第377話 荒野を征く(2)
大変遅くなりました。木曜分ですm(_ _)m
やる気か……!?
殺気を放ちながらこちらに走ってくる数人の人影。そのあからさまな敵対行動にこちらが身構えると、集団の先頭が空に吠えた。
「オォォーーン……!」
遠吠え……!?
荒野に響き渡った咆哮は、アニメや映画などで何度も耳にした狼のそれによく似ていた。
嫌な予感がしてシェルターの方へ踵を返す。すると。
「「アォォーーン!」」
周囲から複数の遠吠えが聞こえ始めた。最初の遠吠えはやはり仲間を呼んでいたのか。しかも結構近くから聞こえたぞ……!?
走りながら視線を水平に走らせると、他の魔窟の入り口からももぞろぞろと同じような人影が出てくるのが見えた。
最初数人だった人影は数十人規模まで膨れあがり、まだ増えている。
その段階でやっとシェルターの真上に辿り着いた僕は、槍の石突でガンガン地面を叩きながら叫んだ。
「敵襲! 野盗です! 規模は…… 中隊規模並み!」
一瞬の間の後にシェルターの入り口が開き、地下に居たみんなが飛び出してきてくれた。
「こんにゃ夜にゃかに、どこ馬鹿だにゃ!?」
「沢山ですわね…… 一体どこに潜んでいたんですの……!?」
ゼルさんが文句を言いながら双剣を抜き放ち、斥候であるキアニィさんが少し悔しげにナイフを構える。
「魔窟の中に潜んでいたんです! 後衛を中心に円陣を!」
「「応!」」
普段の訓練の賜物で、みんなは流れるような動きで陣形を組んでくれた。
後衛の三人を中心として、その外側に前衛の四人が等間隔に並んび、全員が円の外側を向く。あまりあって欲しくは無いけれど、今回のように包囲されてしまった時の迎撃体制である。
獣のような唸り声をあげながら全方位から走り込んでくる人影達は、僕らが円陣を組む間も距離を縮めていた。
薄暗い月明かりの中、彼女達の姿がようやく見えるようになった。小柄な体格に風よけの布のようなものを羽織り、手には槍やナイフが握られている。
そして、その頭部には大きな三角形の耳が付いていて、牙を剥くその顔立ちは人間だった。
やっぱり犬系の亜人か……! せっかくこの過酷な異郷で出会えた人類だけど、この状況ではやるしかない……!
「--迎撃します! 各自、攻撃開始! 『雷よ!』」
『土よ!』
「「ギャワンッ!?」」
夜の荒野を僕の薙ぎ払い気味の雷撃が照し、プルーナさんの声と同時に数十もの石筍が地面から突き出る。
それらがまとめて十数人の野盗を焼き焦がし、串刺しにし、断末魔の悲鳴が響く。
「ややや!」
「ふっ!」
さらに、シャムは放つ矢とキアニィさんの投げナイフが正確に野盗の急所を射抜く。
それらを掻い潜って近づく者も、ヴァイオレット様に消し飛ばされ、ゼルさんに寸断される。
どうやらあまり個々の力は水準は高く無いらしい。野盗はほんの数十秒で数を半分ほどに減らしてしまった。
すると、最初に遠吠えをあげた野盗が焦ったように身を翻し、再び空に吠えた。
「ア…… アオオォォーーン!」
最初の勇ましいものとは違って、少し怯えの混じったような咆哮が響く。
すると野盗達はこれ幸いといった感じで、文字通り尻尾を巻いて逃げ始めた。
全滅するまで突っ込んでくるとかじゃなくてよかった…… でも、悪いけど貴重な情報源を逃すつもりは無い。
「プルーナさん、数人捕らえて下さい!」
「了解です! 『泥沼!』」
彼女が足を身踏み鳴らすと、最後尾を走っていた三人の野盗の足が膝下まで地面に沈み込み込んだ。
その後地面は硬い状態に戻ったのだろう、彼女達は地面に足を埋めたまま混乱した様子でもがいている。
他の野盗は、助けを求める彼女達を一顧だにせず全て逃げ散ってしまった。
「ふぅ…… 流石です、プルーナさん。みんな、彼女達の捕縛を手伝って下さい。それと…… 彼女達の弔いも」
周囲には地面に埋まったまま踠く三人の他に、僕らが殺めた野盗の遺体が幾つも横たわっている。
