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第427話 昼食会


 レシュトゥ様にお昼に誘って貰った僕らは、王族用だという豪奢な食堂へ移動した。

 そしてみんなで席に着くと、その場にはもう一人同席者が増えていた。


「エーミク…… お、怒ってる……?」


「怒る……? まさか。ただの側仕えである自分が、始祖神様の直系たるフラーシュ王女殿下に怒りを覚えるなど……

 ただ、蓄積された学習計画の遅れをどのように取り戻して頂くか…… それについて考えを巡らせていた所です」


「お、怒ってるじゃぁん…… ごめんてぇ……」


 目を潤ませ、びくびくと背後を気にするフラーシュさん。この人、よく涙目になるな……

 彼女の背後に直立不動で控えているのは、短髪で生真面目そうな妖精族(ようせいぞく)

 フラーシュさんの近衛武官兼、家庭教師でもあるというエーミクさんだ。雰囲気からして、結構な手練れらしい。

 フラーシュさんは、彼女の授業をほっぽり出して僕らの話を盗み聞きしていたらしい。そりゃ怒るだろうな……


「エーミク、いつもありがとう。あなたがいてくれるから、この子も怠け過ぎずに過ごせているわ。

 ところであなたも一緒に食べない? この子達なら心配ないわよ?」


「はっ! 光栄であります、始祖神様! しかし、万が一に備えるのが自分の職務であります故」


 レシュトゥ様のお誘いを固辞しながら、エーミクさんは僕ら『白の狩人』から視線を離さずにいる。

 彼女はエルツェトから来た僕らを露骨に警戒しているようだ。先程などは、初遭遇で剣を抜かれそうになったのを、フラーシュさんがなんとか説得してくれたのだ。


「ふふっ、わかったわ。それじゃあお食事を始めましょう」


 レシュトゥ様がそう宣言すると、音もなくお給仕さん達が現れ、流麗な所作で料理を提供してくれた。

 メニューは伝統的な聖国の料理に似ていて、つまりはイタリアンぽい。めちゃくちゃ美味しくて見た目も凝っているんだけど、量も上品な感じだ。


「うん、今日の料理も美味しいわね。どう? みんなのお口には合うかしら?」


「はい、とても美味しいです。調理もすごく丁寧ですが…… なんでしょう、素材自体が非常に上質なもののように感じます」


「うふふ、料理長が喜ぶわ。この国の天候は全て完璧に制御されているから、作物の出来もとても良いの。あら……?」


 何かに気づいたらしいレシュトゥ様の視線の先には、ヴァイオレット様とキアニィさんが居た。

 二人は、恐らく一瞬で空にしてしまった料理の皿を、とても寂しそうに見つめている。

 彼女達は僕らの視線に気づくと、羞恥に顔を赤くして体を縮こまらせてしまった。

 これは、仕方ない。普段の僕らは、塊肉ドンッ! パスタ大皿バン! みたいな食生活してるから……

 位階が上がって燃費が悪くなってからは特にそうだ。正直僕もこの量だと物足りない。


「こ、これは失礼いたしました。その、非常に美味だったもので……」


「わたくし達、ちょっと普段の食事の仕方を見直した方が良いかもしれませんわねぇ……」


「うふふ、いいのよ。それだけ気に入ってくれたんでしょうから。でも、高位の戦士には少し堅苦しかったかもしれないわね。ねぇあなた--」


 レシュトゥ様は恐縮する二人に微笑みかけると、給仕の方に一声かけ、料理の追加を大量に頼んでくれた。

 すると、上品なコース料理の皿が載っていたテーブルは、あっという間にバイキング会場のようになった。

 エーミクさんは若干顔を顰めているけれど、ヴァイオレット様達が良い笑顔で料理を食べ始めたので良し。


「あの、お気遣いありがとうございます。レシュトゥ様」


「ええ。でもこの気持ちいい食べっぷり、昔を思い出すわぁ。妖精族(ようせいぞく)って、戦士型の子でも食が細めだから」


 その後僕らは、食事を頂きながらこの国について色々と教えてもらった。

 僕とプルーナさんが気にしていた、直径数百kmもある馬鹿でかい岩塊をどう浮かせて、どうエルツェト側に悟られずにいるのかについても聞くことができた。

 これが結構な力技で、強力な闇魔法でエルツェトから作用する重力を調整し、一定の高度を維持しているらしい。

 さらに大規模な光魔法で太陽光を捻じ曲げ、エルツェト側からはこの国を視認できず、影も落ちないようにしているのだとか。

 巨大な魔核を用いた増幅装置の力を借りているそうだけど、これらは基本的に全てレシュトゥ様が制御しているそうだ。さすが始祖神……

 そんな技術を幾つも使うことで、この国は宇宙にありながらエルツェトと同じ、いや、それ以上に快適な生活環境を実現しているのだ。古代文明すごい。


