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第424話 妖精族の始祖神(1)


「星々の世界…… なるほど、確かに地上の何処でも無い場所かぁ。猊下、先に教えて下さいよ……」


 ラビシュ氏の言葉に、僕は猊下から聞いた言葉を思い出していた。しかし予想外だった。まさか宇宙とは……

 眼下に見える地球…… じゃ無いのか。僕らがさっきまで居た青い星から目を離し、後方に目をやると、地平線の先には黒々とした星空しか見えなかった。

 つまり僕らのいる城は、この宇宙に浮かぶ途方も無く大きな岩塊の、かなり端の方に建っている事になる。

 その直径は、数百kmはあるんじゃ無いだろうか……? 馬人族(ばじんぞく)の王国と同じくらいの面積だ。


「プルーナさん。土魔法って凄いんだね……」


「い、いや、土魔法でこんな事できませんよ! 僕が一万人居たって無理です! 目の前で起こっている事なのに信じられません……!」


 呆然と呟く僕に、プルーナさんが頭を抱えながら応える。すると、眼下の青い星を見つめていたシャムが声を上げた。


「あっ…… みんな、あそこをよく見るであります! あの特徴的な長靴のような形…… あれは聖国であります!

 聖国の面積、星の半径等から計算すると……

 分かったであります! ここは聖都レームから西におよそ1,200イング、地表からの高さは200イング程の位置であります! 凄いであります、高いであります……!」


「流石はシャム様……! このネメクエレク神国の国土は、眼下に見える青い星、エルツェトの虚海と呼ばれる海域の上空にございます。

 まさに、今シャム様が仰られた位置でございますね。ご慧眼です。

 さぁ、そろそろ参りましょう。始祖神様は、シャム様にお会いするのをそれはそれは楽しみにしておられたのです」


「分かったであります! シャムも会うのが楽しみになってきたであります!」


 そう促すラビシュ氏に、シャムは飛び跳ねるように付いて行く。僕らもそれに続いたのだけれど、虚海って……


「ヴァイオレット様。馬人族(ばじんぞく)の王国の西に、同じ名前の綺麗な円形の海域がありましたよね?」


「う、うむ…… 中心が異様に深くなっていて、あまり生き物の寄り付かぬ魔の海域だ。

 その、私たちが今乗っているこの巨大な岩塊が、すっぽりと収まりそうな場所だな……」


「で、ですよねぇ…… いやー、流石神様。規模感が違いすぎる……」


 やっぱり、この巨大な岩塊をくり抜いた後、その窪みに海水が流れ込んで出来たのが虚海なんだ……!

