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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第400話 地の民の村(2)

遅くなりました。木曜分ですm(_ _)m


 まるでアリの巣。それが地の民の村の印象だった。

 石板の下から現れた地下への入り口に入ると、人がやっとすれ違えるくらいの道幅の洞窟が枝分かれしながら奥へと続いていた。

 天井の所々に採光用の穴が空いているので真っ暗ではないけれど、視界はまぁまぁ悪い。

 

「おっと、私達ナアズィ族以外には薄暗く感じられるはずです。足元に気をつけてくださいね。

 それからこの先は迷路になっていて、間違った道の先には罠も仕掛けてあります。私たちから決して離れないで下さい」


「は、はい。物凄く気をつけます」


 僕らの前を歩くハロナ長老が、こちらを振り返りながらちょっと怖い事を言ってくる。

 なるほど。万が一魔物などの外敵が入ってきた時には、散々迷わせた挙句罠で始末する設計なんだろうな。

 ちなみに長老さんと護衛の二人は、普段掛けている日除けゴーグルを外しているので、僕らは彼女達の黒目が勝った瞳を初めて目にすることができた。

 --もふもふで小柄な体格に、そのクリクリとしたお目々はちょっと反則的に可愛い。さておき、彼女達にとってはこのくらいの光量が過ごしやすいのだろう。


 その後、ハロナ長老達の後ろにピッタリついて歩くこと暫し。

 何度曲がったのか分からないくらい分岐を沢山通過すると、突然視界が開けた。

 そこは体育館ほどの広い空間だった。ベンチやちょっとした植物が所々に配置され、地面は運動しやすそうに整地されている。

 採光用の穴も沢山配置してあるので、今通ってきた通路より遥かに明るい。地下空間なのに公園のような雰囲気だ。

 村の住人の人達だろう、数十人ほどの只人とナアズィ族が、走ったり昼寝したりおしゃべりしたりと、思い思いに過ごしている。

 

「ここがこの村の広場で、言わば玄関のような場所です。只人も一緒に住んでいるので、結構明るめな造りにしてあります」


「おぉ、広くて圧迫感が無いであります! プルーナ、なんだかワクワクするでありますね!」


「そうだねシャムちゃん! 柱が全く使われていない…… 丸屋根構造と圧縮強化した壁だけで支えているんだ……! 面白いなぁ」


 探検したくてうずうずしている様子のシャムと違い、プルーナさんは何やら別の観点から興味をそそられているらしい。

 二人のちょっとズレたやり取りにくすりと笑っていると、広場で遊んでいた子ども達が僕らに気づいて走り寄ってきた。


「あ、長老だ! おかえんなさーい!」「こくよくの勇者だ!」「知らない人がいっぱい! こんにちは!」


「はい、ただいまです。彼女達はアゥル村から来たお客さん達ですよ」


 子供達を笑顔で迎えたハロナ長老が僕らを紹介してくれたので、こちらも元気よく挨拶する。

 しかし、只人のお子さんももちろん可愛いのだけれど、ナアズィ族のお子さんはやばい。

 なんというか、まとめてお持ち帰りしたくなるようなぬいぐるみじみた可愛さがある。


「わぁ! みんなあーしの事覚えててくれたんだー! んふふ、ありがと!」


「あらあら、こんにちは皆さん! 元気な挨拶ですねー!」


 人柄がそうさせるのか、ティルヒルさんとロスニアさんは直ぐに子供達と打ち解けていた。特に子供好きなロスニアさんは目尻を下げっぱなしである。

 それから、ハロナ長老が会議の面子を集めるので少し待っていてくれというので、その間に村を案内してあげるという子供達の言葉に甘えさせてもらう事にした。


 ちょっと得意げな様子の子供達は、僕らの手をぐいぐい引いて色んな部屋を見せてくれた。

 広場の隣に位置した茸の養殖場では、部屋いっぱいに畝の列が並んでいて、そこで大量の茸が育てられていた。

 よく見ると、以前別の長老さんにもらったあの美味しい茸だった。ナアズィ族は全員この茸が好きなのかも。

 一極集中型の炊事部屋では村全体を賄う大量の料理が準備されつつあり、一部屋全てを使った燻製部屋などもあった。

 少し降った階層には、ホテルのような感じで部屋が沢山並ぶ住居スペース、集約型の子供部屋、複数に分散された食糧庫なども見る事ができた。

 さらに村の最奥には、もしもの時に立て篭もるための部屋や、そこから外の別の出口に伸びる非常口なども用意されてあった。

 アツァー族の高層集落もそうだったけど、やはりこのナアズィ族の地下集落も、過酷な魔獣大陸で生きるための知恵や経験が脈々と受け継がれているのだ。






 子供達に興味深いものを見せて貰ったお礼言いながら広間に戻ったところで、ハロナ長老達との大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)対策に関する打ち合わせが始まった。

 集まってくれた村の重鎮の方々と挨拶を交わし、新規情報である大防壁の次善策を伝え、避難計画に必要な準備についても共有する。

 その上で、村長さんと一緒に協力をお願いすると、その場にいた重鎮の人たちは意外にもすんなり頷いてくれた。

 しかもこの村だけじゃなく、周りの村々とも声を掛け合って人手を集めてくれるらしい。


「ありがとうございます……! でも、正直少し驚きました。増え続ける魔物に対処しつつ、この件にまで労力を割いて頂くのは相当大変だと思うのですが……

 それだけ、大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)の脅威を重く受け止めて下さっているんですね」


