第341話 砕けた半島
大変遅くなりました。水曜分ですm(_ _)m
アスル分隊長の下で働き始めて一週間程が経った。
その間僕らは、島主であるリワナグ様のご厚意で、彼女達の屋敷に逗留させてもらっていた。
仕事でも家でもずっと一緒にいた形になるので、アスル、それから彼女の側仕えのマハルとも随分打ち解けてきたと思う。
ちなみにリワナグ様には、せめて逗留中の食費だけでもお支払いする旨を申し出た。彼女はちょっと悩んでいた様子だったけど、苦笑いで頷いてくれた。
おそらく、島主としての対面と天秤にかけても、青鏡級冒険者である僕らの食費は膨大だったんだろう。
すみません。うちのお姉さん方、みんな食べ盛りでして……
仲が良くなるとやはり連携も良くなるもので、領海警備での検挙数はどんどん上がっていいた。
が、最近ではそれも落ち着き、減少傾向にある。警備中に見かける密漁者や盗掘者の数自体が減っているのだ。
どうやら、ラケロン島の姫巫女に青鏡級の部下がついたと噂になっていて、島に犯罪者が近寄らなくなってきているらしい。
アスルは少しつまらなそうにしているけど、僕らにとっては良い傾向だ。
そんなわけで領海警備も落ち着いて来たので、非番のアスルにお願いして、今日はみんなで海底遺跡の探索に出かけている。
「それにしてもアスル。すみませんね、お休みなのに付き合わせてしまって」
遺跡のある海域に向かう船の上、申し訳ないなと思って発した僕の言葉に、アスルはふるふると首を振った。
「いい。いつもは、非番の時も見回りをしていたから。それに、みんなといるのは、た、楽しい」
最近少し表情が柔らかくなってきた彼女が、いつもの上目遣いでそんな事を言ってくれる。
彼女のいじらしい様子に悶えそうになっていると、感極まったロスニアさんが彼女を抱き寄せた。
「--アスルちゃん! 私も、アスルちゃんと一緒に居れて楽しいですよ!」
「うぎゅっ…… 苦しい」
「くっ、出遅れたか……!」
「ヴァイオレット。あなた何を悔しがっているんですのよ…… ほら、着きましたわぁ」
そんななんとも平和なやり取りをしている内に、船は目的の海域に到着した。
場所はプギタ島領海の端、もう少し行くとラケロン島の領海に入る辺りで、古代遺跡があるはずのポイントだ。
前回はこの辺を探している内に東に流されてしまい、アスルと遭遇戦になったのだ。
「さて。それじゃあもう一度この辺から調べていきましょうか。
そもそもここが目的の遺跡がある場所、つまり、海に沈んだ半島の先端付近なのかもはっきりしていませんし……
あ、アスル。この辺で銀色で半球状の遺跡なんて…… 見てないですよね?」
「え…… う、うん。この辺ではそんなの見てない。ごめん……」
僕の質問に、なぜか申し訳なさそうに俯くアスル。
「あ、いやいや、アスルは全く悪く無いので、謝ってもらう必要なんて無いですよ。
--えっと、ざっとこの辺の地形や遺跡群を調査するので、何か気づいたら教えてくレますか?」
「うん…… わかった」
少し様子がおかしい彼女に首をかしげながら、僕らは海中へと潜った。
相変わらず透明度が高くて美しい海だけど、岩礁型や珊瑚礁型の遺跡が点在するだけで、やはり銀色の遺跡は見当たらない。
地形に関しても、正直僕にはよく分からなかったけど、うちには超高性能な測量能力を有する機械人形ちゃんがいる。
『シャム、どうかな? 改めてこの辺を調べてみて、何かわかった?』
『うーん…… まだ確信が得られていないであります。少し場所を移動してもいいでありますか?』
『勿論! どんどん調べて行こう』
それから僕らは、シャムに言われるままポイントを変え、ざっと地形などを調べること繰り返していった。
たまに遭遇する冒険者が、僕ら、特にアスルを目にして慌てて許可証を提示してきたりする一幕もあった。
そうして何箇所目かを調べ終わったところで、シャムが眉間にシワを寄せて切り出した。
『みんな…… これはちょっと大変かもしれないであります』
『シャム、何かわかったの?』
『はいであります。えっと、シャム達が探している古代遺跡は半島の先端付近に存在しているはずで、この海域には確かにその半島が沈んでいるであります。
でも、シャムが有する地理情報に合致する地形は、連続的ではなく、離散的かつ広範囲に存在しているであります。
つまりこの半島は、単に水没したのではなく、バラバラに砕かれてしまっているようなのであります……』
『『……!?』』
全員の顔に驚愕の表情が浮かぶ。半島がバラバラって…… 自然現象でそんな事起こるのか?
