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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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385/510

第385話 勇者のお仕事(1)

大変遅くなりました。水曜分ですm(_ _)m


2025/5/9 タイトル変更


「メェェェェ……!」


 遠くから聞こえてきた羊の鳴き声で、意識が覚醒した。

 目を開けるとそこは見覚えのない部屋の中で、しかも数週間振りにベッドの上だった。一瞬の混乱の後、徐々に記憶が戻ってくる。


 昨夜のティルヒルさんとのダンスバトルの後、会場の盛り上がりは暫く醒めなかった。

 ティルヒルさんは、もう感涙してテンションもおかしくなっていて、めっちゃ楽しかった、ありがとうと繰り返し僕に伝えてくれた。

 初めは遠巻きにしていた村の人達も集まってきて、賛辞と共にお酒を勧めてくれた。もうもみくしゃみにされた感じだ。

 『白の狩人』のみんなも楽しんでくれたみたいだし、冷や汗かきながら踊った甲斐はあったみたいだ。


 ちなみに頂いたのはともろこしから作ったというお酒で、とろりとした喉越しに、自然な甘みとほのかな酸味がとてもおいしかった。

 長老さんが早めに終了宣言をしてくれなかったら、ついつい飲み過ぎてしまうところだった。危ない危ない……

 その後、まだまだ話し足りないというので、ティルヒルさんのご自宅に泊めていただくことになったのだけれど、そこで一悶着あった。


 何やら、勇者の家に男を泊めるのはちょっと…… という感じで、村の方々から難色を示されてしまったのだ。

 確かに、未婚っぽいティルヒルさんのところに僕が泊まるのはいかにもまずいけど、何かそれとは違った雰囲気も感じたんだよね。

 けれど、タツヒト君はあーしより強いから大丈夫! という謎の理屈と長老さんの鶴の一声により、結局彼女の家で二次会をすることになった。

 

 が、か弱い肝臓を持つ僕はもうクラクラきていたので、早々に客間に引き上げさせてもらった。

 そして、楽しげなガールズトークの声に耳を傾けている内に、いつの間にか眠ってしまったのだろう。

 よし、全部覚えている。今回は醜態を晒していないようだ。

 ほっと安堵の息を吐きながら部屋を出て階段を下ると、一階の居間にはもうみんなが集合していた。中央の囲炉裏を囲みながら楽しそうにおしゃべりをしている。

 広々とした居間には、客間と違って観葉植物っぽいものや可愛い木彫りの人形などがたくさん飾ってある。なんか、文化は違えど女子のお家って感じだ。


「む、起きたか。おはようタツヒト」


「あ…… お、おはようタツヒト君。よく、眠れた……?」


 ヴァイオレット様の声にびくりと反応し、顔を赤ながら伏目がちに挨拶してくれるティルヒルさん。

 あれ…… もしかして何かやっちゃった……!?


「お、おはようございます。はい、お陰様で快眠でした。 --あの。僕、昨日は大丈夫でしたよね……?」


『白の狩人』のみんなに曖昧に問いかけると、キアニィさんが質問の意図に気づいて微笑んでくれた。


「うふふ、安心なさぁい。昨日は大人しいものでしたわぁ」


「そ、そうですか…… なら、良かったんですけど……」


 でも、だったらこのティルヒルさんの表情というか態度は……?


「んにゃ? どうしたにゃタツヒト。 --ああ。ティルヒルが朝から発情してんのは、昨日ウチらの関係の事をたぁーっぷり語ってやったからだにゃ。こいつ、特に夜の事に興味津々だったにゃよ〜?」


「え…… 言っちゃったんですか!? ま、まぁ、今更隠すことでも無いんですけど……」


 驚いてゼルさんからティルヒルさんに視線を戻すと、彼女はばさばさと翼を振って否定した。


「ゼ、ゼルにゃー! あーし、発情なんてしてないし! タツヒト君、違うからね!?」


「にゃはははは! その真っ赤な顔じゃ説得力がにゃいにゃ!」


「……!」


 顔を両翼で隠して縮こまるティルヒルさんを、彼女の両隣に座っていたシャムとプルーナさんが慰める。

 じゃれ合いにしてもちょっと言い過ぎかも…… そう思ったのは僕だけじゃ無かったみたいだ。

 いつもは慈愛の笑みを浮かべているロスニアさんが、目を釣り上げてゼルさんに詰め寄る。


「ゼル! どうしてあなたはいつもそうなんですか!? ティルヒルさんに謝りなさい!」


「う、うにゃぁ…… そんにゃに怒らないでほしいにゃ…… 悪かったにゃティルヒル、言い過ぎたにゃ……」


「うん…… でも、もうちょっと待って……」


 翼の奥から、消え入るような声が聞こえてきた。これは、立ち直るのに結構時間がかかるかも……






 予想に反し、ティルヒルさんは数十秒程で立ち直ってしまった。さすがギャル。過去のことは振り返らないらしい。

 その後はみんなで朝食を頂きながら今後の予定について話し合った。


 まず聖地ゾォール山での古代遺跡探索は、現地との往復も含めて一週間ほどはこの村を空ける形になる。

 ティルヒルさん曰く、不在にする前にまとめて仕事を片付けておきたいので、出発は数日後になるという事だった。

 その仕事とやらの手伝いを申し出たところ、彼女はとびきりの笑顔でお礼を言ってくれた。

 

