表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
408/484

第408話 みんなと一緒

結構長めです。


 目覚めると、目の前に心配そうなロスニアさんの顔があった。


「あっ…… みなさん! タツヒトさんが目を覚ましましたよ!

 お体の具合はどうですか……? 傷は全て治療したんですが…… 防具に守られていない場所は殆ど穴だらけで、酷い状態だったんですよ……?

 本当に、毎回のようにボロボロになってしまうんですから……」


 そっと触れるよう包容してくれる彼女に、僕は安堵の息を漏らした。どうやら生きているらしい。

 首だけで周囲を確認すると、ここは村の発着場のようだった。あれからあまり時間は経っていないようだ。


「ありがとう、ございます。体は、大丈夫そうです…… ロスニアさん。他のみんなは、村は……?」


「みんな無事ですよ。ゼルとキアニィさんはタツヒトさんと同じような重症でしたけど、今は完治しています。奇跡的に死者もいません。村も、三つとも健在です」


「そうですか…… よかったぁ」


 そう呟いて体を起こそうとしたのだけれど、力が入らずに失敗する。完全な魔力切れだ。

 諦めて力を抜くと、ロスニアさんの声に他のみんなも駆け寄ってきてくれた。

 表情や動きからかなり疲れている様子が窺えるけど、全員生きている。よかった……


「お! 起きたのかにゃ! おみゃー、血まみれでぐったりしてたから、キアニィが泣いて心配してたんにゃよ?」


「ゼル、それはあなただって涙目だったじゃ無いですか…… でも、本当に良かったですわぁ……」


「タツヒト、よかった……! あの紫宝級(しほうきゅう)大岩鬼(サスナルカヒ)の頭部を貫いた一撃、見事だった!」


「みんなも、無事でしょかったです……! あ、ヴァイオレット様。受け止めてくれてありがとうございました」


「なんの。信じて全力を振り絞ってくれたのだろう? 私の方こそ礼を言いたいくらいだよ」


 そんな事を言ってくれるヴァイオレットと笑い合っていると、ティルヒルさんががばりと覆い被さってきた。


「タツヒト君! ありがとう……! みんなを守ってくれて……!」


 涙声の彼女の背中を優しく摩る。この人の信頼に応えられて良かった。


「こちらこそ、任せてくれてありがとうございました。ティルヒルさん……

 --あの、すみません。お手数ですが起こしてもらえますか? 魔力切れで全く力が入らなくて…… ちょっと外の状況を確認したいんです」


「まっかせて! 他のみんなも同じ感じだよー。あーしも魔力が殆どすっからかんだし! よっ、と」


 ティルヒルさんに手伝ってもらって身を起こし、発着場の際から外を眺める。

 すると、まず村の手前に大岩鬼(サスナルカヒ)の巨体がいくつも転がっていた。その巨大な死骸には、奴らが先ほど追い立てていた無数の魔物達が群がり貪っている。なにか、考えさせられてしまうような光景だな……

