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第466話 友、遠方より来たる:蛸と鯱編


 二人の世界に入り始めたエラフ君とマガリさんの元からお暇し、僕らは転移魔法陣で聖都へと帰還した。

 すでに夜だったのと結構忙しい旅程だった事もあり、その日はみんな直ぐに宿へ引っ込んで寝てしまった。

 そして、少し遅めの起床となった翌日の昼頃。すぐに神国へ帰るはずだった予定は、変更を余儀なくされた。


 というのも、フラーシュさんは昨晩から次回作を書き続けていらしく、ヴァイオレット様もそれに付き合っていたのだそうだ。二人とも鬼気迫る雰囲気で、書き終わるまで動きそうになかったのだ。

 そんな訳で本日は聖都で休日という事になり、ゼルさんは疲れたから寝るにゃと部屋に引っ込み、キアニィさんとロスニアさんはデートにくり出した。

 残った僕とシャム、それからプルーナさんの三人は、帰還報告も兼ねてメーム商会に顔を出す事になった。

 三人で商会を訪ね、受付の人に繋ぎを頼むと、直ぐにメームさんと会う事ができた。


「タツヒト。シャムとプルーナもよく来た。もう用事は終わったのか?」


「こんには、メームさん。はい、なんとか昨日までに回り終わりました。ちょっと強行軍でしたけど」


 受付スペースに足を運んでくれたメームさんに、シャムとプルーナさんも挨拶を返す。

 あれ。今日のメームさん、少しソワソワしてる……?


「そうか、大変だったな。ところで他の連中はどうした? 全員いた方が都合が良かったんだが……」


「えっと、疲れて寝てたり、逢引してたり、色々です…… どうかしたんですか?」


「ああ。お前達に-- いや。まずはこちらについて来てくれ」


 そのまま歩き始めてしまった彼女に付いていくと、応接室の近くまできた。

 エリネン達と会った時に使わせてもらった、この商会の中でも大きめな部屋だ。誰か来ているんだろうか?

 そう思って応接室の扉を見ると、そこから声が漏れ聞こえてきた。


「--ほいで島のもんらとも打ち解けて、姉ちゃんと仲良うなれて、親友も助かったゆうわけか。そら、惚れてまうやろなぁ……」


「うん。私にとってタツヒトは、とても大切で愛おしい人…… エリネンの話も聞けて良かった。やっぱりタツヒトは、何処でも、誰に対しても優しい」


「あー、まぁ、そうやな。自覚のう口説いてくるんは心臓に悪いけど……」


「ふふっ。あ、一つ訂正。こいつは親友じゃない。ただの腐れ縁」


「そうだぜエリネン。俺がこんな根暗女と親友だぁ……? 虫唾が-- いで!? てめぇっ!」


「おーおー、仲ええんは分かったから、物壊さんようにな」


 聞こえてきたのはエリネンと、二つの懐かしい声だった。

 三人で驚いてメームさんを見ると、彼女はイタズラっぽく微笑んだ。

 僕は彼女に頷き返すと扉へ走り、ノックもせずに開け放った。


 バンッ!


