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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
15章 深き群青に潜むもの

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第343話 姫巫女の休日

大変遅くなりました。ちょっと長めの金曜分ですm(_ _)m

最近難産が続く。頭が重いし、目が痒いし、くしゃみもでる……

--あ、花粉症か、これ…… 耳鼻科に行ってきます。


 隣国のヤンキー、鯱人族(しゃちじんぞく)のカリバル一行の襲撃後、また一週間程が経った。

 非番の僕らは、いつものように海中で遺跡を探していたのだけれど、今日は別の奴に絡まれてしまった。


『ふんっ!』


 ガギィンッ!


 高速で突進してきた巨体を、ヴァイオレット様が振るった斧槍(ハルバート)が弾く。

 軌道を逸らされて僕らの側を泳ぎ去っていくのは、鼻先に長大な角を持つ鮫型の魔物だ。角も合わせると体長は十mを超えている。正直、でかすぎて結構怖い。

 しかし先ほどの硬質な音…… ヴァイオレット様の一撃を受けて折れないところを見ると、あの角はかなり頑丈なものらしい。

 ヴァイオレット様も同じ事を思ったのか、青鏡製の刃を持つ自身の斧槍(ハルバート)と魔物を見比べている。


『ふむ……? 放射光からして位階は緑鋼級だろうに、随分と硬いな。アスル。あれはなんという魔物だろうか?』


槍鮫(ハスター・スクァルス)。見ての通り、鼻先に槍みたいな角が生えてる。

 この海域にしては、ちょっと強すぎる魔物。危ないから、倒しておきたい。

 でも、角も、皮も、肉も、全身余す事なく素材になる。傷は、少ない方が良い』


 質問に答えたアスルが僕の方をチラリとみる。


『なるほど…… なら、僕がやってみるよ。向こうもまだやる気みたいだし』


 見ると、槍鮫(ハスター・スクァルス)は大きなカーブを描いて旋回し、再び僕らに向かって突進を始めていた。

 鳴き声一つ発せず、機械のような無機質な目でこちらを見据えている。

 僕はみんなの前に泳ぎ出ると手を掲げ、奴が射程に入った瞬間に唱えた。


雷よ(フルグル)!』


 ジジッ……!


