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第047話 籠城戦(2)


 ガァンッ、ゴガァンッ!!


 外から迫る魔物の大群の突進が村の防壁を揺らしている。

 何度も揺らされたせいか、防壁の根本と土との間には隙間ができ始めていた。

 だんだんと追い詰められてきている状況にごくりと喉がなる。


 「アルボルマンティスだー!!」


 悲鳴のような声に急いで頭を回らすと、左手の防壁の上にいつか見た茶色いクソデカカマキリが鎮座していた。

 冒険者が投石や弓で攻撃しているもののあまり効いておらず、今にも壁の中に飛び入ろうと体を撓めている。


 「まずい……!」


 「僕行きます!」


 イネスさんが焦った声を上げたと同時に、僕はクソデカカマキリを目指して最短距離で走り始めた。

 カマキリのいる左手へ向かいながら、同時に村の防壁を斜めに駆け上る。


 ガッガッガッガッ……


 防壁を構築する丸太と丸太の間に上手く足を掛け、敵の横手から意表をつく形で肉薄した。


 「ギッ!?」


 カマキリが驚いてこちらを振り向いた頃にはすでに一足一刀の距離だった。


 「セァッ!」


 ガキュンッ!


 首と胴体の甲殻の隙間を狙った槍の斬撃は、狙い通りカマキリの頭部を切り飛ばしていた。


 ドドサッ!


 僕が地面に着地するのとほぼ同時に、首無しカマキリが地面に落下した。あ、まだピクピクしてる。


 「持ち場に戻ります! 助けが必要なったらまたすぐ声をかけてください!」


 僕はその場の冒険者のお姉さん方に声をかけ、急いで持ち場に戻った。


 「タツヒト、助かったぜ!」


 「いや、今壁走ってなかったか……?」


 昨日の昼過ぎに突如として始まった第一波は、ゴブリンやコボルトといった灰鉄級の小粒な魔物が多かったので、ほとんど危険もなく乗り越えることができた。

 昨日の夕方頃に始まった第二波では、赤銅級のオークやホブゴブリンなんかも群れに混じり始めた。

 この段階でも、この村にいる冒険者の大半が一つ上の橙銀級の位階にあったので、そこまで苦労することなく乗り切ることができた。

 さらに第二波の途中で夜になり、村に侵入する魔物の数はガクッと減った。夜間は灯りを制限したので、高い壁に囲まれた村は、魔物達には単なる障害物に見えたのかも知れない。

 しかし、今朝方から始まった第三波からだいぶ辛くなりはじめた。


 これまでのように、群れを構成する魔物の位階が上がって、橙銀級のアルボルマンティスやトレントなんかも加わりはじめたのだ。

 村の大半の冒険者は一対一ではこの位階の魔物を倒すのが難しいので、防壁を乗り越えてきた時の対処に苦労するのだ。

 一匹や二匹だったら僕か村長がすぐに始末するのだけれど、それ以上だと抜かれてしまうので怪我人も出始めている。

 怪我人は治癒薬で誤魔化すか、後送してすぐに村のソフィ司祭から治療をしてもらうのだけれど、彼女の魔力にも薬にも限りがある。

 それに壁を超えてこない魔物でも、結構な巨体で村の防壁に激突してくるものだから、壁が綻びはじめている。

 なんとか耐えられているのはこの防壁のおかげなので、一箇所でも破られてしまったらお終いだ。


 それからも綱渡りのような防衛を続けることしばし。

 その日の昼頃にやっと魔物達の攻勢が落ち着きはじめた。


 「第三波もなんとか防ぎ切ったな…… よし、飯にしよう!」

 

 ボドワン村長が昼食休憩を宣言した。

 





 「お昼ー、お昼まだの人ー!」


 昼休憩に入り、エマちゃんを始めとした非戦闘員の人達が食事を配り歩いてくれている。

 

 「エマちゃん、一つもらえる?」


 「タツヒトお兄ちゃん! はい、どうぞ!」


 ちょうど近くに来てくれたので、声をかけて食事を分けてもらう。

 パンに野菜やら肉やらを挟んだものと、カップには暖かいスープだ。ありがたい。


 「ありがとう! 教会の方は大丈夫? 怖くない?」


 森に面した防壁からみんなが避難している教会まで少し距離があるとは言え、壁を叩く音や魔物の声は届いているはずだ。

 エマちゃんは気丈そうに振る舞ってくれているけど、聞かずにはいられなかった。


 「えへへ…… ちょっと怖いかも。でも、タツヒトお兄ちゃん、昨日パーティーしてくれたでしょ?

