第048話 緑光
ボスらしき緑色のオーガーを筆頭に、灰色の肌をしたオーガーの群れが村の正門前に到着した。
よく見ると全員生傷だらけだけど、奴らは叫び声を上げるわけでもなく整然と森からここまで歩いてきた。
これまで押し寄せてきた魔物達と違って、ボスを筆頭に完全に統制が取れているところがめちゃくちゃ怖い。
襲ってもこずにこちらを観察しているオーガの群れを前にして、何だか間が持たなくなって村長に尋ねる。
「村長、襲ってきませんね…… オーガーって群れを作るものなんですか?」
「あんまり聞かねぇが、上位個体が同族をまとめ上げて群れを作るのはよくあることだ。あの緑野郎がそうだろう。今襲ってこねぇ理由はわからねぇが、俺は人類に友好的な魔物ってもんには会ったことはねぇ」
ですよねぇ。緑オーガーは、僕らよりも僕らの後ろの村の防壁を観察しているみたいだ。
あれ? 緑オーガーの近くに、これまた緑色した周りに比べたら少し小柄な奴がいた。
そいつはよく見るとホブゴブリンだった。なぜオーガーの群れに?
緑オーガーとホブゴブリンを交互に観察していると、緑オーガーが腕を前に上げた。
すると群れの雰囲気が一変した。
僕と村長が身構える中、緑オーガーがまるで指揮官のように叫んだ。
「ゴギャーー!」
「「ゴギャーー!」」
それを合図に、これまで整然と待機していたオーガー達が一気に襲いかかってきた。
「物見台の連中、援護頼んだぞ! タツヒト、離れるんじゃぁねぇぞ!」
「はい、村長!」
迫り来るオーガーの群れに、僕は村長と一緒に突撃した。
最初の一匹に接敵する直前、後ろの櫓からイネスさんの声がした。
『石弾!』
高速の石弾が顔面直撃した先頭のオーガーが思わず顔を抑える。
村長はその隙を見逃さず渾身の力でブロードソードの突きを放つ。
「ぬぅんっ!」
ズシュッ……
先頭のオーガーの心臓のあたりを村長のブロードソードが貫き、オーガーが崩れ落ち始める。
その横手から次のオーガーが迫り、村長に攻撃しようとするのを僕が止める。
「でりゃっ!」
比較的柔らかそうな首筋に突き立てた穂先は、狙い通り気道と太い血管を刺し貫き、オーガーの戦闘能力を奪った。
これでやっと二匹。
そして、うまくいったのはそこまでだった。
三匹目にきたオーガーの爪に村長は血を撒き散らしながら吹き飛ばされ、僕も四匹目のオーガに同じように弾き飛ばされた。
ザガンッ!
「ウグッ」
腹を鋭い爪で切り裂かれながら吹き飛ばされた僕は、転がりながらもすぐに根性で立ち上がり、腹のあたりを探った。
よかった。かなりざっくり切れてるけど、中身は溢れていない。
ポーチから取り出した治療薬で傷の手当をしていると、視界の端で村長が同じように治療薬で怪我を治しているのが見える。
あっという間に分断されてしまった。改めてオーガーの強さと状況の不味さを思い知り、背中を冷や汗が流れる。
当然傷が治ることを待ってくれる訳もなく、何匹かのオーガーが僕に追い縋ってきた。
しかし、大部分のオーガーは村の防壁をに取り付いて登ろうとしている。
壁を壊そうとしない。こいつら、もしかしてこの村を乗っ取ろうとしているのか……?
