第374話 魔獣大陸へ
大変遅くなりました。月曜分ですm(_ _)m
都市全体がお祝いムードだったエラフ君の所に一泊させてもらった後、僕らは再び転移して聖都へと帰還した。
これで馬人族の王国周辺の親しい人達には一通り会うことが出来た。
遠方も含めると会いたい人は他にも沢山いるけど、短期間にいろんな場所に出没してしまうと転移魔法陣がバレてしまいそうなので、その辺は自重した。
それで、ひとまず帰って来た事を知らせにメームさんの所へ顔を出すと、彼女はちょうど良かったと言いながら僕らを出迎えてくれた。
「お前達宛に手紙が来ているぞ。それも二通だ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「二通ということはあの二人だな。発つ前で良かった」
メームさんが差し出してくれた手紙を見て、ヴァイオレット様も笑みを浮かべる。
お金を払えば高位階で俊足の配達人を雇えるので、この世界では地球世界ほどじゃ無いけど意外に早く手紙や小包が届く。
なので遠方で出来た知人には、何かあったら聖都のメーム商会に手紙を送ってくれるようにお願いしてる。
手紙を受けると、一通目の差出人はやはりエリネンだった。
彼女は、賭博と魔法の都と呼ばれる魔導国の首都に住む兎人族で、そこの地下街を牛耳る犯罪組織の武闘派幹部でもある。
魔導国での遺跡探索中に知り合って、一緒に仕事をする内にすごく仲良くなった。別れ際には、辛すぎてお互い泣いてしまったほどだ。
手紙は、「よぉおまはんら、元気にしとるか?」というお決まりの挨拶と近況報告から始まり、みんなへの言葉が続く。
うん、元気でやってるみたいだ。僕宛ての文章は…… あった。ちょっと前に送ったアキツシマ皇国で手に入れた脇差、無事に彼女の元に届いていたらしい。
「めっちゃ嬉しいんやけど、こないに高いもん送ってくんやな…… 何返したったらええねん……」か。
日本刀っぽい夜曲刀を使う彼女なら、まんま日本刀な脇差も喜んでくれるだろうと思ったけど、当たってたみたいで良かった。でも、次はあんまり重く無いのにしとくか……
その後はちょっとした愚痴のようなものが書かれていた。
最近地表の連中も地下街の警備を手伝ってくれるようになって、夜曲はちょっと暇らしい。
いい事だと思うけど、地下街の守護者としての誇りを持っている彼女達からしたらちょっと複雑なようだ。
手紙を読む内に、地下街での猥雑で楽しい日々がエリネンのちょっとシニカルな笑顔と共に甦ってくる。
「エリネンと別れてからもう一年以上発つのか…… 会いたいなぁ……」
寂しさに思わず呟くと、慈愛に満ちた表情のロスニアさんがそっと僕の腕に触れてくれた。
「タツヒトさん。シャムちゃんが元の体に戻ったら、エリネンさんやこれまで出会った遠方の方達に会いに行きましょうか。私も皆さんに会いたいですし」
「ロスニアさん…… いいですね、そうしましょう!」
「にゃータツヒト、次ウチに回して欲しいにゃ。エリネンの奴にゃら、ウチの贔屓の拳闘士が今どうなってるか書いてる筈だにゃ!」
「あはは、ゼルさんも好きですねぇ」
ゼルさんにエリネンの手紙を渡し、もう一通を確認すると、こちらの差出人も予想通りアスルだった。
彼女は海洋国家ハルリカ連邦に暮らす蛸人族で、とある島を守る天才的な水魔法使いだ。
その島で姫巫女と呼ばれていた彼女とは、エリネン同様連邦での魔窟探索中に知り合った。
『白の狩人』のパーティーメンバーリストにはまだ彼女の名前が残っていて、僕を含め、みんなが合流を心待ちにしている。
手紙は、「みんな元気? 私は元気。でも、みんなに会えなくて寂しい」という、彼女らしい率直な文章から始まっていた。
さらに、自身の後進がだんだん育ってきていて、もうすぐ島を離れてみんなに合流できそうだと嬉しそうに綴ってあった。
あ、ちょっと不穏な記述もあるな…… 彼女の親友、やんちゃな鯱人族のカリバルに関するものだ。
カリバルには、彼女自身は知らず、僕らやアスルなどの限られた人だけが知っている秘密がある。
それにカリバルが勘づき始めていて、馬鹿なので今は誤魔化せているけれど、大馬鹿では無いのでそのうちバレてしまうかも…… とのことだった。
--アスル、相変わらずカリバルへの当たりが強いな……
「アスルも元気そうでよかった。でも、カリバルの件はちょっと心配だな……」
「タツヒトさん。次僕にも読ませて下さい。アスルちゃん、土魔法の変形応答性に関する質問に回答してくれてるかな……?」
「ええ、どうぞ。 --後で僕にも読ませてくれます? ちょっと興味があります」
「プルーナ、シャムも一緒に読みたいであります!」
「--その二人は頻繁に手紙を送ってくるし、お前達は手紙を受け取る度に嬉しそうだな。俺も一度会ってみたいものだ」
「二人ともすごくいい人ですわぁ。メームともきっと気が合うと思いますわよ?」
「ふふっ。キアニィが言うなら、きっとそうだろうな」
みんなで二人を懐かしみながら手紙を回し読みした後、僕らはそれぞれいつもより長めの返信を綴った。
発つ前に手紙を受け取れて本当に良かった。これで、心置きなく魔獣大陸に挑む事ができる。
その後の数日は、世界最強と言われている聖堂騎士団のアルフレーダ団長や、猊下の元で大聖堂を取り仕切るバージリア枢機卿といったビッグネームな方々から修行をつけてもらった。
もちろんたった数日の修行で強くなれる訳じゃない。ただ、位階上昇後の能力値と自身がイメージする能力値との間に乖離がある場合、それが実戦で命取りになる事もあるのだ。
今回の修行では、その辺りの確認と調整に重きを置く形でご指導頂いた。いつもながらありがたい。
そうする内に物資の準備や装備の整備も完了し、今日、いよいよ魔獣大陸に転移する事になった。
大聖堂の地下、魔獣大陸に通じる転移魔法陣の上に乗った僕らを、猊下とメームさんが静かに見つめる。
「繰り返しになるが、今回の旅はこれまでで最も過酷なものとなるだろう。だが、其方達なきっとあらゆる困難に打ち勝つことができると信じている。其方達の道行きに祝福を。真なる愛を」
「お前達の強さは十分に知っている。だが、敵は魔物だけではない。向こうはとても乾燥しているそうだから、特に水の消費や調達は計画的にするんだぞ。それと、現地で出会う人間が全員味方とは限らない。この辺りも慎重にな。
--やっぱり俺もついていこうか…… いや、やめておこう。やはり足手纏いだ。ともかく、無事に帰ってきてくれ……!」
二人の言葉に全員が大きく頷く。
「猊下、祝福に感謝を。行って参ります……!」
「メーム、心配しすぎだにゃ! 水くらい、ウチだってけーかく的に使えるにゃ!」
ゼルさんの反論にみんなが苦笑し、場の空気が少しだけ弛緩する。
失礼だけど、彼女ほど「計画的」と言う言葉が似合わない人もいないと思う。ほぼ対義語だ。
「ふふっ…… --では、猊下、メームさん。行ってきます!」
真剣な表情の二人に見守られながら、僕らは魔獣大陸へと転移した。
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