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第043話 魔窟討伐(4)


 「さて、どうしたものか」


 隊列を見ながら考え込むヴァイオレット様。

 あれ。(ぬし)を倒せば、あとは魔窟の本体を破壊すれば完了なんだよね。

 みんなでカチコミして袋にするものだと思ったけど、違うんだろうか。


 「うむ。緊急時だが、やはりいつも通り行こう。タツヒトもいるので改めて説明するが、まず私が(ぬし)に一当てする。そこで私抜きの人員で(ぬし)を打倒しうると判断できた場合、私は後方に控えて危険が生じた際のみ戦闘に参加する」


 え、いつもそんなスパルタやっているんですか?

 他のみんなの顔を見回すと、困惑しているのは僕だけのようだ。


 「いつも私が(ぬし)を倒してしまっていては、後進が育たないのでね。それにどうやら修行したいらしいタツヒト。君は私の目の届かないところで無茶をするじゃないか。それなら、せめて私の目の届くところで無茶してもらうさ」


 ヴァイオレット様の呆れ声に周りの人たちがクスクス笑い出す。

 うぐっ。何も反論できない。


 「私が(ぬし)にあたる場合の隊列はこれまで通り。私抜きで(ぬし)にあたる場合は、タツヒト、君が要だ。諸君らも彼の力は目の当たりにしただろう。私の位置に彼を据え、ことに当たってくれ」


 「え、よろしいんですか?」


 「ああ。反対するものは居まい」


 見回してみると、みんな頷いてくれている。


 「ヴァイオレット卿と任務にあたるといつもこれだよ…… まぁタツヒト君は強いみたいだし、大丈夫じゃない?」


 ロメール様、いつも通り適当なコメントありがとうございます。いや、実際ありがたいです。






 他のみんなと戦闘前の打ち合わせを終えたところで、ヴァイオレット様が宣言した。


 「よし。では行くぞ」


 外から見た広間は、景色がぐにゃぐにゃに歪んでいて中の様子が窺い知れず、入ることを躊躇わせた。

 しかし、ヴァイオレット様がずんずん進んでいくので、僕らも遅れないように広間に入っていった。


 広間に入ると途端に視界はクリアになった。

 広さは10mほどで、奥には地に根を張る石筍のようなものがあった。

 高さは僕の腰の高さくらいだろうか。あれが魔窟の本体だろう。

 そして石筍の前には、巨大な鬼が居た。


 腰を据えた様子からでも高い体高が見てとれ、筋骨隆々でまるで彫像のような肌の質感は、高い膂力と耐久性を予感させた。

 額の角、牙、凶悪な爪の他に、腰蓑と棍棒まで装備している。元から備わった凶器に加え、少なくとも道具を使うゴブリンくらいの知能はありそうだ。


 「ふむ、オーガーか」


 ヴァイオレット様はこともなげに呟くと、無造作に鬼に向かって足を踏み出した。


 「グルルルル……」


 オーガーと呼ばれた鬼が立ち上がり、棍棒を構えてうなりを上げた。

 ヴァイオレット様はそのままゆっくり歩み寄り、ついには棍棒の間合いに入った。


 「どうした、来ないのか?」


 言葉は通じずとも侮る雰囲気は伝わったのか、オーガーの筋肉が躍動した。


 「ゴアァッ!」


 ガキッ!


 上段から袈裟斬り気味に襲い来た棍棒は、ヴァイオレット様がいつの間にか抜いていたブロードソードに阻まれた。しかも片腕で止めてるよ……

 彼女は開いた方の上で拳を握り、なんとそのままオーガーの胴体を殴りつけた。


 「ギャッ……!」


 ゴガンッ!


 オーガーはそのまま吹っ飛び、壁に激突した。

 相変わらず冗談のような膂力だ。絶対オーガーの方が重いのに、なんであっちの方が吹っ飛んでるんだ?


 「うむ。こやつならば私はいらぬな。ではタツヒト、あとは手筈通りに」


 そのまま後ろの方に下がってしまうヴァイオレット様を見送り、僕は覚悟を決めた。


 「はい! みなさん、お願いします!」


 「「応!」」


 壁に叩きつけられたオーガーが、怒りに顔を染めて僕らを睨みつける。


 「後衛組、攻撃開始!」


 『『地よ!(テーラ)』』


 『風刃!(ベイントス・フェルム)


 僕の号令に、魔法使い組がオーガに魔法を打ち込み、只人の兵士の人達が矢を打ち込む。

 魔法によって生じた土煙が視界を遮り始めた頃、僕は攻撃中止を宣言した。


 「後衛組、攻撃中止! 前衛組、迎撃準備!」


 僕が短槍を構え、馬人族の兵士の人二人がブロードソードを構えた。


 「ガァァァッ!」

 

 土煙の中から血だらけのオーガが飛び出してきた。

 ダメージは受けているようだけど、決定打にはなっていないみたいだ。

 

 「僕が止めます! お二人は後ろに周りこんでください!」


 「「応!」」 


 オーガーの横なぎの棍棒を、僕は短槍を縦にして受けた。


 ガァンッ!


 重い!ヴァイオレット様これを片手で受けたのか……!

