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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
3章 森の異変

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第049話 異次元の戦い


 睨み合う緑色の大鬼と血に塗れた白銀の騎士の戦いは、前者から仕掛ける形で始まった。

 宙に浮く緑オーガーが手を軽く振った瞬間、目を開けていられないほどの突風が吹き付けられた。


 「うわっ!?」


 体ごと吹き飛ばされそうになり、地面に突き立てた槍にしがみ付く。

 

 ギャリンッ!


 突如響いた金属音に驚いて顔を上げると、緑オーガーがいつの間にヴァイオレット様に肉薄しており、紙一重でヴァイオレット様のランスを避けていた。

 よく見るとヴァイオレット様のランスには薄く爪痕のような傷があった。

 なるほど。僕が突風に顔を伏せている間に緑オーガーが間合いを詰めて爪の一撃を放ち、ヴァイオレット様はそれをランスで防ぐだけでなくカウンターを放っていたのか……!

 一瞬目を離した隙に攻防が有ったことに驚くまもなく、二人の間でさらに高次元の戦いが繰り広げられる。


 緑オーガーがまるで空中を泳ぐように、ランスをつたってヴァイオレットの間合いの内側へ入った。

 ヴァイオレット様は右手でランスを突ききった姿勢なので、今から引き戻しても間に合わない。

 しかし彼女は慌てず、空いている左腕を腰のブロードソードに伸ばし、逆手に抜剣する勢いのまま緑オーガーの顔面を切り上げようとする。

 だが、緑オーガーもそれをただ受けるようなことはしない。

 風の障壁を生み出して彼女の剣を逸らし、逆に彼女の首に向けて鋭い爪を伴った手刀を打ち込む。

 すると彼女は右手から一瞬ランスを手放し、至近距離のフックを放った。

 流石に意表をつかれたのか、フックは緑オーガーの顔面を捉えた。


 ガッ!


 しかし緑オーガーは殴られた勢いを利用してその場で回転し、足の爪による攻撃をヴァイオレット様の顔に叩き込む。

 彼女はやはり慌てずに顔を逸らしたため、その攻撃は頬を浅く切っただけだった。

 一連の攻防の終わりに緑オーガーが引いて間合いを取った。

 それと同時に、ヴァイオレット様は落下する前のランスを右手で掴み、左手のブロードソードを納刀した。


 「「ゴァァァァッ!」」


 二人が間合いを取ったのと同時に、オーガー側のギャラリーが野太い声援を上げる。

 一瞬にしていくつも残像を生む攻防を生み出した二人は、お互い油断ならない相手であることを再認識したようだった。

 今度はすぐに仕掛けずに間合いを測っているように見える。

 文字通りレベル、いや、位階が違いすぎる…… 一段階離れるだけでこれほど違うのか。

 ギリギリ何をやっているのかが目で追えるだけで、万全の状態であっても全くついていける気がしない。






 「タ、タツヒトくん」


 上から降ってきた声に振り返ると、魔力切れのせいだろう。死にそうな顔をしたイネスさんがそこにいた。


 「イネスさん! 大丈夫ですか!?」


 「ははは。それはこっちのセリフだよ。君もだけど、村長は無事かい?」


 「ええ。背中が動いているので、ちゃんと呼吸しています。気絶しているだけのようです。僕の方は左腕が動かなくて、古代遺跡産の治癒薬は使い切って、市販の治癒薬はもう使えないくらい疲弊してますね」


 「二人ともボロボロじゃないか…… でも、今の私よりは役に立つはずさ。これを貸そう」


 そう言ってイネスさんは、物見台から僕に向けて棒状の何かを放った。

 槍から手を離して降ってきた棒を掴むと、それはイネスさんの杖だった。

 魔法の練習中に使わせてもらったもので、魔力を込めて魔法名を発せれば僕でも『石弾(ラピス・ブレッド)』なんかを撃てる。


 「高いんだから丁重に扱ってくれよ? 私はもう魔力切れだ。ソフィ司祭の魔力は治療のために残しておいてもらいたいから、この場で魔法を撃てるのはもう君しかいない。君だけがヴァイオレット様の援護をできる。--頼んだよ」


 「--わかりました。ありがとうございます、お借りします」


 そう答えると、限界だったのかイネスさんも気を失ってしまった。

 パーティーメンバーに支えられて引っ込むイネスさんを見送り、緑オーガーとヴァイオレット様の方に視線を戻すと、こちらも状況が動きそうだった。

 


 

 


 『ゴギャァァァ!!』


 緑オーガーが両手をヴァイオレット様に向けて叫ぶと、ヴァイオレット様がその射線上から飛び退いた。

 すると、大きな風音と共に彼女のいた辺りの地面に幾つもの亀裂が生じた。

 奴め、接近戦では勝てないと悟って魔法戦に切り替えたな。


 「ふむ。付き合う義理は無いな」


 ヴァイオレット様は逆に距離を潰しにかかった。

 打ち出される不可視の風を避けながら、緑オーガーに肉薄する。


 「ッシ!」


 そして放たれたランスの一撃を、緑オーガーはまたもや風の障壁を生み出して受け流す。

 しかし。


 「オォォォォッ!」


 まるで剣山のような残像が見えるほど。

 ヴァイオレット様は凄まじい速度で繰り返し突きを放ち、だんだんと緑オーガーが障壁を生み出す速度を上回り始めた。

 そして。


 ザグッ!


