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第034話 充実した休日の過ごし方(1)

前章のあらすじ:

 もんむす好きの男子高校生、タツヒトは、偶然異世界転移してしまい、村娘のエマちゃんを助けた縁からとある開拓村に住むことになった。

 仕事を手伝い、現代知識を役立て、さらには腕を磨きがなら村に馴染んでいくタツヒト。

 そして訪れた領都。強く美しい馬人族の騎士、ヴァイオレットの気高い思いに触れ、タツヒトは彼女と並べるよう強くなる決意を新たにした。


 「私たちの母なる神と父なる神は、かつて六日で世界を創造され、そして七日目に休まれました--」


 週末の朝、村の教会へ礼拝に参じた僕らに、ソフィ司祭の落ち着いた声が降り注ぐ。

 今は聖典の一説を僕ら向けに分かりやすく解説、いわゆる説法をしてくれているところだ。

 今日のお話は、神様達が六日間頑張って世界を作って一日休憩したから、僕らはそれを讃えつつも一日休みましょうというお話だった。

 

 神様に倣った休日、安息日では、持ち回りで教会の仕事を手伝う人以外はみんな家でゆっくりするのが普通だ。

 しかし領都で都会の何たるかを知った僕はそんな眠たい過ごし方はしない。

 この世界における充実した休日の過ごし方といえば。

 そう、魔物狩りである。

 --嘘です。でも、おそらく一部本当です。


 早速村長宅の自室に戻って準備しようとしたところ、ボドワン村長に話しかけられた。


 「タツヒト、ちょっといいか」


 「はい、なんでしょうか村長」


 この間差し上げた髭剃りセットについてのご意見だろうか。


 領都でヴァイオレット様にカミソリと髭剃り液を設計図ごと提供したことで、僕は泡銭を手に入れた。

 大半は良い槍を買った時に消えたのだけれど、あれから一月ほど経って、上流階級の間で前述の髭剃りセットが流行り始めたらしいのである。

 そして、ヴァイオレット様は髭剃りセットが売れただけ僕にもバックが入るように調整してくれている。

 その結果、割とすごい金額が転がり込んでくるようになったのだ。


 そのお金で村長を含む村の男性陣に髭剃りセットをプレゼントしたり、良い防具や治癒薬などの装備も揃えてみた。

 けれどもまたすぐにお金が入ってきて貯まっていく。

 正直、このままお金が入ってくるならもう働かなくても食べていける気がする。

 いや、働くけど。


 「……おめぇ、また一人で森に行くのか?」


 村長から静かに発せられた言葉に、脱線していた思考が戻る。


 「はい。この間はご心配をおかけしてしまってすみませんでした」


 領都から村に帰った直後、新しい武器を手に入れてやる気に溢れていた僕は、ちょっとだけ無茶をしてしまった。

 その時は一人で森に修行に入り、強力な魔物に遭遇して命からがら血だらけで村に逃げ帰ったのだ。

 あの時は村長夫妻やイネスさん達にコッテリ絞られた。

 あの蛇野郎、今度は皮はいで財布にしてやる……!


 「そうか。 --なぁタツヒト。オメェがヴァイオレット様に惚れてんのは良くわかる」


 「へっ!?」


 なんでバレてんの!?


