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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
3章 森の異変

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第045話 パーティーの始まり


 領都への避難を明日に控えた日。僕は護衛や農作業の手伝いもないので、朝からぷらぷらと村の中を散歩していた。

 村の様子を見るに、多くの人はすでに荷造りを終え、家の補強と戸締りの準備をしているようだ。

 話に聞く大狂溢(だいきょういつ)の前では家の補強なんてほとんど意味はなさそうだけど、やらずには居られないんだろうな。

 僕はというと、魔法の修行も順調だし、髭剃りで稼いだお金は大半を領都の商会に預けているので荷物も少ないし、村長宅の補強も終わったしで準備万端だ。

 だけどしかし、なんとも素直に喜べたない。


 「なんとか、エマちゃんを元気付けられないかなぁ……」


 ボドワン村長が村から領都へ避難することを告げた日から、エマちゃんは目に見えて元気をなくしていた。

 いつもは会うと好意100%の笑顔で突撃してくるような子なのに、最近はぼんやりとしていてほとんど笑顔が無い。

 ヴァイオレット様もかなり気にかけていたけど、あの方は今この村にいられるほど暇じゃない。

 エマちゃんからしたら、物心つくかつかないかくらいの頃から住んでいる村だろから、大人達に比べてもなおのこと辛いんだろうなぁ。

 そんなこと考えながら歩いていたせいか、いつの間にか酒場兼冒険者宿舎、エマちゃんのお家の前に来てしまっていた。


 「……ちょっと様子を見ていこうか。何か手伝えることもあるかもだし」


 僕は酒場の扉を開けた。


 「おはようございまーす」


 入ってすぐの酒場スペースでは、我が義理の姉上達やイネスさんを筆頭とした、冒険者のお姉様方が飲んだくれていた。


 「んー? よう弟、今日はあほ面に加えてしけた面までしてんなぁ。クソでもふんづけたのかぁ? ギャハハハッ」


 ムカッ。リゼットさん、まだ日も高いのに出来上がってら。


 「リゼット姉さんは、いつでも気楽そうでいいですね」


 思わず刺々しい対応をしてしまった。


 「んだとっ…… え、今姉さんて言ったか?」


 「クロエ姉さん、エマちゃんは奥ですか?」


 「え? はい、奥でダヴィドさんを手伝っていると思いますよ?」


 「わかりました、ありがとうございます」


 僕はクロエさんにお礼を言って奥の厨房の方へ向かった。


 「な、なぁ。今あいつ姉さんて言ったよな?」


 「えぇ、初めてですね。なんだか悪くない気持ちですね」


 なんか後ろから聞こえるけど気にしないでおこう。


 「あら、タツヒトくん、いらっしゃい。どうしたの? こんな早い時間に」


 「レリアさん、おはようございます。何か手伝えそうなことはないかなーと思いまして」


 厨房の前にはエマちゃんの亜人の方のお母さん、レリアさんが座っていた。

 手に持っているのは毛糸と編み棒だろうか?

 彼女は今妊娠中で会うと大体しんどそうにしてたけど、今日は体調が良さそうだ。


 「あら、ありがとうね。ダヴィドが持ちきれない食材を全部使ってしまおうって張り切ってたから、様子を見てもらえるかしら?」


 「はい、わかりました。あの、ところでエマちゃんは元気ですか?」


 「……元気、とは言えないわねぇ。でも、タツヒトくんが顔を見せてくれたら、きっと元気になるわよ。ダヴィドと一緒にいるから、ちょっと気にかけてくれると嬉しいわ」


 「そうですか……  わかりました! 頑張ってみます」


 レリアさんの脇を通って厨房に入ると、ダヴィドさんが大量の食材を前に考え込んでいた。

 エマちゃんはというと、ダヴィドさんの隣に座って無表情に足をぷらぷらさせている。


 「エマちゃん、ダヴィドさん。おはようございます」


 「おはよ…… タツヒトお兄ちゃん」


 うぅ、エマちゃんのそっけない反応が心に痛い。

 うーん。ちょっと突破口が思いつかない…… まずはダヴィドさんのお手伝いをしてしまおう。

 

 「あぁ、タツヒト君。おはよう。今日はどうしたんだい?」


 「ダヴィドさんが張り切っていると聞いて、お手伝いしに来たんですよ」

 

