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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
16章 天に舞う黒翼

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第370話 最も過酷な大陸

遅くなりましたm(_ _)m


 南極でお世話になった人々に別れを告げた後、僕らはいつものように転移魔法陣を使い、聖ぺトリア大聖堂の地下に転移した。

 南極に通じる転移の小部屋から出て、同じような小部屋がたくさん並ぶ隠し廊下を抜けると、円形の広間に出た。

 そこで静かに僕らを待ってくれていたのは、シャムの同じ顔の妖精族(ようせいぞく)。世界的宗教組織である聖協会を束ねる、ぺトリア四世猊下だ。


「猊下! 只今戻りました。わざわざお出迎え頂きありがとうございます」


 彼女は僕らの姿を目にすると、表情の少ない顔に僅かに安堵の色を浮かばせた。


「うむ。皆、極寒の極点からよくぞ無事に帰った。 --しかし、その表情を見るに……」


「はい、ダメだったであります…… あ、でもでも、南極の人達からお土産を貰ったであります! ペトリアにも上げるであります!」


 しょんぼりとした表情を嬉しそうなものに変え、シャムが飛び跳ねるように猊下に走り寄る。


「ほぉ、これは…… 雪の結晶を模った護符か。精緻な造形が美しい…… 礼を言うぞシャム。大切にさせてもらおう」


 シャムからお守りを受け取った猊下が、仄かに微笑みながら彼女の頭を撫でる。同じ顔の二人が笑顔で触れ合う様は本当の親子のようだ。

 因みにあのお守りをくれたのは、南極大陸の外縁部に住むペンギン種の鳥人族(ちょうじんぞく)の人達だ。

 多めの皮下脂肪にふわつやの羽毛。普段は寒いせいか鳥足を折り畳んでヨチヨチと歩き、種族全体が人懐っこい。とにかくめちゃくちゃ可愛い人々だった。

 戦闘時は足を伸ばしてすっくと立ち上がるので、最初に見た時はちょっとだけギョッとした。

 彼女達にとってあの巨大な大氷河熊(グレシア・マグルス)は長年の脅威だったらしく、討伐した事を物凄く感謝してくれた。


「--さて。向こうはさぞ寒かったことだろう。まずは熱いカッファで暖まるが良い」


 猊下に促されて応接室に移動した僕らは、珈琲とお茶菓子をご馳走になりながら今回の旅について報告した。

 いつものように転移魔法陣で南極に行き、現地の人達から心当たりを聞いて、シャムのナビゲーションで銀色の古代遺跡にたどり着いた。

 短くまとめるとこんな感じだけど、大氷河熊(グレシア・マグルス)との遭遇の他にも様々なトラブルがあった。ロスニアさんも密かに死に掛けてたし。


「--といった訳でして、無事に銀色の遺跡を見つけたのですが……」


「先ほどシャムちゃんが話した通り、判定魔法で使用可能と出る部品はありませんでした。保存状態はとても良さそうだったのですが……」


「ふむ。恐らく造られた年代が違ったのであろう。しかたあるまい…… 皆、大義であった」


 僕とロスニアさんの話を聞き終えた猊下は、そう言って暫し黙考した。


「--シャムよ。其方が持つ遺跡の位置を示す地図。その中で未探索のものはあと幾つあるのだ?」


「それは…… あと、一つだけであります……」


「そうか…… やはりこの地上に残るのは、かの魔境、魔獣大陸の遺跡のみであるか……」


 猊下が僅かに眉を顰め、部屋の中に重い沈黙が落ちる。

 魔獣大陸。その場所から人類の国家が消滅して永い時が流れ、今は強力な魔物達の(ひしめ)く地上で最も過酷な大陸として知られている。

 南極大陸よりもあらゆる面で危険な場所で、猊下の静止もあり、僕らも最後まで行くのを避けていた場所だ。


 もちろん僕らは自身は魔獣大陸に行った事は無い。

 けれど命知らずの先人達のお陰で、あそこがどんな場所なのか断片的に知ることができる。

 過去にある国が、紫宝級の手練を含む数百人規模の調査隊を送り込んだ。結果、魔獣大陸から生還できたのは僅か数人で、そんな事が歴史上幾度もあったそうだ。

 そう言ったごく僅かな生き残りの人達の証言を纏めた書籍があって、それによるとあの場所は地上の地獄であるらしい。

 

