第041話 魔窟討伐(2)
入り口を確保する人員を残し、魔窟には総勢10名で入った。
隊列はいつ通り先頭のヴァイオレット様に続き、その後ろに僕と馬人族の兵士の人が並列に並んでいる。
さらにその後ろにロメール様やセリア助祭といったいわゆる後衛組が控え、後衛組の周囲を馬人族や只人の兵士の人が囲む形だ。
多分、僕の今いる位置には本当は馬人族の兵士の人がいるはずだったんだろうな……
正直邪魔してしまっている感が否めないけど、魔窟に入るヴァイオレット様を村で待つというのはどうしてもできなかった。
「あの、ヴァイオレット隊長。なぜただの村人の彼がそこに……? 若い魔窟といえど、危険ではないでしょうか。」
魔窟に入ってすぐ、後ろの方からセリア助祭が疑問を投げかけた。
「当然の疑問だな、セリア助祭。しかし、彼の力量については私が保証しよう。この隊列の中でも、彼を打倒しうるのは私とロメール卿くらいだろう。この緊急事態だ、戦力は多い方がいい」
「え、タツヒト君そんなに強かったんだ。でも、そういえば部外者が普通に隊列に組み込まれてるのって変だよね。今気づいたよ」
おぉ、ヴァイオレット様が僕のことを認めてくれている。う、嬉しい……!
とぼけたことを言い出すロメール様にズッコケそうになったけど。
「そ、そうです。彼の役割は魔窟の入り口への案内までだと思います。そもそも、彼は最近あそこの村人になったというじゃないですか」
しかし食い下がるセリア助祭。
後ろを振り返って彼女の様子を見るに、僕に敵意があるという感じではなく、単純にルールとかを破るのが苦手という印象だ。
メガネと三つ編みの髪型も相まって、ますます委員長っぽいな。その内「校則違反です!」とか言い出しそう。
「ふむ。確かに彼には少し素性不明なところはあるが、その人格についても私が保証しよう。元々、村民の命を助けてくれたのが彼との出会いだし、逃亡中の犯罪者や他国の間者である可能性も極めて低いと考えている」
「そ、そうですか。わかりました。すみません、タツヒトさん、ヴァイオレット隊長、余計なことを言いました」
「いえ、僕のほうこそ出しゃばってしまってすみません」
「いや、最初に私が説明すればよかったのだ。セリア助祭、これからも疑問に思ったら声をあげて欲しい」
「……はい!」
しょげてしまったセリア助祭の表情が、あっという間に明るくなった。
ヴァイオレット様、理想の上司過ぎる。
魔窟に入って進むことしばし、度々ゴブリンやらクウォルフ(四つ目狼)なんかの襲撃を受けた。
「シッ」
飛びかかるクォルフの首を槍の穂先で切りとばし、返す石突で忍び寄ってきたゴブリンの頭蓋を砕く。
隊列の前列にいるヴァイオレット様と兵士のお姉さんも、同じようにサクサクと襲いかかる魔物に対処している。
魔物の群れを倒し終わったところで、ふと疑問に思った。
「なんか、普通にゴブリンとクォルフが協力して襲ってきましたね。こいつら、普段はお互いが獲物って感じなのに」
古代遺跡の洞窟や森なんかでの様子を見ると、仲良く人類に立ち向かおうっていう感じは全然しなかったんだよね。
「そりゃあここは魔窟だからね」
ロメール様が、なんでもないことのように僕の疑問に答えた。
答えてくれたけど何もわからん。
「あの、ロメール様。実は僕、魔窟については殆ど知らなくてですね。ほっといたら魔物が溢れて危ないんですよね?」
「あー。まぁ普通に生きてたらそのくらいの理解だろうね。よし、一つ講義してあげよう」
「よろしくお願いします、ロメール先生」
「ふふん」
やはり無表情で得意そうにするロメール様。
この方も偉いはずなのに気さくに接してくれるのがありがたいよね。
そこから、探索しながらロメール先生の講義が始まった。
「まず、魔窟は特殊な魔物の一種であるとされている」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。魔窟の最奥に石筍のような本体がいて、そいつの体内にはちゃんと魔核があるんだよ。
魔窟は魔素が豊富な土地の地下に潜んで、ある程度成長すると地表に向かって洞窟を伸ばし、複数の入り口を作って大気中の魔素を取り込むんだ。
そしてその取り込んだ魔素でさらに成長して、本体はどんどん地下深くに潜っていく。古い魔窟ほど魔素の取り込み周期が長くなるのはそのためさ」
「なるほど、それが魔窟の呼吸なんですね。というか、入り口って複数あるんですか…… それじゃあ、見つけた入り口を一つ封鎖するだけでは対処できないですね」
