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第462話 友、遠方より来たる:兎編(1)


 最近王様として頭を悩ませる事が多かったせいか、猊下に冒険譚を聞いてもらう時間は、こう…… すごく気持ちが楽だった。

 居心地が良すぎていつの間にか数時間が経過していて、僕らは長居を謝罪すると慌てて猊下の元を後にした。


 それで、次は聖都の知人の所に顔を出すつもりだったのだけれど、その予定は一部変更となった。

 聖都の大聖堂や街並みを目にしたフラーシュさんが、興味津々で気もそぞろな状態になってしまったからである。

 彼女は元々地上に強い関心があったし、今回初めての方舟の外に出たので無理もないだろう。目に映るもの全てが新鮮な様子で、お顔に観光したいと書いてあるような感じだった。


 そんな彼女の様子に僕らは協議し、一旦フラーシュさんに聖都を案内する組と、知人に顔を出す組の二手に別れる事にした。

 前者はヴァイオレット様、ロスニアさん、キアニィさんが付き添い、フラーシュさんが別名義で出した著作が並ぶ書店も案内するそうだ。ちょっとだけ心配……

 一方、僕、シャム、ゼルさん、プルーナさんの四人は、予定通り聖都に住む知人の元へ向かった。

 辿り着いたのは大通りの一等地に建つ立派な建物。今や聖都でも指折りの大商会、メーム商会の本店である。


「あ…… メームさん!」


 本店のドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたその姿に僕は思わず声を上げた。

 受付の方と何か話してたらしいその人が、弾かれたようにこちらを振り返る。

 ショートカットの似合う中性的な美貌に、柔らかそうな灰色の毛並み。ハイエナっぽい鬣犬人族(りょうけんじんぞく)のメームさんだ。


「タツヒト……! 待っていたぞ!」


 僕の方へ駆け寄り情熱的に抱擁してくれる彼女を、僕もしっかりと抱き返す。

 スレンダーな体型な彼女だけど、僕より結構背が高いので包み込まれるような安心感がある。


「ただいまです……! 来るのが遅くなってしまってすみません」


「謝らないでくれ。方舟の件は聞いている。無事に帰って来てくれただけで十分だとも。

 みんなもよく来てくれた。二週間ぶりだったか? 俺はまだシャムの姿に少し驚いてしまうよ」


「だにゃ。まぁ、前の時は急いでたからあんまし話せなかったけどにゃ。やっと一息つけだんだにゃ」


「ふふん。シャムの大人の体をもっと見て欲しいであります!」


 メームさんの言葉に、ゼルさんがにゃははと笑い、シャムがむんと胸を張る。

 僕とフラーシュさん以外の面子は、各国へ挨拶回りの際にメームさんと顔を合わせている。なのでメームさんは、シャムが元の体を取り戻した事や、方舟関連の経緯もあらかた知っている。

