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第463話 友、遠方より来たる:兎編(2)


 魔獣大陸から帰還して方舟に発つまでの間、何通も手紙をくれていたエリネンに、僕は自分達の無事を知らせる返事を出していた。

 ただ、エリネンはその手紙を受け取る前に魔導国を出たらしく、彼女もその部下の人達も魔獣大陸での出来事を知らない。

 なので僕は、その辺りから方舟墜落までの顛末を語り、その勢いのままタツヒト王が爆誕したところまで一気に話した。


「ま、待てタツヒト。つまりお前は、ネメクエレク神国の王になったと言うことか……!?」


「いや、それとか魔獣大陸やらにも驚きやけど、フラーシュゆう王妃さんに、ヴァイオレット達やろ? ひぃ、ふぅ、みぃ……

 タツヒトおまはん、な、七人と結婚したゆーことか!? どう考えても多すぎやろ……」


 メームさんは驚いて椅子からずり落ちかけ、エリネンはちょっと引いてしまっている。

 そんな彼女達に、僕は身を縮こまらせながら頷いた。


「えっと、王様の件はまだ内定で、フラーシュさん達ともまだ婚約の段階ですが…… はい、おおむねその通りです」


「「……!」」


 僕の言葉に、メームさんとエリネン達が絶句する。や、やっぱりそういうリアクションになるよね……

 僕もいろんな国を巡ったので、複数の王配を設けた女王は何人も知っている。けれど、七人も王配を設けた人というのはあまり聞いた事がない。

 吸精族(きゅうせいぞく)の国の女王は百人くらい男を侍らしてたけれど、あれは例外中の例外だし。


「ふふん! どうだにゃエリネン。借金奴隷だったウチが、今は一国の側妃だにゃ! にゃはははは!」


「いやゼル。あんたは一番お国に関わっちゃあかん奴やろ。国の金ちょろまかして博打に使うんが目に浮ぶわ……」


 エリネンの鋭いツッコミに彼女の部下の人達がどっと笑う。


「む。そんにゃ事しにゃいにゃ! 賭け事はちゃんと自分の小遣いの範囲でやるにゃ!」


 失礼にゃ! と怒ってみせたゼルさんだったけど、賭け事自体をやめる気は無いようだ。

 まぁ、彼女の博打好きは魂に刻み込まれているレベルだからなぁ。僕のもんむす好きのようなものだろう。 --ちょっと違うか。

 さておき、本番はここからだ。僕は緊張で背中が冷や汗に濡れるのを感じながら、おずおずと切り出した。


「あの、今の話をしておいて非常に申し上げにくいんですが…… メームさんとエリネンに、お願いというか提案というか、ご検討頂きたい事がありまして……」


 もごもごと本題に入れずにいる僕に、何かを考え込んでいたメームさんが顔を上げた。


「ん……? ああ、俺も側妃に、という話か? もしそうなら、もちろん謹んで受けさせてもらおう」


「--へ……? そ、そうなんです! ありがとうございます、その、これからもよろしくお願いします!」


 席を立ってメームさんの元に向かい、しっかりと握手を交わす。よ、よかった……

 王様とか婚約の件は、彼女には全く相談せずに決めたことだった。なので、今度こそ愛想を尽かされてしまうかもと怯えていたのだけれど、有難いことに杞憂だったらしい。


「ああ、こちらこそよろしく頼む。しかし、永きに渡って外界と関わりを断っていた天空の国か…… ふふっ、中々に開拓のしがいがありそうだな……!」


 メームさんは、そう言って楽しげに頬を歪めた。うん、商人らしい野心的な笑みも素敵だ。

 二人で見つめ合っていると、エリネンが上擦った声で待ったを掛けた。


「ちょ、ちょお待ったってや! メームさんはそれでええんか!? あんた、ええと…… タツヒトの八人目やぞ!?」


「うむ、構わない。俺は元々納得づくでタツヒト達と付き合っていたからな。むしろ、この流れで側妃に誘われなかったら泣いていたところだ」


「そ、そうなんか…… --ん? タ、タツヒト。おまはん、ウチにもお願いがあるとかゆーてたな……? まさか……」


 僕はエリネンに向き直ると、神妙に頷いた。もうこのまま突っ走るしかない。


「エリネン。一緒に、僕らの国に来てくれないかな……? その、エリネンが今の仕事を大事にしていて、僕がすごく我儘な事を言ってるのは分かっているんだけど、側にいて欲しいんだ」


