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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第397話 美味しい岩塩を採りに行こう(1)


 ナーツィリド長老達との会合では、大防壁の工法、医療体制の充実、魔物対応、防壁の次善策、避難計画など、大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)対策に関する色々な事を話し合った。

 そして会合から一週間程が経過した今。奴の来襲に備えた諸々の準備は順調に進んでいた。

 

 まず大防壁建造については、シャムとプルーナさんの二人が首脳部に助言したところ、修正案の大部分が採用された。

 当初計画は、巨大峡谷(ツェコー・ツォー)のナパ側から土砂を集めてきて、とにかく高い防壁を造るという単純なものだった。

 変更後の計画では、渓谷の向こう側の崖を削り、削った土砂を土魔法でナパ側に積み上げて防壁を築いていく

 工程の後半では、防壁の上層にプルーナさんお得意の多孔質構造も取り入れることで、さらに高さをアップさせる想定だ。

 ちょっと工事は大変になったけど、この方法なら防壁が高くなるほど峡谷の向こう岸が低くなっていくので、奴が防壁を越えるのがより困難になるはずなのだ。

 すでに、二人とナアズィ族の人達により壁の建造が急ピッチで進められている。


 次に医療体制について、ナパには癒し手(ハタールィ)と呼ばれる人達が少数居るのだけれど、この人達への指導員にロスニアさんが抜擢された。

 癒し手(ハタールィ)は、効果は低いながらも治癒魔法のようなものを使用できる。圧倒的な腕を持つロスニアさんが指導すれば、彼女達の能力の底上げができると首脳陣は考えたらしい。

 ロスニアさんは当初これに難色を示した。自分の神聖魔法は洗礼を受けた聖職者にしか使えない。癒し手(ハタールィ)に自分が教えられる事は少ないだろう。そう考えたのだ。

 しかし調べてみると、驚くべきことに両者が使っているのは同じ神聖魔法だったのだ。

 そういった訳で、おそらく現在魔獣大陸で最高の癒し手(ハタールィ)であるロスニアさんは、地元の癒し手(ハタールィ)達への指導を精力的に行っている。


 そんな感じに後衛組の三人が頑張ってくれている間、残りの僕ら前衛組は増え続ける魔物対処に奔走していた。

 他の戦士たちと共同で何とか回せているけれど、ナパへの魔物の流入は増加の一途を辿っていて、位階の平均も上がり続けている。

 このままだと、大防壁が完成する頃にはナパの外と大差無い水準になってしまいそうだ……

  

 ちなみに、大防壁を越えられてしまった際の次善策については、今の所何も思いついていない。

 相手が強大すぎるので、どんな小細工を弄しても踏み潰される未来しか見えなかったのだ。

 ただ、幸い奴の足は人の徒歩よりも遅いので、壁を越えられてしまった段階からでも避難は間に合うはずだ。きちんと準備できていればだけど……


 なので、僕らは避難派の長老さん達と共謀して、防衛派の長老さん達にバレないよう水面下で準備を進めているのだ。

 今日はその避難準備の一環で、僕ら前衛組は魔物退治をお休みし、今日はナパの外まで出かけることになっている。

 旅支度を整えてアゥル村を出発しようとする僕らを、後衛組の三人が村の麓まで見送りに来てくれていた。


「それじゃあ行ってきます。おそらく明日の夕方頃には帰って来れると思いますので、後をよろしくお願いします」


「ええ、私は今日も癒し手(ハタールィ)の皆さんに神の教えをお伝えします。皆さん、無茶せず無事に帰ってきて下さいね」


 心配そうにしながらも笑顔で見送ってくれるロスニアさんに対し、シャムは少し不満げだ。


「むぅ…… シャムの付いて行きたかったであります」


「仕方ないよ。僕らは防壁の方に行かないとだし、今のシャムちゃんの体だと今回の仕事はちょっと大変だよ」


「ごめんねー、シャムシャム。プルプルの言う通り、今回は大人じゃないと厳しーからさ」


「シャ、シャムだって大人であります! 今はこんなでありますが…… 元に戻れば岩塩くらい運べるであります!」


「わっ…… ご、ごめんてぇ」


 ぷりぷりと怒り出したシャムを、ティルヒルさんが必死に宥める。今のシャムに体格の話は地雷だからなぁ……

 シャムが今言った通り、今回の僕らの仕事は岩塩の採集クエストだ。村の北、ナパを出て少し進んだ辺りにに良い採集場所があるのだそうだ。

 避難派の長老さん達と策定した避難計画では、ナパの全住民を南の大陸まで逃すのに三ヶ月はかかる計算だ。

 その間に消費する物資の一つとして大量の塩が必要なので、結構でかくて重い岩塩の塊を持ち帰ってくる必要がある。シャムの体格だと、力はともかく手足の長さが足りないだろう。


