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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
15章 深き群青に潜むもの

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第368話 吸引性皮下出血

大変遅くなりました、金曜分ですm(_ _)m

そしてかなり長めです。


 一波乱あった祝勝会が終わった後も、しばらくはイベントに事欠かない日々が続いた。

 まず、眠り続けていたカリバルが、祝勝会のあった日の翌日に無事目を覚ましたのだ。

 涙ながらにそれを喜ぶアスルや僕ら、そして取り巻きのイカワラ達に、彼女はとても困惑した様子だった。

 聞いてみると、どうやら彼女の記憶は黒い古代遺跡に入る直前で途切れているようだった。

 自分が何故アスルの実家で自分が寝ていたのか、どうしてそこから一ヶ月も時間が経っているのか、全く分からないという事だった。

 僕らは暫しカリバル抜きで相談した結果、暴食不知魚(イアルダゴルス)の本体がカリバルだった事は、本人には知らせないでおく事になった。


 理由はいくつかある。まず、本体がカリバルだった事は極少数の人間しか知らない。

 そしてカリバルに事実を教えた場合、彼女は性格上この秘密を守れないだろう。その場合かなりまずい事になる。

 討伐作戦総大将ティバイ将軍による公式発表では、本体は正体不明のまま塵と消えてしまった事になっている。

 この嘘がバレると、報告を上げた僕ら、ひいてはラケロン島軍、さらにはハルリカ連邦の立場が悪くなってしまう。

 さらに、カリバル個人や鯱人族(しゃちじんぞく)の国に恨みを向ける人も出てきてしまうだろう。


 そして、カリバルは心身共に優れた戦士だけど、それでも数万人の命を奪った事を受け止めるのは容易じゃ無いはずだ。

 今回の件、彼女に罪が全く無いとは言えないけれど、古代文明の負の遺産を運悪く引き当ててしまっただけとも言える。

 僕らは、あれはほんの少しだけ人災よりの天災だったと考える事にした。

 本人には余計なお世話だと言われそうだけど、知らなくても良い事を知ってわざわざ苦しむ必要な無い。


 そういう訳でカリバルにはカバーストーリーを説明しておいた。

 黒い古代遺跡に意気揚々と乗り込んだ君は、そこで古代の美味しそうな保存食を発見、それを食べてひどい食あたりを起こして今まで寝込んでいたのだ……!

 --色々とツッコミ所のある話だけど、彼女は「そりゃぁ迷惑かけちまったなぁ。悪りぃ悪りぃ」と笑って納得してしまった。

 も、もしかしてこの子、日常的に拾い食いとかしているのでは……? お兄さんちょっと心配。


 その後、カリバルとイカワラ達をこっそり本国まで送り届けた僕らは、ついでに黒い古代遺跡のあった海域に寄った。

 前に訪れた時は、支配の黒線虫シャラトゥ・ツァツェールが保管されていた部屋を中心に調査した。

 けれど遺跡全体を調べ切れた訳では無かったので、他にも危険な代物が残っていたら不味いと思ったのだ。


『ここ、だよね……?』


『うん。ここで間違いない。はず……』


 深海の青い薄闇の中、隣のアスルに念の為問いかけると、少し自身のなさそうな答えが返ってきた。

 僕が手のひらに出した雷光(ルクス・フルグル)の光が辺りを照らしているので、周辺の景色はある程度わかる。

 この海底の地形には見覚えがある。しかし、肝心の黒く(いかめ)しい海底遺跡はどこにも見当たらなかった。

 代わりに、岩場の海底が広い範囲でメチャクチャに荒らされていた。大小のゴツゴツした岩塊が転がっていて、耕すように丹念に破壊されたという印象だ。


『周囲の地形からして、遺跡はあの破壊跡の場所にあったはずでありますが……』


『大型の魔物同士の喧嘩に巻き込まれて、粉々になってしまった…… とかでしょうか?』


『あの頑丈そうな遺跡が、一片の残骸も残さずに、ですの? それはちょっと、不自然ではなくて……?』


 ロスニアさんの説に、キアニィさんが異を唱える。確かに転がっているのは岩ばかりで、あの金属質な遺跡の破片などは全く見当たらない。

 一体何が起こったのか…… ともあれ、懸念材料である黒い古代遺跡は消えた。調査の手間が省けたと考えよう。

 僕らは若干の気持ち悪さを覚えながらも、その場を後にした。





 