 視線を遠くにやると、ご近所の二つの村を乗せた岩山も無事に立っていた。


「全て、守り切れたんですね…… 本当に良かった」


「うん! タツヒト君達のおかげだよ! あ、見て! ジルジル達が戻ってきた!」


 彼女の指す方角に目を向けると、数人のアツァー族が村に飛んで来るところだった。

 彼女達は発着場に着地するなり、僕を見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた。


御使(みつかい)殿、目覚められたか! 良かった!」


「ええ。ビジールさん達もご無事で良かったです。あの、もしかして例の岩場を……?」


「はい、調べてまいりました。御使(みつかい)殿のご推察通りのようです。例の岩場から岩山が全て消えていて、巨大な複数の足跡がこちらまで続いておりました」


「なるほど、やっぱり…… ありがとうございます。こうなると、ナパ内の他の村の様子も気になりますね…… すぐに他の村に--」


「タツヒトよ、待つのじゃ」


 声に振り向くと、今度は村の奥から長老さん達が現れた。


「ナーツィリド長老。他の長老さん達も」


「うむ…… まずは英雄達に心からの礼を。お主達のおかげでここを含む三つの村、いや、周辺に位置する幾つもの村が破滅を免れた」


 超歳上の長老さん方が揃って頭を下げてくれたので、ちょっと恐縮してしまう。


「は、はい。上手くいって良かったです。それで、他の場所でも同じ事が起こっているじゃ無いかと……」


「うむ。その懸念は尤もじゃ。今方々に使いをやって確かめておる故、まずはそれを待つのじゃ。

 そして、まずは体を休めるのがよかろう。その魔力の枯渇した体では、下の死骸に群がる魔物ども相手でも危うかろう」


「それは……」


 確かにそうだ。でも僕らでさえ、全ての力を注ぎ込んだ短期決戦で何とか奴らを倒すことができた。

 もし仮に、この村ほど戦力が整っていない他の村に大岩鬼(サスナルカヒ)が現れたら……


「--タツヒトさん、休ませてもらいましょう。今の状態で外に出るのは無茶です。正直、僕もいますぐ気絶してしまいそうな状態ですし」


「シャムもであります…… 調子に乗って鋼弾(こうだん)を連発しすぎたであります……」


 プルーナさんとシャムの言葉にはっとした。そうだった。僕だけじゃなくほぼ全員が魔力切れなのだ。

 そんな状態では、みんなを巻き込みながら無駄死にしてしまいかねない。


「--分かりました。では、休ませて頂きます」


「うむ、それで良い…… 何か分かり次第知らせる故、ティルヒルの家でゆるりと過ごすが良い」






 ナーツィリド長老の調査の結果は、嫌な形で予想通りのものだった。ナパの各地で、突如として現れた大岩鬼(サスナルカヒ)が村を襲っていたのだ、

 逸る気持ちを抑えながら三日ほど休息し、魔力が完全回復した段階で、僕ら『白の狩人』とティルヒルさんは村を飛び出した。

 僕らが居たアゥル村はナパの北西にあり、東側の村の方が被害状況が厳しい様子だったので、東回りのルートでナパ内の集落を訪ねて回ることになった。


 僕らが助けに向かうまでなんとか持ち堪えた村、犠牲を出しつつも討伐に成功した村もあった中、救援が間に合わなかった村もあった。

 岩山を加工して造られたアツァー族の村は、その岩山ごと引き倒されて見るも無惨な有様だった。

 ナアズィ族の地中に広がる村も、大岩鬼(サスナルカヒ)の鋭い嗅覚で見つかってしまい、滅茶苦茶に掘り返されてしまっていた。


 どちらの場合も、飛んで逃げたり逃走用の地下道を準備していたりで、村の人達が全滅したわけでは無かった。

 それでも犠牲が皆無という訳では無かったし、文字通り着の身着のままでの脱出だったので、多くの人々が無事な村に身を寄せることになった。

 ここで、避難用に備蓄していた食料や物資が役に立ったわけだけど、もし今避難することになったらかなりマズい状況だ。


 大岩鬼(サスナルカヒ)を討伐し、村の人達を助け、少しの休息の後また次の村へ移動する。

 そんな強行軍を続けた僕らは、ついにぐるりとナパをほぼ一周し、アツァー族が住む西の果てのビアド村に来ていた。


天雷(フルグル・カエレステ)!』


 バガァンッ!


「ガッ……」


 残り少ない魔力をかき集めて撃った天からの雷が、100m級の大岩鬼(サスナルカヒ)に直撃した。

 感電防止のため、遠巻きに退避してくれていたみんなが固唾を飲んで見守る中、体の所々から煙を上げる巨体が傾いでいく。そして。


 ズドォォンッ!!


 大地を揺るがし、ナパで暴れ回っていた大岩鬼(サスナルカヒ)の最後の一体が地に沈んだ。

 その瞬間、僕らが背後に庇っていたビアド村の方から小さく歓声が聞こえてきた。

 僕らがここに辿り着くまでの二週間の間、この村はベテランの勇者と戦士達が必死に守り抜いていたのだ。

 しかしそれも限界がきていて、後少しでも僕らの遅れていたら、この村も無惨に崩されてしまっていただろう。


「お、終わったぁ……」


 極大の疲労感にへたり込むと、他のみんなもその場に座り込んでしまった。


「流石に、疲れたね…… シャムちゃん……」


「もう、へとへとでありますぅ…… プルーナ、立てないから運んで欲しいであります……」


 お子様組の二人は特に疲労が激しいようだった。無理もない。この二週間、ほどんど休息らしい休息も取らずに走り回っていたのだから。

 その後僕らは、ビアド村から駆けつけた戦士達の手によって村へ搬送され、下にも置かれない様子で歓待された。

 しかし、僕らがふらふらな様子を見てとった村の人たちは、食事と水浴び、着替えを提供してくれた後、すぐに上等な客室に案内してくれた。めちゃくちゃ有難い。


 村の方々の心遣いに何度もお礼を言い、一人客室に引っ込んだ僕は、寝心地の良い広いベッドに倒れ込んだ。

 そして、何度か寝返りをうってから小さく呟く。


「なんか、眠れないな……」


 疲労はピークにあるのに、ずっとアドレナリンがでっぱなしだったせいか、目が冴えてしまって中々寝付けない。いや、理由は他にもあるのだけれど……

 そんな感じでうだうだと無為に時間を過ごしていると、遠慮がちなノックの音が部屋に響いた。


「え…… は、はーい」


 ベッドから身を起こして扉を開けると、そこに居たのはティルヒルさんだった。

 顔は伏せらえていて表情は窺い知れないけれど、薄着の寝巻き姿に心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 どうしました? 努めて冷静にそう口にしようとした瞬間、すっと間合いを詰めた彼女から思い切り包容されてしまった。