 殆ど拡散される事なく放たれた紫電は、引き寄せられるように奴の鼻先の角に直撃した。

 すると、猛然と泳いでいた槍鮫(ハスター・スクァルス)がびくりと震え、ぐったりと脱力した。

 そのまま慣性で突っ込んでくる巨体を受け止めて確認すると、その目にはすでに生気が宿っていないかった。


『いい感じに脳を焼けたのかな……? みんな、仕留めましたー』


『『お、おぉ……!』』


 一瞬で勝負がついてしまったせいか、みんなから戸惑い気味の歓声が上がる。


『一撃で…… すごいですタツヒトさん! 殆ど拡散されていませんでしたよ。射程も地上と遜色ありません』


『うん。プルーナの言う通り。タツヒト、大分上手くなった』


『ありがとう! 先生がいいおかげだよ』


『う、うん…… また、いつでも教える』


 ちょっと顔を赤くしたアスル先生が、上目遣いでそんな事を言ってくれる。いや、彼女には本当に感謝している。


 僕が海中で放つ雷魔法は、地上と同じ感じで放つと拡散してしまって射程も威力も出ず、近くにいる味方にも危険だった。

 それを改善するため、プルーナさんにも相談しつつ継続的に訓練を続けていたのだけれど、少し行き詰まっていた。

 そこで、僕とは異なるタイプの魔法使いであるアスルにご教授をお願いしてみたのだ。

 彼女の指導方法は、まさに「考えるな、感じろ」と言ったものだったけど、結果として僕の魔法は劇的に改善した。


 魔法の効果の高さを決めるのは主に三つ。引き起こす現象に対する理論的理解度と、感覚的理解度、それから思念の強さだ。最後の一つは位階に大きく依存する。

 僕とプルーナさんは理論派寄りの魔法使いなので、感覚派全振りであるアスルの指導を最初はよく理解できなかった。

 けれど繰り返し根気よく教えてもらうことで、五感全てを研ぎ澄まし、頭ではなく体で現象を捉えると言うことが分かってきた気がする。

 雷魔法を例にとると、理論的に捉えていた放電現象を、少しだけ感覚的にも掴めるようになったというか……

 言語化が難しいのだけれど、ともかく以前より雷くんと仲良くなれた感じだ。


 同時に僕らは、アスルの感覚の鋭さに驚かされた。彼女が観る世界は、僕らよりも何百倍も解像度が高いようだ。

 彼女の水魔法が強力な理由は、海神の牙だけが原因では無かったと言うことだ。

 ともあれ、おかげで僕もプルーナさんも魔法の威力や精度が向上してきている。

 アスルへはお返しに、僕は高校物理レベルの流体力学を、プルーナさんは効率的な魔力の使い方なんかを教えたりした。

 その甲斐あって、元々強力だったアスルの水魔法はさらに威力を増した。

 --これ、彼女ともう一度戦ったら負けるのでは……


『いやー、しっかしでけーにゃ…… こいつ、ラケロン島のちっこい組合に入んのかにゃ?』


 槍鮫(ハスター・スクァルス)の巨体を前に、ゼルさんがしみじみと呟く。

 確かに、あの島の冒険者組合は出張所って感じで、規模はあまり大きくない。


『うん。多分無理。前、同じくらいの魔物を持っていったら、うちでは引き取れないと言われた』


『だったら、プギタ島の組合に持って行くであります! あそこなら大きいし、カサンドラにも会いたいであります!』


『ふふっ、そうしようか。にしても、こいつを引っ張っていくのはちょっと大変ですね……』


『大丈夫。私が水魔法で運ぶ』


 そんな訳で僕らは海底遺跡探索を一旦中止し、槍鮫(ハスター・スクァルス)の巨体を伴ってプギタ島へと向かった。


 




 そして数時間。僕らはプギタ島の港町の外れにある高級宿で、なぜか温泉に浸かってた。

 この温泉宿では、元々の丘陵地形を生かし、土魔法を駆使して緑豊かな渓流のような地形が再現されている。

 渓流の途中途中には、棚田のように広い湯船がいくつも作られていて、上流からは熱いお湯が掛け流しになっている。

 周囲には湯煙と微かな硫黄の匂いが立ち込めている。かなり贅沢な造りだ。

 僕らが浸かっているのもそんな湯船の一つで、周りでは裕福そうな家族連れや、強そうな冒険者らしき人達が寛いでいる。

 そう、ここは水着必須の混浴露天風呂なのだ。もちろん僕らも水着を着て湯船に浸かっている。


「はぁ〜…… にしてもいいお湯ですねぇ……」


「そうだな…… さすがカサンドラ殿。良い場所を知っておられる」


 隣で湯船に浸かっているヴァイオレット様が、リラックスした様子で僕のつぶやきを拾ってくれる。

 他のみんなも、思い思いに温泉を堪能しているようだ。

 