 まず、魔獣大陸には魔物の数が異様に多く、魔物のいない場所を見つける事の方が難しい。

 普通、魔物は魔窟や魔物の領域と言った魔素が豊富な場所に多く居て、それらの場所以外には生息していない。

 しかしあの場所ではそういった区別がなく、大陸全体が魔物の領域のような状態らしい。恐らく大陸全体が魔素に満ちているのだ。

 そしてそのような状況では、魔物達は戦う相手に事欠かない。

 日々過酷な生存競争に挑む魔物達の位階は自然と上昇し、他の大陸の平均より遥かに高い水準にあるそうだ。


 加えて、魔窟の存在密度が異常に高いらしい。本を読んだ感じ、もう都会のコンビニレベルで(ひしめ)いている感じだ。

 餌となる魔素が豊富で天敵である人類がほぼ居ないので、その数は最早飽和状態なのだとか。

 そして、常にどこかしらの魔窟で魔物の狂溢(きょういつ)が生じているので、大陸全体が常時大狂溢(だいきょういつ)状態のような有様なのだ。

 僕は開拓村ベラーキにいた頃に大狂溢(だいきょういつ)を経験したけど、あれが通常状態の土地で生きていく自信は全くない。

 

 因みに、どうやら小規模な集落は幾つか確認されていて、現地の人々とも言葉を交わした記録も残っている。

 今もその人たちが生き残ってくれていると良いのだけれど……


「--恐れながら猊下。我々はこの一年、世界中を巡りながら力を蓄えて来ました。

 困難を極めるでしょうが、今の我々ならばかの魔境での遺跡探索にも耐えうると考えます。

 何より、そこにシャムを治すための手立てがあるのであれば、行かないという選択肢はありません」


「ヴァイオレット…… ありがとうであります……」

 

 沈黙を破ったのはヴァイオレット様だった。彼女は自身の隣に座るシャムの頭を撫でながら、猊下に静かに語りかけた。


「猊下。僕も、恐らく他のみんなも気持ちは同じです。そして今の僕らは、紫宝級冒険者パーティーと同等の力を持っています。

 どうか、魔獣大陸への転移の御許可を頂けませんか……?」


 現在の僕らの戦力は、ヴァイオレット様が紫宝級の位階に達し、僕も強化魔法や天叢雲槍(あめのむらくものやり)の力を借りれば紫宝級相当の力を発揮できる。

 そしてシャムとプルーナさんは緑鋼級の上位、残りのキアニィさん達は青鏡級に達している。実力的には紫宝級冒険者パーティーの水準にあるのだ。

 魔獣大陸では、その紫宝級冒険者だろうと危うい事は歴史が物語っているけれど、勝算が全く無いわけじゃない。

 みんなが固唾を飲んで見守る中、猊下は大きく息を吐いてから仄かに笑った。

 

「そう、であるな…… 齢を重ねると、どうしても弱気になってしまうようだ……

 無知の蛮勇を諌めるのは年長者の役目であるが、年寄りが若者の道行きを遮る事はあってはならぬ。

 其方達には十分な理由と実力がある。今が、その時なのだろう…… 征くがいい、魔獣大陸へ」


「……! ありがとうございます、猊下!」


「うむ…… だがかの大陸で、こちらのような文明を利用できるとは限らぬ。言語の習得、水や食料などの準備、魔物の分布の把握…… 可能な限りの備えをしておくのだ。

 --そして発つ前に、これまで其方達が縁を繋いだ者たち会っておくと良いだろう。心残りの無いようにな……」


「「……!」」


 猊下の口から発された言葉の意味を悟り、僕らは全員重苦しく頷いた。

 発つ前に親しい人達に会う。それは、戦士が死地に赴く前の儀式のように感じられた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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