 そんな感じで感心しながらお話を聞く内、テーブルに載っていた大量の料理の殆どが僕らの胃のなかに消えていた。

 僕も結構頂いたけれど、やはり大半はヴァイオレット様とキアニィさんが平げた。いつもながら感心してしまう。

 ふとフラーシュさんの方を見ると、彼女も眼鏡の向こう側で目を見開いていた。若干引いてしまっているかも……


「え…… ど、どう見ても体積以上食べてない……!? 一体どうなってるの……?」


「ふふ、不思議ですよね。彼女達が本気を出せば、二人で牛一頭を食べ尽くす事もできるんですよ?」


「ひぃっ…… そ、それって、人間一人丸ごと食べられるってこと……?」


 フラーシュさんの表情が驚嘆から恐怖へと変わる。ま、まずい、余計なことを言ってしまった。


「あ、あはは…… あの、ところで、例の禁書庫の奥にについてお聞きしたいのですが…… 一体どんな場所なんですか? 何やら危険がありそうな話でしたけど」


「む、そうであります! ここで作戦会議すべきと、シャムは提案するであります!」


 僕らの視線がフラーシュさんに集中する。あまり注目されるのが得意で無いようで、彼女は助けを求めるようにレシュトゥ様へ視線を向けた。

 が、当のレシュトゥ様はにこにこと笑うばかりで口を開かない。そのお顔には、自分で話して見なさいと書いてあるかのようだった。

 フラーシュさんはガックリと肩を落とすと、観念したかのように小声で話し始めた。ちょっと可哀想。


「え、えっと…… 禁書庫はこの城の地下にあって、あたし達王家の人しか入っちゃいけない事になってる。

 古代の書物や資料、魔道具なんかが保管してあって…… あ、あたしもよく本を読みに行く。

 災厄前のエルツェトの作品群は、それはもう素晴らしくて、初めて見た時には脳を直接殴られたかのような衝撃が……! あっ……」


 途中から急に早口になったフラーシュさんは、急に口を紡ぐと恐る恐るといった感じで僕らを見た。


「あ、あの、どうしました……?」


「な、なんでも無いよ…… その禁書庫だけど、地下に向かう階層構造になっていて、下に進むほど資料や魔道具の価値も上がっていくみたい。

 そ、それで…… ある階層より下に行こうとすると、王家の人間だろうと誰であろうと、警備の機械人形(きかいにんぎょう)達が問答無用で襲ってくるの。

 あたしは怖くてすぐに進むのをやめちゃったけど、あそこの奥になら、シャム氏の部品もあるの、かも……」


 フラーシュさんは、少し自信なさげにそう締め括った。なるほど、生きた古代遺跡の地下ダンジョンか……

 いかにもシャムの部品がありそうな場所だけど、それよりも……


「え……!? き、機械人形(きかいにんぎょう)が襲ってくるでありますか!?」


「にゃー…… ウチ、さすがにシャムとおんにゃじ顔の奴をぶった斬るのは気が引けるにゃ……」


 フラーシュさんの話にシャムとゼルさんが色めき立ち、残りのみんなも表情を硬くした。これは、結構しんどい事になるかも……?

 そんな僕らを見て、フラーシュさんが慌てて補足を入れた。


「あっ…… えと、違うくて……! その、シャム氏みたいな、あからさまな人間型じゃなくて、もっと大きくて無骨で、生き物に見えない感じだから……」


「そ、そうでありますか…… まぁ、安心するであります。数々の修羅場を潜ったシャム達なら、きっと無事に目的を完遂できるであります!

 万が一フラーシュが怪我をしても、ロスニアが治してくれるであります!」


「ええ、任せて下さい! 死んでさえいなければ、どんな傷だって治してみせますよ?」


「あ、ありがと…… --そう、だよね。君たち、強いんだもんね…… あの……! シャム氏が、無事元の体に戻れたら--」


「フラーシュ」


 差し込まれたのは、思わず背筋が伸びてしまうような鋭い声。

 穏やかに話を聞いていたレシュトゥ様が、笑みを消してフラーシュさんを見つめていた。


「あなたが今彼らにお願いしようとした事…… それは、私達で解決しなくてはならない問題よ。違う?」


「あぅ…… ち、違わない……」


 レシュトゥ様の言葉に、フラーシュさんは可哀想なほどに萎縮してしまっている。何だ……?


「あの、レシュトゥ様。何かお困りの事があるのでしたら……」


「ありがとうタツヒト君。でも、いいのよ。 --さぁ、みんなお腹いっぱいになったわね? お部屋を用意するから、今日はもうゆっくりお休みなさい」


 表情は笑顔ながら、有無を言わせない迫力を纏ったレシュトゥ様の宣言により、昼食会はその場でお開きとなった。


遅くなりましたm(_ _)m

お読み頂きありがとうございました!

【日月火木金の19時以降に投稿予定】

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