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第477話 国王の一日(2)


 猛然と書類を片付けていると、いつの間にか時刻はお昼となった。

 朝はお妃さん達全員と食べたけど、昼はみんなそれぞれの職場で同僚と食べる感じだ。

 なので僕も執務室から食堂へ場所を移し、シャムとフラーシュさん、それからラビシュ宰相達城内の重臣と昼食を共にした。


 重臣達は最初の頃は緊張気味だったけど、最近では仕事だけじゃなく結構プライベートの話もしてくれるようになった。

 今日は、宰相がお子さんの反抗期に困っているという話を聞く事ができた。

 仕事一徹な彼女の意外な一面が見えて嬉しかった一方、その子のお歳が70歳とかだったので、僕はちょっと反応に困ってしまった……


「ふぅ…… シャム、今日の午後って何か予定入ってたっけ?」


 昼食を終えて一旦執務室に戻り、一息ついた後、僕は敏腕秘書さんに予定を尋ねた。

 午後は結構融通が効く。急ぎの仕事とかが無ければ、予定の合うお妃さん達と魔物の領域へ修行に行ったりしている。

 重臣達は辞めて欲しそうにしているけど、僕は腕っぷしが鈍ったら王様面できない立場なので、黙認してもらっているのだ。


「本日の午後は、港湾造成工事の視察の予定であります! そろそろ迎えに来るはずでありますよ」


 彼女の返答の直後、執務室のドアがノックされた。


「さすがシャム。時間ぴったりだね。 --入って良いぞ」


 ドアに向かって声を掛けると、数人の騎士が執務室に入ってきて敬礼した。


「失礼致します。陛下、シャム妃。視察のお迎えに上がりました」


「うむ。それじゃフラーシュさん。行ってきますね」


「あー、うん。行ってらっしゃい…… ね、ねぇ。あたしも付いてって良いかな……?」


 椅子を立った僕とシャムを、フラーシュさんが上目遣いで見る。

 人差し指同士くっつけたり離したりする所作も相まって非常に可愛らしい。思わず頷きそうになるけど、それを許さない人がいた。


「なりませんフラーシュ王妃。午後からは学習計画の遅れを取り戻して頂きます。でなければこのエーミク、亡き始祖神様に申し訳が立ちません」


 フラーシュさんの側近騎士兼教育係、エーミクさんが騎士達の後ろから現れ、厳然と言い放った。


「うっ…… わ、わかってるよぉ。はぁ……」


 しょぼくれてしまったフラーシュさんを残し、僕とシャムは王都アルベルティの東、お隣のイクスパテット王国に面した海に向かって馬車を走らせた。

 新たに整備された海への街道は凹み一つ無く、王都がかなり東寄りに位置していることもあり、一時間程で目的地に到着した。

 そしてシャムと一緒に馬車から降りた瞬間、僕は感嘆の声を上げていた。


「すっご…… まだ着工から一週間くらいなのに、もうこんなに進んでる」


 透明度の高い海に接した海岸では、多くの人々が声をかけ合いながら土木作業に精を出していた。

 妖精族(ようせいぞく)只人(ただびと)に混じって、地の民と呼ばれるナァズィ族の人々も居る。

 彼女達の力による所も大きいのだろう。方舟落下時には歩くのも大変な岩場だった海沿いの土地は、今や馬車で入っていける程に綺麗に整地され、その整地範囲は現在進行形で広がりつつあった。


「さすがナァズィ族であります! あ、タツヒト。あっちを見るであります」


 シャムが指す方を見ると、数人の馬人族(ばじんぞく)の集団がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

 護衛の騎士達が身構えそうになるのを制して彼女達を迎えると、やはりイクスパテット王国から招聘(しょうへい)した専門家達だった。


「ふぅ…… タツヒト王。ようこそお越し下さいました」


 先頭にいた初老の馬人族(ばじんぞく)の挨拶を皮切りに、技術者達が深々と頭を下げてくれた。

 初老の彼女には、アウロラ王国では初となる港湾造成工事の監督をお願いしている。


「うむ。工事は順調のようだな、監督。ヴィクトール女王は実に優秀な専門家を(よこ)してくれたようだ」


「は、お褒めに預かり光栄です。これで私達を派遣して下さった女王陛下への面目も立ちます。ですが、これは私達の力というより--」


海よ(マーレ)!』


 監督の声を遮り、海岸の方から聞き覚えのある声と強い魔法の気配が伝わってきた。

 見ると海岸の際に、こちらに背を向けながらアスルとプルーナさんが立っていた。

 そして彼女達の眼前、100m四方ほどの海面が、時を止められたかのようにぴたりと静止していた。

 その領域外の海は陽の光をキラキラと反射して穏やかに波を立てているので、違いがくっきりと分かる。さらに。


 ザザザザザッ……!


 四角く区切られた領域内の海水が見る間に排水されていき、あっという間に海底が露出した。

 現れたのは、海中に透明なガラス板を建てたかのような不思議な空間。あまりの光景に、海岸に集まった人達からも歓声が上がる。

 アスルの強力な水魔法によるものだろう。さすがは海神の加護を受けた水魔法の天才だ。


「ん。プルーナ、いいよ」


「うん、アスルちゃん。『地よ(テラ)!』」


 ズズズズズッ……!