 状況証拠的にそう考えるしか無いけれど、本当に途方もない話だ。

 しかし、こんなに巨大なものが頭上に浮かんでいたら、僕らも含めた王国の人達が気付かないわけが無いと思うんだけど……

 そんな風に考え込んだりしている内に、僕らはいつの間にか目的地に着いていた。






 目の前には豪奢な装飾の施された扉。ラビシュ氏は呼吸を整えてから慎重にノックすると、扉に向かって呼びかけた。


「始祖神様、ラビシュでございます。シャム様をお連れ致しました」


「--入りなさい」


「はっ!」


  ラビシュ氏が扉を開けて僕らの入室を促す。あまり広過ぎず、上品で落ち着いた内装。どうやら私室のようだ。

 そして部屋の中で迎えてくれた人物を目にし、僕らは息を呑んだ。


「ま、またであります……!」


 シャムが驚愕の表情で呟く。そこに居たのは、またしてもシャムと非常によく似た妖精族(ようせいぞく)だった。

 猊下やカサンドラさん程では無いにしろ、親子だと言われても驚かないほどに顔の作りが同じだ。

 燻んだような金の長髪に、額には黒い宝玉のようなものが埋め込まれていて、顔にはどこか超然とした穏やかな笑みを浮かべている。

 長身痩躯で、体が弱っているのか、古代文明の気配が感じられる流線形の車椅子のような物に座っている。


「ご苦労様、ラビシュ。下がっていいですよ」


「え…… で、ですが始祖神様。シャム様はともかく、他の者達は……」


「うふふ…… その子達のおかげで、私はそのシャムに会えたのですよ? さぁ……」


「はっ…… 承知しました……」


 ラビシュ氏は、始祖神と呼ばれた女性とシャムに丁寧に頭を下げた後、僕らを一睨みしてから退室した。

 そんなに邪険にしなくても…… 微妙な表情をしている僕らを見て始祖神様がくすくすと笑う。 


「ごめんなさいね。あの子は私を心配してくれているだけなの。さぁ、席に座って」


「あ、ありがとうございます。失礼します」


 勧められるがまま応接用のテーブルを囲むと、彼女は手ずからお茶を淹れてくれた。

 その様子からは、あまり神様という印象は感じられない。

 しかし、凪いだ湖面のような静かな眼差しが、彼女が積み重ねてきた年月の永さを物語っていた。


「--さて、まずは自己紹介ね。私はレシュトゥ。父様…… 創造神様が最初に造られた妖精族(ようせいぞく)と言えば分かりやすいかしら。

 ここの妖精族(ようせいぞく)の子達は、始祖神なんて呼んでくれるわ。もう引退したおばあちゃんなのだけれど、今は訳あってこの国の女王も兼任しているの。

 一応あの子…… ペトリアから一通り聞いているのだけれど、あなた達の事も教えてくれる?」


 そう言って微笑むレシュトゥ様と目が合い、僕は慌てて頭を下げた。


「は、はい。お会いできて光栄です、レシュトゥ様。えっと、僕はタツヒトと言いまして--」


 混乱しつつも、僕らは順々に自己紹介していった。そして最後の一人、ロスニアさんの番になったのだけれど、彼女は呆然とレシュトゥ様を見つめるだけで話し始めない。

 隣に座るゼルさんが、見かねて彼女の肩を揺らした。


「おいロスニア。ぼけっとしてるんじゃにゃいにゃ。次はおみゃーだにゃ」


「--へ? あ……! も、申し訳ございません! 拝謁を賜りこの上なき感謝を……! 私は、聖教会の司祭の末席に名を連ねるロスニアと申します……!」


 ロスニアさんは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、その場に跪いた。

 び、びっくりしたぁ…… でも、神話の住人と対面したのだから、聖職者としてはこっちが普通の反応なのかも。


「ええ。よろしくね、ロスニア。でも、そこでは話しずらいわ。席に座って? 聖教の司祭さんだったら、ここに来てびっくりしたでしょう?」


「は、はい…… その、びっくりと言いますか、驚天動地と言いますか…… ここは、まさに聖典にある方舟そのものです……!

 そしてあなた様のお姿も、正に聖典にある通り……! ある通りなのですが……」


 おずおずと椅子に座り直し、困惑したように視線を逸らすロスニアさん。その様子に、レシュトゥさんは笑みを深めた。


「うふふ。会ってみたら普通のおばあちゃんで、がっかりしたでしょう?」


「い、いえ! そのような事は決して……!」


 再び机に頭をぶつける勢いで首を垂れるロスニアさん。でも、正直気持ちは分かる。

  アラク様や、その盟友の勇魚の神獣(ナヒィル・イルフルミ)様は、見た瞬間にこの方は神なのだと直感できた。

 けれど目の前のレシュトゥ様は、深い叡智と慈愛を感じさせるものの、何と言うか人類の範疇にあるというか…… いや、今はそれよりも……


「あの、すみません。その方舟とは…… そもそも、ここは一体何なんでしょうか?」


「あぁ、普通の人は知らないわよね。 --ここは、創造神様がその力で作り上げた避難船なの。

 かつて私たちの母なる星、エルツェトが大きな災厄に見舞われた時、この方舟は地上の生物達を乗せて宇宙(そら)へと飛んだの。

 でも、災厄が収まって地上にみんなを帰した後は、その役割は終わったわ。

 今はそうね…… 災厄が起こる前の古代の知識を大事にしまっておく、保管庫のようなもかしら?」


「あぁ、やはり……! ここが私達すべての故郷なのですね…… 真なる愛を(アハ・バーテメット)……!」


 事もなげに衝撃の事実を口にしたレシュトゥ様に、ロスニアさんは目に涙を溜めて祈りの言葉を紡いだ。


お読み頂きありがとうございました!

よろしければ本作をブックマーク頂けますと、執筆の大きな励みとなりますm(_ _)m

⭐︎で評価を付けて頂けた際には、作者が更に狂喜乱舞します。

【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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