 その時思い出したんだ。怖いことが起こってるけど、エマのお兄ちゃんやお姉ちゃんたちは、みんなすごく強くて優しい人達なんだって。

 だから、みんながいるからそんなに怖く無いし、エマもお手伝いしなきゃって」


 「そうかい…… エマちゃん、かっこいいね」


 いや、本当にかっこいいなこの娘。

 僕が同じくらいの歳の時にこの状況だったら、ひたすら泣きじゃくって家に引きこもってたと思う。


 「そ、そうかな。エヘヘ…… タツヒトお兄ちゃんも、か、かっこいいよ?」


 「ふふっ、ありがと。じゃぁ、もっとかっこいいところ見せられるように頑張らないとね」


 エマちゃんから最後に頑張ってと言ってもらえたので、気力も十分だ。

 もらった食事を食べながら防壁の方を眺めていると、木こりの人達が防壁の修繕をしてくれている。

 ぐらついた基礎のところに土を流し入れて固め、亀裂の入った防壁には補強の丸太を差し込んでいる。

 よかった。この様子だったらまだ壁は持ちそうだ。

 でも、次の波ではきっと……


 僕はパンとスープをかっこみ、村長のところに向かった。


 「村長、次の波で来るのって……」


 「ん? あぁ…… 多分、推奨討伐等級が黄金級の魔物だろうなぁ。見てて気づいたとは思うが、等級の高え魔物はそれだけ数もすくねぇ。黄金級の魔物が来たとして、数匹だったら俺とお前で前に出て、他の連中から援護してもらえりゃあなんとかできるかもしれねぇ」


 「黄金級が数匹ですか……」


 思わず顔を顰めてしまう。

 アクアングゥイスやオーガーみたいな連中が複数来たとして、果たして対処できるのだろうか。

 いや、どちらにせよやらないと死ぬわけだから、やるしかないんだよね。


 「ところで、他の村や領都は大丈夫でしょうか。この村は防壁が頑丈なので持ってますけど、領都の途中にあったバイエ村なんかだと、防壁が持たなそうです」


 「領都から大森林側の村だと、俺らの避難が最後だったはずだ。村人の避難は済んでるだろうが、バイエ村そのものはオメェの言う通り難しいだろうなぁ……

 あと、領都に関しては問題ねぇだろ。あそこには強力な防壁に加えてヴァイオレット様がおられるし、そのヴァイオレット様よりつえぇ騎士団長や魔法士団長までいらっしゃる。俺らは俺らのことに集中してりゃぁいい」


 「そう、ですね。わかりました」


 「あぁ。よし、オメェら、飯は食ったな!? 休憩終わりだ! また壁の警戒にあたってくれ!」






 休憩後も魔物攻勢は散発的で、なかなか第四波と言えるような状況にはならなかった。

 もしかしたら第三波が最後だったのでは。そんな弛緩した空気が流れはじめた時だった。

 

 「村長ぉ!」


 物見台で森を見張っていた冒険者の人が悲鳴のような声を上げた。


 「どうしたぁ! オーガか? トロールか?」


 「オーガーの群れです! か、数は…… 30匹ほど、親玉らしき色違いの個体もいます!」


 「さ、30匹だとぉ……?」


 村長と僕は弾かれたように物見台に登り、絶句した。

 筋骨隆々の巨躯で悠々とこちらに歩いてくる灰色の影が30程、確かにオーガーの群れだった。

 しかも、群れを率いているのは他とは違う緑色の皮膚の個体で、立ち居振る舞いと感じる圧力は明らかにオーガーの上位個体であることを物語っていた。


 黄金級の魔物が30体に、下手したら緑鋼級のボス格の魔物。

 オーガーが一体居ただけでも、あの怪力を前に防壁は役に立たないだろう。

 対してこちらはせいぜい黄金級が二人。絶望的な戦力差だった。


 「タツヒト…… 悪かったなぁ。俺がオメェをこの村に誘わなけりゃぁ、オメェまでこんな目に合わなくて済んだってのによぉ」


 ボドワン村長がオーガーの群れを睨みながら、つぶやくように言った。


 「……やめてくださいよ村長。村長が誘ってくれてなかったら、僕は今頃のたれ死んでましたよ。

 それより、一人たった15体倒せば終わりです。気合い入れていきましょう」


 僕の声は多分震えていただろうけど、村長は野暮なことは言わなかった。


 「--そうか、ありがとよ…… イネス、あと遠距離攻撃に自信のあるやつ! 物見台から援護してくれ! 正面は…… 俺とタツヒトで止める!」


 そう言って物見台から村の外に飛び降りた村長に、僕も続いた。

 着地してオーガーの群れを睨みつけ、僕は精一杯の強がりを込めて叫んだ。


 「来るなら来いよ…… 僕の村には一歩たりとも入らせないぞ……!」


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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