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第044話 魔法使いの適正


 「そう、そのまま…… 息を吸うときに体の中を魔素がめぐり、息を吐く時に手に持った杖に魔素が流れ込むことを想像するんだ、繰り返し繰り返し、どんどん杖に魔素をを送り込むように」


 村の酒場の前の開けた場所、僕は杖を構えて瞑想のような状態になりながら、イネスさんの言葉に耳を傾けている。


 「繰り返し繰り返し、呼吸に合わせて魔素が動くことを想像するんだ。 ……! そう、その調子だよ! タツヒト君、目を開けてごらん?」


 イネスさんに言われてゆっくり目を開けると、僕自身から仄かな、やや橙色寄りの黄色い放射光が発されていた。


 「……できた! あ!?」


 集中が途切れた瞬間、放射光は収まってしまった。


 「おめでとう、タツヒト君。君には魔法使いの適性があるみたいだよ。いやー、バリバリの戦士型なのに魔法型の適正も持ってるって、かなり珍しいことだよ。確か、この国の紫宝級冒険者にも同じ体質、万能型の人が一人いたんだったかな?」


 「ありがとうございます! イネスさんのおかげです」


 「ははっ。お礼を言われるほどのことはしてないよ。しかし、放射光の色を見るに、君の位階はもう黄金級相当みたいだね。ちょっと早すぎるよ。君、まだ15歳とかでしょ?」


 「はい。でも、まだまだ目標には達せていません」


 「はいはい、全く健気だよね。ヴァイオレット様に教えてあげたいよ」


 「そ、それは勘弁してください」


 イネスさんと二人で一体何をしているのか。

 順を追って話すと、魔窟討伐から村に帰り、僕らは領都の避難受け入れが整うまでの間、村で待機することになった。

 待機中は、もちろん危険なので森に入ることは禁じられている。

 そうすると冒険者の人達は、木こりの人達の護衛が無くなって少し時間を持て余すことになる。

 でしたらとお願いできませんかということで、こうしてイネスさんから魔法の手解きを受けているのだ。もちろん報酬は用意してある。今日のお酒は僕の奢りだ。


 アルボルマンティス、アクアングゥイス、オーガー、これまでの戦闘経験から僕が導き出した結論は、魔法超つえぇといったものだった。

 できれば、いや絶対魔法を習得したいと意気込んでいたのだけれど、当時はかなり望み薄だった。

 通常、身体強化を扱える戦士型の人は、炎や石を出すいわゆる攻撃魔法を扱うことができないという前情報があったからだ。

 戦士型の人は、体質的に魔素を体外に放出することが苦手という理由かららしい。


 ただ、何にでも例外があって、戦士型と魔法型の双方の体質を兼ねる万能型の人も少ないながら世の中にはいるらしかった。

 僕は完全に身体強化バリバリの戦士型だったので、ほとんど望みはないと思っていたけど、幸い万能型の体質だったみたいだ。

 魔素を体外に放出できる魔法型の人ですら10人に1人くらいらしいので、かなり運に恵まれている気がする。


 魔法の修行は、イネスさんやロメール様に聞いて以前から瞑想やイメトレをしていたのだけれど、こうして今日成果が出て本当に良かった。

 今僕がやった光の放射は、魔法修行の最初の関門であり、魔法を使えるか否かの判別も兼ねるらしい。

 魔素自体は視認できないけど、生き物が魔法を使うときには位階に応じた色の光が放射されるそうなのだ。


 「よし、それじゃあ修行を続けようか。まだ魔素の放出量は少ないみたいだから、これまでの想像に放射光を強くことも加えていこう。一呼吸で石弾ラピス・ブレッドを打てるくらいになったら、魔法使いとしては一人前さ」


 「はい! よろしくお願いします、イネス先生」


 「う、うむ。任せたまえ」


 ちょっと得意げに返答してくれるイネスさん。ロメール様といい、みんな先生呼びが好きみたいだ。





 

 放射光を発現させた翌日の昼過ぎ、僕はイネスさんと一緒に村の門のところにある見張り台に来ていた。

 村の外の何も無いところに向け、イネスさんからお借りした杖を構えながら今日も放射光を発している。


 「……よし、打ってみなさい」


 『……石弾!(ラピス・ブレッド)


 僕が魔素を送り込みながら魔法名を発した瞬間、杖の先に石の弾丸が形成され、目にも止まらぬ速さで射出された。


 ヒュンッ…… バスッ!


 弾丸は村の外に広がる草原に着弾し、少し気の抜けた音を立てて穴を穿った。

 やった……! ついに魔法を撃つことができたぞ。

 あ、ほんのちょっと独特の脱力感というか、疲労感がある。これが魔素を消費した感覚か。


 「うん、よろしい! 昨日の今日で打てるようになるなんて、さすがだねぇ。まだ一呼吸で打てるほどでは無いけど、このまま練習すればすぐに私と同じくらいの速度で打てるようになるだろうね」


