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第468話 緑の大陸(1)


 大聖堂の地下から神国へ転移すると、転移魔法陣の部屋にはすでに二人の人影があった。


「おぉ、よかった……! と、大変失礼致しました。このラビシュ、皆様方の無事のご帰還を心よりお喜び申し上げます」


 僕らを迎えてくれた内の一人、ラビシュ宰相は、露骨にほっとした表情で(こうべ)を垂れた。

 予定より少し帰還が遅れてしまったので、かなり心配させてしまったようだ。


「遅れてすみませ-- じゃない。うむ。遅れてすまないな、ラビシュ宰相。だがこの通り、ここを発った八人は全員無事だ」


 僕は、背後の『白の狩人』のみんなを振り返りながらそう答えた。

 ただ、全員が元気そうにしている中、フラーシュさんだけは疲れた表情をしていて、目の下には濃い隈まで出来ている。

 すると出迎えてくれた二人目、フラーシュさんの側近であるエーミクさんもそれに気付いたようだ。


「フラーシュ王妃。随分とお疲れのご様子ですが…… 他国とはそれ程に過酷な環境だったのですか……?」


「へ……? これは、えっと…… た、多分、エーミクが考えるようなしんどさは無かったよ。ただ、初対面の人が多くて、ちょとだけ疲れちゃった。あはは……」


 心配そうなエーミクさんに、フラーシュさんは少し目を泳がせながらそう答えた。

 あの目の隈の原因が、徹夜で淫らな本を書いてたせいだと知ったら、エーミクさんは激怒するだろうなぁ……


「あ、勿論みんないい人達だったよ? 馬人族(ばじんぞく)の赤ちゃんと遊ばせてもらったりもして、可愛かったなぁ……

 街並みとか雰囲気、建物の造り、言葉、服装、食べ物、ちょっとした小物…… 全部が神国と違ってて、新鮮で面白かったよ。

 --でも、住んでる人達はなんていうか普通で、あたし達とそんなに違わない気がしたよ。会ってみるまではちょっと怖かったのになぁ…… 今はもう怖く無いかも」


 疲れた顔に笑みを浮かべて話すフラーシュさんに、ラビシュ宰相とエーミクさんははっと息を呑んだ。


「それは…… 良いご経験をされたのですね、フラーシュ様」


「やはり、我らも一度視察に出るみるべきだろうな。エーミク」


「そうですねラビシュ宰相。自分達は他の国の事を知らなすぎます」


 二人は、フラーシュさんの言葉に何やら感じ入っている様子だった。

 視察かぁ。確かに神国首脳部のみんなには必要かも。お隣の馬人族(ばじんぞく)の王国あたりにお願いしてみようかな。

 さておき、僕はこほんと咳払いをしてからラビシュ宰相に向き直った。


「ラビシュ宰相。重ねてすまないが、一つ報告がある」


「は、なんでございましょうか、陛下」


「以前もその可能性については触れていたが、その、側妃が増えた。四人…… 加えて、新しい側妃の友人数十人も、神国に移ってくれるそうなのだ。皆、手練だぞ?」


「よ、四人……!? あ、いえ、素晴らしい事です。我が国は人手が足りておりませんことですし…… それで、その方々はいつ頃いらっしゃるのでしょうか?」


「あー、良ければ今連れてくる。実は向こうで待ってもらっているのだ」


「い、今でございますか……!?」


 ラビシュ宰相は、慌ててエーミクさんに受け入れ準備を指示してから頷いてくれた。いつも急ですみません。

 その後僕は、大聖堂地下で待機してくれていたメームさん、エリネン達夜曲(やきょく)のみんな、アスルとカリバル達東南アスリアからのみんなを、次々に神国へと転移させた。

 慣れているメームさんを除き、他のみんなは初めての転移に目を回し、神国の馬鹿でかい城に驚愕していた。

 初めて神国に来たみんなには、いったん城に滞在してもらって、暫くは神国に慣れてもらう事になった。


 最後もドタバタしてしまったけれど、『白の狩人』全員での行う必要のある挨拶回りはこれで一旦終了だ。

 心配だったこの数日間の国内の状況に関しては、竜王の残党にも動きは無かったようで、僕らはほっと胸を撫で下ろした。

 やっぱり、国王夫妻かつ最高戦力である僕らが丸ごと国を空けるのは、例え短期間でも控えるべきだよね……


 と、思う一方で、僕には時間を掛けてでも会いにいくべき人がもう一人いた。

 渋い顔をするラビシュ宰相をなんとか説き伏せた僕は、シャム、ロスニアさん、ゼルさん、プルーナさんの四人に同行をお願いし、間をおかずに神国を発った。

 行き先は地上で最も過酷な大陸、魔獣大陸である。






 転移後、魔獣大陸の古代遺跡から外に出た僕らは、目の前の光景にまず驚愕した。


「あれ…… 僕、もしかして転移先間違えたちゃった……!?」


 果てしない荒野だった風景は一変し、見渡す限りの草原に変貌していたのだ。

 他のみんなも驚いて周囲を見回す中、シャムは冷静に遠くの風景を観察していた。


「山の配置や形状が記録と一致……  すごい規模の緑化でありますが、ここは間違いなく魔獣大陸であります!」


 その言葉に、僕は自分達がこの大陸を後にした時の事を思い出した。

 あの時、大地は大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)という大陸規模の魔物の遺灰に覆われていた。

