狭く、休憩するのにちょうどよい広さの袋小路を見つけた。

 その瞬間、自分がとても疲れていることに気づいた。

 迷わず袋小路に入って腰をおろすと、一気に眠気が襲ってきた。

 革袋から水を飲んだら、さらに空腹感まで襲ってきた。わがままな体だ。


 あ、そういえば、猫用のマグロスティックがカバンに入っていたはず。

 カバンを開けてスティックを取り出し、成分表示を見る。

 うーん。ぱっと見た感じ、人が食べたらダメそうなものは入ってないような気がする……

 よし、食べてしまおう。


 お腹が減っていたのと意外に美味しかったのとで、カバンに入っていた3本を一瞬で食べてしまった。

 でも一食分としては少ないな……空腹感がより強くなった気がする。

 もうしばらく休憩しようと思い、僕は槍を抱いて目を閉じた。


お読み頂きありがとうございます。

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