 けれど、僕が王様に内定したりフラーシュさんやヴァイオレット様達と婚約した事などはまだ知らない……

 それらの事をどう話そうかと迷っていると、メームさんが抱擁を解いた。ちょっと名残惜しい……


「あれからも大変だったようだな…… だが、隣国との調整が上手くいったからここに来てくれたんだろう? ん…… 所で他の連中はどうしたんだ?」


 僕らの背後に目をやるメームさんに、プルーナさんが言葉を選びながら答えた。


「えっと、実は例の貴人の方も聖都にいらしていまして…… 初めてみる方舟の外の世界に夢中だったので、今はヴァイオレットさん達が彼女に街を案内してくれているんです」


「……! なるほど、例の貴人が…… それは色々と事情がありそうだが、俺からも一つ知らせがある。

 --お前達の友人が、遥々魔導国からここを訪ねて来たぞ。つい先ほどな」


「え…… それって……!?」


 驚く僕らに、メームさんは悪戯っぽく微笑んだ。


「ああ、今応接室で待ってもらっている。こっちだ、ついて来てくれ」






 メームさんが案内してくれたのは、この建物の中でも結構大きめの応接室だった。

 ドアを開けると、中には兎人族(とじんぞく)が十数人、イカついスーツのような服装で椅子に座っていた。

 その中の一人、ピンク色の綺麗な毛並みをした兎人族(とじんぞく)の姿に、僕の心臓が跳ねた。

 ウサ耳をピンと立て、驚愕に大きな目を見開いている彼女に、僕は思わず走り出していた。


「エリネン!」


「タツヒト……!? 生きとったの--」


 椅子から立ち上がった彼女、エリネンを思い切り抱擁すると、彼女の方もおずおずと抱き返してくれた。

 周囲から囃し立てる声がするの中、僕は彼女の小さな体を抱きしめ続け、暫くしてようやく抱擁を解いた。


「--来てくれてありがとう! 確か二年ぶりくらいだよね? また会えてすっごく嬉しいよ……!」


「お、おぅ…… ウチもその、嬉しいわ。そこのメームさんから聞いとったけど、ほんまに無事らしいな…… 全く、心配したんやぞ?」


 エリネンは、ほんのり頬を染めながらニヒルに笑って見せた。

 この可愛らしい兎さんは、魔導国で幅を利かせている犯罪組織、夜曲(やきょく)の幹部さんだ。

 僕らがシャムの部品を求めて魔導国を訪れた際、一緒に地下街の警備をしたり、魔窟を攻略したりもした戦友でもある。

 最後に別れてからは手紙でやり取りしていたのだけれど、僕らが魔獣大陸に行っていた半年間はそれも途絶えていたので、心配してわざわざ様子を見にきてくれたのだろう。


「エリネン! ひっさしぶりだにゃ〜、おみゃー全然変わんねーにゃ!」


「本当であります! 懐かしいでありますねー…… ふふん、今はシャムの方が背が高いであります!」


「ゼル、おまはんも変わらんなぁ…… そんでその声…… まさかシャムか……!? そっかぁ、それが元の姿ってやつかぁ。良かったなぁ……

 ん……? シャムもそうやがプルーナ。おまはんもなんか雰囲気変わったなぁ……? こう、大人びたっちゅうか……」


 エリネンにそう言われたプルーナさんは、僕の方をちらりと見てから顔を赤らめた。


「え、えへへ…… わかりますか? その、大人にしてもらいました。シャムちゃんと一緒に……」


「……! そ、そう言うことかいな…… まぁ、二年も経っとるからなぁ……」


 エリネンが愕然と目を見開き、僕と、シャムとプルーナさんの二人を見比べる。そ、その言い方はとても気まずいよ、プルーナさん……


 会話が途切れた所で、他の兎人族(とじんぞく)の人達が椅子から立ち、僕らに頭を下げてくれた。

 あ…… よく見たらエリネンの部下の人達じゃないか。その中でも特に筋肉質なお姉様、エリネンの副官であるドナさんが僕らを見て安堵したように笑う。


「タツヒトの兄貴達、お変わりあらへんようで安心しやした」


「ドナさん、それに皆さんも! お元気そうで良かったです。地下街の警備で忙しいでしょうに、遠いところをありがとうございます」


「何、最近は地上の連中も手伝うてくれるんで、結構暇なんですよ。なんで、(かしら)も自由にしてええぞって言いよんのに、エリネンの姉貴ときたら……」


「そうですよ。普段はあんなに強うて格好ええのに」


「なぁ? なんで色恋沙汰だけは、こう……」


「お、おい、おまはんら! いらん事言うなや!」


 部下の人達の言葉にエリネンが怒鳴る。彼女達のこのやり取り、懐かしいなぁ……

 微笑ましいなと思って彼女達を眺めていると、メームさんがすすすと近づいて耳打ちしてきた。


「タツヒト。例の貴人も来ているそうだし、今日は何か重要な話があるんだろう? 急ぎでなければエリネン達が帰った後の方がいいだろうが……」


「--いえ。是非彼女にも聞いてもらいたい話なので…… エリネン、ちょっといい? 連絡が取れなかった間の事とか、色々話したい事があるんだけど……」


「あん? ああ、そんならウチも聞かせて欲しいくらいやわ。なんや大変だったらしいなぁ?」


「うん、まぁね…… それじゃ、みんな席についてくれる? ちょっと長い話になるから……」


 応接室の椅子に座ったみんなに、僕はここ半年ほどの出来事を話し始めた。


木曜分です。大変遅くなりましたm(_ _)m

お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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