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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第381話 黒翼の天使(3)

遅くなりましたが、水曜分ですm(_ _)m


 ティルヒルさんと別れてから二日後。僕らは目の前に現れた絶景に、暫く言葉も無く見入っていた。


「--ティルヒルさんは大きな谷があるって言ってましたけど、ここまで見事なものだとは思いませんでした……」


「ああ…… この大陸はほとほとに過酷な場所だが、これほど壮大で美しい景色は他には無い」


 隣に立つヴァイオレット様も感嘆の声を上げている。

 僕らがたどり着いたのは、海溝のように深く、途方もなく雄大な峡谷だった。

 長い年月を経て雨風によって削られたのか、複雑な形状の谷が視界の端から端まで広がっている。

 あたりに降り積もった雪の白さと、赤茶けた地層が覗く岸壁とのコントラストがとても綺麗だ。

 崖の際からの覗き込むと、遥か下の方に川が流れているのが見える。あの川は元々もっと上の方にあったんだろうなぁ……

 

 --あ、そうか。ここって多分、地球で言うとアメリカの南東あたり、つまりグランドキャニオンに相当する場所なんだ。道理でなんだか既視感がある訳だ。

 日本で普通に生活してたらまず肉眼で見ることができない絶景だよなぁ…… 目に焼き付けておこう。

 全員がたっぷりと景色を堪能し終えた頃、ゼルさんが背後の方向、北西の空に目を凝らしながら口を開いた。


「すっげぇ眺めだったにゃ…… それでどうするにゃ? まだティルヒルの奴戻ってこにゃーけど?」


 そうなのだ。彼女は、僕らがここへ着く頃には合流できると言っていたのだけれど……


「--もう少しここで待ってみましょう。彼女と合流できた方がこの先色々と安心です。あと、ちょっと時間をかけ作ってみたい料理もありますし」


「あら、それは楽しみですわぁ。この牛型魔物のお肉、ここを渡る前に食べ切ってしまってもいいかも知れませんわねぇ」


 自身が背負う、人一人分くらいはありそうな肉塊を見ながら、キアニィさんがペロリと唇を舐める。

 この方とヴァイオレット様の普段の食事量を見ると、全く冗談に聞こえない所が怖い……


「あはは…… そのくらい沢山食べてもらえるように頑張りますね」


 プルーナさんに器具を作ってもらった僕は、早速調理に取り掛かった。

 まずは残り少ない小麦粉と水、そして念のために持ってきておいた酵母液などを混ぜてパン生地を作る。

 続いて、身体強化のゴリ押しで牛の肉塊をナイフでミンチにし、塩と香草を振ってよくこねる。

 そこからいくつか工程を重ね、出来上がったのは香ばしく焼けたパンに肉汁滴るハンバーグを挟んだ料理。ご存じハンバーガーだ。

 やっぱりアメリカと言えばこれでしょう。大きさも、一個が人の顔くらいあるアメリカサイズにしてある。

 

「よし、完成! さあ食べましょう!」


 みんなが待ってましたと歓声を上げる。作ってる最中もめちゃくちゃいい匂いがしていたので、僕もお腹が鳴りっぱなしだ。

 しかしそんな中、シャムが何かに気づいたように北西の空を振り仰いだ。


「あれ…… あの翼影、きっとティルヒルであります! こっちに向かってくるであります!」


「にゃはは、間のいい奴だにゃ! --んにゃ……?」


「あの…… 気のせいでしょうか、なんだかちょっとふらついているような……?」


 ロスニアさんの指摘に目を凝らすと、確かに飛び方に優美さが無く、軌道も安定していない。

 彼女がこちらへ近づくにつれてその姿が鮮明に見えるようになり、僕は息を呑んだ。

 黒と白のコントラストが美しかった彼女の装いが、所々血の赤に染まっていたのだ。


「いえ、気のせいじゃありません……! 負傷しています!」


 ヒュゥゥゥゥッ…… ドサッ!


 騒然とする僕らの元へ、ティルヒルさんは半ば墜落するように着地した。

 駆け寄る僕らに、彼女は血色の悪い顔で誤魔化すような笑みを浮かべる。


「あはは…… ごめん、ちょっと失敗しちゃった……」


「喋らないで! タツヒトさんは洗浄用の水を! プルーナちゃんは寝台を出して下さい! 他の方は衣服を!」


「「はい!」」


 ロスニアさんの指示に従って全員が慌ただしく動き始める。

 寝台に横たえられ下着姿となった彼女の体を見て思わず眉を顰める。均整の取れた綺麗な肢体に、無数の鋭い歯型のようなものが刻まれていたのだ。

 殆どの傷口は半ば乾いているものの、まだわずかに出血しているものもある。見た目より深い……!


