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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第386話 勇者のお仕事(2)

遅くなりました。木曜分ですm(_ _)m


2025/5/9 タイトル変更


 ティルヒルさんについて行くと、村の端の開けた所に鳥人族(ちょうじんぞく)の戦士の人達が数十人集まっていた。

 そこだけ他と違って転落防止の柵も無かったので、ここが彼女達の発着場のような場所なのかも。


「勇者よ、おはようございます。おや、そちらは…… もしや、連れて行かれるのですか?」


 少し怪訝そうにこちらを見るのは、手練の雰囲気を纏った大人のお姉様な戦士。確か名前はビジールさんだったはず。長老さんの家で話した時に同席していた、村の重鎮の一人だ。

 しかし、彼女も他の戦士の人たちも、やはりティルヒルさんに対してはものすごく敬意を払っているのを感じる。

 やはり勇者というのは名誉ある立場のようだ。


「おはよ、ジルジル、みんな! うん、タツヒト君達が手伝ってくれるんだって! 大丈夫、戦うとこまだ見たことないけど、みんな強いんだから!」


「は、はぁ……」


 ほんとかよ…… みたいな目でこちらを見るジルジル、じゃなくてビジールさん。そりゃそうだろうな。


「よろしくお願いします、ビジールさん。足手纏いになったら、置いていって頂いて構いませんので」


「そういう訳にも行かないが…… いや、勇者を信じよう。では、タツヒト殿達もいることですし、出る前に少し詳しめに打ち合わせをしましょう」


「うん、ありがとねー!」


 ビジールさんによると、今日の仕事はナパに侵入した岩帯獣(ツェナガヒ)の群れの駆除で、数は推定100体程度らしい。あいつらが相手かぁ……

 ここから少し離れた所に、村の土台として使うには少し小さい岩山が密集している場所があって、そこに住み着いてしまったそうだ。

 ちなみにこれは、空の民である彼女達アツァー族ではなく、地の民であるナアズィ族からの依頼なのだそうだ。

 村の拡張やインフラ整備、道具づくりなどはナアズィ族。ナパ内の警備、魔物の駆除、物流や情報伝達などはアツァー族。そういう役割分担が古来から続いているのだとか。

 その後も説明は続き、さあ出発しようという所で、ビジールさんがはたとこちらを振り返った。


「おっと…… 所でその、タツヒト殿達は現地へはどう行かれるので? 今回はまだ飛べぬ戦士や呪術師も連れて行く。彼女達同様、我らがあなた方を現地まで運ぶこともできるが……」


 ビジールさんが戦士達の方に視線を向ける。何人か緊張の面持ちの若い子がいるので、彼女達がその見習いの子達だろう。

 つまり、彼女達の殆どは風魔法か軽躯(けいく)により空を飛ぶことができるのだ。まぁ、じゃなきゃこんなに高い所に住んでられないか。


「いえ、なるべくご負担にならないようにしたいので、走って付いて行きます。

 ここの登り降りも階段だと時間がかかってしまうので…… プルーナさん、以前話したエレベーターって覚えてます? あれみたいな感じで下に降りれたらなーって思ったんですが……」


「エレベーター…… あぁ! 分かりました、やってみます!」


「え、なになに? どうやるの? あーしも一緒に降りていい?」


 怪訝な表情のビジールさん達を他所に、僕らは村の際々、ちょっと覗けば数百m下に地面が見える位置に立った。

 そこに、興味津々な様子のティルヒルさんも合流する。


「うふふ、じゃあティルヒルさんも一緒に。行きますよ? 下へ参ります」


 ズズッ……


 プルーナさんの声と同時に、僕らが乗った足場の一部がそのまま滑り落ちるように降下し始めた。


「「おぉ……!」」


 僕らの簡単の声に混じり、上の方からビジールさん達の声も聞こえてくる。

 地魔法によるエレベーターは、数百mの距離を結構な速度で降下していた。しかし地上が近づくと次第に減速し、殆ど衝撃を感じさせずに着地した。完璧な制御だ。


「おぉ……! さすがです! 僕の故郷の奴より乗り心地よかったですよ!」


「すっごいよプルプル! 階段で降りたら結構かかるのに! 一瞬で下に着いちゃった!」


「いや、本当に助かった。私にはあの階段は少々小さかったからな。是非帰りもお願いしたい……!」


「えへ、えへへへへ……」


 みんなに褒められ、プルーナさんがもじもじと手を擦り合わせる。うん、今日は彼女を褒める日だな。






 その後、ティルヒルさんはアツァー族の戦士達に合流し、編隊を組んで飛翔を開始した。僕らも高速移動モードでそれを追う。

 ロスニアさんを背に乗せたゼルさんは、地上にも軽躯(けいく)の使い手が居るって所を見せてやるにゃと張り切っていた。

 そうして数十分ほど走ると、ミーティングにあった岩場が見えてきた。


 巨大な岩石群に寄り添うように、人の背丈より二回りほど大きな岩塊がいくつも立ち並んでいる。岩帯獣(ツェナガヒ)だ。

 どうやら連中は夜行性らしく、昼間はこうして岩に擬態して眠っているようだ。

 しかし、そんな彼らにとっての安らぎの一時は突如として終わりを告げた。


 --ヒュルルルルッ……! ザガガンッ!!