 広い応接室の中には多くの人がいて、その視線が一斉に僕へ集中する。

 一方僕の目は、部屋の中央のテーブルに座っている三人へ引き寄せられた。

 そのうちの一人、僕に背を向けて座っていたエリネンがこちらを振り向いてニヒルに笑う。


「おータツヒト、戻ったんか。ほれ、遥々東南アスリアからのお客さん達やで」


 彼女が手で差した残りの二人は、目を見開いて僕を凝視している。

 一人は青い体色をした小柄な蛸人族(たこじんぞく)で、ビスクドールのように整った顔立ちが可愛らしい。

 もう一人は長身グラマーな白黒の鯱人族(しゃちじんぞく)で、整っているけど凶悪な顔つきをしている。

 およそ1年半ぶりに会う、懐かしい二人だった。


「アスル、カリバル! 久しぶり!」


 嬉しさを抑えきれずに駆け寄る僕に、アスルがにっこりと微笑む。


「うん、久しぶ--」


 が、彼女の台詞が終わる前にカリバルが椅子から飛び立ち、僕に向かってダイブしてきた。


「兄貴ー!!」


「おっと、もがっ……!?」


 慌てて彼女を受け止める。するとその豊満な胸部が顔に押し付けられ、心地よさに一瞬思考が吹き飛んでしまった。

 が、なんとか理性を総動員し、僕はそっと抱擁を解いた。


「カ、カリバル。なんかその、すっごい成長したね……! 見違えたよ!」


 いや、本当にびっくりした。彼女は元から発育は良かったけれど、最後に会った時は僕と同じくらいの背丈だったはずだ。

 それが今や、身長も胸部装甲もヴァイオレット様に匹敵する程になっている。これが成長期か。


「へへっ、だろ? 飯いっぱい食ったからなぁ。タツヒトの兄貴は変わらねぇなぁ…… 俺、兄貴に礼を言いたくて-- へぶっ!?」


 目に涙を浮かべて笑うカリバルが、横手から飛来した水塊によって吹っ飛んだ。

 アスルの水魔法だ。手練の戦士であるカリバルが反応できないほどの発動速度に、周囲に一滴の水も落とさない緻密な制御…… 相変わらず凄まじい技量だ。


「「カ、カリバル様ー!?」」


 部屋の中にいた数十人の集団から声が上がる。あっ。よく見たらこの子達、カリバルの取り巻きの鯱人族(しゃちじんぞく)だ。彼女達も遠路遥々来てくれたのか……

 ん? 数は少ないけど蛸人族(たこじんぞく)の人達もいる。彼女達は……?


「カリバル。その下品なものをタツヒトに押し付けないで。 --タツヒト、無事でよかった。会いたかった……!」


 僕の思考はアスルの台詞に中断された。彼女はととと、と僕に走り寄ると、少し背伸びをしながら僕を抱擁した。そして。


 キュパパッ……


 彼女の頭から生えた八本の触腕が、僕の首筋に喰らいつくように吸い付いた。


「ふあ……!? ぼ、僕も会いたかったよ、アスル。相変わらずカリバルに当たりが強いね……

 あと、この吸盤の吸い跡をつけるのって、あんまり褒められた行為じゃないって聞いたんだけど……」


 確か、こいつは自分の男だって主張する、マーキングのような意味だったんじゃ……?


「そういう側面もある。でも全く問題は無い。タツヒトはヴァイオレット達のものでもあるけど、私のものでもあるから。でしょ?」


 彼女は蕩然と微笑みながらそう答えた。蛸人族(たこじんぞく)故の四角い瞳は、深海を思わせる綺麗な青色をしている。けれどその奥には、黒々とした何かが渦巻いているような気がした。


「そ、そうかな? そうかも……」


 その圧力に押されるように頷くと、彼女は笑みを深めながら抱擁を解いてくれた。この、ちょっとスリリングな感じも懐かしいなぁ……


「ふふっ…… シャム。エリネンから呪いが解けたと聞いた。おめでとう。でも、シャムだけ大きくなってちょっと悔しい」


「アスル! また会えて嬉しいであります! アスルはあの日のままであります!」


 シャムがアスルを抱き抱え、嬉しそうにクルクルと回る。一方アスルの方はちょっと複雑な表情だ。

 カリバルと違って彼女の見た目は全く変わっていないので、もう成長期が終わってしまったのかもしれない……


「カ、カリバルちゃん、大丈夫……!? うーん…… しょっ!」


 一方プルーナさんは、アスルに吹き飛ばされたカリバルを助け起こしてくれていた。体格差がすごいので大変そうだ。


「いててっ…… ありがとよ、プルーナ。おめぇも変わらねぇなぁ。さて…… アスル! てめぇ!」


「わー、ちょっと待って! 一回落ち着いて! アスルも謝って!」


 大喧嘩に発展しそうだったので、僕は慌てて二人を仲裁した。そしてなんとか二人に椅子に座ってもらい、ここを訪ねてくれた事情を聞いた。


 アスルとカリバルの二人とは、シャムの部品探索でハルリカ連邦という国を訪ねた際に知り合い、色々あって物凄く仲良くなった。

 当時エース軍人的な立場だったアスルは、別れ際、後進を育成したら自分も『白の狩人』に合流すると宣言してくれていた。

 それでおおよそ育成の目処が立った頃、魔獣大陸に行っていた僕らと連絡が取れなくなってしまい、今がその時だと国を出たのだそうだ。

 この場にいる蛸人族(たこじんぞく)の人たちは、そんな彼女を一人で行かせまいと同行してくれた人達らしい。


 それでその際、カリバル達もしれっと付いてきたのだそうだけど、カリバル本人口を濁して理由を語ってくれなかった。単純に心配して様子を見に来てくれたって感じても無さそうだけど……

