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第450話 火竜将軍アグニディカ(2)


 まずい……!

 アグニディカが薙ぎ払うように放った火炎ブレスには、階下の僕ら全員を焼き殺すのに十分過ぎる熱量が込められていた。

 前衛組のみんなはおそらく回避できる。でも、後ろのみんなはきっと防御が間に合わない……!

 僕は咄嗟に後衛組への射線に割り込み、眼前に迫る業火に干渉を試みた。


火よ(イグニス)!』


 ゴバァッ!


 干渉を阻む鉛のように重い感触。しかし、何とか業火を散らす事に成功した。

 急いで後ろを振り返ると、幸い後衛組は全員無事だった。みんな心底ほっとした表情をしている。


「す、すみません……! 助かりました、タツヒトさん!」


「うん! プルーナさんはまず防壁を! 他のみんなはそこから援護を!」


 視線を前に戻すと、他の前衛のみんなもブレスの回避に成功していた。その事に安堵の息を吐いた後、僕はすぐに顔を引き攣らせた。

 奴のブレスで炙られた石造りの床が、まるでマグマのように溶けて赤熱化していたのだ。

 やはり凄まじい熱量……! 前衛でも直撃したら無事では済まない。

 部屋の温度は急激に上昇して暑いくらいなのに、背筋には冷たい汗が流れた。


「貴様…… 万能型の火魔法使いか…… 下等生物のくせに生意気な……!」


 ブレスを防いだ僕を、アグニディカは嫌悪感たっぷり見下ろしている。結構感情的なタイプらしい。 --よし。


「ははっ…… いいの? そんな風に言って。 --お前は、今からその下等生物に倒されるのに」


「--(ごみ)め……! 決めたぞ。貴様は私が手ずから八つ裂きにし、その小賢しい脳髄を喰らってやるとしよう…… はぁっ!」


 挑発に青筋を立てたアグニディカが、階段から跳ぶように襲いかかって来た。

 僕は奴の怒りに任せた刺突を紙一重でよけ、隙だらけな喉元へと槍を突き込んだ。

 鎧には刃が立たなかったけど、生身の部分ならどうだ……!?


 ギャリッ……!


 しかし、槍に帰ってきたのはまたしても硬い感触。僕の槍はほんの少しだけ奴の肌を傷付けただけだった。嘘だろ……!?


「痛っ……!?」


 驚愕する僕に対し、アグニディカは大袈裟なほど大きく後ろに下がった。そして自身の首に手やり、赤く染まった指先を見て目を見開いた。


「この私の肌に傷を……!? 許さん…… 絶対に許さんぞ!!」


 さらに激昂し、放射光を強めるアグニディカ。その強烈な殺気に後退りそうになる僕の元へ、前衛のみんなが集まってくる。


「よくやったタツヒト! あの女の防御も無敵ではないという事だ。鎧を避けて渾身の一撃を打ち込む…… そうすれば勝てる!」


「ヴァイオレット様…… そうですね……! すみません、少し怖気付いてました!」


「でもわたくしとゼルの攻撃では、鎧を避けても有効打にならないでしょうねぇ……」


「しょうがにゃいにゃ、ウチらはあの女をかくらんしてやるにゃ。ほら、来るにゃ!」


「グルァァァァッ!」


 竜の咆哮を上げて突進してくるアグニディカに、キアニィさんとゼルさんが側面から回り込み、僕とヴァイオレット様が正面から迎え打つ。

 しかし、受けを捨てたような怒涛の攻めと、それを可能とする異様なほどの防御力に、僕らは攻め切ることが出来なかった。

 雷撃も試してみたけど、金属の鱗鎧(スケイルアーマー)に電流が逃げてしまうせいか、あまり効かなかった。


 一方、後衛のみんなの援護射撃や妨害には一定の効果があった。けれど、それによって生じた隙をついても、相手には文字通り擦り傷程度しか与えられない。

 状況は八対一でこちらの圧倒的有利…… だと言うのに、アグニディカは僕らと互角以上に戦っている。

 強い…… あの金色(こんじき)の槍の力も大きいんだろうけど、竜王の側近だけのことはある……!