 「そうかい、ありがとう。いやー、持っていけそうも無い食材が大分余っていてね、どうするか今考えていたところなんだよ」


 「なるほど。見ていいですか?」


 「あぁ、もちろん」


 厨房のテーブルには、猪っぽい肉の塊、キャベツ、ニンニク、しょうが、玉ねぎなんかが大量に乗っていた。

 あれ、この材料だったら餃子が作れるかも。

 そうだよね。小麦粉もあるから皮も作れるし、なんなら片栗粉もあるから羽つき餃子にできるはず。

 醤油がないのが痛いけど、ワインビネガーと塩と胡椒で十分美味しく食べられるはず。

 

 「あっ」


 思わず声が出た。

 そうだよ。元気付けるには楽しいイベント、すなわちパーティーが必要だ。


 「ダヴィドさん、この食材全部僕に売ってもらえませんか?」


 「えぇ? 構わないけど、一体どうするんだい?」


 「それはですね…… エマちゃん」


 「……なぁに? タツヒトお兄ちゃん」


 一瞬間を置いてから返事をするエマちゃんに挫けず、僕は提案した。


 「一緒に餃子パーティーしない?」





 

 「ギョウザパーティー?」


 「はい! お代は僕が持つので、ぜひ参加してください!」


 酒場で暇していた人達も巻き込んで、突発的に餃子パーティーが始まった。

 餡と皮は厨房の方で身体強化を使ってなんとか準備した。頑張った……


 「こんな感じで、皮に餡を入れて閉じてくんですよ」


 僕が手本を示すと、みんなどれどれとやり始める。

 ちまちまちま……


 「お、エマちゃん流石に上手だねー」


 「……そう、かな? ちょっと楽しいね、これ」


 「こんな形のもできるんだよ?」


 僕が変わった包み方を披露するとすかさず真似をするエマちゃん。

 だんだんテンションが上がってきたようだ。


 「タツヒトお兄ちゃん、みてみて! 上手に包めたでしょ?」

 

 「おぉ、すごい! さすがエマちゃん。もう僕より上手だね」


 「でへへー、えっへん!」


 「ぐっ…… くそっ、うまくいかねぇ」


 リゼットさんの声に振り向いてみると、もうぐちゃぐちゃだった。


 「あははは、リゼットお姉ちゃんへたっぴー!」


 「うっせぇ、笑うんじゃねぇ!」


 そんな感じでみんなで楽しく餃子を作り、僕は金に物を言わせて作ってもらった鉄フライパンでどんどん餃子を焼いた。

 ちょっと不安だったけど、焼き上がった餃子は大好評だった。

 そしてみんなで餃子を食べる頃にはエマちゃんはいつもの笑顔に戻っていて、それを見たご両親もとても良い表情をしていた。






 餃子をたらふく食べ、後片付けも終わり、僕らは食後のお茶を飲み始めた。

 そして和やかな雰囲気で、美味しかったねーとか、また作ろーなんて、ものすごく平和なおしゃべりをする。

 エマちゃんも笑顔になってくれて、他のみんなも楽しんでくれたみたいだし、大成功だな。

 そんな風に穏やかな気持ちで過ごしていたその時、それは始まってしまった。


 「「ァァァァッ……」」


 酒場にいた僕と冒険者の人達が一斉に停止した。

 村の外、森の方角から微かに聞こえてきたのは、何匹もの魔物の雄叫びが折り重なっな声だった。


 「え、みんなどうしたの?」


 エマちゃんが不思議そうに首を傾げるけど、それに応える余裕はなかった。


 「……イネスさん」


 「あぁ、本当に嫌だが、確かめに行こう」


 そう言って、異変に気づいた全員が一斉に酒場を出て門の前に駆けつけた。もちろん全員獲物を手にしている。

 すでに物見台には人がいっぱいで、登れるスペースは無さそうだった。

 仕方ない。僕は物見台の近くの壁から一旦離れ、助走をつけて跳躍した。

 そのまま高さ5mほどの村の防壁の縁に手を掛け、体を引き上げた。


 そして視界に飛び込んできた光景に絶句した。

 森から、本当に数え切れないほどの魔物が湧き出していたのだ。

 視界の端から端までを占める広大な大森林、そこから余すことなく無限に湧き出すかのように、奴らは押し寄せてきていた。


 ガッ!


 数秒間停止していた思考が、すぐそばでなった音に引き戻された。

 音の方向を見ると、そこには村長がいた。

 僕と同じように村の防壁の上に飛び乗ったらしい。


 「村長、これは……」


 「あぁ。くそっ、早すぎる…… あと一日だったってのに! --大狂溢(だいきょういつ)だ」


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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