くそっ! 防壁を壊されてしまうよりはるかにマシだけど、壁の中に一匹でも入られたらお終いだ。
「物見台の連中、俺らに構うな! 中に一匹も入れるんじゃぁねぇ!」
村長も同じことに気づいたのか、物見台のイネスさんたちに指示を飛ばす。
『放炎!』
「「グギャァァァッ!?」」
物見台からイネスさんの火炎放射の魔法が放たれ、防壁を登ろうとしていたオーガー達が火だるまになって転がり落ちる。
さらにオーガーの顔のあたりに弓矢や投石を集中させることで、なんとかオーガー達を防いでいる。
これなら壁の方はしばらくは持ちそうだけど、問題は僕と村長だな。
「「ゴアァァァァァッ!」」
雄叫びをあげて僕に迫り来るオーガー達に、僕も自分を奮い立たせるように雄叫びをあげた。
「オォォォォッ!」
治癒薬が傷を治し切る前に襲い来るオーガーの攻撃を捌き、隙をついて喉笛を貫き、また爪で裂かれながら吹き飛ばされる。
とうに古代遺跡さんの治療薬は使い切り、市販の治療薬で騙し騙しやっていたところで、とうとう限界が来た。
「ぐぅっ……!」
身体中の裂傷による出血と、治療薬の使用による脱力感に思わず膝をつく。
爪の一撃を防いだ左腕は少し前から感覚がなく、くっついているのかもよくわからない状態だった。
無事な右手で槍に縋りついてオーガーの群れを睨むと、まだ20匹以上健在だった。
村長も似たような状態で、血だらけで動けないでいるようだった。
物見台の人たちも魔力や矢が尽きてしまったようで、もう石を降らせることくらいしかできていない。
もう無理かもしれない。諦めかけたその時、銃の三点バーストのような特徴的な蹄の音が聞こえてきた。
--ダララッ、ダララッ、ダララッ……
まさか、来てくれたのか……!?
希望を込めて領都側の街道を見ると、そこには凄まじい速度でこちらに向かってくる一つの騎影があった。
騎影は異常な速度でこちらに近づき、ついには僕の目の前に到達した。
ズダンッ!
「ハァ、ハァ…… すまない、遅くなった!」
息を切らし、白銀の鎧は自身と魔物の血で汚れ傷だらけの満身創痍。
それでも、僕には駆けつけてくれた彼女が女神のように美しく見えた。
「ヴァイオレット様……!」
「へへっ、少し、遅うございやすぜ……」
ヴァイオレット様が来てくれたことに安心したのか、村長はそのまま倒れてしまった。
わずかに背中が上下しているので、意識を失っただけのようだ。
「村長……!? 本当に遅くなってしまったようだな…… タツヒト、村長、そして村の皆、よく持たせてくれた。--あとは任せてくれ」
ヴァイオレット様の存在感が増し、その体から仄かに緑色の放射光が放たれ始めた。
彼女の登場に呆けていたオーガーの群れが、我に帰って襲いかかる。
「「ゴァァァァッ!」」
「ッシ!」
ドドドッ!
ほとんど同時に響いた三つの刺突音の後、群れの先頭にいたオーガー三体が腹に大穴を開けて絶命した。
多分位階が上がったおかげでほんの少し捉えることができたけど、視覚の上でもヴァイオレット様が一瞬三人に分身したように見えるほどだった。
オーガー達も、一瞬にして仲間が三体もやられたことで突進を躊躇してしまっている。
「--ガオンッ」
そこに、浮き足立つオーガーの群れを一喝する咆哮が響いた。
群れが割れ、他のオーガーよりやや細身の緑オーガーが進み出る。
「貴様が長だな……」
緑色の放射光を纏ったヴァイオレット様が、緑オーガーに向き直った。
すると、奴は自身の両拳を付き合わせて吠えた。
『ゴアッ』
……ビュォォォッ!
激しい風音と共に、奴の体は地面から1mほど浮上した。
風の魔法、それにあの光の色は……!?
緑オーガーの体からは、その体色と同じ緑色の放射光が発されていた。
やっぱり、ヴァイオレット様と同じ緑鋼級……!
「なるほど。相手にとって不足なしというわけか」
ヴァイオレット様は不適な笑みを浮かべてボスオーガーにランスの穂先を向けた。
風を操る大鬼と、白銀の騎士。
共に緑光を纏う二人の戦いが始まった。
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【日月火木金の19時以降に投稿予定】
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