 無事ゾォール山から戻ってきた後は、僕らは茸対策アドバイザーとして暫く村に留まる事になる。

 滞在中は、このままティルヒルさんの家に居候させてくれてるそうだ。ありがたい。

 勇者特権らしく、彼女の家は長老さんちと同じ規模感の立派な三階建てだ。周囲に八角形の集合住宅が並ぶ中、唯一円筒形をしている。

 建てる時には一悶着あったらしいけど、そっちの方が可愛いからと押し切ったそうだ。

 今はその大きな家に一人で住んでいるので、部屋もたくさん余っているのだとか。


 加えて、村で食事の面倒までみてくれるということなのだけれど、頼ってばかりでは申し訳ない。

 滞在費と食費として、念のために持ってきておいた宝飾品のいくらかを押し付ける事にした。

 えー、別にいーのにー、と言いつ、彼女は僕らが持ってきた宝石や金属細工に目を奪われていた。

 彼女を始めとして、この村の人たちは首輪やら足環やらを結構じゃらじゃらつけている。種族的に着飾るのが好きなのかもしれない。

 話がひと段落した所で、僕らは早速ティルヒルさんのお仕事についていく事にした。


「そだ。仕事行く前に、ちょっと村の中案内しよっか? 昨日は暗くてあんまし見えなかったっしょ?」


 家を出た所でそう提案してくれたティルヒルさんに、僕らは揃って頷いた。

 最初に案内してもらったのは、昨日の宴があった村の広場だ。昨日は気づかなかったけど、中央に大きな井戸が配置してある。

 何でも、この岩山を貫いてさらに地下の水脈まで達する物凄く深いものらしく、風車を使った装置で自動的に揚水しているのだとか。

 広場の周りには、三から五階建ての集合住宅や、粉挽所などの公共施設が円環状に立ち並んでいる。なんとサウナ的な施設もあるらしい。


 村の外周部にまで足を伸ばすと、そこも円環状の放牧地と農地になっていた。どうやらこの外周部が村の面積の大半を占めているようだ。

 毛の長い羊達がのんびりと干し草を食んでいて、今朝聞こえたのは彼らの鳴き声だったらしい。

 今は冬なので農地に作物の姿は見えないけれど、夏には背の高いとうもろこしで一面緑に染まるのだとか。

 一通り見せてもらった感じだと、この村はかなり高度な造りになっている印象だった。


 あと、村を見て回っている最中、幾度となく子供達から声をかけてもらった。

 とにかくティルヒルさんのお子様人気がすごい。彼女を目にした子は、一人の例外も無く笑顔で駆け寄ってくるのだ。

 ティルヒルさんもそれがとても嬉しいようで、幸せそうに笑いながら一人一人撫でたり抱き上げたりしていた。

 そんな感じで案内もひと段落した所で、途中から何か言いたげな様子だったプルーナさんが手をあげた。


「あの、ティルヒルさん。この村ってすごく地魔法を活用した造りになっていますけど…… これ、全てみなさんで施工されたんですか?」


「お、さすがプルプル、鋭いねー。あーしらの村って、風の呪術を使える人はいっぱいいるけど、地の呪術を使える人ってあんまし居ないんだよね。

 だから、岩山を大きくしたり、家を建てたり、井戸を整備したり…… そーゆー事は、殆どナアズィ族っていう地の民にお願いしてるんだー」


「地の民、ですか……?」


「うん。あの人達もナパの中に住んでるんだけど、あーしらと違って地面の下に村があるんだー。

 えっと、見た目はもぐらっぽい感じ? 地の呪術とか細工がすっごく得意なの。いつかプルプルの事も紹介したいなー。地の天才呪術師だって!」


「て、天才だなんて、そんなぁ…… えへ、えへへへへ……」


 もじもじと照れるプルーナさんが可愛い。そしてそんな彼女を、ティルヒルさんが両翼で思い切りハグした。すごい、可愛さに尊さが加わった。

 

「んふふっ…… プルプル可愛い! --じゃ、そろそろお仕事に行こっか。他のみんなも集まってる頃だろーし」


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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