表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
419/484

第419話 手紙

 カサンドラさんに諸々の事務手続きをしてもらい、僕は晴れて紫宝級(しほうきゅう)冒険者になった。

 同時に、僕とヴァイオレット様の二人の紫宝級(しほうきゅう)が所属している『白の狩人』も、紫宝級(しほうきゅう)冒険者パーティーへとランクアップした。


 人類最高戦力と言われるだけあって、紫宝級(しほうきゅう)冒険者パーティーには様々な特権がある。

 依頼を優先的に回してもらったり、同じ都市で長く活動していると年金がもらえたりするのだ。

 一方で、脅威度の高い緊急招集への参加義務があったり、ホームタウンを離れる際に届出が必要だったりする制約もある。

 手続き後に聖都冒険者組合の支部長さんに挨拶にさせてもらった際、その辺りについてはかなり丁寧に説明してもらった。


 ちなみに、支部長さんは歴戦の魔導士といった感じの妖精族(ようせいぞく)だったのだけれど、その場に同席したカサンドラさんに過剰なまでに気を使っている様子だった。

 --聖都の支部って、世界でも有数の規模を誇るはずなんだけど…… カサンドラさん、マジでどんだけ偉い人なんだ……? 絶対受付に座ってていい人じゃないでしょ。

 さておき、これで聖都での予定は一旦終わりだ。


「それじゃあ用事も終わりましたし、早速挨拶回りに行きましょうか」


 組合を出た所そう提案すると、みんなは意義無しといった感じで頷いてくれた。


「ああ。だが今回はあまり時間が無い。私の実家などには手紙でも送るとするか……」


 しかし、ヴァイオレット様の呟きで僕は足を止めた。


「あ…… 手紙といえば、この半年で僕ら宛のものが届いているかも知れません。出る前に一声かけるついでに、メームさんに聞いてみましょう」


 そんな訳で一旦メーム商会へと戻ると、昨日は見かけなかった人物とばったり会う事ができた。


「あぁー! みんなおかえりなさいっス!」 


「ラヘルさん! ただいまです!」


「ラヘルであります! 久しぶりであります!」


 てててとこちらに走り寄ってシャムとハイタッチしたのは、メームさんの副官のラヘルさんだ。

 ポメラニアン系の犬人族(けんじんぞく)である彼女は、その小柄で可愛らしい見た目通りにとても人懐っこい。


「いやー、ほんとに無事に帰ってきてくれてよかったっス…… ここ最近の会長、ご飯もあんまし食べないし、仕事にも身が入ってなかったっスもん。

 ま、さっき会ったらもう元気になってたっスけどね! むふふ…… 流石タツヒト達っス! 一体どんな夜を過ごしたのか、是非是非知りたいっスねぇ〜?」


 --あと、この人はめちゃくちゃ喋る。物静かなメームさんとは対照的で、実にいいコンビだと思う。


「あはは…… それはまた今度で…… あの、それじゃあメームさんはもう戻ってきているんですか?」


「はいっス。そういえば、会長も皆さんに用事があるって言ってたっス。こちらへどうぞっス!」


 ラヘルさんに案内してもらい、広々とした執務室に入ると、真剣な表情のメームさんが高速で書類を捌いていた。なんか、しごでき女社長って感じで格好いい。


「会長! タツヒト達を連れてきたっス!」


「あぁ、ありがとうラヘル。ふむ…… その顔は、無事紫宝級(しほうきゅう)に上がれたようだな。流石タツヒトだ」


 書類から顔を上げて微笑む彼女に、僕も笑い返す。


「はい、なんとか。あの、ラヘルさんから用事があると伺ったんですが、もしかして僕ら宛に手紙が届いてたりしますか?」


「うん、その通りだ。昨日は言いそびれてしまったんだが、お前達宛のものを預かっている。

 もちろん中身は読んでいないが、この量からして彼女達も相当心配しているようだな…… 早く見てやってくれ」


 メームさんが足元から取り出した箱には、手紙がぎっしりと詰まっていた。ぱっと見ても数十通はある。


「な、なるほど。ありがとうございます、拝見させて頂きます」


 手紙の差出人は、世界中を旅している最中に出会った遠方の友人や知人達で、その大半はエリネンとアスルからのものだった。

 エリネンは、ピンク色の毛並みが可愛らしい兎人族(とじんぞく)で、ここから西にある魔導国の地下街を牛耳る犯罪組織の幹部さんだ。

 アスルは、青い触腕と瞳が美しい蛸人族(たこじんぞく)で、ここから南東にある海洋国家の軍人さんだ。とある神様の巫女さんでもある。


「あにゃー…… エリネンの奴、にゃんかこっちに来るって言ってるにゃよ?」


「アスルもですわぁ。こちらの返信が滞っているせいか、ちょっと文面が思い詰めてしまっている感じですわぁ……」


「え…… ほ、ほんとですか?」


 ゼルさんとキアニィさんから手紙を受け取って読んでみる。二人の手紙は何通もあり、最初の方は自身の近況報告とこちらの様子を尋ねる文面だった。

 しかし、数を重ねるごとに僕らを心配する文章の量が増え、最後の手紙には僕らに会いに聖都に向かうと書いてあった。

 文面から、エリネンの方は純粋に心配してくれてる感じが伝わってくる。彼女、親分肌で面倒見いいからなぁ。

 一方アスルの方は…… 若干病んでしまっている雰囲気がある。なんかこう、手紙に思念が込められている感じだ。

