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第471話 宮廷会議(2)


「相違点はいくつもございますが、ひとまず、ここに示した三点に大きく纏めらるものと考えます。

 この三つは、我が国が抱える問題点と読み替える事もできる訳ですが……」


 新たに投影された映像には三つの項目が列挙されていた。その最初一つを指しながら宰相が説明を続ける。


「一点目は…… これまで始祖神レシュトゥ様の庇護下にあった我が国が、その多大な恩恵を失ってしまった事です」


 そう口にした宰相と、生前の彼女を知るこの場の全員の表情が曇る。偉大な始祖神を亡くしたこの国の人々の悲しみは未だに癒えていない。

 そしてそれだけで無く、レシュトゥ様が制御していた方舟の主機関が停止した事で、方舟の高性能な環境制御機能も働かなくなってしまったのだ。


「日射量、気温、湿度、風速、降水量…… 始祖神様は、その全てを人や作物に最適となるよう調整されていたそうだな。

 その権能が失われた中で、果たして民や他の領主達が我を王と認めるかどうか……」


 僕が思わず不安を吐露すると、宰相が少し慌てた様子で口を開いた。


「へ、陛下。神領の民の中には、当時冒険者であらせられた陛下がお助けした者達が多く居ます。

 加えて、すべての民や領主が始祖様の最後の放送を耳にし、覆天竜王(ブリトラ)を屠った陛下の武勇を知っています。ご心配には及ばないかと」


「あたしもそう思う。他の領主さん達が王家に反抗するっていの、あんまり聞いた事が-- あ。ごめん、一個だけあったかも……

 すっごく昔に、その、領地の人達にちょっと悪いことをしちゃった領主さんが居たんだって。それで、始祖様がその領主さんの屋敷の所だけずっと夜にして、娘さんに領主を交代させちゃったんだって」


 フォローしようとしてくれたんだろうけど、今度はフラーシュさんがすごい話をぶっ込んできた。


「そ、それは強すぎますね…… まさに神の力です。僕は、その機能が無い中で王様やらないといけないのか……」


「何言ってんだにゃタツヒト。おみゃーだって似たような事ができるにゃ」


「似たようなことって、ゼルさん。確かに雷槍天叢雲らいそうあめのむらくもを使えば出来るかもですけど…… いえ、やっぱりそんなに細やかな調整なんて不可能ですよ」


「タツヒト。他の国家の女王や指導者は、天候操作の権能など無しに国家を運営しているであります。タツヒトなら大丈夫とシャムは思うであります!」


「それは…… 確かにそうだね。ありがとうシャム。 --他の国家といえば…… みなさん、この国の名前について率直にどう思います?」


 お妃さん達の方を見ながら問うと、みんな何か言いたげな様子だった。そんな中ヴァイオレット様がスッと手を上げる。


「率直に。神国というのは、その、不遜な名前に思える。帝国の首脳部も良い顔はしていなかったし、馬人族(ばじんぞく)の王国や魔導国でも同様の反応だったと聞く。この事は宰相にも伝えたが……」


 今度は宰相達の方へ視線を向けると、重臣達はみんな苦しげな表情をしていていた。

 始祖神レシュトゥ様が(たお)れ、方舟が落下し、この国が地上の国の一つとなった今。神国という名前は他国との軋轢を生みかねない。

 彼女達もそれは分かっているはずだけど、長年慣れ親しんだ国名を変えるのは抵抗が大きいようだ。


「は。勿論存じております。しかし国名の議論につきましては、ひとまず後ほどとさせて頂ければと……」


 絞り出すような宰相の声に、僕らは小さく頷いた。






「ありがとうございます…… では二点目の問題点ですが、我が国が天空に浮かぶ方舟だった事による、対外能力の欠如です」


 宰相が上げた二つ目。これも大きい問題だ。元々宇宙空間に浮かぶ孤高の国だったからしょうがないのだけど……


「うむ。我は、レシュトゥ様からフラーシュ王妃とこの国を託された。そしてかの神は、地上の他の国々との融和を望んでおられた。

 従って我が国の基本方針は鎖国ではなく開国となる訳だが、これに付随した問題はいくつもあるな……」


「は。まず地理面に関して、我が国は周囲を海に囲まれています。しかし、橋は勿論、港や船も存在しません。

 つまり現状、転移魔法陣のみが我が国と他国との移動手段となります。これでは他国と国交を結ぶどころであありません」


 宰相の説明に、みんなの表情がまたもや曇る。海洋国家に変貌したこの国は、それに相応しいインフラを早急に整える必要がある。しかし、そのための知識や技術の蓄積が全く無いのだ。