村長が魔窟の入り口だと断定した時、埋めるとかではなく討伐すると判断したのが気になってたんだよね。
入り口が一つなら魔物ごと生き埋めにできるけど、複数あったらその方法は使えない。
あ、そもそも入口は魔窟が作ったものだから、新しく作ることもできるのか。それならやっぱり討伐するしかないな。
「その通り。そして呼吸によって魔窟の内部は魔素濃度が高くなっている。魔物にとって魔素が豊富な環境は天国のようなものだからね。
魔窟には魔物が引き寄せられ、そのまま居着いて、繁殖してどんどん増えていく。
しかも、魔窟は魔物に弱い魅了の魔法のようなものをかけているらしく、魔物同士が協力して魔物以外の外敵、つまりは我々人類を排除しようとするのさ」
「それがさっきのゴブリンとクウォルフの共闘の理由ですか。その、繁殖して増えた先に狂溢があるのでしょうか?」
「あぁ。ただ実は、魔窟がなぜわざわざ魔物を自分の体内に誘き寄せるのか、本当のところはわかっていないんだ。
呼吸するためだけだったら、魔物入って来られないくらいの小さい穴をたくさん開ければいい話なのに、こうして入りやすく住みやすい環境まで提供している。
一説には、魔窟は魔物を使って繁殖しているという話もある」
「繁殖、ですか?」
「うん。先ほどの狂溢がなぜ起こるかというと、魔物が魔窟内に一定数満ちた段階で、魔窟が突然呼吸を辞めてしまうせいなんだ。
それまで天国だった環境がいきなり魔素枯渇状態に激変だ。すると、魔素や食料に飢えた魔物達が入口側から準に魔窟外に脱出していく。
これが狂溢の仕組みと言われている。この大量に増えた魔物を一気に放出することに、何か目的がありそうじゃ無いかい?」
「そうですね…… 何か、魔窟の種のようなものを魔物に運ばせているんでしょうか?
魔物は魔力、魔素に引き寄せられるので、今度は違う土地の魔素が豊富な環境に移動すると思います。
その土地に種が落ちて新たな魔窟が生まれる…… それが繰り返されたらどんどん魔窟が増えていきそうです」
思うに、魔窟が蜜たっぷりのでっかい花で、魔物がミツバチみたいな生態なんじゃないだろうか。
魔物は蜜に釣られてやってきてあげく定住してしまうけど、魔窟の方は準備が整ったら魔物に花粉のようなものをふりかけて、蜜の供給を止めてしまうと。
さしずめ僕ら人類は、蜜を狙って花を刈り取りにくる、魔窟にとっての天敵のような存在かな。
「ほぉ! タツヒト君、なかなか賢いじゃないか。種のような分かりやすいものはこれまで確認されていないけど、目に見えない胞子のようなものを魔物に付着させているという説が多数派だね。
君が今言ったような仕組みで魔窟が増えているという説も、それを裏付ける調査結果がいくつか発表されているよ」
「なるほど。賢い生態ですが…… 僕ら人類にとっては迷惑極まりないですね」
「ふふっ。そりゃそうだね。なので我々が自分達の生存圏近くにできた魔窟にすべき対処は二つ。
一つは今やっているようにチャチャっと討伐してしまうこと。魔窟の本体を叩くには、魔窟の一番奥、一番魔素の濃い場所を占領している主と呼ばれる魔物を倒す必要があるけどね。
もう一つは、生かさず殺さず管理すること」
「え、こんなの管理できるんですか?」
「うん。魔物が増えすぎないように適度に間引いて、欲しい深度まで魔窟が成長したら入り口を一つを残して潰してしまう。
領都の近くには、そんな風に管理された魔窟がいくつかあるんだよ。冒険者がそこから素材や鉱物を採ってきたり、我々領軍が位階を上げるために利用したりもする。
ヴァイオレット卿はもう何度か主を倒していたよね?」
ロメール様にみずを向けられ、ヴァイオレット様がこちらを振り返る。
「ええ。しかし、領都近くの魔窟では流石にもう位階が上がりにくくなってきました。これ以上となると、大森林の深部に行って修行するしかないでしょうね」
「え、いや、もういいんじゃないかな? 君に勝てるのって、もう騎士団長かうちの魔法師団長くらいでしょ」
「いえ、それでも大狂溢に対しては無力です。もっと力が必要なのです…… おっと。タツヒト、君は冒険者でも軍人でも無いのだから、真似はしてくれるなよ?」
ヴァイオレット様、流石に説得力がないですよ……
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【日月火木金の19時以降に投稿予定】
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