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第467話 カレーパーティー(無許可)


 僕の呼び掛けに意識を取り戻したカリバルは、今度こそアスルに激怒し、三叉槍(トライデント)を抜いた。

 まずい。この二人が本気でやり合えば、きっとこの立派な建物も数分と持たない。なんとか止めなないと……!

 そう考えた僕は、二人の間に入って叫んだ。


「ふ、二人とも! お腹空かない!? ちょうどお昼だし、ご馳走するよ!」


「タツヒトのご飯!?」「兄貴の飯!?」


 効果は絶大だった。臨戦体制で睨み合っていた二人は、一瞬で殺気を霧散させた。

 僕はその機を逃さず、その場の全員に移動を促し、商会で一番大きなパーティー用の部屋へ向かってもらった。

 一方僕とシャム、プルーナさんは調理場へ走り、メームさんに提供してもらった材料を使ってすぐに調理を開始した。


「急がないと二人がまた喧嘩を始めちゃう……! 僕はまず火を準備するから、プルーナさんは土魔法で馬鹿でかい鍋を三つ作って! シャムは材料の下処理を!」


「「応!」」


 長年一緒に戦ってきた三人の連携と、高位冒険者の身体機能と魔力により、料理は爆速で完成した。


「--お待たせしました! カレー、できましたよー!」


「「うぉぉぉぉ!」」


 どデカい鍋を持って会場に入ると、中にいた人達が歓声を上げた。中でもカリバル達のテンションが異様に高い。


 会場にいるのは、まずメームさんをはじめとした商会の人達だ。僕と一緒に会場に料理を運び込んだり、配膳を手伝ってくれている。

 そしてエリネン達夜曲(やきょく)の皆さん。彼女達はカレーは初見らしく、カリバル達の反応にちょっと引いている。

 最後にアスルとカリバル達、東南アスリアからの人々。合計すると百人近い大人数での立食パーティーだ。


 辛口、中辛、甘口のカレーの大鍋、ご飯、各種トッピングなどを並べ終え、いただきますと宣言すると、最初にカリバル達が料理へ殺到した。


「かぁーっ、これだよこれぇ! 辛くてうめぇ! 美味すぎて泣けてきたぜ!」


「うひょー、カリバル様! あっちにカラアゲまでありますぜ!」


 迷わず辛口を選んだカリバル達は、まるで飲むようにカレーを食べている。

 彼女の副官、顔に厳つい刺青を入れたイカワラも、他の取り巻きの子達も全員上機嫌だ。料理一つでここまで機嫌を直してくれるから可愛いよね。

 しかしあの食いっぷり…… あの子達まだまだ大きくなりそうだな。


「アスル様! 甘口カレーを(よそ)いましたよ! ゆで卵も入れておきました!」


「ありがと、マハル。 --うん、懐かしい味。とても美味しい……」


 一方アスル達は迷わず甘口を選び、噛み締めるように食べてくれている。

 アスルを甲斐甲斐しくお世話しているのは、優しい顔つきをしたお付きのマハルさんだ。この二人は本当の姉妹のように仲が良い。

 ちなみに、シャムとプルーナさんもゴリゴリの甘党なので、アスル達に混じって美味しそうにカレーを食べている。


「アスルさん、これがあのカレーなんですね……! お話で聞いていた以上に美味しいです!」


「うん。タツヒトのカレーの美味しさは、言葉では表し切れない。沢山食べるといい」


 加えてアスルの周りには、マハルさん以外の蛸人族(たこじんぞく)も数人居た。

 彼女達は元々、アスルの所の軍に所属する魔法使いだったそうだ。

 アスルは、自分が抜けても大丈夫なようにと、軍の魔法使い達を指導していた。しかし、指導された内の何人かはアスルに心酔してしまい、そのまま付いて来てしまったという事らしい……

 アスル本人は、後を任せるために鍛えたのに意味がない、とぼやいていたけど、声色には喜色が滲み出ていた。


「--さて。みんな楽しんでくれてるみたいですし、僕らも食べましょうか、メームさん」


「ああ。思えばタツヒトの手料理は久しぶりだな。楽しみだ……!」


 会場は問題無さそうな様子だったので、僕とメームさんは中辛のカレーの方に向かった。

 こちらではメーム商会の職員さん達と、魔導国から来た夜曲(やきょく)の人達が仲良く歓談していた。


「あ、エリネン。どう? カレーの味は。多分初めて食べるよね?」


 その中にエリネンを見つけて声をかけると、彼女は小さな口いっぱいにカレーを頬張っているところだった。可愛い。


「むぐむぐ、 ごっくん…… ああ、初めて食うたけど、めっさ美味(うま)いわ! こう、食えば食うほどほど食欲が湧いてくる感じやな。

 しっかしおまはん、つくづく何でもでけるなぁ…… まず紫宝級(しほうきゅう)冒険者で? 魔導大学出とって、王様やろ? ほんで料理までって、 少し欲張りすぎとちゃうか?