 続いてプルーナさんが手をかざすと、アスルが作った空間を囲むように、陸側を開けた三方から壁が生え出した。

 そして壁の高さが海面を超えたあたりで、海から壁の上に飛び乗る影があった。カリバルだ。


「よー! 今、壁の周りに魔物は居ねぇ! 来たとしても俺らがぶっ殺すから、中入って作業始めて良いぜぇ!」


 カリバルのでかい声を合図に、海岸に集まった人々が壁に囲まれた場所へ入っていく。


 なるほど。港湾造成工事では、海底を深く掘り込む浚渫(しゅんせつ)作業が行われる。その作業で水深を確保することで、港に大きな船を接岸させる事が出来るようになるのだ。

 その作業には海水が邪魔なので、アスルがダイナミックに海水を退けて、プルーナさんがそこを壁で囲み、後は工夫の人達で壁内の海底を掘っていく流れなんだろう。

 流石にあの100m四方だけだと狭いけど、あれを何度も繰り返したら広大な港が出来上がりそうだ。

 その間、壁に近づく海の魔物はカリバル達が蹴散らしてくれるので安心という訳だ。


「なるほど…… 本当に順調のようだな」


「はい。その、お妃様方に工事の実務や警備をと言われた際には、正直どうしたものかと思ったのですが…… 順調すぎて私共の指示が追いつかない程でございます。

 この分でしたら、戴冠式には間に合いませんが、その一ヶ月後には船の受け入れを開始できるでしょう」


「ほぅ……! それは想定より随分早いな。結構な事だ」


 よしよし、港の方はすこぶる順調。これなら、結構早めにナノさん達や例のお二方にも来て貰えそうだ。

 その後は、監督に案内してもらいながら海岸の視察を続け、プルーナさん達に差し入れを渡してから現場を後にした。






 港の視察から帰り、ちょっと気づいた点などを書き留めていると、すぐに夕刻、仕事上がりの時間になった。

 イソイソと執務室を後しにした僕らは、仕事から帰ってきた他のお妃さん達と食堂で落ち合い、全員で夕食を摂ったた。

 話題はその日にあったと事など、仕事の話が結構多い。みんな、今の仕事にやりがいを感じてくれているようで嬉しい。


 その後入浴などを済ませると、全員で談話室に引っ込んだ。ここからは完全にプライベートな時間なので、ようやく一息つける。

 普段は、ボードゲームやお酒を楽しみながらお喋りしたり、はたまた武器の手入れや執筆をしたりと、みんな思い思いに過ごすしている。

 けれど、今日はちょっと僕から報告事項があった。


「--と言う訳でして、マリアンヌ様とケヴィン様は、アウロラ王国への移民を選んで下さったようです」


 反応は様々。マリアンヌ様に会った事の無いカリバルなんかは、ふーん、と興味もなさそうにしている。

 一方、関わりの深いヴァイオレット様やキアニィさんは深く安堵の息を吐いていた。


「そうか…… お二人は生きる道を選んで下さったのだな。よかった……」


「安心しましたわぁ。先日お会いした時には、今にも消えてしまいそうでしたもの」


「いやー、ウチも安心したにゃ。これでやっとよく眠れるにゃ」


 二人に続き、ゼルさんが何度も頷く。そう言えば、マリアンヌ様の長期療養の原因は自分の一撃のせいなのではと、結構不安がっていたっけ。


「ゼル。あなた、昨日も一晩中ぐっすりだったじゃないですか……」


「にゃ? そんじゃあロスニア。おみゃー、ウチが寝入った後もずっとヤってたのかにゃ?」


「ち、違います! ちょ、ちょっとだけです……」


 ゼルさんの言葉に赤面するロスニアさん。ちょっとだったかな……? とは思ったけど、今後控えられては困るので口には出さなかった。

 マリアンヌ様達の話が終わると、以降はみんないつものようにのんびりと過ごし、就寝時間となった。


「メムメム! 来て! 服、一緒に選ぼ?」


「服……? あ、ああ。承知したティルヒル。しっかりと選ぶとしよう……!」


 みんながおやすみと言い合ってそれぞれの寝室に向かう中、ティルヒルさんとメームさんが連れ立って歩いて居たのが少し気になった。


 そして夜。僕は身だしなみを整えた後、寝室のベッドの上で正座して待っていた。

 すると少しして扉の向こうに気配が生まれ、控えめなノックの音が響いた。


「はい……!」


 僕は一瞬で扉の前に移動すると、ゆっくりと扉を開いた。


「こんばんは。良い夜ですね」


 そこに居たのはメームさんとティルヒルさんだった。

 二人ともガウンを着ていて、ちょっとお顔が上気している。


「あ、ああ。良い夜だな、タツヒト……」


「こんばんは! ふふっ、タツヒト。見て!」


「あっ……」


 ティルヒルさんは自身のガウンを脱ぎ捨てると、一瞬にしてメームさんの物も脱がせてしまった。

 そしてその下から現れたのは、お揃いの純白透け透けな下着だった。

 黒真珠のような肌と羽毛を持つティルヒルさん。そして灰色でふわふわな毛並みをもつメームさん。二人に物凄く似合っていた。


「すっご……! あ、いえ、その…… とてもよくお似合いです。お二人の色にとても良く映えますね」


 ガン見してしまったのを誤魔化すようにコメントする。なるほど、先ほど二人で話していたのはこれだったのか。ティルヒルさん、最高です。


『でしょ!? あ、あと…… ねぇねぇ! メムメムのアレ、凄くない!? あーしびっくりしちゃった。今夜は楽しくなりそう……!』


『ふふっ、奇遇ですねティルヒルさん。僕もです……!』


「お、おい。魔獣大陸語で何を話しているんだ……?」


「いえ、メームさんが素敵だなって話してたんですよ」


「本当か……?」


「本当! うふふ! ほら、早く早く!」


 僕とメームさんの手を取り、ティルヒルさんが飛び跳ねるような足取りでベッドに向かう。

 今日も本当に良い夜になりそうだ。


体調が戻ったので更新を再開しました。大変お待たせいたしましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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