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第046話 籠城戦(1)


 大狂溢(だいきょういつ)が始まってしまった。

 村長の言葉を聞きながらも、僕は魔物の群れから目を離せずにいた。

 多くは小型で位階も低いゴブリンやクウォルフ、コボルトだろうか? そんな連中ばかりだ。

 でも、おそらく彼らの背後にはもっと位階の高い魔物達が控えているんだろう。そいつらが押し寄せてきたら……


 「お前ら! すぐに顔を引っ込めろ、気配を消せ!」


 村の外の様子を防壁の上から呆然と見つめる冒険者達に、村長が小声で怒鳴る。

 それを聞いたみんなはすぐに頭を下げながら地面に降り始め、僕と村長も防壁の上から地面におりた。

 防壁の近くに集まった僕と冒険者達を村長が手招きして集めて、またしても小声で話始めた。


 「始まっちまったもんは仕方ねぇ。今からじゃ俺らはともかく、普通の連中はぜってぇ領都まで持たねぇ。籠城戦だ。

 今ここにいる連中は壁の近くで息を潜めて、万が一魔物が壁を乗り越えてきたらすぐに始末してくれ。 --リゼット、クロエ」


 「な、なんだよ親父」

 

 「はい、父さん」


 突然名前を呼ばれて義理の姉上達がびっくりしている。


 「オメェらは避難誘導だ。村ん中を回って全員に、……大狂溢(だいきょういつ)が起きたことを知らせろ。

 籠城して過ぎ去るのを待てば大丈夫だともな。その後は教会に避難させろ。あそこが一番頑丈だ。 --頼んだぞ」


 「……わかったよ。やってやらぁ」


 「行きましょう、姉さん」


 みんなが見送る中、二人は直ぐに村の奥へ走り出した。

 きっと村長自身、籠城してなんとかなるとはあまり信じていないだろうに……

 

 「よし、長丁場になる。交代で休憩を取り、森に面した壁際を見張るぞ。幸い、うちの村と大森林との間には馬鹿でかい湖がある。もしかしたら、アホな魔物は全員そこで溺れてくれるかもしれねぇなぁ」


 周りの冒険者の人たちの表情は一様に暗く、村長の精一杯の冗談にも乾いた笑いしか起きなかった。


 それから村の人たちが教会に避難するのを横目に配置に着き、壁を監視し始めた頃、魔物の声も大分近くに感じられるようになっていた。

 みんなでかたずを飲んで見守る中、ついに魔物の村の先頭が村の防壁に接触した。


 「「ギャアオオオオオオッ!!」」


 ……ガンッ、グチャ、ガガガガガンッ!


 無数の魔物達の発狂したかのような大合唱と、防壁を叩く音や、肉が潰れる音がなん度もなん度も、終わりなどないかのように響き続ける。

 幸いまだ防壁を乗り越えてくるやつはいないみたいだけど、この状況で籠城戦て、かなり応えるなぁ。






 人間は適応する生き物であるからして、どんな環境でも意外に慣れてしまう物である。

 村の外から聞こえる地獄のような騒音にも1時間ほどで慣れてしまった僕らは、呑気に世間話を始めていた。


 「やれやれ、全く大変なことになったなぁ」


 小声で愚痴るイネスさん。あ、そういえば。


 「そういえばイネスさんて、なんでこの村付きの冒険者をしてくれてるんですか? 正直、あんまり実入りのいい仕事じゃないと思うんですけど……」


 この村付きの冒険者の人たちのお仕事は、主に木こりの人たちの護衛や、村そのもの警備だ。

 そうすると、魔物を倒して素材を掃いだりする機会にもそれほど恵まれないので、普通の討伐やら護衛任務に比べて位階もお金も稼げない。

 その分報酬がいいのかというとそんなこともなく、正直、イネスさん達のような実力のある人達がこの仕事をしてくれていることに疑問があったのだ。

 

 「あぁ、それね。まぁ休暇みたいなもののつもりだったんだよねぇ」


 「休暇、ですか?」


 「うん。この依頼の前に受けた討伐依頼で結構酷い目にあってねぇ。幸い死人は出なかったんだけど、パーティーメンバーで話し合って、しばらく実入りが少なくてもいいから安全目な依頼を受けようって話になったんだよ」


 「なるほど。確かに、普通だったらこの村付きの冒険者はその条件に合致しますね」


 「普通はね…… もちろん私たちが来た当初はこんな感じじゃなくて、平和なもんだったよ。ねぇ?」


 イネスさんが他のパーティーメンバーに話を振る。


 「そうだったな。戦うのも週に一回か二回で、相手も大体ゴブリンか、強くてもホブとかオークぐらいだったな」


 「これでお金もらっちゃっていいのー? って感じでしたよねー」

 

 え、なにそれ、僕が知ってるベラーキ村と違うぞ。

 びっくりした表情をしていると、それを見たイネスさんがくすくす笑う。


 「驚いただろう? こんな感じで、タツヒト君が来る前は結構楽にやらせてもらってたんだよ。

 それが大狂溢(だいきょういつ)に遭遇するなんて、人生ままならないよねぇ」


 「本当ですねぇ…… っと」


 ゴブリンが一匹、防壁の淵に手をかけてこちら側に入ろうとしているのが見えた。

 対処しに向かおうとしたところ、視界外飛んできたものすごい勢いの投石がゴブリンの頭を吹き飛ばし、残った体の方はそのまま力無く壁の向こう側へ落ちていった。

 投石の発射元を辿ると、やはりというかボドワン村長だった。

 彼はフンと鼻を鳴らすと、地面からまた石を拾って辺りを警戒し始めた。もう村長一人でいいのでは……?


 「……理由といえば、ボドワン村長もその一つかな」


 イネスさんが僕と一緒に村長を見ながら言った。


 「はい?」


 「この村に来た理由さ。見ての通り村長強いだろう? 彼は現役時代黄金級で、しかも珍しい男の冒険者だったからね。かなり有名だったんだよ。そ

 の彼が仕切ってる村ってのを見てみたかったのもあるね。あたし達もいつかは引退するわけだから、人生の先輩から何か学びたかったのさ」


 「なるほどー。それで、何か学べましたか?」


 「あぁ、彼をみていてわかったよ。強ければ大抵のことはなんとかなる!」


 そ、それは確かに厳然とした真実ですけど…… 本当脳筋な人ばっかだな、この世界。






 それからも何度か魔物が防壁を越えそうになったけど、村長や、真似をした僕の投石によって撃ち落とされた。

 一匹だけコボルトの侵入を許してしまったけど、いつもより気合いの入ったリゼットさんにすぐに首を刎ねられていた。

 そうして数時間ほど経った頃には、防壁の外から聞こえてくる魔物の声や防壁に衝突する音がだんだんと控え目になってきた。

 あれ、これもしかして収まってきたのか?


 「村長、なんだか外の様子が落ち着いてきてませんか?」


 ちょっと離れたところにいる村長に話しかけると、彼は防壁を睨んだまま答えた。


 「あぁ。だが、最初の波が収まっただけだろう」


 「最初の波、ですか?」


 「オメェも森に入ったことがあるからわかるだろうが、森の淵あたりにいるのは、普通は今押し寄せてるような小粒の魔物だ。

 だが、森に深く潜るほどに魔物は手強くなっていっただろ? 大狂溢(だいきょういつ)で魔物が押し寄せてくるのも、最初は森の淵にいる小粒の奴らからってことだ。要するに--」


 「「グラァァァァァッ!!」」


 村長のセリフを遮り、今までのものよりも腹に響く魔物の叫び声が聞こえた。


 「--これからが本番てこった」


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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