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第038話 伝令マラソン


 「ゼッ、ゼッ、ゼッ……」


 魔窟らしきものを発見した僕は、森の中から全速力で村に戻った。

 魔窟は放っておくと、内部から魔物が狂ったように大量に溢れ出てくる現象、狂溢(きょういつ)が生じると教わっていたので、かなり頑張った。

 あ、蛇皮を持てるだけ背負っていたのでさらにしんどかったけど、置いてくればよかったよね。反省。


 「おい弟、どうしたそんなに急いで」


 たまたま村の門番役をしていた我が義理の姉上その1、馬人族のリゼットさんが驚いた顔で声をかけてきた。

 以前は気に入らねぇと目の敵にされていたけど、色々あって今は和解している。


 「タツヒトさん。森に修行に行ったと聞いていましたけど、何かあったんですか?」


 義理の姉上その2、只人のクロエさんは心配そうにしている。

 この人も最初は僕に敵対的だったけど、お姉ちゃん子なので、以前僕がリゼットさんの命を助けてからいきなり態度が軟化した。


 「ええ、ちょっと、気になる、ことが、ありまして。ふぅ、村長はいますよね?」


 「あぁ、親父なら家にいると思うけどよ…… あ、おい!」


 引き止めるリゼットさんに構わず村長宅に走り、ノックもせずにドアを開ける


 「戻りました! 村長、森の浅めのところにアクアングゥイスがいてそいつは倒したんですけど魔窟が出来てました!」


 「……あん? ちょっと待て、もっとゆっくり順序立てて話してくれ」


 「お帰りなさいタツヒトくん。まずは座って落ち着いたら?」


 夕食の準備中で強面にエプロンをつけたボドワン村長と、旦那さん(地球でいうところの奥さん)のクレールさんが迎えてくれた。

 二人とも一気に捲し立てた僕に怪訝な表情を見せている。


 「す、すみません。ただいまです。それでですね--」






 「……なるほど、大体わかったぜ。すぐにでも確かめに行きてぇところだが、今からじゃあ夜になっちまって危ねぇ。今日のところは早めに寝ちまおう。明日の朝イチで現場まで案内してくれや」


 「はい、わかりました。 --もし本当に魔窟だったら、結構まずい状況ですか?」


 「そうだなぁ。その場合、まずは領都まで走ってヴァイオレット様に報告をあげねぇとなぁ……

 ところでおめぇ、また無茶しやがったな。アクアングゥイスとタイマンとか、正気の沙汰じゃねぇぞ。

 今回はたまたま不意打ちがうまく行ったが、歳食った用心深いやつなら念押しの一撃を入れてくることも十分あり得る。大体--」


 「ボドワン、ひとまずそのくらいにして夕食を食べましょう。タツヒト君には私も言いたいことがあるわ」

 

 「えっと、本当にすみません。はい……」


 村長夫妻からのお説教を受けながら食べる夕食は全く味がしなかった。






 一夜明け、僕と村長は完全装備に着替え、朝一で魔窟と思しき洞窟まで走った。

 アクアングゥイスを倒したことでまた位階が上がったのか、かなりの速度で走る村長に遅れずに着いていけている。

 そして件の洞窟の前についた後、二人して息を整えた。


 「なるほど、見た目は完全に魔窟の入り口だな」


 「はい。今は空気が中に向かってますけど、そろそろ…… あ、ほら空気の流れが外向きに変わりました。中に魔物が入っていくのも見ましたし、聞いてた話とかなり合致します」


 「あぁ、そうだな。ちょっと待て、切り替わりの時間を測る」

 

 そう言って村長は、指で自分の脈を図りながら気流の向きが変わる様子を観察し出した。

 村長が脈を図り始めて60秒程経った頃、また気流の向きが変わった。


 「大体60拍ってとこだな。ここが魔窟だとしたら、幸いまだわけぇやつみたいだな。よし、念の為少し中を確認しておきてぇ。いくぞ」


 警戒しながら中に入ると、中は入り口から想像するよりずっと広かった。

 徐々に下に下がっている広い通路は、光源もないはずなのに明るく、地面には苔や草が生えていてる。

 草がガサガサ動いているのでみてみると、小動物型の魔物が草を食べているところだった。


 「確定だ。中が異常に広い上に生態系が出来始めていやがる。ここは魔窟だ。タツヒト、よく見つけてくれた」

 

 僕を労うセリフとは裏腹に、村長は鎮痛な表情を浮かべていた。






 僕と村長はすぐに村へ取って返し、村のみんなに事情を説明した。

 魔窟という言葉を聞いた瞬間にみんなの表情がこわばっていた。もしかしたら、今はかなり危険な状態なのかもしれない。

 そして今回は僕と村長の二人でヴァイオレット様に報告に向かうことになった。

 村の代表と魔窟の第一発見者だけで報告に行き、残りの全戦力で村の防備を固める方針だ。


 ほんのちょっとの休憩の後、僕と村長は領都に向かって走り始めた。

 村長は多分時速60kmくらいで走っていて、僕も当然それに置いていかれないように走るので大分しんどい。

 途中魔物に絡まれそうになったけど、速度を上げて撒いてしまった。

 

 しばらく走ったあたりで、僕らのベラーキ村と領都の中間にあるバイエ村についた。


 「ふぅ、ふぅ。よし、少し休憩だ。ここの村長にも教えといてやんねぇとな」


 ボドワン村長は住民の人達に挨拶しながら村に入り、そこのウラリー村長に状況を伝えた。

 ウラリー村長も、新しい魔窟ができていたことに顔をこわばらせていた。

 僕らの村からかなり距離があるけど、それでもこんなに警戒する必要があるんだな。

 そしてほんの少しの休憩の後、またマラソンが始まった。

 

 「あの、村長、体力、すごいですね」


 「へっ。このくらいで、へこたれてたら、冒険者なんて、やってらんねぇぜ」


 走りながら聞くと、本当に平気そうに村長は答えた。

 僕はもうそろそろ限界なんですが……






 バイエ村を立ってからさらに走り、僕らはようやく領都についた。

 以前は、材木を運びながらゆっくり歩いたせいもあるけど丸二日かけた旅程だ。

 それを半日とかからずに走り切ったので、もうヘロヘロだよ。

 領都に入るための待機列に並びながら僕は村長に尋ねる。


 「村長、流石に、領都の中では、走らなくていいですよね……」


 「ああ。さっきみたいに走ってたら兵隊さん方に怒られちまうからな」 


 息も絶え絶えな僕に対して、村長はまだ余裕がありそうだ。化け物かよ。

 でも、ここまで急がないといけない緊急事態なんだろうな。

 なんというか、村長や以前のヴァイオレット様の様子を見るに、魔窟のこと以上の何かが起こってるような感じなんだよね。

 

 待機列が進み、通行証を使って領都の門をくぐると、村長はまた走り始めた。


 「よし、ヴァイオレット様がいる屯所まで小走りで行くぞ」


 えぇ、領都の中じゃ走らなくていいて言ったのに。

 

 「は、はぃ〜……」


 僕は渋々村長の後に続いて走った。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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