 ランスが緑オーガーの左の二の腕を捉えた。


 『グ、グギャ!』


 バァン!


 瞬間、奴は至近距離で爆風のような風を発生させ、無理やりヴァイオレット様と距離を取った。

 よし、同じ緑鋼級だけど、明らかにヴァイオレット様の方が押してる。

 そう思った矢先だった。


 「ゴギャ、グゴギャギャ!」


 間合いを取った緑オーガーが叫ぶと、観戦していた他のオーガー達がヴァイオレット様に一斉に襲い掛かり始めた。

 そして緑オーガー自身も、最初のように接近して攻撃し始めた。

 くそっ! そうだ、これは試合なんかじゃない。


 「むっ……!」


 四方から加えられる攻撃に、流石のヴァイオレット様も捌ききれずにいる。

 緑オーガー以外の攻撃はほとんどダメージが通っていないようだけど、効かないのと戦いへの影響が無いのとは違う。

 どうしても意識が他のオーガーに削がれ、緑オーガーからも被弾してしまう。

 それにあれは……やっぱり。時々ヴァイオレット様の緑色の放射光が弱くなるタイミングが出来始めている。

 きてくれた段階でかなり連戦されてこられた様子だったし、身体強化を保てなくなるほど疲弊してきているということか。

 オーガー達はそんなことはお構い無しに攻撃を加えている。でも、ルール無用はこちらも同じことだ!


 『石弾!(ラピス・ブレッド)


 僕が放った石弾が、ヴァイオレット様を背後から攻撃しようとしてたオーガーの後頭部に直撃した。

 そいつは身悶えしている間にヴァイオレット様に気づかれ、あっという間に胸を貫かれた。


 「タツヒト、ありがとう! いつの間に魔法を覚えたんだ!?」


 「つい一昨日覚えました! 援護は任せて下さい!」


 「ああ頼む! 一つ勝負に出る!」


 彼女はそう言って緑オーガーから距離を取ると、左腕を前に突き出し、ランスを持つ右腕をまるで弓を引き絞るかのように思いっきり後ろに引いた。

 発される放射光も強まり、姿勢も低くしたその様子からは異様な緊張感が漂っている。

 オーガー達はお構いなしにヴァイオレット様に襲い掛かろうとするので、僕は可能な限りの速度で石弾をオーガーに打ち込む。

 

 『石弾!(ラピス・ブレッド)』 『石弾!(ラピス・ブレッド)


 石弾が顔面に命中したオーガー達が怯む中、緑オーガーはヴァイオレット様の様子を警戒しているようだった。

 後退りながら、正面に手を向けておそらく風の障壁を張っている。

 その直後。


 「……ぜあっっっ!!!」


 バァンッ!!


 地面が爆発したかのような踏み込み。ヴァイオレット様の体は超高速で射出され、周りのオーガーを吹き飛ばしながら一直線に緑オーガーに向かった。

 そしてランスが風の障壁に衝突した瞬間、抵抗により速度が緩み、緑オーガーがほくそ笑む。

 しかし、ヴァイオレット様が手首を思い切りひねってランスに回転を加えると、障壁を吹き飛ばしたのか抵抗が無くなった。

 ランスはそのまま奴の腹に突き刺さりそうだったけど、障壁で削がれたせいでその前に突進の勢いが無くなりそうだった。

 届かないか……! おそらく僕と同じく奴もそう思ったことだろう。

 しかし、穂先が腹に触れる前、まるでランスが延長されたかのように、奴の腹には深々と穴が穿たれた。


 ズシャッ……


 「ゴボッ、ゴギャァァァッ!?」


 予想外の重傷を喰らった緑オーガーが叫ぶ。

 同時に、ヴァイオレット様の放射光が弱まり、目に見えて脱力する。

 しかし、奴の心はまだ折れていなかった。

 魔法を使う時の構え、両の拳を付き合わせる姿勢を取りながら奴が叫ぶ。


 『ゴガァァァッ!!』


 「なにっ!?」


 瞬間。緑オーガーを中心にめちゃめちゃに風の刃が繰り出され、至近距離にいたヴァイオレット様に襲いかかった。


 ズシャシャッ!


 「ぐぅっ……!」


 ヴァイオレット様は血まみれになりながら風の力で吹き飛ばされ、僕の側の村の防壁に叩きつけられた。


 ズダァン!


 「ヴァイオレット様!」


 力が全く入らない足に鞭打ち、倒れ込むように彼女のそばへ近寄ると、緑色の放射光は完全に消えてしまっていた。

 口元に手をやるとわずかに呼吸は感じられるけど、体中の裂傷から血が止めど無く溢れ意識もない。まさに瀕死だった。

 まずい、すぐに治療しないと……!


 「ゴガァァァァ……」


 しかし奴がそれを見逃すはずはなかった。

 緑オーガーが腹の傷を押さえながら、しかし嗜虐心に満ちた表情でゆっくり近寄ってきた。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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