 上空から飛来した巨大なブーメランが、立ち並ぶ岩帯獣(ツェナガヒ)を数体まとめて薙ぎ払った。

 仲間が一瞬で挽肉に変わったことに気づき、奴らが擬態を解いて雄叫びを上げる。 


「「ギュッィィィィッ!!」」


 後ろ足で立ち上がった姿は、まさしく岩石の甲殻を背負ったアルマジロ。

 その目が上空に羽ばたく編隊を憎々しげに睨む。しかし、それは完全な悪手だった。

 

 --ルルルルッ……!


 楕円軌道を描いで戻ってきたブーメランが、さらに数体を背後から水平に両断し、上空へと戻っていく。

 それを脚でキャッチしたのは、漆黒の翼で空を駆けるティルヒルさんだった。


「よいっ…… しょっと!」


 彼女は掴んだブーメランの勢い殺さずにくるりと回ると、舞うような動きから蹴り出すように二度目の投擲を行った。

 上空から再度襲いかかる死神の鎌に、岩帯獣(ツェナガヒ)達がなす術もなく蹂躙される。

 優雅かつ強力無比。あれがティルヒルさんの戦闘スタイルか……!

 強靭な脚力で投擲したブーメランを、さらに風魔法で軌道修正、加減速させながら自在に操っているんだろう。

 身体強化と風魔法の双方を高度に活用した、かなり殲滅力の高い戦い方だ。これ、早めに参戦しないと活躍の場がなくなってしまうぞ……!?


「--全隊停止! 後衛組は高台から援護! 前衛組は、アツァー族との分担に注意しながら殲滅開始!」


「「応!」」


 後衛組を背中から下ろした僕ら前衛組は、悲鳴を上げて逃げようとする岩帯獣(ツェナガヒ)達の退路を塞ぐように突貫した。

 今回の作戦は単純で、アツァー族が岩帯獣(ツェナガヒ)の群れの一方から攻め、僕ら『白の狩人』はその反対側から挟み込むように攻めるというものだ。

 アツァー族の皆さんと僕らが一緒に戦うのは初めてなので、連携は最小限に、事故が少なく効果的な手法が選択された形だ。

 

 立ちはだかる僕らに、岩帯獣(ツェナガヒ)達は本領である球体状態になって突進してきた。

 地面にいる奴らなら潰せる……! そんな意図が透けて見えるかのようだ。

 しかし最初に遭遇した時と違い、後衛組が安全な場所にいる今、僕ら前衛組は遠慮なく力を振るうことが出来る!


爆炎弾エクスフラム・ブレット!』


 ドンッ!


 僕が放った火球が、正面から迫った岩帯獣(ツェナガヒ)を吹き飛ばした。その爆炎に紛れ、僕の横合いを別個体が通り過ぎようとする。

 強化された視力が、高速回転するその個体の頭部を捉えた。僕はそこに合わせて一瞬で槍を突き込み、回転に巻き込まれる前に素早く引き抜いた。

 するとその個体の軌道はすぐに乱れ、岩山に激突して動かなくなった。


「ふっ……!」


 バキョッ!!


 近くに居たキアニィさんの方を伺うと、岩帯獣(ツェナガヒ)をサッカーボールのように蹴り返している所だった。

 冗談のように吹き飛んだその個体は、甲殻をひしゃげさせながら地面に激突した。相変わらず凄まじい脚力だ。

 他のみんなも危なげなく敵を迎え撃っているし、撃ち漏らしも後衛組が的確に仕留めてくれている。いい感じだ。


 戦いながらアツァー族の皆さんの方に視線を向けると、ビジールさん達の戦い方はまさに白頭鷲そのものだった。

 上空から急降下し、強力な身体強化と鋭い脚の爪で岩帯獣(ツェナガヒ)の装甲を断ち割り、確実に頭部や首などの急所を切り裂いている。

 見習いらしき戦士達は、僕らの後衛組のように高台から投げやりで攻撃しているようだ。

 こうしてみてみると、ティルヒルさんの戦い方の異質さが際立つ。きっと、あれも独学で習得したんだろう。凄まじいセンスだ。

 そうして戦い続けること十数分。寝込みを襲われた上に対空手段が無い岩帯獣(ツェナガヒ)の群れは、その僅かな時間で殲滅されてしまった。


「よっし、もう居ないね。お仕事完了! みんな、おつかれさまー!」


「「オォォーーッ!!」」 


 ティルヒルさんの終了宣言に、アツァー族の皆さんが勝鬨を上げる。僕らもちゃっかり便乗して声を上げさせてもらった。

 しかしこれ、僕ら居なくてもさほど変わらなかっただろうなぁ…… まぁ、この後解体したりもあるだろうし、その辺で貢献するとしよう。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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