 暴食不知魚(イアルダゴルス)関連の用事がひと段落した所で、僕らはアスルにお願いしてようやく本来の目的地へと案内してもらった。

 そう、シャムの部品が保管されているはずの銀色の古代遺跡だ。

 以前アスルが言っていた通り、遺跡はラケロン島領海に存在する深い海溝の引っ掛かっていた。

 元々この遺跡が存在していた半島が砕けた時に、海流に運ばれる内にここに嵌まり込んだんだろう。

 --遺跡が、この深い海溝の底まで落ちてなくて本当に良かった。


 いつものようにシャムが開錠して中を調べると、内部は巨人にシェイクされたかのようにめちゃくちゃな状態だった。

 しかしそんな中でも無事なカプセルが一つだけ見つかり、僕らは機械人形の右脚を手に入れる事ができた。

 何だか呆気ない気もするけれど、ここまでの道のりを思うと感慨深くもある。これでまた一つシャムの完全復活に近づいた。

 人の脚のような物を持って小躍りするシャムを目の当たりにし、アスルはまぁまぁ引いてしまっていた。

 それで、いい機会だったので僕やシャムの事情を話すと、アスルは疑う事もなく納得してくれた。ちょっと危ういくらいの信頼を感じる……

 

 これで僕らがこの国に来た目的は達成してしまった。けれど、ラケロン島の周辺海域はまだまだ活性化した魔物で騒がしかったし、僕を含めみんなアスル達と離れ難いと感じていた。

 なのでそのまま領海警備の仕事を続け、ちょうど年末だったのでアスル一家と生誕祭のお祝いをしたり、カリバル達と遊んだりしていた。

 そうした曖昧な日々を過ごしていたら、アスルの方から言われてしまった。


「みんな。その…… 私はみんなのおかげで、家族とも、軍の人達とも、街の人達ともうまくやれるようになった。

 だから、もう大丈夫。シャムの体を治すための旅を、続けて欲しい……

 もちろん、私は『白の狩人』は脱退したりはしない。でも、今一緒に行く事も出来ない……

 この島の為に、私の後進を育てて、私自身がもう少し成長できたら、すぐに後を追う……!」


 彼女は笑顔を浮かべながら、少し大人びた表情でそんな事を言ってくれた。

 どうやら、アスルは僕らが考えている以上に成長していたらしい。これでは僕らの立つ瀬がない。

 そんなわけで、寂しさを堪えながら諸々の引き継ぎを終え、祝勝会の日からかれこれ二週間が経過した今日、僕らはこの国を去る事になった。

 今、ラケロン島の港には沢山の人達が集まり、僕らに別れの言葉を掛けてくれている。


 まず、アスルを始めとした島主(しまぬし)様御一行。アスルのお付きのマハルさんとリワナグ様、アスルのお姉さんのムティヤさんまで来てくれている。

 ムティヤさんとは少ししか話せていないけれど、アスルと和解する切掛を作ってくれたと、僕らにとても感謝してくれている様子だった。

 次に、アスルと仲良しの港の子供達や、討伐作戦で一緒になった軍や冒険者の人達も集まってくれていた。

 そして、カリバルと取り巻きのイカワラ達まで駆けつけてくれた。なんかみんな寂しそうにしていて無性に可愛い。


 ちなみに、カサンドラさんには昨日の内にお別れを伝えておいた。

 彼女には全ての事情を共有したけれど、二柱目の神様と縁を結び、全てを丸く収めた僕らを流石と褒めてくれた。けど、今回も神様と運に味方してもらったおかげなんだよなぁ……

