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第479話 結婚式


 最後のダンスレッスンの翌日。めかし込んだ僕とフラーシュさんは、大聖堂の祭壇の前に二人で立っていた。


 僕らの背後には、広大な大聖堂を埋め尽くさんばかりの参列者が集まってくれていた。

 ラビシュ宰相を始めとした宮廷の重臣達に、ヴァイオレット様達お妃さん達、それからフラーシュさんの側近のエーミクさんなども見守ってくれている。

 他にも、王領の各地を治める代官などの有力者や、各地から駆けつけてくれた領主貴族の人達も参列してくれている。


 そして祭壇には、神託の御子としての実績とその実力により、異例の速さで司教となったロスニアさんが立っていた。

 彼女も、白を基調としたいつもより豪奢な服装に身を包んでいる。


「--慈悲深き創造神よ、そしてこの国の母たる始祖神レシュトゥよ。どうかこの聖なる婚姻に祝福を--」


 ロスニアさんの優しくも厳かな声が響く。そして祝詞(のりと)が終盤に差し掛かった所で、僕とフラーシュさんはお互いに手を取り合って向かい合った。


「--では、誓いの口付けを……」


 僕らに慈愛に満ちた眼差しを向けてくれるロスニアさん。その声に、フラーシュさんは暫く目を泳がせた後、真っ赤な顔で目を瞑ってしまった。

 この世界の常識だと、女の人の方からキスしてくれるのが普通なのだけど……

 僕はくすりと笑うと、少し背伸びしながら彼女に口付けした。


「んむぅ……!?」


 瞬間。フラーシュさんが上擦った声を上げ、割れんばかりの拍手が大聖堂を満たした。






「つ、疲れたぁ……」


 僕はへろへろな声と共に自室のベッドに突っ伏した。

 結婚式後の戴冠式も終え、さらに王都を一周するパレードを終えて城に戻る頃には、完全に日が暮れていた。

 魔法の灯りでライトアップされた王都は幻想的で、祝福の声と共に手を振ってくれる国民の皆さんの姿にはとても勇気づけられた。


 けれど全てが終わる頃には、僕とフラーシュさんは気疲れで疲労困憊の状態だった。

 なので、二人して言葉も少なく軽食を食べた後は、早々にまた明日とお別れしてしまった形だ。

 それから侍従の人たちに王様的衣装を剥ぎ取ってもらい、湯浴みを済ませようやく自室に帰って来たのが今である。


「明日は朝から臣従の儀式かぁ…… 一気に百人以上と会っても絶対に顔覚えらんないよ。シャムに付いていて貰おう……

 そんで夜は祝賀会。やっぱり今日はダンスの練習する暇なんてなかったなぁ。明日まで覚えてるといいけど……」


 僕はそんな事をぶつぶつと呟きつつも、眠気に襲われて徐々にうとうとし始めていた。そこへ。


 コンコンコン……


 控えめなノックの音が響いた。


「へ……? あっ…… はい……!」


 ドアの向こうの人に思い当たり一気に目が冴えた僕は、すぐにベッドを降りてドアを開けた。

 すると、そこにいたのはやはりフラーシュさんだった。微かに上気した顔に、やや緊張気味な笑みを浮かべている。

 ガウン姿な所を見ると、彼女も湯浴みを終えたばかりなのだろう。ふんわりと石鹸の香りも漂ってくる。


「こ、こんばんは、タツヒト氏…… えへへ。来ちゃった」


「ええ、こんばんはです、フラーシュさん。あれ……?」


 笑顔で彼女を寝室に招こうとした所で気づいた。フラーシュさんの後ろに、別の人影があったのだ。


「あー…… 邪魔するで、タツヒト」


「ふぅ、ふぅ…… タツヒト、ついに……!」


「お、おいアスル、ちょっと落ち着けよ。てめぇ鼻息荒すぎだぜ……?」


「エリネン、アスル、カリバルも…… えっと……?」


 ウサ耳をピンと立てて目を泳がすエリネン。頭の触腕をくねらせて目がガンギマリな感じになっているアスル。そしてアスルを嗜めながらも、上気した顔で僕をチラチラと見るカリバル。

 様子は三者三様におかしいのだけれど、全員フラーシュさんと同じようにガウン姿でお風呂上がりの良い匂いがする。

 状況がわからずにフラーシュさんの方を見ると、彼女はまたえへへと笑って頷いた。


「うん。みんなにも、付いて来てもらったんだ。と、とにかく中に入って良い……?」


「は、はい。どうぞ」


 全員を寝室に招き、僕はベッドに腰掛け、みんなには椅子を勧めたところ、全員迷いなくベッドの方に座ってしまった。僕の左隣にフラーシュさん、右隣にエリネン達三人が並ぶ形だ。あ、あれ……?

 僕が何かを口にする前に、フラーシュさんが口を開いた。


「あのね、タツヒト氏。昨日の舞踊の練習の時に言ってくれた言葉、あたしすごく嬉しかったんだ。

 沢山のあたし達の子供や子孫に囲まれた未来なら、あたしも寂しくないだろうって」


「はい、確かに言いましたけど…… あの、もしかしてそれで……?」


「うん。その、励むなら少しでも早いほうがいいかなって、この三人にも声を掛けたの。多分あたしに気を使ってくれて、まだ、だったんでしょ……?」


 彼女の言葉に、僕は王城に住むようになってからの数ヶ月を思い起こした。

 この寝室で寝るようになって以来、夜になるとお妃さん達の中から二人くらいが、毎晩寝室を訪ねてくれるようになったのだ。

 誰が訪ねてくるかは、淑女同盟なる組織の盟主であるヴァイオレット様と、王城の管理や運営を統括する宮内長官で決めているらしかった。

 そして訪ねてくる中には、結婚前であるフラーシュさんや、その、まだ一線を超えていないエリネン達は入っていなかったのだ。


「な、なるほど。確かに結婚を終えた今なら…… その、フラーシュさんや、三人が良ければ僕に異存は全くないのですが……」


 右側に座るエリネン達へ視線を向けると、彼女達はやはり三者三様に頷いてくれた。


「ウチも異存はあらへんで……! この大一番に怖気付いてもうたら、もう夜曲(やきょく)は名乗られへんわ!」


「私も大丈夫……! というか、もう、駄目と言われても止まれない……!」


「お、俺は一人だとちょっと怖ぇから、最初は姉貴達と一緒の方がありがてぇ…… 覚悟は、出来てるぜ……!」


 お、男前すぎる……! みんなの圧力に思わずのけぞると、それを支えるように背中から抱きしめられた。フラーシュさんだ。


「えへへ…… みんなも良いって。そ、それじゃあタツヒト氏。もう、いいよね……? きっと、大丈夫だよね? ヴァイオレット氏から、タツヒト氏は四人同時の実績もあるって聞いてるし……!」


 背後のフラーシュさんは、熱に浮かされたように話しながら僕を抱きしめる力を強めていく。

 行儀良く並んで座っていたエリネン達も、いつの間にかじりじりと距離を詰めて来ていた。

 --捕食される。そんな予感に背筋がぞくりとし、心臓の鼓動が早くなる。


「う、受けて立ちます……!」


 明日の儀式は無理かもしれない。頭の片隅でそう考えながら、僕はなんとかそう宣言した。


遅くなりましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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