『山脈砕き』の異名を誇る紫宝級冒険者、エレインさんあたりが一生かけて取り組めばやれるかもしれないけど…… 中々信じ難い状況だ。
しかしそんな中、土魔法と土木技術にも詳しいプルーナさんだけが、納得の声をあげた。
『なるほど…… 何が起こったのかは分かりませんけど、ちょっと腑に落ちますね。
これまで見つけてきた遺跡って、結構海底に対して勾配がバラバラだったり、酷いものだと地面に対して真横に建ってるものまでありました。
遺跡と言っても、古代では人がそれを使っていたはずですから、意図的にそんな造りに
するわけが無いんです。
でも、それがなんらかの災害の結果なのだとしたら……』
プルーナさんの言葉に、今度は全員が納得の表情を浮かべた。
探索中、たまにトリックアートみたいな建ち方の海底遺跡を見つけることがあった。
そんな遺跡でも、海中なので内部の調査に特に支障はなかった。だからあまりあまり気にしていなかったけど、確かに異常な状況だ。
『--しかしそうすると、目的の銀色の遺跡を見つけるのは困難を極めるだろうな……』
『そうであります、ヴァイオレット。半島の砕け具合から、ある程度目的の遺跡の場所を推定することはできるでありますが……
場所の推定を間違えたり、遺跡が大地の崩落で埋まっていたり、海流で流されたり…… 捜索を阻害する要因が沢山であります』
『にゃー…… それって、今回も簡単には見つからにゃいってことかにゃ? にゃんか、またかって感じだにゃ……』
ゼルさんが全員の気持ちを代弁し、みんなが苦笑いを浮かべる。ほんとですね……
一方、アスルはなぜか嬉しそうだ。
『しょうがない。ゆっくり探す。いつまでいてもいい』
『あはは、ありがとうございます。それじゃあ、いい時間ですし成果もありました。今日のところは--』
帰りましょう。そう言いかけたところで、視界の隅に高速で飛来してくる何かを見つけた。
軌道上にはアスル。僕は瞬時に身体強化を最大化し、思い切り水を蹴って槍を伸ばした。
ギィンッ!
槍に弾かれた何かが、アスルから逸れて明後日の方向へ飛んでいく。あれは…… 銛か!?
『あ…… ありがとう、タツヒト。助かった』
アスルが驚いた表情でお礼を言う。その手は銛が飛んできた方向に掲げられている。
どうやら、彼女も気づいて対応しようとしていたらしい。流石だ。
『いえ……! みんな、攻撃を受けた! 警戒体制!』
『『応!』』
全員で警戒体制を取りながら目を凝らすと、遠くから多数の人影が高速で接近していた。
あのシルエット…… 只人か? でも泳ぎ方が……?
「アスルー! 今日こそブチ殺してやるぜー! ギャハハハハ!」
しかし、接近する人影からくぐもった絶叫が聞こえてきて、相手が水棲亜人だとわかった。
水を振動させて話すのは、僕ら陸生人類にはできない芸当だ。しかし……
『アスル。あの、お知り合いですか……?』
『--うん…… 不本意だけど、知り合い……』
そう答える彼女は、接近する人影の群れを本当に嫌そうな様子で睨んでいた。
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