 「ありがとうございます! 先生がいいおかげですよ」


 「そうかい? ふふふっ」


 いや、ほんとにイネスさんのおかげです。

 それとこの杖に仕込まれた筒陣(とうじん)もありがたいよね。魔素を供給するだけで魔法が発動するのが便利すぎる。

 こちらもイネスさんからお借りしたものだから、やはり全てイネスさんのおかげだな。うん。


 「さて、魔素の放出に関してはこのまま練習すればいいけど、あとは並行して、君の得意属性も見つけていきたいところだね」


 「得意属性というぐらいなので簡単に見つけられそうですけど、難しいんですか?」


 「うん。意外とね」


 イネスさんの話によると、太古の昔、最初に魔法を発見した人達は、みんな極限環境で魔法に目覚めたという言い伝えがあるそうだ。

 例えば火の魔法。雪山で遭難して洞窟に避難した大昔のとある人物は、火を起こすための道具を持っていなかった。

 凍えるような寒さの中、暖かな焚き火を幻視してしまうほどに乞い願ったその人物は、運よく魔法型の体質と、火魔法への適性があった。

 まるでその人物の願いを叶えるかのように、目の前には薪もないのに燃え上がる火が現れていたそうだ。


 つまり、そのくらい極限状態になること、シチュエーションが自分の魔法適正に合致していることなどが必要になってくるので、意外にも自分の得意属性を知ることは難しいらしい。

 現代では、ある程度得意属性発見のためのノウハウが蓄積されているのだけれども、やはり発見するまでに時間を要するらしい。

 亜人の場合は、馬人族は風属性、山羊人族は地属性といった種族ごとの偏りがあるみたいだけど、只人の場合はあまりそういった偏りはないみたいだ。


 「と、いうわけで、得意属性に関してはおいおいかな。まずは石弾(ラピス・ブレッド)の発動時間が短くなるように頑張ろう」


 「はい!」





 

 『……石弾!(ラピス・ブレッド)


 あれから石弾(ラピス・ブレッド)を何度も打ち続け、そろそろ夕方になりそうな時間だ。


 「はぁ、はぁ、はぁ、流石に、疲れてきました」


 「ははっ、だろうね。今日はそろそろ終わりに…… いや、タツヒト君、今日このあと何か予定はあるかな?」


 「ふぅ…… いえ、もう夕方ですし、夕食を頂いて寝るだけですね」


 「そうかい。ふむ……」


 イネスさんは少し考え込み、一人で頷いてから僕に向き直った。


 「よし、今日の段階で体感しておいてもらおうか。ちょっと厳しく行くよ。今からできなくなるまで石弾(ラピス・ブレッド)を打ち続けるんだ」


 「えぇ……  もうだいぶへとへとですけど」


 「いいから先生の言うことを聞きたまえ。ほら、打った打った」


 急にスパルタに目覚めたイネスさんに渋々したがい、僕は石弾(ラピス・ブレッド)を打ち続けた。

 魔素を消費したことによる独特な疲労感が強くなり、ふらつきながらも打つことしばし。

 やがて限界を迎えた。


 『……石、弾!(ラピス ブレッド)


 ついには石弾(ラピス・ブレッド)は発射されなくなり、放射光すら出なくなってしまった。


 「イ、イネスさん、流石に、もう限界、です……」


 「うん、よく頑張った。それじゃあそうだな、今から急いで門のところにくよ」


 「うへぇ……」


 物見台の梯子を踏み外しそうになりながらなんとか降り、ヘロヘロと村の門に着いた僕に、イネスさんはさらに無慈悲な命令を下した。

 

 「さぁタツヒト君、この門を押し開けてみたまえ。もちろん、身体強化を使っていいよ」


 「は、はい〜……」


 村の門は、内から外に押し開ける構造になっていて、通常数人がかりで巻き取り機を使って開けるものだ。

 ただ、ボドワン村長や僕なんかは、本気の身体強化を行えば一人で押し開けることができる。

 門に両手をつき、いつも通り押し開けようとしたけど…… あれ、おかしいな。

 門が、ぴくりとも動かない……! あれ、なんで?


 「動かないだろう? 君や村長なんかがとんでもない膂力や頑丈さを発揮できるのも、魔素を使った身体強化によるものなんだ。だから、当然体内の魔素が切れたら身体強化も使えなくなる」


 「な、なるほど、それ体感させるために、あんな無茶なことをさせてたんですね」


 「ははは、ごめんよ。こればっかりは体感してもらわないと伝わらないだろうからね」


 「いつもの身体強化が使えないとすごく心細くなりますね…… この状態って、身体強化を使い続けても起こるんでしょうか?」


 「身体強化だけで魔素切れになるって話はあまり聞かないなぁ。でも、今試してもらったように攻撃魔法は魔素をたくさん使うからね。戦士型として前衛に出る君は、魔法の打ちどころを慎重に見極めないといけないだろうね」


 「はい。肝に銘じておきます」


 「そういえば、戦士型の人でも緑鋼級以上になると、本気の身体強化をした時には放射光がわずかに漏れ出るらしいよ。身近な人だと、ヴァイオレット様くらいかな。まぁ、彼女が本気出すような事態って滅多に起きないだろうから、見ることは叶わないかもね」


 ……イネスさん、それってフラグです。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
主人公の強さの要因が分からんな。 転移前に武術を習った描写があったけど、さすがにそれだけでポンポン位階が上がったらおかしいでしょ。 ヴァイオレットに憧れて強さを求め始めたのも、熟練者の段階に来てる状態…
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