「ふふっ…… はぁー、はっはっはぁっ!! どうだ!? どれだけ貴様らが小細工を弄そうとも、この私には無意味! 大人しく蹂躙されるがいい!」


 アグニディカによる何度目かの渾身の打ち下ろし。それを受けたヴァイオレット様の武器が、大きく軋んだ。そして。


 ギィンッ……!


「くぅっ……!?」


 斧槍(ハルバート)()が真っ二つに切り裂かれ、さらにヴァイオレット様の肩に槍が深々と食い込んだ。


「ヴァイオレット様!?」


 しまった…… 最初に奴の延撃(えんげき)を相殺した時から、武器にダメージが蓄積していたんだ……!

 --駄目だ。竜王の前に魔力を温存しておきたかったけれど、もう出し惜しみなんてしていられない……!


「ははっ……! 死ねぇ、この駄馬がぁ!!」


 追撃を加えようと笑みを深めたアグニディカが、再び金色(こんじき)の槍を振りかぶる。

 その瞬間、地を這うように間合いを詰めた僕は、奴の武器を握る腕めがけて槍を切り上げた。


 ジュゥンッ!


 振り抜いたその手に、先程までのような硬く押し返される感触は無く、殆ど抵抗は感じなかった。

 ほんの一瞬。刹那の間だけ発動させた万物を断ち切る風の刃、都牟刈(つむかり)は、アグニディカの手首の腱を切り裂いていた。


「あ……?」


 これまで追い詰められた経験などないのか、奴は呆けたような声を出しながら、自身の手から落ちていく金色(こんじき)の槍を眺めている。

 対して、百戦錬磨の戦士であるヴァイオレット様は、自身の取るべき行動を分かっていた。

 彼女は破壊された自身の武器から手を離すと、落ちてきた金色(こんじき)の槍をしっかりと握った。


「--ぜぁっ!!」


 ザンッ!


ヴァイオレット様が振るった金色(こんじき)の槍は、アグニディカの胴体に横一文字の深傷を刻んだ。


「が…… がはっ……!? き、きざま……!」


「防御力が戻った……! 畳みかけます!」


「「応!!」」


 武器を奪われ、その身から金色(こんじき)のオーラを失った奴は、殺到する僕らを見て恐怖の顔を引き攣らせた。


「ひっ、ひぃ……!」


 ゴォッ!!


 次の瞬間。奴と僕らの間に巨大な炎の壁が出現した。慌てて僕がそれをかき消すと、奴の姿はもう無く、最上階への階段に点々と血の跡が残っていた。


「逃げ足の疾い……! うっ……!?」


 すぐに後を追おうとしたヴァイオレット様が膝を突いたので、慌ててその体を支える。


「無茶しないで下さい……! まずは体勢を立て直しましょう! みんな、集まって!」


 即座に全員が集まり、ヴァイオレット様と僕を囲んだ。


「こ、こんなに血が…… 死なないで、ヴァイオレット氏!」


「先生、心配ありません。この程度の傷……」


 笑顔で強がるヴァイオレット様に対し、フラーシュさんは血の気の引いた顔で目に涙を溜めている。僕だって泣きそうだけど、まずは治療だ……!


「前衛の皆さんは、ヴァイオレットさんの近くに集まって下さい! 一気に治療します! --『神聖回復(カドーシュ・ヤハス)!』」


 ロスニアさんの強力な神聖魔法の光が迸り、

ヴァイオレット様の深手が見る見る内に塞がっていく。

 そしてほんの十数秒程で、僕も含めた前衛全員の傷が完治してしまった。相変わらず頼りになる……!


「ありがとうございます、ロスニアさん! ヴァイオレット様、行けますか……!?」


 そう声をかけると、彼女は不敵に笑ってしっかりと立ち上がった。


「無論だ……! 急ごう! アグニディカが回復し、竜王に加勢してきたら厄介だ!」


「了解です……! 行きましょう、最上階へ!」


「「応!!」」


 アグニディカの血の跡を追うように、僕らは階段を駆け上がった。

 そして(ぬし)の部屋を区切る虹色の光のカーテンを抜け、最上階へと足を踏み入れると--


「ガァァァァァァッ!?」


 僕らを迎えたのは、アグニディカの苦悶に満ちた絶叫だった。


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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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