 「いや、しばらく一緒に暮らしてんだ。そりゃわかっちまうわな。それを抜きにしても、お前さんはわかりやす過ぎるぜ」


 僕が驚いた顔をしていると、やれやれと言った感じで村長は頭を振った。

 え、僕ってばそんなに分かりやすいのだろうか。

 イネスさんにもバレてたし、もしかして村の人全員気づいてる? ちょっと顔熱くなってきた。


 「でもなぁ、あの方は後継ぎじゃあねぇが大貴族様だぜ? 俺たちとは住んでる世界が違いすぎる」


 「それは…… わかっています。でも、可能性が無い訳ではないでしょう?」


 「まぁ、な。だが、あの方に好かれるために強くなろうとして、それで死んじまったら元も子もねぇじゃねぇか」


 反射的に反論してしまいそうになったけど、村長の心配げな表情を見て言葉に詰まってしまった。

 そうだ。彼は元冒険者で、村の人から聞いた話によると、当時の仲間を魔物との戦いで失ったことが引退の原因らしい。

 そしてさらに数年前、上の旦那さん、つまりは亜人の方の奥さんを亡くしている。

 魔物が原因で立て続けに身内を亡くし、それでも折れずに今も村や皆を守っている人なのだ。

 僕のようなガキに、いったい何が言えるというのだろう。


 「……おっと、歳をとると説教くさくなっちまっていけねぇや。すまねぇな、余計なことをいっちまったぜ。

 だがまぁ、俺や村のみんながお前のことを案じてるってことは知っててくれや」


 「……はい、ありがとうございます」


 僕が搾り出すように答えると、彼は一つ頷いて去っていった。

 ……すみません、村長。でも僕は、それでも強くなりたいんです。






 自室に戻った僕は、余計なことを考えないよう黙々と準備をした。

 領都で購入した緑鋼の槍に加え、新調した革鎧や手甲を装備し、こちらも最近手に入れた丈夫なマントを羽織る。

 そして治療薬や非常食やらを入れたポーチを腰につけて準備完了だ。

 

 なぜ危険を犯して一人で魔物と戦いに行くのか。

 それは、これが冒険者の間で経験的に知られている、強くなるための最短の手段だからだ。


 僕の身体能力は、この世界で魔物を倒すたびに上昇している。

 初めて上昇を自覚したのは、魔法陣があった洞窟で四つ目狼を倒したあたりだけど、それからも魔物を倒す度に上昇を感じていた。

 この身体能力の上昇はいわゆる魔力によってもたらされ、その上昇具合は魔力を溜めておける器の大きさによるらしい。

 そしてこの器は、器を持った他の生き物、例えば魔物を倒すことで広がるそうなのだ。

 これを、この世界では位階の上昇と言うらしい。

 

 そしてこの位階は冒険者の等級と紐づいていて、等級をあげて割の良い依頼を受けたい冒険者達は、位階の上げ方に詳しいと言うわけだ。

 彼らに聞いた断片的な情報を整理すると、前述のような方法が強くなるには最短ルートと言うことになる。

 もっとも、当然リスクも高いので、大抵の人は大成する前に帰らぬ人となるらしい。

 ただ、凡人の最高峰である黄金級を超え、緑鋼級や青鏡級といった領域に至る人たちは、同じ方法で位階を上げているという噂もある。

 聞いても教えてくれないだろうけど、多分ヴァイオレット様も同じ方法で今の力を得たと思うんだよね。


 夕暮れの領都で、僕はヴァイオレット様に強くなるので待っていてくださいと宣言した。

 けれどちょっと軟派な言い方をすると、あんなにいい女を周りがいつまでも放っておくわけがない。

 端的に言って、僕は彼女が他の誰かに取られてしまうことを恐れ、早く強くなりたいと焦っているのだ。

 村長が仰った、死んだら元も子もないと言う話は重々承知している。

 でも、安全マージンを取った方法で彼女に追いつける未来が見えないんだよね……

 

 ちなみに、魔法使いや魔導士が使える魔法の強さも、この位階に依存するらしい。

 イネスさんからは、魔法使いの基礎の基礎のようなことは教えてもらっている。

 でもまだ僕に魔法の才能があるかすらわからないし、あったとしても実際に魔法を打てるようになるのはだいぶ先になりそうな感じだ。

 うん。やっぱりまずは白兵戦を鍛えるしかないな。

 





 準備を終えて村長宅を出る際、僕は夫妻に一言挨拶した。


 「では村長、クレールさん、少し森に行って参ります」


 「……おう、気をつけてな」


 村長はやや気まずげに返してくれた。


 「待ってタツヒト君、これお昼。持って行きなさい」


 クレールさんは昼食を用意してくれたらしい。ありがたく受け取る。


 「ありがとうございます。助かります」


 「ええ。あんまり無茶しちゃダメよ。暗くなる前に帰ってきなさい」


 「はい、わかりました。行ってきます」


 僕はそう答え、一人森へ向かった。


3章開始です。お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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