「「--おぉ〜……!」」


 瞬間、エリネンの顔に朱色が差し、彼女の部下の人達が囃し立てるように声をあげる。僕も心臓の鼓動と冷や汗がやばい。


「あ、阿保ぅ! 八人も女はべらしたらもう十分やろ! しかも目の前でメームさん口説いといて、直後にウチを口説くやとぉ……!? 頭おかしいんちゃうか!?」


「うん、我ながらどうかしてると思う…… やっぱり、駄目、かな……?」


 エリネンの至極当然な指摘と、断られそうな気配に身勝手な涙が出そうになる。が、ここで泣いたらそれこそ最低なのでなんとか堪えた。


「……! い、いや…… あかんとは言うとらんけど…… その、ウチには地下街を守るっちゅう大事な仕事があるし、手下共をほっぽり出すわけにゃ……」


 急にトーンダウンしたエリネンの言葉に、彼女の副官のドナさんが手を上げた。


「あー、タツヒトの兄貴。さっきも言うたと思いますけど、今、地下街は人手が余りよるんです。あっしらが抜けても支障はおまへん。

 (かしら)も、家業を続けるか外に出るか、おまはんらの好きにしてええ言うとりましたわ」


「え…… ほんとですか!? でしたら、是非皆さんにも僕らの国に来て欲しいです!

 今、うちって手練の人達が全然足りてなくて、ドナさん達みたいに強い人達が来てくれたらすごく助かるんですよ」


「ほんまですか? そらよかった。こんな事もあるやろと思て、ここに来とるんは堅気に戻ろか思とる連中ばっかりなもんで。

 ほんなら、姉貴共々よろしゅう頼みますわ、タツヒトの兄貴!」


「ええ、こちらこそ!」


 ドナさんに続き、エリネンの部下の人達が揃って僕に頭を下げてくれた。見た目は怖いけど、めちゃくちゃ礼儀正しいんだよね、この人達。

 そして、僕も含めたみんなの視線は自然とエリネンへ集中した。

 今ので、彼女がさっき言った障害は全て取り払われた形だ。あとは彼女が受け入れてくれるかどうかだけど……

 エリネンは、僕らを見回しながら暫し百面相をした後、観念したように頷いた。


「わ、わかった。ウチの負けや…… 側妃にでもなんでもなったるわ……」


「あ、ありがとう……! よろしくね、エリネン!」


「ああ…… おまはんには敵わんわ、ほんま……」


 嬉しさのあまりエリネンの手を握ってブンブン振ると、彼女はそう言ってふっと笑ってくれた。


「プルーナ。あの状態を明快に表す言葉を知っているでありますか? あれは、惚れた弱みという奴であります!」


「ふふっ。知ってるよ、シャムちゃん。それって僕ら全員に当てはまるけどね」


 シャムとプルーナさんがそんな会話を交わす中、ふとメームさんの方を見ると、彼女は深く息を吐きながら体をぶるりと震わせていた。お顔もなんだか上気しているような……?


「ふぅぅ…… 好いた男が、目の前で自分以外の女に求婚する…… 良い、非常に良いな……!」


 彼女の小さな呟きが聞こえてしまい、僕とエリネンは顔を見合わせてしまった。


「な、なぁタツヒト。会うたばかりでこないな事言うた無いんやけど、このメームさん言う人、大丈夫なんか……?」


「--ごめん。それについてはあまり触れないでおいて欲しい。メームさんをあんな風にしてしまったのは僕で、全ての責任は僕にあるから……」


 本気で心配している様子のエリネンに、僕は己の罪深さに慄きながらなんとかそう返した。


金曜分です。大変遅くなりましたm(_ _)m

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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