「「……!」」


 僕の言葉に、一瞬で空気が変わった。

 積極姿勢で前のめり気味に協力を申し出てくれたセイン村の人々。その彼女達の表情が、一瞬にして悲しみと懐かしさが()い交ぜになったものに変わってしまったのだ。


「あ、あの……?」


 困惑する僕に、ハロナ長老が重苦しく口を開いた。


「--そうですね。ある意味、私たちほど大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)の恐ろしさを知っている村も無いでしょう」


 その言葉に、僕はいまさらになって重大な事を思い出した。そうだった。確かこの村の勇者さんは奴に……


「--鉄砂の勇者、ベーシュさんでしたか…… 彼女は、皆さんからとても慕われていたんすね」


「ええ…… 強く、好奇心旺盛で、いい大人なのに子供のような女でした。村の皆が彼女を頼り、彼女はいつもそれに応えてくれていました。

 --勇者ティルヒル。あなたと初めて出会った日、彼女はあの子はすごい、さすがナパで一番強い勇者だと興奮して話していましたよ。

 もう一度会ってじっくり話してみたいとも。それを、叶えさせてやりたかった……」


 ハロナ長老にそう言われ、ティルヒルさんははっと息を呑んだ。

 彼女は今にも泣き出しそうな様子だったけれど、小さく首を振ると懐かしむように微笑んで見せた。


「--ベーちゃんこそすごかったよ。おっきい群れ相手だったら、あーしよりよっぽど強かったし……

 タツヒト君。ほらあそこ、覚えてるかな? 村の近くの、小さめの岩山が沢山ある場所」


「小さい岩山…… えっと、百体くらいの岩帯獣(ツェナガヒ)の群れをみんなで倒した、あの場所ですか?」


「そうそう。あそこって何故か魔物が集まりやすいんだけど、一回ものすごい数の群れが集まったことがあってさ。

 結構たくさんの村から勇者が討伐の手伝いに来てくれて、その中にベーちゃんもいたんだー。

 あの子の地の呪術、すっごいんだよ? めっちゃ硬い砂粒で作った砂嵐を、こう、どばばばー! ってものすごい勢いで群れ相手にぶつけるの!

 あの時、ベーちゃんがいなかったらすごく沢山の人が死んじゃってたと思う…… あーしも、もう一度お話したかったなぁ……」


「ティルヒルさん……」


 普段の明るい様子とは違った哀しげな様子に、僕は思わず彼女の肩に手を触れていた。

 強張った体は少し震えていて、人懐っこい彼女が悲しみに耐えていることが伝わってきた。

 そうして暫く沈黙が続いたところで、ハロナ長老が今度は明るい調子で口を開いた。


「すみません、つい脱線してしまいました。今は未来の話をするべきでしたね。大防壁の次善策と避難の準備について話を続けましょう」


 長老の言葉に全員が頷き、重鎮の人一人がおずおずと手を挙げた。

 

「あ、あの、でしたら御使(みつかい)殿。この次善策の仕上げの工程について質問が……」


「あ、はいはい、なんでしょう」






***






 セイン村の重鎮達とタツヒトとの会議は、具体的な工程や人の割り当てなどの詳細部分に及び始めていた。

 ティルヒルは、先ほどタツヒトに触れられた自身の肩にそっと触れながら、じっと彼の横顔を見つめている。

 普段と違う様子で重鎮達と議論するタツヒトに、彼女は自身の鼓動が早くなっていくのを感じていた。


「--ああして真剣に話している時のタツヒトさんて、格好いいですよね」


 すると、プルーナが囁くような声でティルヒルに話しかけてきた。

 いきなり内心を言い当てられたティルヒルは、焦りながらもなんとか囁き返えした。


「へ……!? う、うん…… 普段の可愛い感じと全然違うよね。ちょっとどきっとしちゃうかも……」


「うふふっ。それ、わかります!」


「--んふふ! さっすがプルプル!」


 会議の邪魔にならないよう小さく笑い合う二人。そこへ、好奇心に目を輝かせたシャムが加わった。


「ティルヒル。シャムは、この間の逢引きの結果をまだ聞いていないであります。タツヒトと接吻くらいはしたでありますか?」


「せ、接吻て…… そんなのいきなり出来る訳ないじゃん……! そ、その、一緒にお弁当は食べたよ……?」


「なっ……!? そんな速度感では、いつまで経っても進展しないであります! もっと、ロスニアのように無理やり襲うくらいでないとダメであります!」


「えっ……!? 二、ニアニア……? 嘘、でしょ……?」


 愕然とした表情を向けるティルヒルに、ロスニアは神妙な様子で首を横に振った。


「いえ…… シャムちゃんは何も間違った事は言っていません。やはり私は聖職者には……」


「ちょ、ちょっとシャムちゃん……! 語弊があるよ……!」


 タツヒトとセイン村の重鎮達が、ナパの将来について真剣に議論しているすぐ側。

 彼女達の囁くような会話は、まだ暫く続くようだった。


お読み頂きありがとうございます。

本話で、拙作亜人の王は400話に達しました。

これも読んで下さる皆様方のおかげです。重ねて感謝申し上げますm(_ _)m

【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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