 プギタ島の港に到着した僕らは、その足で冒険者組合に向かい、カサンドラさんに槍鮫(ハスター・スクァルス)の買取をお願いした。

 傷ひとつない巨体を目にした彼女からはお褒めの言葉を頂けたけど、同時に査定には結構時間がかかるというお話だった。

 さてどう時間を潰そうかと悩む僕ら。そこに彼女が紹介してくれたのが、今僕らがいる高級温泉宿だ。

 地元が近いアスルもそこには行った事が無いという事だったので、勧められるまま足を運んだという訳だ。 


「しかし、タツヒトは随分慣れた様子だな。それには何の意図があろうのだろうか?」


 ヴァイオレット様が僕の頭に目をやりながら言う。彼女が言っているそれとは、僕の頭の上に乗っているタオルだ。

 日本にいた頃の癖で乗せてみたけど、周りを見渡しても同じようにしている人は居ない。


「えっと、僕のいた所でも温泉は一般的で、みんなこうして布を頭に乗せて入浴するんですよ。

 確か、湯あたりを防止する効果があるとか無いとか……」


「ほぅ…… 私もやってみよう。 --どうだ?」


 ヴァイオレット様は、湯船の淵に置いていたタオルを絞ると、自身の頭に生えた両馬耳の間に乗せた。

 両手を頭の脇に添え、こちらに向き直るその様はとても可愛らしかった。あと、グラビアポーズみたいでなんかちょっとえっちだ。

 当然彼女も水着なので、その豊満な胸部が持つ強力な引力に目線が吸い寄せられそうになる。


「よ、よくお似合いですよ。ええ、とっても」


「ふふっ、どこを見て言いっているのだ。 --淫らな男だな、君は」


 台詞の最後は、囁くような耳打ちだった。さらに捕食者的な微笑みまで浮かべるヴァイオレット様。

 熱い湯船に入っているのに背筋がぞくりと震え、顔が赤くなるのを感じる。

 不意打ちすぎる……! 何も言えずに口をぱくぱくさせていると、すぐ近くから騒がしい声が聞こえてきた。


「--うにゃーっ!! あっちいにゃ! もう無理だにゃ!」


 ゼルさんが逃げるように湯船から上がり、石造りの床へ大の字に寝転がる。


「もうゼル。はしたないですよ? 少しはこの子達を見習って下さい」


 それを嗜めるロスニアさんは、長い蛇の尾を器用に丸めて床に座っている。

 彼女の隣にはシャムとプルーナさんが同じように行儀良く座っているけど、手で顔をパタパタと仰いでいて凄く暑そうな様子だ。

 その二人の視線を辿ると、涼しげな表情で湯船に浸かるアスルの姿があった。


「ふふふ、これで私の勝ち。三人とも、上がったら私におやつを献上する」


「アスルちゃん、我慢強すぎだよぉ…… あんまり汗もかいてないし」


「本当であります。シャム達とは発汗量がかなり-- あ……! アスルと温水の間、わずかに隙間ができているであります!

 きっと水魔法で温水を操作したんであります! ふ、不正行為であります!」


 どうやら四人で長風呂対決をしていたらしい。

 プンスカ怒るシャムに、アスルは視線をついと逸らす。あ、これやってるな。

 普段は非番なのに遺跡探索に付き合わせてしまっているので、こういった機会に羽を伸ばして貰いたいと思ったけど、随分楽しんでくれているらしい。


「な、なんのことか分からない。隙間など存在しない。とてもいいお湯」


「む、むぅ〜……!」


「にゃはは。おいアスル。賭け事でズルすると、奴隷落ちが待ってるにゃよ〜?」


「ど、奴隷落ち……」


 脅かすような調子のゼルさんの言葉に、アスルの顔から血の気が引いていく。ちょっとかわいそう。


「やめなさぁいゼル。あなたが言うと現実感がありすぎですわぁ…… さて、もう魔物の買取査定も終わった頃では無くてぇ?

 お風呂あがりに何か冷たい物でも食べたいですし、そろそろ上がりませんことぉ?」


「ですね。そうしましょう」


 湯船から立ち上がったキアニィさんの言葉に、全員が賛同して脱衣所へと向かう。そんな中、アスルだけ湯船の中から動かない。

 僕は彼女の側に座り直して声を掛けた。


「アスル、上がるよ?」


「あ…… うん…… あの、ごめんなさい。本当は、ずるしてた」


 僕に声を掛けられ、俯きながらちょっと泣きそうな様子で謝るアスル。

 --彼女は強力無比な水魔法を操り、戦闘時は即断即決で冷酷な判断も行う。

 しかし今目の前にいるのは、ちょっとした冗談を間に受けて慄くただの子供だった。

 そんなアンバランスな彼女がなんとも放って置けない気持ちになり、気づいたら僕は彼女の頭をゆっくりと撫でていた。

 目を見開いて顔を上げるアスル。しかし嫌がっている様子はなかったので、暫くそのまま撫で続けた。


「--ふふっ、謝れて偉い。でも、あの三人にも同じ言葉を伝えてくれた方がいいかな。ほら、一緒に行こう?」


 立ち上がってアスルに手を差し出すと、彼女も立ち上がっておずおずと僕の手を握り返してくれた。

 そのまま湯船から出ようと背を向けた瞬間、彼女が何事かを呟いた。


「……父」


「ん、何か言った?」


 振り返って問いかけると、彼女は伏目がちに首を横に振った。


「--ううん。なんでもない」


「そっか…… じゃ、湯冷めする前に上がろうか」


「うん……!」

 

 今度は強く僕の手を握り返してくれるアスル。相変わらず無表情だけど、沈んだ様子はもう無い。

 その事に安心した僕は、彼女の手を引いて浴槽を後にした。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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