「ティ、ティルヒルさん……!? あれ、みんなも……!?」


 ティルヒルさんの肩越しに、ヴァイオレット様達の姿が見えた。お子様組二人の姿は無いようだ。


「あぁ、我々の事は気にしなくていい。最初はな」


「そうだにゃ。大人しく順番を待っていてやるにゃ!」


「あぁ神よ。今宵も劣情に負けてしまう事をお許し下さい……」


「うふふ…… ロスニア。あなた言いながら少し昂っているのではなくってぇ?」


 ぞろぞろと部屋に入って来た四人は、そのまま部屋に置かれたテーブルに座ってしまった。

 そして、抱き合うティルヒルさんと僕をじっと見る。え、なに、どうゆう事……?

 状況に思考が追いつかずに混乱していると、ティルヒルさんがじりじりと僕を押し始めた。


「さっき、みんなとタツヒト君のことを話してたんだ…… 初めて会った時のこと、美味しい料理を作ってくれた事、一緒に踊ってくれた事、ターちゃんのお墓にお花を添えさせてくれた事。そして、村を守ってくれたこと……

 そしたら、話してる内にもう気持ちが止まんなくなって…… 会いに来ちゃった……!」


 そんな言葉と共にぎゅっと強く抱きしめられ、彼女の心地よい体温と共に早鐘のような心臓の鼓動が伝わってくる。ま、まずい…………!


「そ、それはその…… とても嬉しいですけど、い、今は色々とまずいので、ちょっと離れて頂いて……」


「んふふ…… な、なんで……? みんなは、タツヒト君も、その、そろそろ溜まってるはずだって言ってたけど、それがかんけーしてる感じ……?」


 ちょっとイタズラっぽく言う彼女に、ぎくりとしてしまう。

 そうなのだ。この二週間は、当然そういった事をする暇など無かったし、疲労の影響か、その、結構まずい感じになっている。


「そ、それは否定できないんですが…… うわっ……!」


 後ずさる内に大分押し込まれていたようで、僕はティルヒルさんに覆い被さられるようにベッドに押し倒されてしまった。

 するとギャラリーの四人が、おぉ、と感嘆の声を漏らす。くそぅ、なんだこの状況……!?


「あーし、初めてだからさ…… 怖いから付いて来てってお願いしたら、みんな一緒に来てくれたんだよ…… んふふ…… やさしーよね」


「確かにみんな優しいですけど…… ティ、ティルヒルさんはこの状況は平気なんですか……!?」


「え、なんで? みんなと一緒のほーが楽しそーじゃない?」


「そ、それは……!」


 あっけらかんと言う彼女に、僕は反論できなかった。普段、みんなとは爛れた生活を送っているからなぁ……


「ねぇ…… タツヒト君は、あーしとするの、嫌……?」


 吐息のかかるような距離。潤んだ瞳で不安そうにいう彼女に、もう僕の理性はボロボロだった。


「嫌じゃ、無いです…… 寧ろ、光栄過ぎるというか…… で、でも、勇者の掟が……」


 流石の僕でも彼女の好意には気づいていたし、僕だって、孤高の強さを持つ天真爛漫な彼女に強く惹かれていた。

 でも、村の人たちから勇者の掟の話を聞いてからは、努めてそれを意識しないようにしていたのだ。


「ほんと!? だいじょーぶ! おばーちゃんに、タツヒト君とならいーよって言ってもらったから!

 だ、だから……! もう、いいよね……? いいよね……!?」


「……!」


 ティルヒルさんの瞳が情欲に燃え上がり、漏らす吐息は荒く、触れ合う体は火傷しそうな程に熱い。

 気持ちを抑える理由の全てが取り払われた僕は、気がつくと小さく、しかしはっきりと彼女の言葉に頷いていた。

 その瞬間。獰猛な歓喜の笑みを浮かべたティルヒルさんは、獲物に喰らいつくように僕の口を塞いだ。


お読み頂きありがとうございました!

【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