 そして、みんなの視線は自然とアスルとカリバルに集中した。二人は海洋国家出身で、海での活動にはこの場の誰よりも詳しいはずだ。


「ん。ちょっと潜ってみたけど、海底の地形がすごく変だった。この国が空から降ってきたって聞いた時、ちょっと信じられなかったけど、あれを見て納得した。

 それもあって海流にも癖があるから、港を作ったり航路を設定するのは苦労すると思う。専門の技術者が必要」


「この国が踏み潰した海、虚海(きょかい)っつたかぁ? 魔物がいねぇって話だったのに、俺らが見た時にゃウヨウヨいやがったぜぇ?

 船を通すんなら、定期的に魔物を間引きしといた方がいいだろうなぁ。海底魔窟が出来てねぇか調べる必要もあんだろ」


 二人の、いや、カリバルの回答に僕は思わずあっけに取られてしまった。あの、喧嘩と飯にしか興味ねぇ! って感じだったカリバルが、あんなに建設的な意見を……

 ちょっと感動して眺めていると、僕のそんな視線にカリバルが気づいた。


「あん? な、なんだよタツヒトの兄貴。俺なんか変なこと言ったか……?」


「あ、いや、全然。すごく参考になったよ。カリバル、やっぱり成長したよね。アスルも確認ありがとう。海に関しては二人に頼らせてもらうよ」


「そ、そうかぁ? うはは」


「私も成長しているのに……」


 嬉しそうに頭を掻くカリバルの胸部などを見て、アスルが不満そうに呟く。いや、そっちの意味じゃ無いんだけど…… 後でフォローしておこう。

 会話が一瞬途切れたところで、今度はメームさんが手を上げた。


「俺はこの国に来て日が浅いが、高品質な魔導具や農作物など、他国が欲しがりそうなものを多く目にした。

 他国との交易を進めていくには海路の確保も重要だが、並行して街道や流通拠点を整備していく必要だろう」


「わたくしもメームに賛成ですわぁ。けれど、外の人間が行き来しやすくなると、秘密の多いこの国には防諜も必要になってくると思いますわぁ。それから他国や他領の不穏な動きを察知するための諜報も。

