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第449話 火竜将軍アグニディカ(1)


「「……!」」


 徐々に階段を下ってくる強い気配に、全員が体を緊張させた。

 最上階からは依然として次元の異なる強烈な圧力が感じられる…… つまり、今降りて来るのは竜王とは別の強者ということになる。

 くそっ…… 竜王の気配が強過ぎて分からなかった。肌が泡立つこの感じ…… 確実に紫宝級(しほうきゅう)だ……!

 階下から固唾を飲んで見守る中、そいつはようやく僕らの前に姿を現した。


「ふむ…… 特に異常は無いようだな」


 それは燃えるような赤毛の美女だった。階段の中程に立ち止まり、尊大な様子で門番達を見下ろしている。

 額に生えた角や尻尾、豪奢な鱗鎧(スケイルアーマー)の隙間から覗く鱗…… 竜人族(りゅうじんぞく)にも見えるけど、あの凶暴な気配は間違いなく魔物だ。

 おそらく竜種を人化させた眷属だろう。でも、竜種って元から賢いのに、なんでわざわざ人化させたんだ……?

 竜王が魔物を人化させるのは、知能を上昇させて、配下として使い易くするためだと思っていたけど……


「アグニディカ将軍、お疲れ様です」


「はっ。問題は発生しておりません」


 身長2mを超える食人鬼(オーガー)型の眷属達が、自分達より体格の劣るその女に深々と頭を下げた。

 アグニディカ、将軍か…… どうやらあの竜種の眷属は、竜王配下の中でも相当上位に位置するようだ。

 アグニディカは、門番達の返答につまらなそうに鼻を鳴らした。


「ふん、そうだろうな。ところで、私と竜王様はこれから重要な話がある。分かるな……?」


「--はっ、承知いたしました」


「では、暫く階層の入り口周辺を警部致します」


「うむ」


 そんな不可解なやり取りの後、門番達は階段の前を離れて行き、アグニディカ将軍も(きびす)を返して階段を登り始めた。


「重要な話…… わざわざ警備を遠ざるほどの……?」


 僕が首を傾げていると、後ろからゼルさんがのしかかって来た。


「にゃふふ…… タツヒト、そんにゃの決まってるにゃ。あの(おんにゃ)と竜王が、今からしっぽりやるためだにゃ……!

 見てみるにゃあの(おんにゃ)、すけべそーな体してるにゃ」


「え……!? な、なる、ほど……?」


 彼女の発言のせいか、僕は先ほどと違った意識でアグニディカを見てしまった。

 確かに、鎧の上からでも分かる程にスタイルが良い。なるほど、今から……


「タツヒト…… 視線が、敵、アグニディカ将軍の臀部に固定されているであります。シャムは、ちょっとどうかと思うであります……」


「あ…… ご、ごめんシャム……! --うん。ほんと、こんな時にどうかしてるよね……」


「にゃはっ。シャム、許してやるにゃ。もうかれこれ一ヶ月以上ヤってにゃいからにゃぁ。ウチもそろそろ限界だにゃ…… ペロッ」


「わひっ……!? ちょっ、ゼルさん……!」


 彼女に首筋をざらりと舐められ、思わず変な声が出てしまった。そんな僕らを見てキアニィさんがため息を吐く。


「はぁ…… あなた達、もう少し緊張感を持ちなさぁい…… --でも、これは好機ですわねぇ。少し待って、最中に仕掛けることができれば--」


「待て……! みんな静かに……!」


 ヴァイオレット様の鋭い声に、緩んでいた雰囲気が一気に引き締まる。

 視線を階段のほうに戻すと、アグニディカは視線は前に向けたまま、次の段に足を掛けて立ち止まっていた。

 彼女の手には、穂先の両脇に三日月型の刃が付いた、変わった形の金色(こんじき)の槍が握られている。

 --槍を持つ彼女の右腕。その腕が、ほんの僅かに緊張しているようにも見える……


「「…………」」


 僕らも、彼女も微動だにせず、誰も口を開かない。

 気付かれたのか……? いや…… 今の僕らは光学迷彩状態で、音も匂いも無く、気配も最小にしている。普通はよほどの手練でも気付かないはずだ。普通なら……

 暫く息の詰まるような時間が過ぎた後、アグニディカはようやく次の一歩を踏み出した。

 良かった、気付かれた訳じゃなかったようだ……


 そんな風に僕らの雰囲気が弛緩した瞬間。彼女は残像の生じる速度で振り向き、僕ら目掛けて槍を突き込んだ。


 ゾンッ!!


 穂先から迸った光の帯が、刹那の内に十数mの距離を奔り眼前に迫る。延撃(えんげき)……!

 圧縮された時間の中、かろうじて迎撃が間に合ったのは彼女だけだった。


「らぁっ!!」


 ギャァンッ!!


 裂帛の気合いと共に放たれたヴァイオレット様の延撃(えんげき)が、アグニディカの放った一撃を相殺した。

 すると凄まじい衝撃と共に光学迷彩が解除され、姿を現した僕らにアグニディカが目を見開いた。


「やはり居たか……! 貴様ら…… まさか人間か!? どうやってここまで--」


「作戦変更! 眼前の敵を排除し、即座に竜王を討つ!」


「「応!!」」


 号令と共に、僕とヴァイオレット様が階段の正面から、キアニィさんとゼルさんが左右から回り込む。

 三方から一瞬で距離を詰めて武器を振るう僕らに、アグニディカは不敵に笑い、金色(こんじき)の槍を掲げた。


不壊(ふえ)たれ! 黄竜角戟(アカンシュラム)!』


 ギギィンッ!


 アグニディカは、槍を掲げたままの状態で無防備に僕らの攻撃を受けた。

 しかし、必殺の意思を持って突き込んだ僕らの刃は、彼女の鱗鎧(スケイルアーマー)を貫通するどころか、傷一つ付ける事が出来なかった。


「「なっ……!?」」


「--ふんっ!」


 ガカァンッ!


 混乱しながらも何とかアグニディカの薙ぎ払いを受けた僕らは、そのまま彼女から距離を取った。

 何が起こってるんだ……!? 直前に、槍を掲げて何か詠唱していたように見えたけど……


「うっそにゃろ…… いくらにゃんでも硬すぎるにゃ!」


紫宝級(しほうきゅう)の強力な強装(きょうそう)だとしても、ちょっとおかしいですわねぇ……!」


 ゼルさんとキアニィさんが叫ぶ。同感だ。

 身体強化の技の一つ、強装(きょうそう)は、自身が装備している武具の強度を上昇させる事ができる。

 紫宝級(しほうきゅう)ともなるとその上昇率は驚異的だけど、アグニディカのそれは異常…… 何か絡繰があるはず……!

 必死に目を凝らして観察すると、奴の紫色の放射光に紛れて、その身をほのかな金色の光が包んでいるのが見えた。


「あの金色の光…… ヴァイオレット様、あれってもしかして……!?」


「ああ、おそらくあの槍の力だろう…… 強力な防御力強化の力か…… 厄介な……!」


 警戒度を高めながら階下で身構える僕らを、階段の中程にいるアグニディカは、実に不愉快そうに見下ろしている。


「--名乗りもせん下賎な猿どもめが……! 貴様らのような下等生物が、竜王様を討つだと……!?

 そのような蛮行、この火竜将軍アグニディカが許さん! この場で消し炭となるが良い! ガァァァァァッ!!」


 咆哮と共に、空気を焼け焦がす業火のブレスが僕らに降り注いだ。


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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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