「だいぶ血を失っていますね…… それにこれは咬傷……!? こんなに沢山、彼女相手に一体どんな魔物が…… いえ、それは後で考えましょう……! 一つずつ傷口を洗浄して塞いで行きます!」


 血の気の引いた顔で震えるティルヒルさん対し、ロスニアさんはまず造血の治療薬を使った。

 その後、痛覚を鈍麻させる魔法を使いながら傷口を丁寧に洗い、洗浄が終わった側から神聖魔法で治していく。

 ロスニアさんなら一気に全ての傷を塞ぐこともできるのだろうけど、多分それだと感染症のリスクが高いのだ。

 彼女はその後も手際よく傷口を処理していき、ほんの十数分程で数えきれないほどあった傷口を全て処理してしまった。

 最後にもう一度造血の治療薬を使う頃には、ティルヒルさんの容体はかなり安定していた。顔色もいつもの黒真珠のような色艶を取り戻している。


「ふぅ…… 少し経過観察は必要ですが、ひとまずこれで安心です。ティルヒルさん、体の調子はどうですか?」


「あ、ありがとう…… ちょっとクラクラするけど、もう全然痛くないよ…… もうだめかと思ったのに…… ニアニア、すごい癒し手だったんだね……」


 ティルヒルさんが少し気だるげに寝台の上で身を起こす。彼女の肌にもう傷は見えないけれど、下着姿のままだ。

 僕はちょっと視線を逸らしながら、血糊を洗い落として火魔法で急速乾燥させた彼女の衣服を差し出した。


「あの、服をどうぞ。僕は向こう向いてますので……」


「え……? あ……!? う、うん。ありがとう、タツヒト君……」


「ティルヒル、まだ体に不調があるでありますか? 顔が赤いであります」


「だ、大丈夫! 大丈夫だよ、シャムシャム!」


 背後から聞こえる気になる会話と衣擦れの音から意識を逸らすように、僕は雄大な峡谷を鑑賞することにした。






 衣服を着終えたティルヒルさんは、改めて僕らにお礼を言うと、鼻をひくつかせながらある一点を凝視した。

 そこには、出来上がって山と積まれたハンバーガーが置いてあった。それを見たロスニアさんは、病み上がりだからもっと軽いものをと彼女を諭した。

 しかし、丸二日食べていないしこんな良い匂いがしてるのに食べられないなんてそれこそ死んじゃう! というティルヒルさんの涙ながらに訴えに、最終的に押し負けてしまった。


「や…… やっば! 何これ……!? うっま!」


 温め直したハンバーガーを頬張ったティルヒルさんは、目に涙を浮かべ、語彙力を失うほどに感動している様子だった。

 他のみんなも泣きこそしていないけれど似たような感じで、無心でハンバーガーに食らいついている。

 ここまで喜んでもらえると作った甲斐があるよね。自分でも一口食べてみると、思わず笑顔が溢れるような美味しさだった。

 歯切れの良いバンズと肉々しいパティ、ピクルスの食感とケチャップの酸味と甘味…… 材料や設備が限られた中で作ったものとしては、かなりの出来じゃないだろうか。

 何度か追加を作り、キアニィさんの宣言通り人間大の肉塊が全て消える頃、ようやくみんなの食欲は満たされたようだった。


「あ〜〜、満足…… はんばーがーかぁ…… 今、あーし史上最高の料理が決まったよ。タツヒト君、マジ感謝」


 満足そうな表情でだらけた笑みを浮かべるティルヒルさん。もうすっかり元気になったみたいだ。


「ふふっ、気に入ってもらえてよかったです。 --それで、ティルヒルさん。あなた程の手練れがあの重傷…… 一体どんな魔物にやられたんですか……?」


「あー、それなんだけど…… その、でっかい茸に、ちょっと……」


 バツが悪そうに目を逸らすティルヒルさんに、みんなが息を呑む。


「それって、大陸茸樹怪(テラ・ファンガス)の事ですか……!? もしかして戦ったんですか!? 無謀ですよ!」


「ち、違うって! その、君達が言ってた通りのありえん大きい茸の塊を見つけて、これか〜、やべ〜って思ったんだけど、どのくらい大きいのか気になっちゃって……

 ちょっとそいつの上の方を飛んでみたら、下からめっちゃすごい勢いで茸の大群が生えてきちゃってさ…… 避けきれなくて捕まっちゃったんだよね。あはは……」


「あはは、では無いぞ。全く…… だが、よく脱出できたものだ。奴の上空というと、触手の数も我々が向けられた本数とは段違いだったろうに」


 やや叱り気味で心配するヴァイオレット様に、ティルヒルさんは身体を縮こまらせる。


「うん…… かなり上の方を飛んでたのに、一瞬で茸の森に囲まれちゃった感じ。しかもさ、あいつの触手、全部に口が付いてて噛み付いてくんの。ほんと痛かった〜……

 で、なんとか奥の手使って触手を振り払ったんだけど、身体中噛み跡だらけで血がどばどばでしょ? もうふらふら。あーし、ここまでどうやって来たのかあんまし覚えて無いもん」


「そうだったんですね…… ありがとうございます。かなり危険な方法でしたが、奴に関するかなり有益な情報が得られました。

 早速ですが、この事をナパの村々に知らせて頂けますか? 対峙してわかって頂けたと思いますが、あれは個人や村一つだけで対処できるものじゃ無いと思います」


「うん、それはあーしも同感……! ばたばたしちゃってごめんだけど、あーし、一旦村に知らせに帰るね。

 君達にも一緒に来て欲しーけど…… 流石に全員は運べないから、このまま谷を渡って東に進んでくれる?

 村に知らせたらそっこーで戻ってくるから、村のちゃんとした場所はその時に! それじゃ、ご馳走様!」


 ティルヒルさんはそう言って力強く飛び上がると、今度は南東の空に向かって飛び去っていった。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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