 さておき、今朝ようやく聖都に辿り着いた彼女達は、エリネンとおしゃべりしながら僕らを待っていたという訳だ。


 聖都と東南アスリアは直線距離でも一万kmほども離れているのに…… 本当にありがたい事だ。

 事情を聞き終えた僕に、アスルがずいと距離を詰めてくる。


「メームやエリネンから事情は聞いた。後進も育ったし、私達も神国に行く。私も側妃にして」


「あ、ありがとう! 僕からお願いしようと思ってたくらいだから、大歓迎だよ! よろしくね、アスル」


 よかった…… アスルが側にいてくれたらすごく嬉しいし、彼女は手練の水魔法使いだ。戦力的にもものすごく頼りになる。


「うん。ふふっ…… --あと不本意だけど、カリバルも話があるらしい。カリバル、もじもじしてないで早く話して」


 アスルは嬉しそうに微笑んだ後、冷たい声色でカリバルに声を掛けた。うーん、露骨に対応が違う。


「わ、わかってる……! 急かすんじゃねぇ!」


 カリバルは、暫くちらちらとこちらを伺った後、決心したかのように真っ直ぐに僕を見た。

 な、なんだろう。彼女の赤い顔と真剣な眼差しのせいか、こっちまでドキドキしてきた。


「な、なぁタツヒトの兄貴。俺らも、兄貴の国に付いてっていいか……? そんで…… お、俺も兄貴の側妃ってやつにしてくれ……!」


「--へ……? そ、それって……!? す、凄く嬉しいけど、どうして……?」


 面食らってしまい、そんな言葉が口を衝いた。

 アスルからは、その、明確にアプローチを受けていたので、彼女の提案はすぐに受け入れる事ができた。

 しかし、カリバルの事は可愛い後輩という感じに思っていたので、嬉しさと同じくらい戸惑いがあった。


「どうしてって…… 手下どもから聞き出したぜ。俺、とんでもねぇ事をしでかしちまったんだよな……? そんで今俺が生きてんのは、タツヒトの兄貴と海の神様のおかげなんだろ?」


 カリバルが神妙な様子で語った内容に、僕は息を呑んだ。


 ハルリカ連邦でのゴタゴタの際、カリバルは古代の生体兵器に寄生されてしまい、意に沿わず数多くの人々を殺めてしまった。

 そしてなんとか寄生体を除去した時には、負荷に耐えきれず、彼女の肉体は崩壊を始めていた。

 しかしその時、海を支配する勇魚の神獣(ナヒィル・イルフルミ)様が現れ、そのお力によりカリバルの肉体は再生を果たした。

 その後、意識を取り戻したカリバルは何も覚えていない様子だったので、この重すぎる事実は伏せておく事にしたのだ。


「そっか。気づいてしまったんだね…… ごめん、教えない方がいいって思ったんだ」


「謝んねーでくれ、立つ瀬がねーよ。 --俺は、元々兄貴の事は気に入ってたんだ。強ぇし、優しいし、美味いもん食わしてくれたからなぁ。

 兄貴がいなくなった後は、その、すげぇ寂しかったし、会いたかったんだよ…… その上、命まで助けてもらったと知っちゃあ、ほ、惚れねぇわけねぇだろ!

 俺、暴れるくれーしかできねーけど、兄貴の側にいてーんだ。礼儀作法が必要だってんなら、頑張って覚える……! だから…… 頼むよ、兄貴ぃ……」


 普段の粗暴な様子は鳴りを顰め、しおらしく不安気に僕を見つめる彼女。それは破壊的な可愛さだった。

 気づくと僕は、彼女の手を取って頷いていた。


「--ありがとう。その、僕なんかでよければ…… 一緒に居よう、カリバル」


「……! うぁ…… や、やった……! やったぜ! 兄貴ーー!! ぐへっ!?」


 嬉しそうに僕を抱きしめようとしたカリバルが、突如横合いから飛来した水塊によって吹き飛ばされた。

 既視感のある光景に呆然とする僕らを他所に、水塊を放ったアスルが冷たい声で言い放つ。


「--やっぱり腹立たしい。タツヒト。今からでも、カリバルの側妃入りを無しにできない?」


「で…… できないよ! カリバル、しっかりして!」


 今度は完全に伸びてしまったカリバルに、僕は必死に声を掛けた。


大変遅くなりましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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