「シャム。もうティルヒルも分かってくれただろう。そろそろ彼女が泣いてしまいそうだぞ?」


「むー…… 分かったであります……」


 見かねたヴァイオレット様が優しく諭すと、シャムは漸く怒りを収めてくれたようだ。

 彼女はちょっと涙目なティルヒルさんに歩み寄ると、抱擁するように両手を差し出した。


「ティルヒル、ぎゅっとして仲直りするであります!」


「シャ…… シャムシャム〜!」


 膝をついたティルヒルさんと、少し背伸びしたシャムがひっしりと抱き合う。すると二人はすぐに笑顔になってしまった。

 うん、ハグって結構最強だよね。なんか見てるこっちまで幸福な気持ちになるし。

 その後、もの欲しそうにしていたのが伝わってしまったのか、シャムは僕を手始めにその場の全員をハグしてくれた。ほんと、良い子に育ったよね……

 シャムのお陰でたちまち笑顔になった僕らは、いつもより軽い足取りで村を後にした。






 村を出て山を越え、ナパの外に巣食う強力な魔物達を相手しながら進むこと丸一日。

 陽が傾き始めた頃になって、僕らは漸く岩塩の採集場所に到着した。 

 そこは結構高めの山の麓で、目の前の切り立った岩壁の部分に、岩塩層が露出しているのだそうだ。

 いつもなら、そこから岩塩を削り取るだけでお仕事完了なのだそうだけど、今日は残念ながら先客が居た。


「「メェエエエェッ……」」


 眼前に聳える岩壁に、見える範囲で百体ほどの山羊型の魔物が張り付いて居るのだ。

 ナパに入る前に遭遇した羊頭の人型魔物に似ていて、湾曲した立派な二本角が生えているので、正に西洋の悪魔といった外見だ。

 で、そいつらがなんで岩壁に張り付いて居るのかというと、岩塩を舐めるためだ。


「「……」」


 両手両足でへばり付き、一心不乱に壁をぺろぺろと舐めている魔物の群れ。その光景に、僕らはみんな微妙な表情で立ち止まってしまった。

 なんだろう。四足獣としての山羊なら別になんとも思わなかったんだろうけど、人型の魔物になると途端に嫌だな……

 え。僕ら今からあれを採集するの……?


「うにゃー…… にゃんかウチ、あそこの塩採るの嫌だにゃ…… おいティルヒル。別の場所にしにゃーか?」


「う、うーん…… ゼルにゃーの気持ちも分かるけど、別の場所だと遠いんだよねぇ。他の村との兼ね合いもあるし……

 だ、だいじょーぶだって! 表面削りとれば綺麗になるから!」


「それはそうですけれどぉ…… あぁ…… ここの岩塩を使った料理を食べるたびに、この光景が脳裏に甦ってしまいそうですわぁ……」


「キーちゃんまでやめてよ! おっかしーなぁ。前来た時はあんな奴ら居なかったのに……」


 女性陣が上げる非常に嫌そうに声に、壁に張り付いた山羊型魔物たちが漸くこちらに向き始めた。

 多分、こいつらも元々の住処を追われてここに流れ着いんだんだろうな。

 つまりは全て大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)のせいだ。おのれ、許すまじ。


「みんな、そろそろ来ますよ。岩塩をどうするかは、取り合えずあいつらを片付けてから決めましょう」


 僕の声に、みんなは瞬時に意識を切り替えて武器を構えた。

 するとこちらの戦意が伝わったのか、様子を見ていた魔物達が次々に岩壁から飛び降り、こちらに襲いかかって来た。


「「メェエエエェッ!!」」


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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