 腰を落とし、両腕でしっかり受けることで、なんとかつばぜりの状態に持ち込めた。

 そして馬人族の兵士二人が、僕とつばぜりしているオーガがの背後に回り込んでブロードソードを叩き込む。


 「せい!」「やぁ!」


 「ギャッ!?」


 背後から攻撃されたオーガーが僕に背を向ける。

 しかし、ブロードソードによるダメージはさほど無いようで、背中の傷は浅いように見えた。

 この期を逃さずに僕も渾身の力で槍を突き込んだ。


 「ッシ!」


 「グギャァ!?」


 うそ!? 槍の穂先はオーガの背中の皮膚を貫いたけど、数センチほどしか刺さっていなかった。

 この人硬すぎるよ。このままちまちま突いてても勝てそうだけど……

 

 「ゴギャァッ!」


 「ぐぁ!」


 オーガーがめちゃめちゃに振り回した棍棒が、馬人族の兵士の一人を吹き飛ばした。

 ダメだ。持久戦に持ち込んだら僕らの方が先にやられてしまう。


 「ロメール様、オーガーの皮膚を貫く魔法を打てますか!?」


 「任せたまえ! 詠唱が終わったら、君の合図に合わせて打つ!」


 珍しく大声で答えてくれたロメール様が、詠唱を始めた。

 吹き飛ばされた馬人族の兵士の人もなんとか立ち上がって合流し、三人でよって集ってオーガーをチクチクと攻撃する。

 そうしている内にロメール様の詠唱が完了した。

 僕は棍棒を振り切ったオーガの懐に入り込み、目の当たりを狙って槍を突いた。


 「グギャッ!」


 穂先は狙いを違わず片目を傷つけ、さすがのオーガーも目を抑えて怯んだ。


 「前衛組、射線開けて! ロメール様、今です!」


 『螺旋岩!(スパイラル・サクスム)


 キュゥゥゥン!


 ロメール様の前に、瞬時に高速回転する手の平大の石弾が出現し、オーガーに向けてうなりをあげて射出された。

 

 ドバッ、ガァンッ!

 

 石弾はオーガの土手っ腹を貫き、それでも勢いを無くさず後ろの壁面に穴を穿った。

 それでも魔物のしぶとさを知っている僕はまだ安心できず、構えを解かずにオーガの様子を観察した。

 しかし、オーガーの体はぐらりと揺れ、そのまま地面へ倒れ込んでいった。


 ズズゥン……


 「ふう……討伐完了。みなさん、お疲れ様でした!」


 「「おぉぉぉぉ!」」


 僕の宣言に、戦闘に参加した面々が勝利の咆哮を上げた。

 ヴァイオレット様の方をみると、微笑みながら何度も頷いている。よかった、ご期待に添えたみたいだ。





 魔窟の(ぬし)であるオーガーを討伐した後、僕らは当然魔窟の本体も討伐した。

 それ自体にはほとんど意識がないのか、叩き壊されて魔核を回収されてもなんの反応も示さなかった。

 いや、だからこそこんなに手間をかけて自分の手足となる魔物を集めるんだろうな。


 「よし、みなよくやってくれた。直にこの魔窟は崩壊する。急いで出口まで戻ろう」


 ヴァイオレット様がみんなを先導して魔窟の入り口に戻り始めた。

 そう。本体を破壊された魔窟は、規模にもよるけど一日から十数日で崩れてしまうらしい。


 行きよりもさらに急いで、僕らは魔物を蹴散らしながらきた道を戻った。

 気づいたら魔窟の呼吸も止まっているけど、魔物達は特に気にしていないみたいだった。

 そしておよそ半日程度の強行軍の結果、魔窟が崩れる前に外に到達することができた。


 「無事のご帰還、おめでとうございます。こちらは特に異常はありませんでした」


 魔窟の入り口で待機してくれていた兵士の人の一人が、僕らを労ってくれた。

 

 「あぁ、ありがとう。無事に魔窟の本体は破壊できた。あとは、魔窟が崩れるのを見届けて作戦終了だ」


 それからさらに半日ほどほどして、わずかな地鳴りとともに魔窟の入り口は崩れ去ってしまった。

 中から魔物が出てくることはなかったので、魔窟の中に取り残された魔物たちの大半は生き埋めなったはずだ。

 ……最後だけちょっと後味が悪かったけど、突発的に始まった魔窟討伐は誰一人欠けることなく終えることができた。

 さて、早速村のみんなに朗報を持ち帰ろう。






***






 大森林の中層あたりに位置する場所、追い立てられ傷ついた魔物の群れがそこにあった。

 群れの大半はオーガーで構成されていて、一体は通常の灰色の肌ではなく緑色の肌をした変わった個体だ。

 さらに変わった個体として、立派な体格のホブゴブリンらしき個体もいた。

 このホブゴブリンの左の頬には刀傷のような跡があり、粗末な槍を握り油断なく周囲を警戒する様子には、ほのかな知性が現れていた。

 みな一様に傷だらけであり、群れも最初はこの倍はいたが、深層から這い出てきた魔物に貪り食われてしまった。


 リーダーらしき緑色のオーガーが声を上げた。


 「……グゴゴガゴウ」


 それに配下のオーガー達が応える。


 「……グゴッ」


 「グゴッ、グゴゴガ」


 彼らは明確な言語を持たない。ただ、同族の表情や鳴き声の様子からある程度感情や考えを共有することができた。

 もしこの場にオーガーの言葉を解するものがいたとしたら、こう翻訳しただろう。


 『……森を出よう』


 『あぁ』


 『そうだな。ここはまだ危険だ』


 そこにホブゴブリンも声を上げた。


 「……ゲギャギャ、グギャギャゴグ」


 「グガ! ゴググガガ!?」


 「……! ゲギャギャ……」


 ホブゴブリンが何か反対意見を述べたらしかったが、リーダー個体に詰問され、最終的には同意したようだった。

 

 リーダー個体はホブゴブリンを数秒睨んだあと、号令をかけた。


 「ゴギャーー!」


 リーダー個体の声に、群全体が一丸となって森の外を目指し歩き始めた。

 

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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ゴブリン、お前まさか… 人間とは相容れぬ存在ゆえ、悲しい未来が君を待つのか。
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