 --いや、そうでもあらへんか。女癖と酒癖っちゅう、どデカい欠点が二つもあったなぁ」


「うぐっ…… それはその、本当に何も反論できないよ……」


 揶揄(からか)うように笑う彼女に、僕は顔を引き攣らせた。

 地球世界でもこの世界でも、その二つの欠点は他の全てを覆すだけの威力を持っているようだ。


「ふっ、一理ある。だがエリネン。もしタツヒトが一途な男だったら、俺達はこうして食事を共にする事も無かった。そうだろう?」


「ははっ、メームのいう通りやな。タツヒトがヴァイオレットだけと仲良うやってたら、おまはんらが魔導国に来ることも無く、ウチも死んでたやろしな。タツヒトの女癖に感謝やわ!」


「あはは、その、どういたしまして……」


 僕が体を縮こまらせながらそう答えると、話を聞いていた周囲の人達がドッと笑った。


 勘弁してよと思うと同時に、こう、物凄く満ち足りた気持ちになった。

 王様になると決めた時、自分の国に好きな人を沢山呼んで楽しく暮らしてぇ! なんて妄想してたけど、有難いことに現実になりつつあるようだ。

 この世界に来た頃は、只々ヴァイオレット様と付き合いたくてむしゃらだったのに、本当に強欲になってしまったものだ……


 あ。それはそうと、側妃になってくれたみんなの親御さんに、一度挨拶に伺わないと行かないよね。

 みんなそれぞれ事情はあるし、プルーナさんあたりは断固拒否しそうだけど、声だけはかけてみよう。

 --そう考えた瞬間、僕は、先日ヴァイオレット様のご両親へご挨拶した時の感覚を思い出した。


『貴方の娘さんと婚約しますが、他にも沢山婚約者が居ます』


 そうお伝えする申し訳なさと罪悪感等々(とうとう)…… 僕はあれに、あと何回も向き合う必要があるのだ。

 これ以上考えると食欲が無くなりそうだったので、僕は目の前のカレーに集中する事にした。






 カレーパーティーが盛況の内に終わり、後片付けも済んだ頃、別行動をしていたヴァイオレット様達もメーム商会に集合した。

 彼女達は、アスルとカリバル達との再会をとても喜んだけど、同時に僕への抗議も主張した。


「タツヒト…… 我々抜きでカレーの宴を開くなど、酷いとは思わないのか……?」


「そうですわぁ! わたくし、悲しくて涙が出て来ましてよ!?」


「ご、ごめんなさい。次はちゃんと全員揃ってる時にやりますから……」


 主にヴァイオレット様とキアニィさんの強い訴えにより、無許可のカレーパーティーは禁止と定められた。


 そして次の日の朝。聖国を発つ僕らは、メーム商会の前で多くの人々に見送られていた。

 見送る側の人々は主にメーム商会の従業員の人々だ。皆さんは目に涙を溜めていて、メームさんの人望の厚さが伺えた。

 その中でも、メームさんの右腕である副商会長、小柄な犬人族(けんじんぞく)のラヘルさんはボロ泣きしてしまっている。


「グスッ…… 商会長ぉ、本当に行っちゃうっスかぁ……!? ウチ、寂しいっスよぉ……」


「すまないな、ラヘル…… だが、聖都の本店を任せられるのはお前を置いて他に居ない。

 それに、俺もたまに様子を見に戻ってくるし、向こうで役に立てないようならこっちに戻ってくるかもしれないしな」


「うぅ…… 商会長に限って、そんなことはあり得ないっスぅ…… きっと向こうでも商売を成功させて、殆ど帰って来なくなっちゃうんすよぉ……」


 僕がメームさんに求婚したせいで、ラヘルさんは急に商会長代理に任じられ、聖都の本店を切り盛りすることになってしまった。

 最初ラヘルさんは、メームさんの神国行きに同行を申し出た。しかし他ならぬメームさんから、他の人間はともかく、お前だけは聖都に残って欲しいと言われてしまったのだ。

 この状況を出世と喜ぶ人もいるんだろうけど、メームさんが大好きなラヘルさんには違ったらしい。正直かなり心が痛む。


「すみませんラヘルさん。僕、どうしてもメームさんに側にいて欲しくて……」


「タツヒト…… ふふっ、俺も同じ気持ちだ」


 素直な気持ちを吐露してしまった僕に、メームさんが頬を染めながら身を寄せる。

 その場のみんなが僕らを囃し立てる中、ラヘルさんだけ僕を睨んだ。


「うぅ……! タツヒトさん女たらし! 人攫い! 国家権力! 店長を返せー!」


 ガルルルッ、と僕に飛びかかろうとするラヘルさんを、他の従業員の方々が慌てて羽交締めにする。

 今の内に行け! と促す従業員の人達と、怒りと悲しみに鳴くラヘルさん。

 彼女達の姿に物凄い罪悪感を感じながら、僕らは逃げるように聖都を後にした。


大変遅くなりました、金曜分ですm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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