 シャムは別れ際に少し寂しそうにしていたけど、彼女とはきっとまたどこかで会える気がしている。


「--お前達は国や島だけでなく、俺たち家族まで救ってくれた。本当に感謝している。

 またいつでもここへ帰ってくるといい。歓迎しよう」


「ありがとうございます、リワナグ様」


「我々も、あなたのような方と出会えて幸運でした。どうかお達者で」

 

 リワナグ様は僕、ヴァイオレット様とみんなに順々に握手しながら、笑顔で送り出そうとしてくれる。


「--なぁタツヒトの兄貴達、本当にいっちまうのかよぉ。ずっとここに居りゃいいじゃねぇか…………」


「ごめんよカリバル。僕らも寂しいけど、やらなきゃいけない事があるんだ……」


 一方カリバル達はしょげかえっていて、何だか泣きそうだ。そんな顔をされるとこっちの決意が鈍ってしまう。

 

「カリバル、我儘言わないで。タツヒト達が出発し辛くなる」


「ア、アスル…… てめぇ、随分冷静じゃねぇかよ。なんか、変わっちまったなぁ……」


 ほんの少しだけ感心した様子のカリバルに、アスルは得意そうに胸を張る。


「ふふん。カリバルはお子様のまま。 --タツヒト、私とも握手してほしい」


「もちろん! アスルが居てくれて、本当に助かったよ。ありがとう。『白の狩人』は、いつでもアスルが来るのを待っているよ」


「うん…… 最速で会いに行く。だから、今はこれだけにしておく」


 握手していたアスルが突然僕と距離をつめ、頭から生えた触腕の全てを僕の首筋に巻きつけた。


 キュパパ……


「ふぁっ……!?」


「「あぁーっ!?」」


 首筋に無数の口付けをされた。そんな感覚に思わず変な声が出てしまい、それを見ていたギャラリーが大きな声を出しながら僕らを指さす。

 そのまま数秒ほど経っただろうか。アスルはあっさりと触腕と首筋から外してしまった。

 多分、触腕についている吸盤で首筋を吸ったんだろうけど、感触と彼女の蠱惑的な表情のせいで顔が熱くなってしまっている。


「え…… な、何、今の……!?」


「うふふ…… 内緒……! またね、タツヒト」


 彼女は年齢に見合わない妖艶な笑みを浮かべてそう言った。その様子に心臓が大きく跳ねる。

 あれ…… アスルって、こんなに大人びた子だったっけ……!?


「アスル…… シャムは…… シャムは負けないであります!」


「またね、アスルちゃん。えっと、僕も負けないよ。魔法も、その、あっちも……」


「うん…… みんな、元気で!」


 僕が混乱から立ち直れずにいる傍で、お子様組が抱き合って別れを惜しむ。

 そうする内に船の時間となり、僕はみんなと一緒に少し呆然としながら乗船した。

 船はそのまま出港し、手を振ってくれる島の人達に全員で手を振り返す。

 暫くすると人の形はどんどん小さくなり、見えなくなり、島も水平線の向こうに隠れてしまった。

 

「見えなく、なっちゃいましたね……」


「そうですね…… でも、聖都のメーム商会を訪ねてくれるように伝えてありますし、きっといつか再会できますよ。

 慈悲深き神よ。どうか友との再会が叶うよう、我らをお導き下さい。真なる愛を(アハ・バーテメット)


 寂しさのままそう呟くと、ロスニアさんが聖句と共に慰めてくれた。僕も心の中で祈っておこう。祈る先は創造神様じゃなくて、アラク様だけど。

 