 次の返信は間が空くかもとは伝えていたけど、流石に半年は長かったらしい。

 しかしどうしよう。手紙には返信するとして、入れ違いになっちゃう可能性も高そうだ。


「--あのー、メームさん。僕らが不在の間、もし誰かが訪ねてきたら……」


「む、やはりその二人が来るのか? 任せておけ。俺が世話しよう。淑女協定の後輩達の面倒を見るのは、先輩の勤めだろう」


「あ、ありがとうございます。お手数をおかけします……」


「ふふっ、構わんさ。あぁそういえば、手紙は預かっていないが、先月来たコメルケル殿達もお前達を心配していたぞ」


「コメルケル会長達とも暫くお会いしていませんね…… タツヒトさん。彼女達にも手紙を書きませんか? 樹環国の復興具合も気になりますし……」


 ロスニアさんは少し心配げな様子でそう言った。

 コメルケル会長は大柄ナイスバディな樹人族(じゅじんぞく)で、聖都から遥か南西に位置する樹環国の巨大な港町を支配する悪徳商人だ。

 樹環国は二年ほど前に大きな災害があって、まだその爪痕が残っている。あの国ではロスニアさんにとってかなり衝撃的な出来事もあったので、気になっているのだろう。


「ええ、そうしましょう。 --今日はちょっと動けそうにないですね。みんなで手分けして返信していきましょうか」


 そんな感じで、返信作業に追われるまま時間は過ぎていった。そして日が落ち、残り一通となった時、その手紙を手に取ったヴァイオレット様が目を見開いた。


「この手紙は…… タツヒト。明日は朝一で出るとしよう」


 差し出された手紙の宛名に、僕もはっと息を呑んだ。


「……! ええ、そうしましょう」






 翌朝。転移魔法陣を使って急ぎ訪ねたのは、僕とヴァイオレット様の第二の故郷、開拓村ベラーキである。

 半年ぶりにひょっこり顔を出した僕らを、村のみんなは笑顔で出迎えてくれた。が、一人だけ苛烈な反応を示した子が居た。


「もががぁ〜〜〜!!」


「す、すまない。本当にすまないエマ。だが、そろそろ許してくれないだろうか……?」


 場所は村長のお宅の居間。眉をハの字にして弱りきっているヴァイオレット様に、十歳くらいの只人の女の子が抱きつき、もがもがと抗議を叫び続けている。

 暫くしてようやく許してくれたのか、彼女はヴァイオレット様の体から顔を起こした。

 可愛らしいお顔を涙で濡らしているのは、村全体のアイドル兼妹のエマちゃんだ。


「グスッ…… あの時みたいに居なくなっちゃうんじゃないかって、すっごく心配したんだから! 村長さんも、みんながどこに行ったのか教えてくれないし……」


「それで心配して、聖都に手紙まで出してくれたんだね…… 本当にごめんよ、エマちゃん」


 一応、エマちゃんにも僕らの拠点は聖都だと伝えていたのだけれど、手紙をもらったのは初めてだった。

 手紙を出すには、普通の人からしたら結構なお金がかかるのに…… よほど心配させてしまったようだ。


「もー…… タツヒトお兄ちゃん達はしょうがないんだから! でも、帰ってきてくれたから許してあげる!」


 エマちゃんはにぱっと笑うと、僕とヴァイオレット様の間に体をねじ込むように座った。

 そして僕らの手を両手で取り、笑顔でこちらを見上げる。 --この子本当に可愛いな。


 一方、一通り挨拶を終えた他の女性陣は、エマちゃんの妹のリリアちゃんを取り囲んでいた。

 生後一歳半ほどの馬人族(ばじんぞく)の可愛さは凄まじく、短い四つ足を懸命に動かして歩く様に、もうみんなメロメロになっている。


「あし、いっぱー!」


「うふふっ。そうだねー、脚がいっぱいだねー? はぁぁぁ…… 可愛い」


 プルーナさんの八本足が珍しいのか、リリアちゃんは彼女の足をペタペタと触ってご満悦だ。

 そうして場が一旦落ち着いたところで、僕らは対面に座るボドワン村長とクレールさんに向き合った。

 前者は山賊のようなワイルドな見た目で、後者は上品なおばさまという感じの正反対夫妻である。


「ただいま帰りました。ボドワン村長、クレールさん」


「ああ! 本当によく無事に帰ってきたなぁ……! しかも紫宝級(しほうきゅう)冒険者になるたぁ。おめぇの義理の父親として自慢できるネタが増えたぜ」


「うふふ。この人ったら、領都に行くたびに自慢しているのよ? 俺の息子はあの『雷公』なんだぜって」


「あ、あはは。その二つ名はともかくとして、そう言っていただけると頑張ってきた甲斐がありますよ。今回はなかなか大変でしたし……」


「あ! そうだよ! みんな結局どこに行ってたの? エマ、お話聞きたい!」


「ふふっ、了解した。実は今回我々が向かったのは--」


 エマちゃんのリクエストに、ヴァイオレット様と僕は今回の旅について話し始めた。

 それに嬉しそうに耳を傾けるエマちゃん。お茶のおかわりを用意してくれる村長夫妻。リリアちゃんをあやすみんな。

 帰ってきたなぁと実感するような、穏やかな時間だった。


2025/07/06 文末付近を修正

木曜分です。遅くなりましたm(_ _)m

お読み頂きありがとうございます!

【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