 さらに今は夏の終わりで、気温も高く雨も多い。豊富な栄養と水。多分この景色は、それらの条件が重なった結果なのだ。


「大地がこんなに豊かに……! きっとこの大陸の人達も喜んで--」


「「キュキューッ!」」


 嬉しそうなロスニアさんの声を遮り、丘の向こうから魔物の大群が姿を現した。

 遠目からは可愛い兎に見えるそれは、この辺りでは切り裂き兎(ディール・ガー)と呼ばれている凶暴な魔物だ。

 体格は中型犬ほどもあり、高速かつ大群で獲物に迫り、巨大な刃物状の耳でズタズタに切り裂く凶悪な生態をしている。


「にゃはは。喜んでるのは人間だけじゃにゃいみたいだにゃ。ロスニア、ウチにおぶさるにゃ」


「ですね……! プルーナさんは僕の背中へ。逃げるが勝ちです!」


「「応!」」


 魔法型の二人を背負って駆け出した僕らは、追い縋る兎さん達を引き離してひたすら東へ進んだ。

 魔獣大陸らしい夥しい数と質を誇る魔物達を、時には回避し、時には正面から蹴散らす。

 そんな風に進む内、僕らは一週間もせずに巨大な峡谷へ到着した。


 僕らの目的地はこの向こう側なのだけれど、そこにはさらに、高さ30mほどの巨大な壁が立ちはだかっていた。

 左右見渡す限りに続くこの大防壁は、僕らも建造に関わった対大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)戦の遺産である。

 改めてでかいなぁと眺めていると、プルーナさんが感慨深げに呟いた。


「まだ数ヶ月しか経っていないのに、懐かしいですね。これを造ったのが自分たちだって、ちょっと信じられないです」


「ふふっ。プルーナさんはむしろ、建造を主導した立場だったじゃない。今日の内にここを超えて、村に着きたい所だけど…… プルーナさん、お願いしていい?」


「はい、もちろんです!」


 プルーナさんの土魔法により、巨大な峡谷にはあっという間に石の橋が掛かり、僕らは楽々と向こう側へ渡ることができた。

 さらに彼女は、僕らの足元の土を壁に沿って上昇させることで、ほぼ垂直な大防壁をほんの数分で超えてみせた。こういう時、土魔法は本当に便利だ。


 そうして辿り着いた大防壁の向こう側には、魔獣大陸でおそらく唯一である人類の生存領域、ナパと呼ばれる渓谷が広がっていた。

 広大な谷底は今は緑に覆われ、遠くに太った砂時計のような形の岩山がぽつぽつと立っているのが見える。

 そんな雄大な光景を目を奪われながらさらに東へ走ると、目的とする岩山が地平線の向こうから顔を出した。


「見えた、アゥル村だ! えっ……!?」


 歓声を上げた僕らは、すぐに表情を強張らせた。

 強力な魔物が跋扈するこの辺りでは、村は高い岩山の上か、もしくは地中に作られる。

 僕らの目指すアウル村は前者の方で、多くの人々が暮らす岩山の根元に、今、巨大な影が迫っていた。


「ボガァァァァァッ……!」


 遠くからでもはっきりと聞こえたのは、大地を揺るがすような咆哮。

 ずんぐりとした体の大半は分厚い甲殻に覆われ、尻尾も四肢も極太。まるで移動する要塞のような威容を持つ地属性の竜種、地竜(テラドラゴン)だ。

 あの巨体…… 体当たりだけで村が倒壊しかねない……!


「げぇっ……! タツヒト! これ、やべーんじゃにゃいか!?」


「ええ……! ゼルさん、ここからじゃ走っても間に合いません! 一旦止まって、天雷(フルグル・カエレステ)で狙撃を--」


 全員で足を止め、落雷の魔法で遠隔攻撃しようとした瞬間、村の頂上からいくつもの翼影(よくえい)が飛び出した。


 あっ、と思って見ている間に翼影(よくえい)の集団は急降下し、自分達の村に迫る敵へと攻撃し始めた。

 甲殻の隙間などを狙う的確な攻撃に、地竜(テラドラゴン)は数分もしなう内に血塗れとなり、たまらず逃げ帰ろうとする。

 しかし、黒い翼影(よくえい)が投げ放ったブーメランのような物が高速で飛翔し、地竜(テラドラゴン)の首を両断してしまった。

  決着の光景にほっと息をつくと、ブーメランを回収した黒い翼影(よくえい)が集団から離れ、こちらに向かって近づき始めた。


「むむっ……? タツヒト! 翼影(よくえい)が一つ、高速でシャム達の方に接近してくるであります!」


「うん! きっと彼女だよ! おーい!」


 声をあげて手を振ると、その見覚えのある翼影(よくえい)は更に加速し、あっという間に顔の見える距離まで接近してきた。


「--タツヒト君、タツヒト君……! タツヒトくーん!」


 嬉しそうに僕の名前を連呼する彼女は、全く速度を緩める様子が無かった。やば…… これ、着地を考えてない……!? 僕は咄嗟に後ろへ飛んだ。


ドッ!


「うぐっ」


 それでも衝突の勢いを殺しきれず、僕は背後に数m吹き飛ばされ、そのまま地面に押し倒された。


「すんすんすん……! あぁ、タツヒト君の匂い…… タツヒト君の感触……! タツヒト君の顔!

 やっぱり夢じゃない! うぅー……! 会いたかった……! 会いたかったよぉ! タツヒト君!」


 息が掛かるほどの距離。泣き笑いの表情で僕を迎えてくれたのは、黒真珠のような肌と神秘的な美貌を持つ黒翼の天使。鳥人族(ちょうじんぞく)ティルヒルさんだった。


「こほっ…… お、お待たせしました、ティルヒルさん。遅くなってしまってすみません」


「いーよ、全部許しちゃう! だって、会いに来てくれたんだもん! ぎゅーっ!」


 愛おしげに抱擁してくれる彼女を、僕はしっかりと抱き返した。


度々すみません。日曜分を落としてしまいましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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