 それから僕らは、見えなくなってしまったラケロン島の方角を言葉もなく眺めて過ごしていた。

 この船はいくつかの港を中継し、転移魔法陣のある連邦北端のプシット島に向かう事になっている。

 そうしてぼんやりと海を眺めながら、何日で聖都に帰還できるかをのろのろと考えていると、後ろから声をかけられた。


「あれ、お兄さん!」


 振り返ると、そこに居たのは海星人族(ひとでじんぞく)の若いお姉さん二人組だった。

 格好からして、甲板に作業に出てきた水婦さんみたいだけど…… あれ、どこか見覚えが……


「--ああ! ビトゥイン島の砂浜で声を掛けてくれた! そう言えば、船乗りだって言ってましたね」


「む? あの時の軟派な二人ではないか」


 僕らのやり取りを耳にしたみんなが振り返り、ヴァイオレット様が若干の警戒感を滲ませる。


「あ、あはは、その節はどうも…… そうそう。アタシら今この船で働いてんの。お兄さん達は北の方に戻る感じ--

 ん……? お、お兄さん! 首の所、えらい事になってるよ!?」


 お姉さんの一人が、僕の首元を指して驚愕の声を上げる。そこはアスルに触腕を絡められた場所だ。

 後で確認したら、赤い吸盤の跡が八本分くっきりと残っていたのだ。


「ああ、これ。えっと、友人の蛸人族(たこじんぞく)から、ちょっと……」


 僕の答えに、もう一人のお姉さんが渋面を作って首を振る。


「むぅ…… その友人とやら、絶対に友人で満足するつもりは無いだろうな……」


「へ? というと……?」


 僕が聞き返すと、お姉さん達は顔を見合わせてから少し言いづらそうに切り出した。


「えっと…… アタシらみたいな種族の中だと、相手の首筋に吸盤の跡をつけるのって、こいつは自分の男だって印なんだよね……」


「しかも、八本の足全部使ってくっきり跡つけておいて、その意味を教えないとは……

 悪い事は言わないから、その友人とは距離を置いた方がいい。きっと碌な奴じゃないぞ?」


「え……!? そ、それって……」


「にゃはは! アスルのやつ、おもしれーことするにゃぁ。まぁ、このくらいは許してやるにゃ」


「うふふ…… 確かにあの子、少し独占欲は強いかもしれませんわねぇ」


 もたらされた情報と周囲の反応から、僕や今更になってやっと理解した。

 アスルが僕に向けてくれていたのは、家族や仲間に向けるような親愛じゃなく……

 脳裏に先ほどの彼女の様子が思い起こされ、鼓動が早くなる。


「あ、あのー…… もしかして、みんな知ってたんですか……!?」


「うむ。淑女協定への参加の打診もあり、満場一致で可決された。すまない、島を出るまでは秘密にしてくれと言われていたのだ。

 --ふふっ、彼女がこれからどう成長するのか…… 再会が楽しみだな」


 ヴァイオレット様はラケロン島の方を振り返り、嬉しそうに喉を鳴らしている。

 な、何と…… 僕の知らないところで、僕をめぐる淑女協定に新規メンバーが追加されていたらしい。

 僕は島の方角に目をやりながら、なんとなく首筋に手で触れた。

 アスルの触腕の柔らかくも獰猛な感触。それがまだここに残っている気がする。

 少なくともこの痕が消えるまでは、見るたびに彼女の感触と、あの妖艶な笑みを思い起こしてしまいそうだ。






***






ピーーーッ。


【……外部機能単位より報告…… ……現地表記ハルリカ連邦において発見された支配の黒線虫シャラトゥ・ツァツェール、およびその被寄生体は、観察対象、個体名「ハザマ・タツヒト」らを含む現地勢力により討伐された模様……

 ……当初予想通り、本件による地脈への影響は軽微……

 ……一方、発生確率小と目されていた、第二大龍穴の融合個体による本件への干渉を観測、融合個体の動向予測機能の修正の必要性を認める……】


【……追加報告…… 観察対象、個体名「シャム」が初期型機械人形の右脚の入手に成功、機能の完全回復には、これに加えて左脚、胴体の入手が必要……】


【……定期観察報告…… ……魔獣大陸における魔窟飽和状態は継続中、数年以内に大陸内の人類が絶滅する可能性が3%上昇、上位機能単位へ対応を--】






 15章 深き群青に潜むもの 完

 16章 天に舞う黒翼 へ続く


15章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございました。

いつも同じ事を書いてしまっている気がしますが、読者の皆様から頂ける反応のおかげでこの連載を続けられております。重ねて感謝申し上げます。

16章は、また一週間おやすみを頂いた後に投稿させて頂きます。

よければまたお付き合い頂けますと嬉しいです。

【次回は4/14(月)19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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