「あぁ神よ…… 罪深き我らをお許し下さい……」
ロスニアさんが手に聖印を形作り、遺体に向かって祈る。
やっぱり、何度やってもこれだけは慣れない。
野盗の遺体は、ひとまずシェルターから少し離れた場所に運んで並べた。
その気の重たくなる行為を全員で終えた後、僕らは生け取りにした三人の野盗の前に集合した。
まず彼女達からは、弔いの方法を尋ねる必要があるのかも知れない。
「***! よくも姉貴達を……! ぶっ殺してやる!」「がるるるっ!」「呪われろ! この***!」
野盗達は、プルーナさんに追加してもらった岩の手枷を振り回しながら、こちらを威嚇するように悪態を吐いている。
どこかの魔物の王国の住人達の方がよっぽど理性的に思えるけど、やっぱり犬人族のようだ。
茶色い大きな三角耳に小柄な体躯、失礼だけどちょっと狡賢そうな顔付き…… 多分コヨーテか何かの種族だろう。
その凶暴な言動とは裏腹に、彼女達の体は小刻みに震え、内側に丸まった尻尾が足の間から覗いている。
衣服は粗末な毛織物でちょっとすえた匂いが漂ってくる。あんまり丁寧な生活を送っているわけじゃ無いみたいだ。
「落ち付いて。質問に答えて。そうすれば解放する」
所々聞き取れないけれど彼女達の言葉は大体理解できる。魔獣大陸語の勉強は無駄じゃなかったらしい。
なので、なるべく単純明快な言葉で質問してみたのだけれど……
「うるせぇ! 早く****!」「ぎゃわわん!」「てめぇ、*してやる!」
だめだ…… 全然会話にならない。さっきので力の差は分かった筈だし、この状況で粗暴に振る舞ってもいい事無い筈だけど……
どうしようかと困っていると、キアニィさんが僕の肩にポンと手を置いた。
「タツヒトくん。こういった連中にそのやり方は少し優しすぎますわぁ。わたくしにお任せくださいまし?」
「わかりました…… お願いします」
彼女はにっこりと微笑むと、一番端の一際凶暴な野盗に向かって歩き始めた。
そして、手枷を振り回す野盗の後ろにするりと回り込み、その頭を両手で掴んだ。
ボキャッ!
頭部が捻られるのと同時に骨の砕ける音が響き、その野盗がだらりと脱力した。
一瞬の間の後、残りの野盗が恐怖に絶叫を上げる。正直僕も悲鳴を上げそうになった。
キアニィさんは恐慌状態になった野盗へ嗜虐的な笑みを向けた後、事もなげにプルーナさんに目を向けた。
「この方の拘束を解いて下さる? もう、必要ありませんから……」
「は、はい……!」
プルーナさんが上擦った声で答えると、野盗の足が地面からするりと抜けた。
キアニィさんがぐったりと動かない野盗を抱え、ゆっくりと僕らの方に戻ってくる。
「キアニィさん…… どうして!?」
困惑する僕らを代表し、悲しみと怒りの表情を浮かべたロスニアさんが問い詰める。
すると、キアニィさんは微笑みながら小声で答えた。
「大丈夫。一瞬で頭を揺らして意識を飛ばしただけですわぁ。ほらぁ」
んあ、と開けられた彼女の口の中を覗き込むと、唾液で濡れそぼった長い舌の上に、噛み砕かれた骨が乗っていた。
えっろ…… じゃない。そうか。あの音は、さっきまで食べてた骨付肉の骨を噛み砕いた音だったんだ。さすがキアニィさん、名演だ。
彼女はほっとした様子の僕らにもう一度微笑むと、気絶させた野盗を遺体が並ぶ方へと運んでいった。
よし。僕も少し頑張ってみよう。
「さてもう一度だ…… 質問に答えろ。そうすれば解放する。 --答えを聞くのは、どちらか一人でもいい」
今度は高圧的に言い放った僕に対し、恐慌状態にあった野盗達が更に顔を青くする。
「は、話す! 話すから俺は助けてくれ!」「うぁ…… い、嫌だ…… 嫌だぁー!!」
--なんかこれしんどいな。でも、どうやら今度は話を聞かせてくれそうだ。
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