 いずれにせよ、訓練された人材がたくさん必要ですけれど。わたくしの古巣に声をかけてみましょうかしらぁ……」


「キアニィの話に付け加えると、あれやな。このごっつい城からして、この国は外のもんからしたらぎょーさん儲かっとるように見えるやろな。

 ほんなら当然、悪い連中もぞろぞろと入ってくるやろ。まぁ、ウチやウチの手下なんかはその辺よーけ知っとるから、役に立てる思うで」


 メームさんに続き、キアニィさんとエリネンが物凄く説得力のある意見を述べた。確かに、この国はその辺にも無防備なんだよなぁ……

 東の馬人族(ばじんぞく)の王国と北の魔導国は友好国と思っていいと思うけど、南の帝国はまだ分からない。それぞれの国も一枚岩じゃ無いだろうし……

 彼女達の言葉に、宰相を始めとした重臣達も深く頷いている。


「は。皆様のご指摘のとおりかと存じます。加えて、我々廷臣の中に他国との折衝を担当できる者が居ない点も大きな問題と考えます。

 陛下や側妃の皆様にお頼りするしか無い現状は、早急に是正しなければなりません」


「そうだな。戴冠式を終えたら、流石に我も気軽に他国へ足を運べ無くなる……

 宰相の部下には、他領との折衝を行っていた者達が居よう。その中から外交を担う長を立て、人材を育てていくしかあるまい。無論、我や側妃達もそれに参画しよう」






「お手を煩わせてしまい申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

 それでは最後の三点目ですが…… 百五十年に及んだ覆天竜王(ブリトラ)による我が国の占拠、それによって生じている諸問題です」


 宰相はそう言うと、騎士団長、魔導士団長、そして大聖堂から来てくれた司教へと目を向けた。三人はそれに頷くとやや緊張気味に話し始めた。


「神国騎士団は、永きに渡る覆天竜王(ブリトラ)との戦闘で多くの人員を失いました。

 特に高位階人員の払底(ふってい)具合は(はなは)だしく、緑鋼級(りょくこうきゅう)である自分が繰り上がりで団長を務めている状況であります」


「魔導士団も同様の状況です。お恥ずかしい限りですが、我々のみでは魔物の対処や他国への備えに不安がございます」


「聖教会もです。大司教を始め、多くの聖職者が戦死してしまいました。今は司教の中でも最も若輩だったわたくしめが大聖堂を預かってございますが、より相応しい方に大司教の座について頂きたく……」


 三人はそれぞれ、紫宝級(しほうきゅう)の戦士であるヴァイオレット様、覆天竜王(ブリトラ)戦で青鏡級(せいきょうきゅう)に上がった魔導士のプルーナさん、そして青鏡級(せいきょうきゅう)の聖職者にして神託の御子でもあるロスニアさんをじっと見つめた。

 ヴァイオレット様達がチラリと僕をみたので、僕は彼女達に大きく頷き返す。この件に関しては事前に相談を受けていたのだ。


「私の部隊指揮経験は中隊規模までなのだが、そうも言っていられないだろう。以前話を貰った騎士団長就任の件、前向きに検討させて頂く」


「ぼ、僕も、魔導士団長の件、頑張ってみます! 指揮経験はあまり無いですが、一応軍属だったので」


「私もまだまだ若輩の身なので、大司教などとても…… ですが、もし猊下のお許しを頂けるのであれば、務めさせて頂きます」


 ヴァイオレット様達の答えに、騎士団長達は肩の荷が降りたような表情で感謝を述べた。

 神国の戦力低下具合は凄まじく、軍どころか、冒険者にも青鏡級(せいきょうきゅう)が居ないほどだ。なので、彼女達のような高位階の即戦力が求められていたのだ。

 彼女達から相談を受けた時、危険から遠ざけたい気持ちも正直少しあった。

 しかし状況がそれを許さず、本人達も守られるだけの立場なんて望んでいないので、一緒に頑張りましょうと後押しさせてもらったのだ。

 騎士団長達に続き、宰相を始めとした重臣達も揃ってヴァイオレット様達に頭を下げる。


「本当にありがとうございます。そして申し訳ございません。本来我々廷臣でお守りするべき側妃の皆様方に、このようなお願いをするなど……」


「宰相、気にしないでほしい。何せ方舟墜落以降、各地で魔物達が活発化している上に、覆天竜王(ブリトラ)の残党もほとんど見つかっていないのだからな……

 そうだティルヒル。君は魔物の領域を上空から捜索してくれていたが、何か手掛かりは得られただろうか?」


「うーん。ヴィーちゃん達が欲しがってるようなものまだ見つかってないかなー。

 森がすっごく深くて視界が通らないのと、あーしに気づいて隠れちゃってる感じもあったんだよねー。

 空を飛ぶ時って、どうしても魔法や身体強化で気配が強くなっちゃうからさ。あんまし役に立ってなくてごめんね……」


「そうか…… しかし、君の偵察が抑止力になることもある。非常に助かっているさ」


「ほんと? やったー!」


 ヴァイオレット様の言葉に、ティルヒルさんが嬉しそうに両翼を上げる。

 実際、ティルヒルさん達アツァー族の方々の存在は本当にありがたい。広域偵察や上空からの急襲など、取れる手がめちゃくちゃ増えるのだ。


「ふふっ…… 問題は山積みですけど、やっぱりみんなが側に居てくれたら何とかなる気がします……!

 よし。宰相、会議を進めるのだ。今上がった問題を課題に落とし込み、一つ一つ解決していくとしよう」


「は! タツヒト陛下」


 初開催となった宮廷会議は、参加者の熱量の赴くまま深夜まで続いた。


金曜分を落としてしまいました。申し訳ございませんm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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